2015年ラダ誕作品。ラダマンティス、お誕生日おめでとう!
ラダ誕企画「Wyvern Fest」
http://rosenkreuz.holy.jp/wyvern/index.html参加作。主催のえりぜ様、今年も開催してくださりありがとうございます!
誕生日にカノンに海界の中心都市ポセイドニアに招かれたラダマンティス。二人はそこでアイスキュロスの悲劇『アガメムノン』を鑑賞する。しかしその時、暗殺者の凶弾がカノンを襲う…!という話。
今回のネタ本は、アイスキュロスの『オレステイア』三部作と、古代ギリシャのアスクレピアデスの抒情詩。
静かに怒るラダマンティスは復讐の三女神を召喚しちゃいました。さすが冥府の判官、スゲーな、って話である。
海界の中心都市「ポセイドニア」については、『ポセイドニア・コモーディア』を参照。カノンの部下のオリジナル海闘士たちについては『ハルモニアの首飾り』ヘラクレイア編を参照。
『オレステイア』第1話
秋に訪れるラダマンティスの誕生日。
その日、ラダマンティスは休暇をもらって海界を訪ねた。冥界から水脈を通じてラダマンティスが姿を見せると、出口にあたる泉の傍らにはカノンの姿があった。
「ようこそ、冥府の判官殿」
カノンはおどけたようにそう笑いかけ、ラダマンティスに挨拶の抱擁をした。
「カノン、元気そうで何よりだ」
ラダマンティスも真面目な顔で答え、カノンを抱きしめ返した。
海将軍筆頭・海龍にしてもう一人の双子座の黄金聖闘士であるカノンは、ラダマンティスにとって恋人であり、親友でもあった。
「早速だが出かけよう、ラダマンティス。開幕まであまり時間がない」
「ああ」
ラダマンティスはカノンの後ろについて歩いた。カノンが住む元首公邸を出ると、正面にある運河の船着き場に渡し船が一艘、停まっていた。
ラダマンティスの誕生日であるこの日、カノンは彼を海界の中心都市ポセイドニアに招いた。そして愛する人を楽しませるため、演劇を一緒に見ないかと誘ったのである。
カノンとラダマンティスが渡し船に乗りこむと、船頭は劇場へ向けて船を出した。運河が道の代わりに張り巡らされたポセイドニアでは、渡し船が重要な交通機関なのだ。小舟に揺られながら、カノンとラダマンティスは劇場に到着するまでの短い時間を一緒に楽しんだ。運河の上を冷涼とした秋の風が吹き通っていく。
「演目は何だ、カノン」
「アイスキュロスの『アガメムノン』だ。知っているか?」
「読んだことはあるが、見るのは初めてだな」
ラダマンティスはカノンから劇場の広告チラシを受け取って眺めた。チラシには上演する劇場と主演俳優の名前が印刷されている。
『アガメムノン』は古代ギリシャを代表する三大悲劇詩人の一人アイスキュロスの作だ。トロイア戦争でギリシャ勢の総大将を務めたアガメムノンが、帰国後、妻のクリュタイムネストラによって暗殺される逸話を扱っている。続編である『供養する女たち』『慈しみの女神たち』と合わせて『オレステイア』と呼ばれ、三部作の形式を残して現存している唯一の作品でもある。
古代に演劇の発表の場であったアテナイのディオニュシア大祭では、一人の作家が悲劇を三本と喜劇を一本、一緒に作って上演し、コンクールを行っていた。アイスキュロスは「どうせ一緒に作るなら」と、それらを三部作、あるいは四部作として完成させたのだ。斬新なそのスタイルは他の作家たちにも模倣されたが、さすがに「常に三部作として作る」形式は作る側に多大な才能を要求させ、結局それに成功して今まで作品が残ったのはアイスキュロスだけ、という次第である。
演劇の上演は、ポセイドニアの民衆たちにとっても大切な娯楽だ。市内にはいくつもの民営の劇場がある。その日、カノンとラダマンティスが訪ねたポセイドニア市内の劇場も観衆たちに埋め尽くされた。
カノンとラダマンティスが運河から劇場前の通りに着くと、待ち構えていた護衛兵たちが人々の波をかき分けて二人を劇場内にと案内した。とはいえ、護衛兵の数は多くはなく、民衆を威圧するほどのものでもない。気が向くと一人でふらりとポセイドニアの街を散策に出ることもあるカノンだ。場合によってはそのまま街中で声をかけられ、陳情を頼まれることもある。陳情を拒むと、市民意識の高いポセイドニア人からは「統治の資格がない」と不評を買ってしまうのだから仕方ない。だから劇場の観客たちもカノンの姿は見慣れており、「あ、シードラゴン様だ」「来たんだ」といって少しばかり視線を向ける程度の反応であった。
ポセイドニアの元首として貴賓席に案内され座ったカノンと、その隣に座すラダマンティスは、小声で会話を交わしながら、互いに微笑み合っていた。
やがて幕が上がり、劇が上演された。
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