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2016年10月17日03:29

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『レーテの女怪』第1話

 2016年ラダ誕作品第二作目。
 『確率二分の一の選択』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1956101182&owner_id=4632969がオチがアレでラダマンティスが可哀想で、あまり誕生祝いっぽくなかったので、もう一作、普通のラダカノを書いてみました。
 冒頭の詩は呉茂一『ギリシア・ローマ抒情詩選』より。


『レーテの女怪』第1話

夕暮れにモイリスが「お休み」と言いあったとき、口づけてくれたのはうつつか夢か。
他のことは皆はっきりと、何を言ったか何を尋ねたかいちいち覚えているが、
さてその上にさらに「接吻してくれた」となお決めかねるのは、
もし本当なら昇天したはずのこの身が、なぜまだ地上をさまよっているのか。

紀元後二世紀の古代ギリシャの詩人ストラトンの恋愛詩より

 冥界三巨頭の一人、天猛省ワイバーンのラダマンティスは落ち込んでいた。
 彼の誕生日前日の土曜日、恋人である海将軍筆頭・海龍兼双子座の黄金聖闘士のカノンとデートをして甘やかな一夜を過ごす予定だったのに、約束のアテネ市内のカフェニオンに姿を見せたカノンは、双子の兄のサガと同じ格好をして二人で現れたのだ。
 そして「どちらが本物のカノンが選べ」と言われ…ラダマンティスは二人の見分けがつかずに兄のサガをカノンを思いこんで彼と一日デートをしてしまったのである。
 ホテルに姿を見せたカノンはラダマンティスが兄と自分を取り違えたことに怒り、彼に蹴りを食らわして、サガと一緒に聖域に帰ってしまった。そしてラダマンティスは豪華ホテルの寝台で寂しく一人寝を味わい、月曜日の今日、冥界のカイーナの執務室でどんよりと重い空気を周囲にまき散らしている、というわけである。
「それは仕方ないですよ、ラダマンティス様。あの双子はそっくりですから、同じ格好をしたら見分けられません」
 副官のバレンタインが懸命に慰めてくれるが、ラダマンティスの気は晴れなかった。
「…いや、バレンタイン、やはりおれが悪いのだ」
「ラダマンティス様…」
「アテナもポセイドンも、サガとカノンを決して間違えることはないというのに…よりによって恋人であるおれが二人の区別がつかなかったとは…」
 そりゃあ相手は神々ですし比較しても…と思う副官に、ラダマンティスは盛大なため息をついて自問した。
「おれにはカノンへの愛情が足りないのだろうか…」
「あなたの場合、足りないのは愛情ではなくて観察力ですよ」
 バン!と執務室の扉が勢いよく開かれた。入って来たのは、ラダマンティスの同僚である三巨頭の一人、天貴星グリフォンのミーノスだった。
「ミーノス…」
「昨日から鬱陶しいことこの上ない。ただでさえ陰惨な冥界の空気がますます暗くなりますよ。さっさと立ち直りなさい」
「そうは言われてもな…」
「まあ、確かにあなたにも落ち度はあります。あの双子の見分けなど、簡単ではありませんか」
 あっさりと言った同僚に、ラダマンティスは背筋を伸ばして驚いた。
「なにぃ!ミーノス、お前はあの双子の区別がつくのか!?」
「簡単ですよ。二人を並べて見て、よりいたぶりがいのあるほうがカノンです」
「………」
 ミーノスの返答にラダマンティスは肩を落とした。
「そんなサディズム感知器はおれにはついていないのだがな…」
「…というのはともかく、あの双子にはちゃんと見れば分かる、違う点がありますよ?」
「そうなのか?」
「だから言ったのです。あなたの観察力が足りないのだと」
 ラダマンティスがため息をつく。
「…ミーノス、そこまで言うなら双子の違う点とやらを教えてくれないか?」
「自分で判別しなさい。それがカノンへの愛ですよ」
 冷たく同僚を突き放すと、ミーノスは持参した書類で執務机に座るラダマンティスの頭を軽く叩いた。
「それより、この書類の魔物退治をお願いします。私は亡者の裁判がありますし、アイアコスはアケローン河方面に視察に出ているのでね」
「…ああ、この前から問題になっている、レーテ河に住みついた魔物のことか」
 書類を受け取り、ラダマンティスは目を通した。
 レーテ河は冥界に流れている河で、「忘却」を意味する。冥界に落ちた亡者の魂は、それぞれの罪によって罰を受けた後、レーテ河に流されて生前の記憶を浄化され、輪廻転生の輪に乗るのである。
 聖戦によって冥界が崩壊したあと、そのレーテ河にどこからともなく魔物が住みつき、亡者の魂を捕えて輪廻転生の妨げになっているというのだ。
「その魔物を何とかしないと、魂の循環が滞るな。分かった、すぐに行こう」
 カノンとの仲を思い悩む気持ちはとりあえず脇において、公務にと頭を切り替えたラダマンティスは、冥衣をまとってレーテ河に出発した。

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