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2018年07月23日16:54

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オリジナル小説 ニーナシリーズ 「DEATH DIVE」

無人偵察機を改造した海賊TV局が空中を漂いながら「本日の天気予報、雨のち晴れ・・・!!」とがなりたてている。
続けて、「時々・・・人間が降ります・・・!!」。画面、弾け、成層圏からのスカイダイビングの様子を高速カットで流し、「サイバー・エクストリーム・スポーツ、“デス・ダイブ”へようこそ・・・!!」と番組スタート。
今や人類は空を制覇した。成層圏から飛び降りて無事に地上に着いた瞬間から、大空の空間は完全にコントロールされたのだ。特殊な軽量パワードスーツとフルフェイスヘルメット、脱着式パラシュート、そして両腕、両脚に装着したパワーエアボード。これらの最新装備で、雷だらけの分厚い積乱雲、竜巻でさえもF4クラスまでなら耐えきって地上に降り立つことが出来る。
最初のチャレンジャー、現在では伝説のチャンピオンと畏敬されるバロンは、嵐のなかを突っ込んで地上に降り立つだけではつまらないとし、トウキョウ、シャンハイ、ロス、NYといった超高層建築が針葉樹のように立ち並ぶ大都市へ突っ込み、超高層ビルディングの群れを木々に見立てて、立体グリッドに沿って大自然の映像に切り替えるなかをいかに速く降り立てるかを競おうと唱えた。つまり目隠しの状態でスカイダイビングだけでなく、パルクールの技術も問われ、なおかつ運が最大限に試される。一歩でも間違ったら、避雷針やアンテナなどに串刺しになって一巻の終わり。それがデス・ダイブ。
バロンは今日まで生き延びてきた。そして彼が一番速い。
今日のチャレンジャーは元空軍パイロットのストーン。26歳のアフリカ系黒人女性。超高速で墜落するステルスからパラシュートなしで生還したというタフなエピソードの持ち主だ。運も期待出来る。成層圏を漂うスカイポッドにてバロンとともに装備を念入りにチェック。
「ベイビー」と無線ごしにバロン。
「地上でペニスをおったてて待ってるから、その上に股を広げて降りてきな」にやっと笑うストーン、バロンに向かって中指をおったててみせる。フンイキもイイ感じにヒートアップ。
今回はフロリダに上陸した超大型ハリケーンのサンドラに狙いを定めて、NY直撃の瞬間、NYのド真ん中に降り立つ。
スタートまでカウントダウン。その間、バロンはアムール虎を追って針葉樹の群生が広がる雪の谷間を渡っている過去を思い浮かべていた。テンションを上げるために常に思い描く光景だ。自分で名付けたアムール虎の名前はピルグリム。雪のなかをとぼとぼと歩いているその姿はまさに巡礼者(ピルグリム)だった。その後をライフルを手に従う自分もまたピルグリム。
さっきまで下卑たクチをきいたバロンの表情が急速に神々しくなっていくのを怪訝な目で見つめるストーン。そんな彼女のゴーグルにメールが入った。マブタの動きで開いてみると、「今日はチャンピオンに勝ちを譲れ。バロンは12分前からスパイ行為で国家反逆罪の罪人だ。地上に降り立つとともに処刑される」。発信者は空軍時代の上官でペンタゴンと連名。マブタの瞬きで瞬間的に返信するストーン。「No sir,Fuck you asshole!!」。ペンタゴンからのメールは暗号化されてはいたが、海賊TV主催の番組では通用しない。4秒後に解読され、テロップ入りで全ネットに流されてしまった。モニターの前で騒ぎ立てるギャラリー。リアルでもネットでもバロンコールとストーンコールが連呼される。
テンションマックス、スタート!!
想像を絶する素晴らしい世界。
地球が丸く出来ていると分かる曲線の彼方を見やりながら、硬く、冷たい、そして無限の絶頂感を叩きつけてくる大気のなかを突進していく。バロンの身体は直立不動のままで一直線に引力に引っ張られるがまま。それを見たストーンは両腕をクロスさせて両肩に引っかけ、頭から真っ逆さまに落ちてスピードをあげる。成層圏から対流圏へ。そこでやっと飛行機が見えてくるレベルだ。目指すハリケーンはまだ遥か彼方。
デス・ダイブの真の危険はこの永遠に続くような落下の感覚だ。ありとあらゆる感覚、感情、感触が麻痺し、身体機能も正常に機能しなくなる。当然、思考も途切れて、下手すると物言わぬ肉塊となってそのまま地表に叩きつけられる。この孤独に耐えられる精神力。バロンはいつものように歌を歌い始めた・・・ピンク・フロイドの「グッバイ、ブルースカイ」だった。

Oooooooo ooo ooo ooo ooooh
Did-did-did-did-you see the frightened ones?
Did-did-did-did-you hear the falling bombs?
Did-did-did-did-you ever wonder why we had to run for shelter
When the promise of a brave new world
Unfurled beneath a clear blue sky?
Oooooooo ooo ooo ooo ooooh
Did-did-did-did-you see the frightened ones?
Did-did-did-did-you hear the falling bombs?
The flames are all long gone, but the pain lingers on.
Goodbye, blue sky
Goodbye, blue sky.
Goodbye.

