当寺に来て早くも四ヶ月が経ったおヒルこと、留学生のヒルダ。
今までに習得した日本語で少しずつ小説を書いているのだが、時代考証に協力している私から見て、なかなか面白そうな内容である。
ドイツ語に翻訳された泉鏡花、夏目漱石などを参考に、幕末、明治、大正、昭和の浅草を舞台に、かつて人間の女の子であったヒロインがわけあって妖怪になり、再び人間に生まれ変わるために理想の男性を捜し求める話を淡々とコミカルに書いていきたいのだそうである。
そこでパッと思い浮かんだのが、黒鉄ヒロシの「ひみこーッ」というマンガだ。犬神図書館に所蔵されているが、神の呪いで不老不死となった卑弥呼(一般的に知られる卑弥呼像とは遠く離れた、スットコドッコイな性格の女である)が男と酒を求めて日本全国を放浪するという話で、「赤兵衛」で軽快な妙味を見せる黒鉄節が何とも粋で読後感が爽やかであった。
おヒルが私のように外国人が日本語で小説を書いた人はいるの?と聞いてきたので、C・W・ニコルがいるねえと答えた。他にもいるのだが、日本語を完全にモノにし、文学的に高めたのはC・W・ニコルだけである。
色々アドバイスしていると、また犬神図書館から資料を持ってくる必要にかられてきて、本を入れる段ボール箱を横目にまたクソ重い思いをしなきゃいけねえのかとグッタリしてしまう。
でも。
何かを書こう、表現しようという創作意欲に、犬神図書館が役に立てればそれは本自体浮かばれることなのだ。
私は読みもしない本をせっせと溜め込む自称読書家を心底軽蔑する。本は決して飾り物などではない。
とにかく。
勉強熱心なおヒルがドイツロマンと我が国のロマンを掛け合わせて、あえて異国の言葉で表現しようとしている。
その熱意とチャレンジ精神は大いに見習いたい。
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