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2012年09月29日15:10

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морг ��

その日あたしは退屈だった。銃を最後に撃ってからもう半年。バレルは通りをよくしてあるけれど、アッチはふさがったまま。硬いコックで通りをよくしてもらわにゃやってらんない。だからあたしはクラブへオトコをひっかけに行った。
あたし好みのスジ筋まるだしでくケツを振って踊っているぼうやがいたので、酒に上等のヤクを添えて奢ってやった。ぼうやはすんなりあたしとともにベッドへ。久しぶりのハメ狂いでストレス解消。と思いきやまだ何かが足りない。

それは死。

頭のなかで誰かが囁く。銃口が火を噴き脳天が吹っ飛ばされるイメージ。訓練場でヘタレの新兵を撃ち殺すパルコヴニク(ロシア語で大佐)。「貴様らは人を殺すと考えてはならん。貴様らそのものが死そのものなのだ。考えるのではなく、それのみを意志せよ。死こそがすべてなのだ」
彼はヨシフ・パウロエウィチ・クイビシェフ大佐。つまり、あたし、ニーナ・パウロエウィチ・クイビシェフの父親だ。ソ連崩壊後、サイバー戦担当になり、あれほど最前線での戦闘にこだわった男がコンピュータいじりに没頭したので、軍部の多くはホッとした。敵より味方を多く殺したと噂されていたからだ。

死は人間にとってプラス。

死ぬことは終わりではなく始まりなのだ。ヨシフの偏執狂的な思想はコンピュータと融合し、サイバー・テクノロジー、バイオ・テクノロジーを取り込んで、超人的な兵士を産み出すことにこだわった。それでまた多くの軍人が人体実験で死んでいった。それでも罪に問われなかったのはそれなりの結果を出したからだ。そのひとつがあたし。盲目だった幼いあたしに視力と電脳接続能力を与え、銃の撃ち方も知らない娘をオハの街に放り出し、オハのネットを遮断して全市民殲滅作戦を敢行したのだ。最強の布陣で全力をあげてオハは地球上から消滅した。だけどあたしだけは生き残った。

死よ、我とともに歩め、死よ、常に我とともにあれ。

生き残ったあたしはすっかり銃の扱いに慣れ、闘い方を覚えていた。それから父親であるヨシフを撃ち殺すためにネット上の全情報を駆け巡ったのだが、ヨシフは自分の部隊を引き連れて行方をくらましてしまった。代わりにヨシフとつながりのあったロシア軍の大将を二人殺ったけれど、これっぽちも足しになんなかった。それでここマンハッタンに流れて、細々と暮らしてるわけ・・・あたしの隣で寝息をたてるぼうや。あたしのなかで盛大にブチまけた後、何を想ってるのだろうか。あたしは舌なめずりをして瞬きして脳の奥に組み込まれた電脳接続のスイッチを入れると、手のひらでぼうやの目の上を覆った。まぶたの筋肉の動きが手のひらを通し、瞬間的に電脳空間にぼうやの脳内風景が浮かび上がる。それは予想とは違っていた。ガキっぽい欲望のたれながしのイメージではなく、キラキラと輝くミラーボールのような月だった。

月。現在の月はもはやクレーターと岩石の世界ではない。あちこちに国々が施設を建て、ネットに必要な中継基地も多くそびえ立ち、まさに巨大な人工衛星として地球の周りを回っているのだ。

その瞬間。ぼうやが目を閉じたまま、ぼうやの声ではない声で笑い出した。「久しぶりだな、ニーナ・・・」その声は聞き覚えがありすぎた。「アテーツ(ロシア語で親父)!!」

ヨシフは月にいた。あたしはぼうやの脊髄に埋め込まれた中継チップをアイスピックでえぐり出し、グッタリしたぼうやを病院の前に投げ込むと、その足でチップの電波を辿り、ロシアの富豪がおったてた最高級ホテルとやらに向かった。フロントに向かうまでもなく、ロシア軍の軍服を着た兵士たちがずらりと出迎え、あたしに銃口を向けてきた。あたしは舌打ちし、兵士の一人に銃を手渡した。「どうぞこちらへ」うながされて貨物用エレベーターに乗ると、「ここでお召し物を全部お脱ぎになって下さい」。ニヤッと笑って、革ジャケット、革パン、革ブーツ、下着を脱いだ。「サングラスは?」と聞いたら「そのままで結構です」とのこと。

つまり、親父が生み出した作品としてのあたしのまま、というわけだった。

案内されたホールはプラネタリウムのような円形のドームになっていて、その中央のホログラム転送装置に立てば、地球にいながら月に行けるというものだった。マッパのあたしは一直線に月面に立ち、そこが月の裏面、モスクワの海であることを知った。そこの中継基地にヨシフはいた。

いるというより、基地そのものがヨシフだった。逞しい軍人としてのヨシフは死に、ヨシフの残骸が人工頭脳、人工心臓、人工肺、人工胃腸、人工骨格・・・と新しく“増築”された格好で、基地に組み込まれて生きていた。呼吸器の泡立つような音とともにヨシフの肉声が漏れる・・・「おまえの退屈しのぎにとびきりの件を用意した」。「ファック・ユー」とあたし。「そこにいると分かった今、すぐ殺りに行くだけだね。またどこかの街で銃弾にさらされるなんてまっぴら」グツグツと煮立つように笑うヨシフ。「今度はそんなものじゃないさ・・・おまえはサイバーテクノロジーの最高傑作だが、私はバイオテクノロジーでも最高傑作を生み出した・・・名はイワン。金属元素を有機体に取り込める男だ・・・車に乗れば車と化し、船に乗れば船と合体し、飛行機に乗れば意思ある飛行物体となり・・・ロシアは世界中にあらゆる面で優位に立てる・・・」

あたしは興味がないことを示すためにノドの奥からため息をついた。しかしヨシフは無視した。

「・・・はずだった。今から16時間前にイワンは軍部を脱走した。彼の目的は母親であるおまえに会うこと・・・」
「ガキなんて産んだ覚えはないけど」
そこでまたグツグツと笑うヨシフ。
「私とおまえの間に出来た息子なのだよ。私の精子と採取してあったおまえの卵子を合わせて人工子宮で作り出したのだ・・・」
あたしの脳裏にわき起こる名状しがたい感情。
「イワンを殺せ。これはロシアからの正式な依頼でもある。報酬はドルで五百万だ」
「くたばっちまえ、クソ親父」
あたしは受けることにした。
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