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2022年10月30日15:20

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『手作りの贈り物』

 2022年のラダ誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定、ラダカノ前提。
 ラダマンティスへの誕生日の贈り物を何にしようかと沙織に相談した結果、自分でハンカチに刺繍をして贈ることになったオトメンなカノンの話です。
 古代ギリシャでは女神アテナは織物の守護女神でもありました。沙織さんはその権能を受け継いでいるので、お嬢様育ちだけど意外に手芸が得意というのがマイ設定。しかし料理については権能の守備範囲外なので、ダークマター製造機かもしれぬ…。
 昨年の作品はこちら。『ようこそ、不思議の国へ』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16311399

『手作りの贈り物』

 10月30日は、冥界三巨頭の一人、天猛星ワイバーンのラダマンティスの今生の肉体が地上に生を受けた日である。
 そんなわけで、今代のラダマンティスはこの日を誕生日として祝うのが通例になっていた。本人にとって、同僚や彼を敬愛してやまない部下たちが祝ってくれるのも嬉しいが、最も嬉しいのは、恋人である双子座のカノンからの誕生祝いであった。海将軍筆頭・海龍も兼任して、普段は海界の統治で忙しくしているカノンだが、10月30日は都合をつけて冥界を訪ね、ラダマンティスと熱い一夜を過ごしてくれるのが毎年のことであった。
 そして今年、ラダマンティスの誕生日、冥界の深部カイーナの居城に彼を訪ねてきたカノンは、なぜか両手の指が絆創膏だらけであった。
「久しぶりだな、ラダマンティス」
 挨拶をしたカノンを、ラダマンティスが軽く抱きしめる。
「会いたかったぞ、カノン」
「おれもだ」
 そうして互いを軽く抱きしめた二人だが、カノンから離れたラダマンティスは、当然気になるカノンの指の絆創膏について尋ねてみた。
「カノン、その指は…」
「ああ、それだがな」
 カノンは持参した鞄から、美しいブルーの包装紙で包まれた小さな箱を取り出すと、それをラダマンティスに渡した。
「ラダマンティス、おれからの贈り物だ。受け取ってくれ」
「あ、ああ…。ありがとう、カノン」
 カノンの怪我を気にしながらも、ラダマンティスはカノンからの贈り物を受け取った。カノンが自分のためにあれこれ悩んで選んでくれた品なのだろうと思うと、それだけでラダマンティスは嬉しくなる。
 包装紙をはがし、平たい箱を開けると、中に入っていたのは銀糸の縁取りがある白い男性用のハンカチだった。シンプルだが、同時によくある品でもある。
 ただそのハンカチがよくある既製品と違っているのは、隅の一つに紫色の糸でワイバーンの姿と「Rhadamantys」の名前が刺繍してある事だった。
 だがワイバーンの冥衣を横から見た姿を映しとったと思われるその刺繍の刺し目は粗く、線もがたがたで、形も若干崩れている。普通ならば店で売り物になるような代物ではない。
「カノン、これは…」
 首を傾げたラダマンティスに、カノンが言った。
「おれが刺繍した」
「お前がぁ!?」
 驚いたラダマンティスが聞き返す。カノンに手芸の趣味があるなど聞いたこともなかったし、刺繍をしているところも今まで見たことなどなかったからだ。
 カノンが説明した。
「実は今年のお前の誕生祝いに何を贈ろうか、困ってな…。それでちょうど聖域にアテナが来られていたので、アテナにご相談したんだ」
「いや!そこでアテナに相談するな!」
 思わずラダマンティスが突っ込む。処女神であり、戦神であり、カノンにとっては主神でもある女神アテナが、「男の恋人に贈るものは何がいいですか?」などという俗な質問の相手に適当とは思えない。上司に恋バナをもちかけるようなものだ。いや、しかしアテナと言っても年頃の少女であるし、意外に恋バナを喜んだのだろうか…とラダマンティスの頭の中は困惑でぐるぐると混線した。
 だがカノンは困惑のあまりに固まっているラダマンティスを無視して説明を続けた。
「そうしたら『何か手作りのものを贈っては?』とアテナはお答えになられた。だが誕生日ケーキなどは食べたら終わりだし、かといっていきなり手編みのセーターなどはハードルが高い。そしたら『私が教えるから、ハンカチに簡単な刺繍でもしてみては?』とのお勧めでな。ありがたくも、アテナ直々におれに刺繍を教えて下さることになった!」
 色々と事情があって現代では日本で育ち、今では聖域と日本を行ったり来たりしている女神アテナこと城戸沙織であるが、アテナ女神には古代ギリシャでは「織物の女神」としての権能があった。その権能を受け継いだせいか、沙織は大富豪のご令嬢という育ちでありながら、手芸の類が得意であった。聖域での時間つぶしを兼ねて、沙織は自らカノンに刺繍のやり方を教えることにしたのであった。