「そっちがグッバイならあたしはグッドラックって言い続けてやる」とストーン、両肩に乗せた両手で中指をおったててみせる。
ライヴ中継が衛星から飛行機に切り替わる。飛行機からの映像が全世界のモニターに映り、落下してくる二人をとらえる。あちこちで飛び交う賭け金の数字。「後15分40秒でハリケーン突入・・・!!」飛行機の下で黒々とした巨大な渦が渦巻いている。
異常気象が生み出した超巨大ハリケーン、サンドラ。フロリダ上陸以降も勢力を保ち続け、NYに接近するあいだ、実に217の竜巻を起こしている。
「いよいよ突入します・・・!!ここから二人にとって視界が別世界に切り替わります・・・!!」実況アナの声が熱っぽく響く。
恐るべき大渦の無風状態の穴の底に広がる風景は、そこにあるべき市街の屋根の群れではなく、どこかの惑星のようなゴツゴツした岩石の荒野だった。その瞬間、映像が乱れ、超高層ビルのてっぺん、電波受信アンテナの前に立つミラーサングラスの金髪女性の自撮り映像が入ってくる。画面いっぱいに広がるにやにや笑い。そこからパッとハリケーン真っ只中を飛び降り、パラシュートが開いて、超高速で上空へ巻き上げられていく様が映り、暗転。全世界からブーイング。たちまちのうちに書き込まれるツイート。「なんだあいつは!?」「またくそハッカーかよ」「前にも割り込んだクソがいたな」「目立ちたがり屋め」「でもパラシュートで飛んでいかなかったか」「もしかして乱入か?」・・・・ツイートに反応するように、実況アナが叫ぶ。「レーダーに三人の反応あり・・・三人目が乱入した模様です!!この場合ルール上どうなるんですか!?」振られた解説者の戸惑ったような声。「今までに映像に割り込んだのはいましたけど、まさか現場に生身で割り込むとは・・・正気の沙汰じゃありません・・・ルール?彼女は舞い上がっちまったでしょう、あれでは二人より先に地上に降り立つことなんて出来ませんよ!!」
狂風が吹き荒れる荒野。大渦に突っ込んだバロンとストーンは岩石の配置を立体グリッドで読み取りながら、頭に叩き込んだ経度と緯度の交差で元の風景を脳内に思い描いていた。ほとんど同時に。二人とも身体を丸めて、突風の吹く方向へパラシュートを開いた。瞬間的に消えてなくなる二人。横っ飛びにぶっ飛ばされ、ハリケーンの暴風でわけもわからずに飛ばされるがまま。ヘルメットのなかの映像がバチバチと乱れる。ギシギシと軋む五体。このなかでは段ボールの切れっ端でも十分な凶器となる。恐るべき風圧で過去何人も手足を失った。
荒野が途切れ、シベリアの大森林が現れる。実際はNYの超高層ビル群なのだが、二人にはそう見えていた。パラシュート脱着、パワーエアーボード噴射。風に乗りて空を疾走する二人。
「くそ」とストーン。飛んできた何かで腕に衝撃を感じたのだ。反射的に腕をかばってしまい、五体が開いてしまった。そのままバランスを崩すストーン。腕は千切れてはいなかったが、パワードスーツが切り裂かれ、パワーエアーボードが停止してしまった。「畜生」ストーンは即座に風に背中を向け、素早くパワードスーツを脱ぎ捨てた。「クレイジー!!ハリケーンの真っ只中でプロテクターも兼用するパワードスーツを脱ぎ捨てま
した、ストーン選手!!」と実況アナ。風圧でたちまち無数の切り傷が出来上がる。唯一残ったヘルメットのなかの映像は針葉樹のてっぺんに触れるか触れぬかの位置を映し出していた。
バロンは針葉樹の群生を見下ろしつつ頭のなかで常に思い描いていたピルグリムの姿を探し求めていた。目のなかを透き通るような真っ白な谷間が通り抜け、そこにこちらを見つめるアムール虎を認めた。「ピルグリム・・・」脳内でライフルの引き金に指をかける。銃声。カッと見開かれるバロンの両目。震える手でゴーグルを外す。針葉樹が消え、目の前には狂風が吹き荒れるNYの超高層ビル郡。そのなかを瞬間的に迫ってくるミラーサングラスの金髪女性。パラシュートを着けたままで、パワーエアーボード噴射。それで
も身体がほとんど動かないのは、彼女の身体から伸びたワイヤーが超高層ビルの電波受信アンテナにつながっていたからだった。
そうやって空中で身体を固定し、落ちてくるバロンを待ち構えてライフルで撃ってきたのだった。銃弾はアムール虎ではなく、ピルグリムのバロンの心臓を撃ち抜いていた。バロンを抱きとめたニーナは「伝説のチャンピオンの死に場所は風のなかが一番お似合いだよ」と言い、ワイヤーを切断してそのままハリケーンの吹き荒れるがままに空中へと消えていった。
ストーンは爪をはがしながらもビルに手を引っかけ、雨に濡れた窓を蹴り割り、パルクールの技術でそびえ立つ針葉樹から針葉樹へと移って、何とか無事に地上へ降り立った。ゴーグルを外し、ヘルメットを脱ぐストーン。「新チャンピオンの誕生だ!!」と駆け寄る報道陣に目もくれず、風雨に顔を打たれつつも目を細めて黒々とした空を見つめた。いつまでも見つめていた。
それでもバロンは降りてこなかった。
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