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2018年01月02日01:20

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「『イリアス』の各場面を『星矢』キャラで妄想してみた」��

「『イリアス』の各場面を『星矢』キャラで妄想してみた」��

(第5歌より、ディオメデスがアテナの加護を得て無双するシーンを、ディオメデス=ミロ、ステネロス=カミュで)

 この時、パラス・アテナは蠍座のミロに聖域軍中で特に目覚ましい働きを示して名を上げさせてやろうと、彼に力と勇気を授けた。そして兜と盾から火炎を燃え上がらせたが、その様は夏の夜空に煌々と輝く星のようで、その星にも似た火炎を頭から肩に燃え上がらせ、大軍の相打つ戦場の真っただ中へ彼を押しやった。
 ミロは戦場を疾駆した。それは水かさを増して流れも早く堤を壊す冬河のよう、突如として襲いかかる激流が繁り栄える果樹園の垣も、たくましい農夫らが丹精込めた田畑も押し流す、あたかものそのように冥府軍の戦列も、蠍座のミロの前には脆くも崩れ去り、多勢を頼む彼らもミロの前に踏み留まることが出来なかった。
 この時、冥府側に天罪星リュカオンのフレギアスがいた。彼はミロが味方の戦列をかく乱し、野を駆ける様を見るや、ただちに狙いをつけて矢を引きしぼった。矢は相手の右肩のあたりに当たり、肩をまともに貫いて、胸当ては鮮血にまみれた。
 それを見てフレギアスはしてやったりと叫んだ。
「いざ進め、馬駆る冥府勢よ、聖域軍第一の勇士は傷ついたぞ!」
 こう誇らしげに言ったが、しかし矢は勇士をしとめること能わず、ミロは退いて己の戦車の前に立つと、手綱を取る水瓶座カミュに向かって言った。
「カミュよ、車から降りて、おれの肩から矢を抜いてくれ」
 こう言うとカミュは戦車から地上に飛び降り、傍らに寄って矢をミロの肩からぐいと引き抜いた。しなやかな肌着を通して鮮血がほとばしった。大音声の誉れも高きミロが祈って言う。
「アイギス持つゼウスの姫神よ、アテナよ、我が願いを聞き届けください。かつて戦いの場において父と私に援助を賜ったならば、どうか今もこの私に御心をおかけください。あの男をこの槍の届くところまで来るようにさせ、この手で彼を討ち取らせたまえ」
 こう祈ると、パラス・アテナは願いを聞き入れ、脚から手へとその四肢をほぐして軽くしてやり、ついでミロに近づいて翼ある言葉をかけた。
「ミロ、安心して冥府勢を相手に戦いなさい。私は今、あなたの胸に父譲りの不屈の闘志を吹き込みました。かつてあなたの父、大盾を振るったあの勇者が常に抱いていたあの闘魂を。またあなたの目にかかったもやも払い、神と人間の境がはっきりとつくようにもしておきました。神々には決してまともに戦ってはいけません。でもゼウスの娘アプロディテが手出しをしてきたなら、構わぬから鋭い刃で切りつけなさい」
 眼光輝くアテナはこう言って立ち去った。かくして再び戦場に引き返したミロは、常に三倍する闘魂をたぎらせ、羊飼いに手傷を負わされた獅子が羊の群れを倒し、勢い凄まじく高い垣を飛び越えて走り去る、まさにその獅子の如くに豪勇ミロは冥府勢と渡り合った。
 冥府軍の隊長アイアコスはミロが味方の戦列をかく乱しているのを見ると、姿神にも見まごうフレギアスの所在を求めて槍が雨あられと降る戦場を駆け抜けた。そして姿凛々しいフレギアスを見つけると、その前に立って語りかけた。
「フレギアスよ、弓の名手の誉れをどこへやった?さあ、あの男に矢を射かけてやれ。我ら二人が打ち物取って戦車を駆り、真っ向からあの男に立ち向かって雌雄を決する他はない。さあ、おれの戦車に乗れ、トロス馬の威力を見せてやろう。敵を追うにも、また逃げるにも、いずれの方角であれ疾風のごとく野を駆ける逸物だ。この二頭の馬ならば、万が一にゼウスが蠍座のミロの武名を上げようとなされても、我らを無事に城に返してくれよう」
