昨夜白い色の子猫を拾いました。
名前は「シロ」という名にしました。
猫の名前はいつも平凡なんですよ。殆ど三毛猫だったから「ミーコ」と名付けました。
猫の名は平凡でしたが犬は非凡でした。それは狸のような「ポンタ」にしましたからね。
「シロ」は頭の悪い猫だと思っていましたが、意外にも直ぐにトイレを使うことを覚えました。
優れた調教師がいたからでしょう。調教師ってもちろん僕ですよ。
でも鳴き声が幼児語の「ミー」としか鳴きません。
僕は三人づつの男女の声、つまり人間の声も六つありますが、他に子猫の声もあります。
しかも猫たちに認められた美声です。
そんな美声で家庭教師を開始しました。
「人間に猫声の家庭教師なんて無理じゃないの」
そうおっしゃるかも知れませんね。
でも声の魔法使いには容易なことなのです。それにこんな昔話があるからです。
ある日のこと、僕の幼い娘たちは黒い雄の子猫を拾い抱きかかえて自宅に連れてきた。 そのとき自宅では三毛猫の雌を飼っていた。これまでのずっと三毛猫の雌に慣れていた僕は、黒猫の雄に嫌悪感を感じた。
黒ヒョウのような毛は良いとしても、威嚇して睨む鋭い目は嫌いだったのである。それに従順な雌とは違っていたからだ。
驚いたことに飼い始めてまもなく酷い鳴き声をしていることに気づいた。とても猫の鳴き声と呼べるものではなかった。
人間も食べた物を嘔吐することがあるよね。そんなときの声に似ていた。もちろんそんな聞き障りのある鳴き声は子猫らしくもなかった。
僕はそのときこう考えた。
『猫の鳴き声も人間の言葉と同様に親なんかから学ぶのだろう』
調べたら黒猫の鳴き声は明らかに自宅近くにいるカラスの鳴き声にそっくりだった。
幼くして捨て猫になったので親猫から猫の鳴き声を学ぶ機会がなかったのだろう。それで捨てられていた場所の近くにいたカラスから学んだはずだ。
まるで狼に育てられたインドの少女に似ていると思った。
『このままでは、猫の世界では通用しないはずだ。毎夜のように開催されるという猫の集会では、どの猫からも相手にされずに爪弾きにされるだろう。それで孤独になるに違いない。孤独だけで済めばまだいい。きっと孤独が高じて病気になるかも知れない』
僕はそう考えたのだ。
「よし、僕が家庭教師をしてあげよう」
僕は黒猫にそう呟いた。
人間の言葉が分からない黒猫だったから良いようなもので、もしも判ったら気味悪がって逃げたはずだ。
僕が家庭教師で教えるのはもちろん猫の鳴き声だからだ。
猫の鳴き声は猫から教わるもの。決して人間から学ぶものではない。
しかし僕のこと、黒猫に対して猫の鳴き声を真顔で真剣に教えたのである。
僕にも成功する自信はなかった。だが、わずか三週間の猛特訓で黒猫は猫らしい鳴き声に変わった。
僕の猫声が人間離れしていて猫そのもののハイレベルだったからだろう。
カラス声は完璧な猫声に変化した。
どんな声かと言うと、猫の世界の歌手か声優並みの声に大変身したのである。
カラス声が原因でそれまで相手にしてもらえなかった黒猫は猫の仲間入りを果たした。そればかりではない。
可愛い雌猫に好かれ始めた。素敵な鳴き声でアピールすることでアイドルスターになったのかも知れない。
自宅には餌を食うときしか帰らなくなった。ガールハントが面白くなったのに違いない。日中はおろか深夜まで時間の許す限り雌猫を追い掛けて素敵な鳴き声で口説いていたようだった。
今になって、僕は黒猫に鳴き声を教えたことを後悔している。
僕が鳴き声を教えなかったら惨事は起きなかったかもしれないと思えたからだった。
ガールハントに熱中した黒猫は、雨の早朝にトラックに跳ねられて死んだのである。
いかがであろうか。僕の猫の鳴き声が本物だと理解してもらえたはずだ。
僕の猫の鳴き声に安心したようで「シロ」は僕の膝の上で眠っている。
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