指揮者が「ここを大きく」と言われたので大きく歌ったら、「ちょっと大きすぎる」と言われた。すぐに苦笑いしながら修正する。まあ、よくあることである。
小さく歌ってまとめるのは容易だ。他のパートとのバランスを考えながら歌えばよい。アンサンブルの基本である。だが、最終的にどれだけのボリュームにするかは、前に立つ指揮者が決める。
アンサンブルの楽しみは、他のパートを聴くことにある。声楽はソロだから、まず自分の声をどう届けるかを考える。しかし合唱では、それを抑え、時に他を引き立て、時に自分の声を前に出す。その切り替えが面白い。
ただ、歌っているとストレスがたまることがある。「そこはもっと強調すべきだろう」と感じる場面だ。もっとも、そういう不満は、たいてい曲を十分に歌い込めていない時期に起きる。そして周囲に合わせて控えめに歌っていると、今度は冒頭のように「もっと出して」と言われる。
昨日は男声ユニゾンのアカペラで、途中かなり前へ出して歌った。すると隣のテナーが、「なんでそんなに歌うのか」といイヤな顔をした。
だが、男声アカペラというのは、誰かが音を前へ押し出さないと響きが痩せることがある。全員が遠慮して小さくまとまると、整ってはいても勢いのない音楽になる。
もちろん、ただ大声を出せばいいわけではない。合唱はブレンドが重要である。しかし一方で、「合わせる」ことばかりを優先すると、音楽の起伏まで失われる。どこで抑え、どこで押し出すか。その感覚は、結局は経験と団体ごとの美学によるのだろう。
隣のテナーには悪いが、あの場面では、こちらは「ほっとけ」である。
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