草波邸をバックミラーに見ながら車を発進させる水戸。
その瞬間。
一階の窓が爆発して吹っ飛び、水戸、声にならない叫びを上げるように口を開け、車をUターンさせ、炎上する草波邸に突っ込ませる。
「
草波さん!!」
車に乗ったまま、一階の壁を破壊してさっきまでいた居間に突っ込むが、草波の姿はない。
バックして戻ると、階段の踊り場に白髪のミラーサングラスの女がダネルMGLを構えて仁王立ちしており、こちらに向かって40mmグレネードを撃ってくる。
「ウワッ!!」と、水戸、急発進してキッチンに突っ込み、辛うじて直撃をかわす。
爆風で車のケツが浮き上がったが、天井に頭をしたたかにぶつけただけで、苦痛に顔を歪めながら、カーブしながらバックし、階段を踊り場ごと破壊して崩す。
バリバリと派手に崩れ落ちるなか、女が二階の奥に逃げ込んだのを視認すると、チッと舌打ち。
そこへ、携帯が鳴り、出ると草波の声で「こっちだ・・・」と弱々しい呼びかけが。
「司令室だ・・・」
「草波さん!!」と水戸、階段横のホームエレベーターに車を横付けし、窓からボタンを押して呼ぶと、ドアが開くのと同時に中へ飛び込む。ドアが閉まるところへ、女、二階から顔を出し、グレネードを撃ってくるが、間一髪でドアが閉まり、グワッと車が爆発した衝撃を感じただけで済む。
それからワイルドのメンバーしか知らない暗証番号をボタンで入力し、地下司令室に向かう。
ドアが開くと、司令室のソファに座って自分の右太股をシャツで縛って止血している草波が目に入る。
草波の右足は膝から下がなくなっていた。
グレネードで吹っ飛ばされたのだ。
水戸、武器庫からAUGと予備の弾倉を取ると、後ろから草波に「両国のバイクで脱出だ・・・」と言われ、そこで驚いたように草波の顔を見る。
ホームエレベーターにもう二発撃ち込んでもあまり効果がないのを見ると、女、チッと舌打ちして、二階の窓からガレージの屋根に飛び降り、そこからガレージの前へ降りたところへ、ピカッとノートン・コマンド750のライトが輝き、女のミラーサングラスを真っ白に光らせる。
水戸が運転し、ケツに草波が乗り、そしてサイドカーには小型ミサイル発射装置が・・・
そこで女、肺の中の空気を勢いよく吐き出し、横っ飛びに身体を投げ出す。
発射装置から小型ミサイルが数発撃ち出され、向かいの邸宅に命中し、邸宅の一部屋が吹っ飛ぶ。
「外しちまった!!」と水戸。
「気にするな・・・あの部屋にはネットで犯行予告をして反応を喜ぶバカ息子しかおらん。死ねば世の中のため、生きてればいいクスリになろうさ・・・」と草波。
「あんまり喋らないで下さいよ!!」
「女は放っとけ・・・まずは病院だな・・・」
バイクを湖に沈め、車は大爆発で消え、すっかり足がなくなった飛葉たち、大混乱の現場のなか、菊川警視監率いる特捜部に回収され、それぞれパトカーに乗せられる。
飛葉だけは菊川とともにカマロ。
「全く・・・派手にやってくれたナ・・・昔のおまえを思い出すよ」と菊川。
「昔の俺を知ってるのかい?」と飛葉。
「おっと、記憶がないんだったな・・・失礼、昔のおまえはそりゃア、猟犬そのものだったよ・・・神話兄弟事件の時が一番凄かったな・・・モリを肩にぶち込まれるわ、ライフルで撃たれて肺に穴はあくわ、黒人の大男に背骨を折られかけるわ・・・それでも悪党を追いかけたんだからな・・・今でもその時の傷が残ってるはずだ・・・そこから何も思い出せないのか、ほんとうに?」
「これっぽちも・・・」
「思い出すのが怖いんじゃないのか?ま、無理もない・・・秘熊事件であれだけの目にあっちゃあな・・・」
「秘熊・・・ヒグマ・・・その名前には覚えがある・・・」
「恐らく、記憶を失う前におまえが仕留めようとした相手だからだよ」
「仕留めたのか?」
