mixiユーザー(id:1640816)

2011年10月20日18:54

667 view

オリジナル小説 「女の首」

フォト


子供の頃、私は奇妙な夢を見続けていた。寝ているのか醒めているのか判然としないが、ぼやけた闇の中でふと目を開けると、戸締まりした筈の窓が少し開いていて、その隙間から、いやに真っ白な顔をした女の首がロクロ首のようにするすると入ってくるのが見えるのである。それだけでも怖いが、もっと怖いのが、女が眠っているような、目を閉じたままの平和な表情であることだ。女の首はそのまま私の布団の中へ潜り込み、私の身体のいたるところを舐め回したり、歯を立てたり、吸ったりするのだが、その間、私はあまりの恐ろしさに金縛りにあったように全身を硬直させるだけだった。汗びっしょりになって、痛いほど目をぎゅっと暝っていると、いつの間にか朝になっているという、いつもこんな具合であった。ひどい時は、ぐっすり眠った気がしなくて、精神的な寝不足に悩まされた。一回、周囲に悪夢のことを話したことがあるけれども、みんな怪奇マンガの読み過ぎだと全く取り合わなかった。確かに、私は怪奇マンガは好きだが、それしか読まないというわけではない。大人というものは、刺激の強いものしか目に入らず、他の当たり前のものは全く受けつけないものだ。それでいて、子供にその当たり前が大事だと押しつけ、刺激の強いものは大人だけが愉しむものと決めてかかっている。全く、どうしようもない連中だ。さて、自分で何とかするしかない ということを悟った私は、近所の中学の体育用具倉庫からバットを盗み出し、枕元に備えることにした。その夜、寝る前に机に向かって宿題をやっていると、何だか虫が知らせるとでもいうのか、少し窓を開けてみた。すると、向かい側のアパートの窓が開いていて、そこから女がこちらを見ているではないか。女は素早く引っ込んだが、あの目つきはどう見ても、ギラギラした欲望と熱意に満ちていた。それで、私は家族の白い視線を浴びつつ、居間で寝ることにした。その晩は、比較的熟睡出来た。起きてみると、遊びに来ていた従姉が、昨夜はあんたの部屋でガサガサいう変な音がしていたなどと神経を逆撫でするようなことを言う。私が黙ったまま突っ立っていると、ふいに従姉が高笑いして冗談、冗談、そんな顔になるなんて、ああおかしいと涙目になったので、脇腹にミドルキックを見舞ってやった。泣き出す従姉と怒り出す家族を尻目に、私はバットを手に、ちょっと友達と野球しに行ってくると家を飛び出した。そのまま私はアパートに乗り込み、私の部屋の窓の位置から見て、女の部屋を探し当てた。何とかノリコとかいう名前だった。ノックしてみると、返事がない。ノブを回しても開かない。居留守か留守なのだろう。そのうち、どこかのおばさんがやって来て、ここの女の人なら、お勤めに行ってるから夕方になんないと帰らないよと親切に教えてくれた。私は外廊下に置いてある洗濯機の陰に座って待つことにした。橙色の光が辺りを覆い、あらゆる影が長くなって いくと、鉄製の階段を上がってくる音が響き、問題の女が現れた。私ははやる心を抑え、バットを強く握り締め始めた。足音が近づいてくる・・・毎晩、オレの睡眠を妨げる妖怪め、今こそ成敗してくれる!私はバットを抱え上げるようにして、ためを作った。すると、ふいに足音が聞こえなくなった。私の目の裏側では、目の前の外廊下を女の首がするすると走っていく光景が展開されていた。思わず呻いて、顔を上げると、洗濯機の上から女が私を覗き込んでいるのが目に入った。大人になった今でも、あの目つきは忘れられない。実際、何とも言えない目つきだった・・・私は悲鳴を上げて、女の顔目がけてバットの一撃を食らわしてやった。それから後はよく覚えていない。救急車だの警察だの説教だの何だのと大変な騒ぎになったことは、断片的には覚えているが、私自身はそんなに深刻な立場にならなかったことだけははっきりと覚えている。何故なら、あの後で女の部屋から、明らかに盗み撮りしたと分かる私の写真が無数に見つかったからだ。その中には近所の男の子のも含まれていた。どういうつもりだったのか知らないが、あの不自然なみだらさを持っていた女は然るべき報いを受けたのだ!こういう見方が一般的になっていって、私の行為は全て正当化された。中学に上がってから、私も女も新天地に移っていったが、私は大人になった今でも、時折、女の首がやってくる夢を見るのである。前のと変わったところは、女の目がぱっちりと開いているところだけだろうか。
10 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2011年10月>
日 月 火 水 木 金 土
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031