見にくくて申し訳ないのだが、上の「告発文書」は、私が20代の時に高知市のワシントンホテルに宿をとり、犬神憑きなどの憑霊信仰を取材していた時、帯屋町ロードでひとりの中年にいきなりバッグにねじこまれたもののコピーである。
文体の支離滅裂さからお分かりのように、頭のネジが外れた人が騒いでいるだけであった。
しかし、彼が部落差別と新興宗教でおかしくなったと考えれば、それは人間そのものの悲劇なのだ。そして悲劇はカタルシスにまで到達しなければ昇華出来ない。
物部村の祈祷師のN氏の観光トークがだんだんと無形文化財の認可を巡って、文部科学省への罵詈雑言にヒートアップする現場を目の前で目撃した私はますますその思いを強くした。
以下は考え出した作品のあらすじだが、本編はシナリオの形をとっている。
高知県は物部村。ここは、いざなぎ流や犬神に代表される民間信仰が生きている土地であり、部落差別が根強く残っている土地でもある。祖母の幹代と二人暮らしの土居大麓は実直で誠実な農業青年だが、犬神筋のために村中から疎外されている。ある日、村長にして大地主の橋本茂丸が県知事選挙に出馬するために、祈祷師としての幹代の力を借りにきた。二人はかつて愛人関係にあり、茂丸は今の地位を犬神の力で手に入れたのだった。自分が茂丸の孫娘にして幼なじみの京子の婿養子になることで話をまとめられたことを知った大麓は、その勝手さと横暴さに祖母と茂丸に猛反発する。そんな土居家に、東京から犬神についての民俗学調査に来たという女子大生、犬飼和子が訪ねてくる。一度は追い返す大麓だが、和子の不思議な魅力に引かれ、そのうち調査の良き協力者となる。和子の誕生日が母親の紋の死んだ日でもあることから、大麓は和子を紋の生まれ変わりと思い込むようになる。それは幹代と茂丸も同じ思いで、かつて紋を謀殺していることから、和子を恐れるようになる。しかし、和子の持ち前とする飄々とした態度が何かとカンにさわり、茂丸たちの仕掛けも含めて村中から大麓以上に疎外される。ところがそれが裏目に出てしまい、様々な障害を共に越えていった仲として恋愛関係に入り、ついに結婚の約束をしてしまう。怒り狂う幹代と茂丸、嫉妬に狂う京子、闇の眷族たる村人の感情が一つにまとまり、とうとう和子謀殺に発展する。大麓の留守中を狙って、和子に犬神落としの儀式を特別に見せてやろうと持ちかけ、儀式の真っ最中に惨殺してしまう。みんなから「和子は逃げた」と言われた大麓は失意の底に落ち込むが、慰めに来た京子の問わず語りで真相を知り、激しい怒りに燃える。ついにある晩発狂し、大麓は日本刀を引っ下げて幹代や茂丸、京子、村人たちをほとんど皆殺しにしていく。血に染まった大麓はそのまま高知市へ逃亡する。二十年後。高知市に落ち着いた大麓は妻子ある身となり、新興宗教の教祖になっていた。霊媒師の金光鑑太郎と組んで、心霊治療、人生相談、祈祷儀式などをやって信者を増やしていたが、その実態は背徳の限りをつくす古代ローマの原始宗教かサバトさながらの狂信集団で、その無軌道ぶりには警察もヤクザも手を焼いていた。大麓の娘、土居美保は市内の女子高校の秀才だが、教祖を父に持つために恋人はおろか友達も出来ない始末で、周囲から様々な形で苛めや嫌がらせを受けている。しかし、ある日、美保の犬神の力で教師一人と生徒二人が死亡、発狂するという事件が起き、それをきっかけに誰も手を出さなくなってしまった。寂しさを紛らわすために、ヤクザにして闘犬センターの犬飼いの乾健二から白犬をもらって、シロと名づけて飼い始める。そのうち、愛犬とは獣姦までするようになるが、実はシロは信者によって始末されていて、美保の肉体を求めていた犬の正体は父、大麓だった。そして美保は、近親相姦の恥辱と罪悪感に思いつめて、健二たちヤクザと手を組んで新興宗教潰しを進めていく。カタストロフの日、美保は健二たちと共に神殿を破壊し、信者たちを射殺し、破壊と虐殺の限りをつくす。美保と大麓の血みどろの対決で犬神が暴れ出し、健二たちも含めた周囲を吹っ飛ばす。大麓を犬のように咬み殺した美保は、大麓の死体から神々しい白犬が出現して山へ還るのを見る。後には、発狂して全裸で高知城へ向かって疾走する美保の姿があった。
そもそも高知県における部落差別は以下の図式が成り立つ。
�‖爾量酥擇壁�習に嫌気がさし、都会へ出奔する。
�△靴�し、都会になじめず、結局村へ戻る。
�△涼奮�で、心の隙間を埋めるのが、イチバン上で告発している、金光教だの、わけのわからないまじないだののあやしげな「陶酔」であり、あの中年もそのはざまに陥った人間のひとりなのだろうと感じた。
悲劇はそのまま語るとシャレにならない。つまり、誰もがドン引きする。
誰もが聞いたり、読んだり、見たりしてくれるためには、エンターテイメントでなければいけない。
そこで私は犬神憑き、部落差別、新興宗教で家族が崩壊する物語をシナリオに起こした。
題して「蜃気楼」。
高知の海からは実際には見えないが、物部村から眺めた高知市を意味してそう名付けた。
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