 フレギアスがそれに答えて言った。
「アイアコス様、では手綱はあなたが取ってください。馬も日頃、馴れている者に手綱を取られる方が車を引きやすいでしょうから」
 こう言い交わして二人は見事な戦車に乗り、戦意を燃やしてミロめがけて俊足の馬を走らせた。水瓶座のカミュは二人の姿を見るとただちにミロに翼ある言葉をかけた。
「ミロよ、親愛なる友よ、計り知れぬ力の剛の者が二人、凄まじい意気込みで迫ってくるぞ。一人は弓の名手フレギアス、もう一人はアプロディテを母に持つというアイアコスだ。ここは戦車に乗って退こう。頼むから前線でそのように駆け回るのはやめてくれ。お前の大切な命を落としてはならん」
 だが豪勇ミロはカミュをぐっとにらみつけた。
「逃げるなどと口にするな、カミュ。そんなことはおれの性分に合わん。おれはこのままあの二人に向かっていくぞ。アテナはおれがひるむことをお許しにはならぬ。もう一つ、お前に言っておくことがある。もしアテナがあの二人とも打ち果たす栄誉をおれに与えてくださった時は、カミュよ、アイアコスの馬を捕えて聖域軍の陣中へ連れて行け。あの馬は、ゼウスが与えた、曙の照らす限り日の輝く限りのどこを求めても、これほどの逸物はいないという名馬の種なのだ。アイアコスの父がその名馬に雌馬をつがわせて、生まれたうちの二頭を彼に与えたのだ。あの二頭を首尾よく我らのものにすれば、おれたちは抜群の名誉を上げることができるぞ」
 二人がこの様に語り合ううち、フレギアスが声をかけて言った。
「剛毅にして豪勇、勇名とどろくミロよ、さっきはおれの放った矢はお前をしとめることが出来なかった。今度は槍をもって打ち果たしてやろう」
 こう言うと影長く引く槍を構えて投げ放ち、ミロの盾に撃ち当てると、槍の穂先は盾を貫き、胸当てに達した。しかしミロは少しもたじろがなかった。
「狙いは外れた、当たってはいないぞ!」
 こう言って槍を放つと、その槍をアテナが導いて、相手の目のわきの鼻に当て、槍は白い歯並みを貫いた。強靭な青銅の槍は舌を根元から切り裂き、切っ先は顎の下にぬっと突き出る。こうしてフレギアスの息も力も共に尽きた。
 アイアコスは、聖域軍に戦友の亡骸を運び去らせてはならぬと、盾と長槍を手に戦車から飛び降りた。勇気凛々として獅子のごとくに亡骸の周りを歩き、均整とれた丸盾と槍とで屍を庇いつつ、立ち向かってくる者があれば討ち取ろうとすさまじい叫びを上げて身構えた。
 この時、ミロは石を取り上げた。なんという怪力か、今どきの人間ならば二人がかりでも持ちあげ得まいと思われるほどの大石であったが、彼は一人で軽々とそれを振り回し、アイアコスの腰のあたり、大腿が腰のつがいにはまりこむ所に撃ち当てた。骨は砕け、二本の腱も切れて、ささくれた石で皮膚もはがれた。勇士は倒れて膝をつき、たくましい手でからくも地上に身を支え、両目を黒い闇が覆った。
 この時、アイアコスの産みの母、アプロディテが目ざとくもこの有り様に気付かねば、一軍の将アイアコスもここに最期を遂げていたであろう。女神は白い両の腕を我が子の体に回し、飛来する矢や槍の防ぎにと、ひだのある美しい衣を我が子の上にかぶせてやった。
 女神が我が子を戦場から連れ去ろうとしている一方、カミュはミロに言われたように、アイアコスの見事なたてがみの馬に踊りかかると、味方の陣営に引いていった。それから自らの戦車に乗って艶やかな手綱を取り、ミロの後を追って蹄の強い馬を必死に走らせた。