「いや、ブレーンの遠井弁護士を刺殺してからおまえは行方不明になった・・・秘熊政権は国際的な非難を受けて、総辞職に追い込まれ・・・大臣たちは次々と逮捕、自殺、行方不明、秘熊も国外逃亡という形で行方不明になった・・・」
「成沢という名前に聞き覚えは?」
そこで驚いたように、菊川、飛葉を見つめる。
「草波は覚えてても、成沢を覚えてないのか?・・・ワイルド結成にカネを出した男だよ・・・」
「成沢に加えて、秘熊・・・この二人が俺の過去を知ってるってことだな・・・ありがとう、何しろ、草波さんはあまり喋ってくれないもんでね」
「ついでに俺のことも思い出してくれよ?」とニヤッと笑う菊川。
飛葉、菊川から視線を逸らし、窓から海を眺める。
朝焼けの空を受けて暗く輝く海・・・
その海の底・・・深い、深い底・・・
長い髪を広げながら浮かび上がってくる、見事なプロポーションの女・・・
スキューバ用のウェットスーツに身を包み・・・
頭から血を漂わせ・・・
髪の毛の間に見え隠れする顔があらわになるところで、ガパッと起きる白髪の女。
ミラーサングラスを外したその顔は、左目の光彩が変色しているとはいえ、日本人の女性である。
汗びっしょりになって、震える手で左から眉の上まで斜めに入った傷跡を撫で・・・
それからライダースーツを脱ぎ、全裸になると、立て鏡を見ながら背中と腰にめり込んだ破片を確認し、ウォッカを肩から流し、ググッと呻きながら、ナイフとラジオペンチで肉をえぐって破片を取り出す。
そこへ鳴る携帯。
ジョルジュ・デュバリエの声が響く。
「クイーン・・・草波を殺れなかったのは残念だが、右足を奪っただけよしとしよう・・・深追いはせず次の獲物に移れ・・・」
「了解・・・」
クイーン、携帯を切り、流れ出る血をタオルで拭き取り、後ろ手でテーピングしながら・・・
草波邸に突っ込んできた水戸の車を思い出し・・・
チクッとした頭痛を感じる。
昭和の造りの家に飛び込んできたダンプの映像が疾ったのだ。
続いて、散乱するちゃぶ台、茶碗、汁椀とともに、血まみれの家族の姿・・・
そこでクイーン、おおお・・・と声を上げ、頭を抱えてうずくまり・・・ゆっくり立ち上がって、バレットライフルを手に取ると、それを構えて、立て鏡に向ける。
クイーンの変色した方の左目からは赤い涙、血の涙が・・・
国会議事堂。
その一室で、せむしの小男、英重臣が、病院から拉致してきた成沢を前に葉巻を吸っている。
成沢はすべてをあきらめた顔で、無表情のまま座っている。
誰もが無言でそうしていた中、英が立ち上がり、成沢の前に近づく。
「成沢・・・おまえもわしと同じ心臓の病いだったな?」と英。
無言のままの成沢。
「わしの心臓病はコレで完治したんじゃが・・・おまえにも勧めよう・・・」
自らのせむしのコブを撫でながら、英、配下の者に着替えを持ってこさせ、「まずは息子の指示に従え・・・わしはひと眠りするのでな」とやけにくぐもった声で囁く。
何のことか分からない成沢、ゆっくりと服を脱いでいく英を見て、ウワッと叫ぶ。
英のせむしのコブは重臣の息子、重太郎が丸まったものだったからだ。
グググ・・・と重臣が頭を下げて、赤ん坊のように身体を丸めると、重太郎が頭を上げて、両腕の関節を鳴らしながら、自分のものにし、父である重臣の身体を腹に抱える形ですっくと背を伸ばした。
「やれやれ・・・」と重太郎、配下の手伝いで和装に着替えて、太鼓腹を撫でさすりながら・・・
「重い心臓病の解決は、息子の私と心臓を共有することでな・・・ジョルジュの手術の腕は大したもんだよ」
恐怖に震えながら、歯をカチカチと鳴らし、目をギュッと瞑る成沢。
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