mixiユーザー(id:1640816)

2006年03月27日00:30

353 view

「耽奇館主人の日記」自選其の七十八

2004年11月03日(水)
白いコートの女のこと。

極度の肉体疲労、精神疲労から回復してくると、その反動からなのか、最高に致命的な悪夢を見ることがある。
起きた後も、五体が痺れるような感覚がずっとついてまわるやつだ。
今回は、昨晩、今朝と立て続けに二度も究極の悪夢に襲われた。
まず、親しくしていた檀家のひとり、にこやかな笑顔が魅力的だった岡田のおじいさんと会っているところから始まった。
彼は脳溢血で亡くなっているのだ。
通夜も葬式も納骨式も立ち会っているから、私は彼が死んでいることを理解しているのだが、夢の中では何事もなかったかのように、親しげに談笑していた。
一緒に真間川沿いを江戸川に向かって歩きながら、昔の市川の町並みを懐かしく眺めつつ、私たちはいつもそうしていたように、世間話に花を咲かせていた。
そのうち・・・
「ところで、岡田さんはこないだ脳溢血で亡くなられたはずですよね?」と私。
岡田さんはニコニコ笑ったまま、うんと頷いた。
「便所で血ィ吐いてぶっ倒れたところまでしか覚えてないんだけどねぇ、あんたとこうしているってことは、死んじゃったってことなんだろうねぇ」
私はニヤリと笑った。
「また、人を死神みたいに。僕はまだ生きてますよ」
「あんたは生きてるさ。だけど、死神をよこしただろう。あたしに死んだってことを分からせて、ここへ連れてくるためにさ」
どこかで・・・ずっと遠くで・・・何かが聞こえた。
授業中、悪友が私の背後で下敷きを振って、ポワンポワンと耳障りな音を立てていたみたいな・・・
こめかみがズキズキするのをこらえながら、私はもう一度ニヤリと笑った。
「そうすると、死神を見たんですね?そいつはどんな恰好をしてました?」
岡田さんはニコニコ笑いながら、いやに唇をゆっくり動かしながら言った。
「白い外套を着た女さ」
外套とは岡田さんらしい言い方だ・・・白いコート?女?
またこめかみがズキズキして、その上、背中の産毛の根っこがピリッとする感覚に襲われた。
岡田さんは、何ともいえない笑顔で、もう一度「白い外套を着た女だよ」と言った。
ほら・・・あれが見えるだろう?あんたがいつも話していた国府台さ。あんたはあすこから、白い外套を着た女をよこしたんだよ。
私たちの周囲を、次第に濃い霧がおおっていった・・・
その霧の中で・・・
真間川の向こうの森の中に、私が幼い頃、会話訓練を受けるために通っていた聾学校と・・・昔の和洋女子学園の古びた建物がこちらを見下ろしていた・・・
それぞれの窓に、たくさんの顔がべったりとへばりついていて、無数の目がこちらを見下ろしている・・・
「ああ」と岡田さんが嬉しそうな声をあげた。「噂をすれば何とやらだ、あんたの後ろに立ってるよ」
その瞬間、こめかみが破裂しそうな感触が全身を駆け巡り、私は声にならない叫び声をあげた。
肩を誰かにドンドン叩かれる感触で、ビクッとしながら、私は目覚めた。
肩越しに、泊まっていたお嬢様が心配そうな顔で覗き込んでいた。
それから、お嬢様はにやっと笑って、「大丈夫ー?なんか、まるで、『シャイニング』のジャック・ニコルスンみたーい」と言った。
私はぼんやりとお嬢様の顔を眺めながら、「確かに覚えているはずなんだ。だが、どうしても思い出せない!」と呟いた・・・

お嬢様が帰った後、コンビニに牛乳を買いに行く途中、近所の家のベランダに白いハーフコートが干してあるのを見て、私は反射的にゾッとした・・・

そういえば、映画「シャイニング」の中で、ジャック・ニコルスン演じるジャック・トランスは、越冬の間の管理人を務めることになった巨大ホテルの中でこう呟いている。
「おれは前にもここに来たような気がする」
思い出せるようで、思い出せない、もどかしさ。
その不快な心持ちが、再び悪夢を呼び起こした。
その中では、全てが恐ろしいほどに晴れ渡っていた・・・
白いコートの女は、横断歩道橋の上に立って、こちらを見下ろしている。
国府台の将軍坂と、真間山弘法寺に向かう苔むした坂の間にまたがる、錆びついた横断歩道橋だ。
バス停でいうと、「真間山下」。
そこの、市川駅に向かう側に渡る途中で、私と白いコートの女はいつも顔をあわせていたのだった。
白いコートの下には、和洋女子国府台のセーラー服。
彼女は和洋女子の生徒だったのだ。
私たちは、お互い、一言も話し合ったことはなかったが、いつも手をつなぎあう仲だった。
何故、そういう仲になったのかは、よく覚えていない。
一緒にどこかで、どんぐりを拾ったのが最初の出会いだったことは覚えているのだが・・・
夢の中では、私は当時の子供のままだったが、心は現在の私だった。
「君が死神なのか?」と私。
名前は知らないが、その顔と三つ編み、白いコート、セーラー服はよく覚えている彼女は、かつていつもそうしていたように、いたずらっぽく、大きくニヤリと笑った。
そうだった。
彼女のそのニヤニヤ笑い・・・どうしても真似したくて、私もそう笑うようにしたんだっけ・・・
「知ってるくせに・・・あんたは分かってるはずよ」
こめかみはもう痛まなかった。
何かがむっくりと起き上がっていた。
五体は痺れたままだが、頭ははっきりしていた。
「そうか。思い出せなかっただけさ。死んだ君をこの世に留まらせるには、君を幽霊にするか、死神にするかの二つだけだったんだよ」
私は何を言ってるのだろうか?
今度は、私自身の心の奥底に沈んだ、見てはいけないものを見てしまったような気がして、口を大きく開けたまま目が覚めた。
そこで、私は、私の目もすでに大きく見開いていたことに気がついた。
今日はここまで。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2006年03月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031