 そのころミロは、呵責なき槍をかざしてアプロディテに迫るところであったが、目指す相手は力の弱い女神で、男らの戦いに混じって采配を振るうアテナや都城を屠るエニュオのごとき女神ではないと見抜いていた。群がる軍兵の間を追って遂に追いつくと、豪気の勇士ミロは身を伸ばして踊りかかり、鋭い槍で柔肌の腕の先を貫いた。たちまち槍は優雅の女神たち(カリテス)が自ら仕立てたこの世ならぬ神の衣を裂いて、掌の付け根当たりの皮膚を裂き、神の不死なる血が流れ出た。
 女神が大声で悲鳴を上げて我が子を手から落とすと、それをアポロンが腕に受けとめ、黒雲を起こして守ってやった。大音声の誉れも高きミロは女神に向かって言った。
「ゼウスの娘御よ、肉弾相打つ戦からは手を引かれるがいい。か弱い女どもをたぶらかすだけでは、まだ満足なさらぬのか。これからもたびたび戦場にお出ましになるなら、やがて戦場から離れておられても、戦いと聞くだけで身震いなさるようにしてさしあげよう」
 こう言うと、女神は痛みに耐えかね、アレスの戦車を借りて呆然と立ち去っていった。
 大音声の誉れの高きミロは、神アポロンが自ら援護の手を差し伸べているのを知りながら、さらにアイアコスに踊りかかった。偉大な神をも恐れず、ひたすらアイアコスをしとめて、名高い武具をはぎ取ろうといきりたった。必殺の気合い鋭く三度踊りかかれば、アポロンは三度その盾をつき戻した。しかし彼が四たび鬼神のごとく突進してくると、遠矢を放つアポロンはすさまじい声を上げて叱咤した。
「落ち着け、蠍座よ、そこをどけ!神々と対等であるなどとうぬぼれるな!不死なる神と地上を歩む人間とでは種族が違うのだ!」
 こう言うとミロは遠矢のアポロンの怒りを避けてわずかに後へ退いた。
 アポロンは軍兵の群がる中からアイアコスを救い出し、彼の社が設けてある聖なる城塞に置くと、レトと矢の雨を降らすアルテミスが広大な奥殿で傷を癒し、元の堂々たる姿に戻してやった。
 一方、銀弓持つアポロンは姿も物の具もアイアコスそっくりの似姿を作り、その似姿を巡って冥府軍と聖域軍が胸元にかざした牛革の円い大盾と生皮の軽盾を打ち合わせて戦った。
 この時ポイボス・アポロンが荒れ狂う軍神アレスに語りかけた。
「アレスよ、人間を殺し城を屠る残忍なアレスよ、ひとつ出掛けて行ってあの男を戦場から引き離してくれぬか。蠍座のことだ。今は父神ゼウスを相手にでも戦いかねぬ男だ。先刻はまずアプロディテに近づいて、その手首を刺したが、次にはこの私まで鬼神のごとき勢いで襲ってきた」
 こう言うと自分は城の頂に腰を下ろしたが、一方、災厄の主アレスは勇将ギガントの姿を借りて冥府勢の戦列に入りこみ、その戦意をあおった。
 天猛星ワイバーンのラダマンティスは直ちに武具をつけたまま戦車から飛び降り、鋭い二振りの槍を振るいつつ、全軍の間をくまなく駆け巡って督励し、再び激戦を交えさせようとした。一方、当のアポロンはアイアコスを豪奢な奥の社殿から送り出し、この軍勢の牧者の胸に闘志を吹き込んでやった。アイアコスが戦友の間に立つと、一同はその無事な姿を見、かつ勇気凛々、落ち着き払って歩んでくる様子に喜んだが、事の次第を尋ねる者は一人もいなかった。銀弓の神アポロンと死を呼ぶアレス、それに飽くことなく荒れ狂う争いの女神エリスの起こした闘気に気を取られ、そのような余裕がなかったのだ。
 聖域勢はアレス並びに青銅の武具を鎧うラダマンティスの前に、黒船の並ぶ陣営に引き上げもせず、さりとてまた反撃に転ずることもなく、冥府方にアレスが組しているのを知ってじりじりと後退していった。
 白い腕の女神ヘラは、ラダマンティスとアレスが激戦の中に聖域勢を倒してゆく有り様を見ると、すぐさまアテナに翼ある言葉をかけた。
「何たることであろう、アイギス持つゼウスの娘アテナよ、もしこのまま疫病神のアレスを荒れ狂うに任せておいたら、冥府勢を陥落させると聖闘士に約束してやった我らの言葉が反故になってしまう。さあ、我らも腕のほどを見せてやろう」