「というわけで、アテナから刺繍セットをお借りして、アテナのご監督のもとに刺繍したのが、それだ!ありがたく受け取るように!」
 カノンは自慢げに、偉そうに、尊大に、ラダマンティスに胸を張って言ってのけた。
「カノン…」
 改めてハンカチの刺繍を見ながら、ラダマンティスは胸に湧き上がる熱い感情をこらえた。カノンが自らハンカチに施したワイバーンの刺繍は、拙劣で、粗末で、見苦しいとさえ、はた目には見える。とても胸を張って他人に贈れるような代物ではない。だがそのがたがたの刺繡が、「カノンが自ら刺繍した」と知った途端、ラダマンティスの目には、どんな巧みなプロの仕事よりも美しく、眩しく、愛しいものに見えてきた。恋心の色眼鏡、おそるべし。
「それではその指の絆創膏は…」
 カノンはラダマンティスの目の前で指を広げてみせた。
「おれも刺繍をするなど初めてだったからな。指を針でざくざく刺しまくってしまった」
 その傷跡だ、と言ったカノンがさらに続ける。
「大変だったぞ。ひどい時にはハンカチに血のシミができてしまって、それを洗ったり、どうしてもだめな場合は、新しいハンカチを買って、最初から刺繍をやり直して…」
 己の苦労を説明するカノンに、ラダマンティスは針で指を突きまくりながら、ちまちまと自分のためにハンカチに刺繍をしてくれているカノンの姿を思い描いた。双子の兄の嫌味や同僚たちの好奇の視線に耐えながら、カノンが自分のために刺繍をしてくれた。その姿を思い描くと、ラダマンティスはそれだけで「キューン!」と胸に切ない痛みを感じ、体の奥底から恋情がこみあげてきた。やがて高鳴る己の想いを抑えきれなくなったラダマンティスは、衝動的にカノンを抱きしめた。
「カノーン!」
 胸にこみ上げる愛おしさのままに、カノンを強く抱きしめたラダマティスは、そのまま彼の顔にずりずりと頬ずりした。
「嬉しいぞ!カノーン!お前は最高の恋人だ!」
「お、おお…」
 頬にラダマンティスの髭の剃り跡がぞりぞりと当たり、相手のテンションの高さに思わずカノンの方が引いた。
「た、大切にしてくれるよな?」
「するとも!もちろんする!このハンカチはおれの宝物だ!」
 カノンへの愛がこらえきれなくなったラダマンティスは、いっそこのまま彼を寝室に連れ込んで情事に及ぼうかと考えた。
 だがその考えを実行に移す前に。
「あ、そうそう」
 カノンはがばっとラダマンティスを自分から引きはがし、さらに持参した鞄から紙袋をもう一つ出した。
「実はアテナからお前とおれに贈り物があるんだ」
「なに!?アテナから?」
 驚くラダマンティスに対し、カノンが紙袋から出したのは、二着の毛糸のパンツだった。
 思わずラダマンティスの目が丸くなる。
「…なんだ、これは?」
「なにって…毛糸のパンツ」
「いや、それは見れば分かる」
「おれの手仕事を監督するかたわら、アテナが自ら編んでくださった。アテナの手編みだぞ!こんな光栄なことがあるか!?」
「それはそうだが…」
 改めてラダマンティスは自分に渡された「アテナお手製の手編みの毛糸のパンツ」を眺めた。
 本体は黒い毛糸で編まれ、カノンがハンカチに刺繍した翼竜と同じ形、ラダマンティスの冥衣を横から見た模様が紫色の毛糸で中心に編み出されている。一方、カノンのために編まれたパンツは、本体は黄色の毛糸で、真ん中に青色の毛糸で双子座の印が編み出されていた。ラダマンティスの翼竜と対にするなら、海龍の方がさまになったのであろうが、海龍の姿を編むとカノンが海皇ポセイドンのものだと認めるようで、ポセイドンが嫌いな沙織としてはそれはしたくなかったらしい。
 自分のために沙織が編んでくれた黄色の毛糸のパンツを手にしたカノンは、それを自分の頭より高い位置に押しいただき、様々な試練と冒険の果てに手に入れた神話の宝物でも眺めるかのようなキラキラと輝く瞳で仰ぎ見ていた。
「これから寒くなるので、おれとお前が風邪など引かぬようにというアテナのご配慮だ。なんとお優しい方だろう!」
 アテナ信者のカノンが嬉々として語る。
「…うん、まあ、それはそうだが…」
 ラダマンティスは自分用の黒い毛糸のパンツを手にして眺め、脱力気味に呟いた。
 確かに女神アテナ自らの手編みの品は貴重だろうし、寒さの厳しいコキュートス近辺では実用性もあるし、何なら編みこまれた女神の小宇宙によって強力な護符としての機能も果たしてくれるかもしれないが、しかし、それにしても…。
「毛糸のパンツぅ…」
 テンションが急降下したラダマンティスとは対照的に、女神からの贈り物にうっきうきなカノンは嬉しそうに告げた。
「ラダマンティス!今夜は早速これを履いて、履き心地を試すぞ!」
「うん、そうだな…」
 そしてアテナお手製の毛糸のパンツをありがたそうに押しいただいているカノンを横目に、
『これを汚したら、カノンは激怒するよなぁ…。今夜はどうしよう…』
 と思い悩むラダマンティスであった。

<FIN>

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