 眼光輝くアテナに否やはない。大神クロノスの娘として最も位高い女神ヘラは、黄金の額飾りの馬を仕立てにかかった。青春の女神へべは、戦車の両側、鉄の車軸の右と左に八つの輻のある円い車輪を手際よくはめた。輪縁は不壊の黄金造りで、その上に青銅の輪金をめぐらせ、目も輝くばかりの美しさ。車の両側に回るこしきは白銀造り、車体には金銀の箔をかぶせた革紐を巡らし、手すりは二重に作られ、車体から突き出たながえも銀であった。ヘベが黄金まばゆい頸木をながえの先端に結わえ、黄金をちりばめた馬の胸紐をこれにかけると、闘志に燃え戦いに逸るヘラは駿馬を頸木の下へ入れた。
 一方、アイギス持つゼウスの姫アテナは、自ら織って仕立てた艶やかな女の衣装を父の館の床に脱ぎ捨て、雲を集めるゼウスの用いる肌着を身につけると、悲涙を呼ぶ戦いに臨もうと物の具に身を固めた。肩には房を垂らしたアイギスを掛けたが、その恐るべき武具の縁には、ぐるりと「潰走」が取り巻き、また表には「争い」あり、「勇武」あり、身の毛もよだつ「追撃」あり、恐るべき女怪ゴルゴの首もあった。また頭には、角二つ、星四つ、百の街の戦士らの姿を描いた黄金の兜をかぶり、燃え盛る火のごとく輝く戦車に打ち乗ると重く堅固な長柄の槍を取った。猛き父神の子、この女神は憎しと思えば群がる戦士をこの槍でなぎ倒すのだ。
 すかさずヘラが馬に鞭を加えると、広大な天とオリンポスの出入りを預かり、濃い雲の戸を開き、あるいは閉じる季節の女神たち(ホーライ)の守る天の門扉がひとりでにきしんで開き、二人の女神は馬を進めた。
 やがてクロノスの子が他の神から離れてオリンポスの頂に座っている姿を認めると、白い腕の女神ヘラは語りかけた。
「父神ゼウスよ、アレスめのあの乱暴極まる所業を怪しからぬと思いませぬのか。もし私めがアレスを手厳しく打ちのめして戦場から追い払ったら、あなたはご立腹になりましょうか」
 すると雲を集めるゼウスは答えて言った。
「よいとも、戦利を集めるアテナを彼に立ち向かわせるが良い。あれならいつもアレスを痛い目に合わせているからな」
 白い腕の女神ヘラに否やはなく、馬に鞭を加えれば、馬は勇んで大地と星をちりばめた天空の間を飛んで行く。やがてシモエイス、スカマンドロス両河が流れ合うあたりに着くと、白い腕の女神は馬を止めて戦車からと解き放ち、あたりに霧を濃くを湧き立たせた。するとシモエイスの河が神馬の飼い葉として[[rb:神仙草 > アンブロシア]]を生やした。
 二人の女神は聖域勢に加勢しようと意気込んで、気弱な鳩が歩くように小股にちょこちょこと歩いていく。やがて白い腕の女神ヘラは、その声は青銅のごとく強く、五十人の声を合わせたほどの大声を放つ豪勇ダンテの姿を借りて大音声で叫んだ。
「恥を知れ、聖域勢の者どもよ、お前たちは姿こそよけれ、根性は腐った腰抜けばかりか!」
 こうしてヘラが各兵士の戦意をあおり勇気づける一方で、眼光輝くアテナはミロを目指して急いだ。折しも彼は、フレギアスの矢で受けた傷を冷やして、黒い血をぬぐっているところであった。女神は馬の頸木に手をかけて言った。
「あなたの父は不肖の息子を生んだものです。あなたの父は小柄でしたが、立派な戦士でした。かつて私が彼に、戦いをしてはならぬ、先方の屋敷で大人しく食事をしておれといったのに、カドメイアの若者たちに戦いを挑み、しかもやすやすと勝利をおさめたものでした。私はそれほどまでにあなたの父に肩入れしたのです。ところが今あなたに対しても、こうして私が付き添い、身を守って、本気で戦えと勧めているのに、あなたは激しい戦いの疲れが全身にしみこんだのですか?それとも怖気づいたのですか?」 
 女神の言葉に剛勇ミロは答えた。
「アイギス持つゼウスの姫神、私があなたが誰か分かっております。私も包み隠さず申しますが、私は何も不甲斐なく怖気付いているのでも、戦いをためらっているのでもありません。先刻、あなたは私に至福の神々を相手に戦ってはならぬと仰せでした。しかるに今、戦場で我が物顔に振る舞っているのは確かにアレス、さればこそ私も引きさがっているのです」
 眼光輝く女神がそれに答えた。
「蠍座のミロよ、私が先に何か言ったからといって、アレスを恐れることはありません。いや、アレスばかりか、他のどの神も恐れずともいいのです。それほどまでに私があなたに味方しているのだから。真っ先にアレスめがけて戦車を走らせ、間近から刺してやりなさい。乱暴者のアレスなどはばかることはありません」
 こう言って手を伸ばすと、カミュの体を後ろに引いて、戦車から下へ押しやった。カミュは素早く飛び降りた。そして気負った女神が戦車に乗りこみ、勇将ミロの傍らに座って鞭と手綱を手に取った。パラス・アテナはアレスに見られぬようにと「冥王の兜」をかぶり、真っ先にアレスをめがけ、一つ蹄の駿馬を駆りたてた。
 この時、アレスは巨漢アルゲティを討ったところだったが、ミロの勇姿を見るとその屍を討ち果たした場所に残し、馬を馴らすミロを目指してまっしぐらに進んでいった。互いにより合い間合いも狭まると、まずアレスが一気に相手をしとめようと気負って青銅の槍を繰りだした。しかし眼光輝く女神アテナはその槍をつかんで引き離し、槍は空しく空を切った。続いて今度は大音声の誉れも高きミロが青銅の槍を構えて立ち向かうと、パラス・アテナは見事にその槍を導いて、腹帯に占めた下腹のあたりに当てた。かくしてミロは見事にその個所に槍を当て、軍神の美しい肌を切り裂くと、すぐさま槍を引き抜いた。青銅のアレスは、一万人もの兵士が発するほどのうめき声を上げ、聖域勢も冥府勢も恐怖に肝を冷やした。戦いに飽くことを知らぬアレスの悲鳴は、それほどまでに凄まじかった。
 暑熱の後に烈風が起こり、雲間を裂いて漆黒の大気の柱が立ち昇るように、青銅のアレスが叢雲とともに広大な天に昇りゆく姿がミロの目に映った。
 アレスは神々の住居、険しいオリンポスにたどり着くと、クロノスの子ゼウスの傍らに座り、傷口から流れ出る神の血を示しながらおろおろと翼ある言葉をかけた。
「父神ゼウスよ、かかる乱暴狼藉を目にして、怪しからぬと思われぬのですか。我らはみな父上に不満を抱いてます。というのも、父上があの無分別な、いつも不埒なことしか頭にないじゃじゃ馬をお産みになったからです。オリンポスに住む神々は、あの女以外はみな父上の命に服し臣下として仕えているのに、父上はあの娘だけは叱りもせず、しつけもなさらず、好き勝手にのさばらせておられる。それも父上がお一人でお作りになった子であるからでしょう」
 しかし雲集めるゼウスはアレスをにらみつけた。
「この内股膏薬めが、わしの膝もとで泣き言を並べるのはやめよ。神々の中でお前ほどわしが憎いと思う者は他にはおらぬ。お前が好むのは、争い事、戦争、喧嘩ばかり。お前は母ヘラの手に負えぬ強情な性分を受け継いでおるからな。とはいえ、お前もわしの胤だ。お前のような乱暴者が他の神の子であったら、とっくにタルタロスよりもさらに深くに落とされておったろう」
 こう言うと医神パイエオンに治療を命じ、パイエオンが痛みを鎮める薬を傷口に塗ると、もとより死すべき身ではないアレスの傷はすぐに癒えた。あたかも無花果の樹汁が、純白の乳液をたちまちにして凝結させ、掻き回すうちにみるみる固まっていくように、医神が素早くアレスの傷を癒した。そのアレスにヘベが湯浴みさせ、美しい衣装を身に着けさせると、アレスは意気揚々としてクロノスの子ゼウスの傍らに座を占めた。
 こうしてアルゴスの女神ヘラとアラルコメナイの女神アテナは、人間には災厄の主、アレスの殺戮を見事にとどめて、大神ゼウスの館に帰っていった。

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