ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ミドレスタント物語コミュの夜襲3

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 巨大な影が舞うその空間は惨劇と呼ぶに相応しい光景だった。
 インガルム城エントランス。
四階までの吹き抜け構造になっている屋根のガラスは割られ、豪華な装飾が施されていたであろう柱の数本は崩れてしまっている。
 そして、周りにはぐったりと倒れる鎧姿の騎士達。
 そんな絶望的な光景の中、華麗に舞う姿が一つ。
 白いドレスを翻し、両手には身の丈ほどもある巨大な斧が握られている。対峙する巨大な影を見据える瞳は雄々しいが、栗色の長い髪、透き通るような白い肌それらの姿は間違いなく女性のものだ。
 そして、目の前の巨大な黒い影の正体
 それはドラゴン。
 ヌメリを帯びた漆黒の体は細く醜い。体と同じように細く長い腕には皮膜のような翼、そして鋭い鉤爪。ドラゴンの特徴とも言える角は二本、しかしうち一本は折れてしまっていて、瞳は死んだように澱みきっていた。
 およそ神々しさとはかけ離れた容姿ではあるが、その姿からは強大な力が感じられる。
 斧を手にする女性のドレス。
 純白に美しい宝石が散りばめられていた衣は、今や所々が破け赤く染まっている。もちろんドレスを朱に染めたのは他の何物でもない。着用者である彼女の体を流れる血だ。
 女性は息も絶え絶えにドラゴンへと迫り、渾身の一撃をもって斧を振り下ろす。
 しかし・・・
 ドカッ!!
 「ぐっ!」
 ドラゴンは素早く回転し、尾による一撃で彼女の突進を迎撃した。
 女性は弾き飛ばされ壁へと激突する。
 「いつまで足掻けば気が済むのですかな、ミコナ=セラフィムコール女王陛下?」
 言葉遣いとは裏腹に蔑みだけを含んだ声色で男の声が聞こえた。
 「ふん、この程度で良い気にならないでほしいわね。」
 ドレスの女性、ミコナは瓦礫に手をかけ何とか立ち上がる。
 言葉では強がってみても自分の置かれている状況が絶望的だということは彼女自身が一番よく理解していた。
 手にした斧は先ほどのドラゴンの一撃を防ぎ、柄の部分が折れてしまっている。
 唯一の武器を失い、彼女は対峙する敵を見上げる。
 「強情な方だ。私はただ、貴方に教えて頂きたいだけなのですよ。万翁聖騎士が所持する世界の宝剣の数々。それらを保管しているという宝物庫の在り処を。」
 見下し切った敬語を用いる男。
 それは闇よりも深い漆黒の鎧を纏い同じく黒く巨大なドラゴンに跨っていた。
 右手には螺旋状の槍を携え左手はドラゴンに付けられた手綱へと伸びていた。髑髏を模した仮面は男の存在をさらに不気味に演出していた。
 龍族の血を引く者が純潔種である龍族の者と契約を交わすことで生まれる存在。それが、龍騎士・ドラゴンライダーと呼ばれる今、彼女が目にしている敵だ。
 「ふん、先生の宝物庫の在り処なんて知らないわ。それにもし、知っていたとしても貴方なんかに教えたりはしないわ。」
 互いの位置は見上げ、見下ろす位置関係。そして、その構図はそのまま二人の力の差を表してもいた。
 かたや世界最強の生物とも謳われるドラゴンを駆る黒騎士。
 かたや満身創痍、武器すら持たぬ一国の王女。
 誰の目にも力の差は明らかなその光景の中であってもミコナは凛とした姿勢を崩さない。
彼女の心を支えるもの。それは国を守る王女としての責任感。
 そして、もう一つ。
それは師と仰ぐ人から教えられた戦う者がその心に刻むべき魂の証明。
戦士としての誇り。
 二つの思いに支えられた彼女の瞳と言葉を黒騎士は嘲笑をもって一蹴した。
 「はーっはっはっ!かの万翁聖騎士の一番弟子である貴方が蔵の在り処を知らないはずがない。つくならもっとマシな嘘をつくことですね。」
 ドラゴンに跨ったままの姿勢。圧倒的有利な状況を崩さぬまま男は続ける。
 「ふん、どうやらもう少し痛い目を見てもらわなくてはいけないようですね。」
 男は手にした手綱を引きドラゴンに指令を送る。
 従順なドラゴンは主の命に従い、その顎を開く。
 ――まさか!無詠唱魔法(ブレス)?!
 事態を察知したミコナは急ぎ体勢を立て直すと目を閉じ意識を集中した。
 「白き花園は天使の都―彼方に聴こえるは祝福の羽音―華麗に舞う姿に幸福を―遍く大地に彩りを・・・」
 ドラゴンの攻撃に対処すべく防御魔法を展開しようとするミコナ。
 しかし、
 ――ダメ!間に合わない!
 「大丈夫。手加減はしてさしあげますよ。」
 自らの勝利に酔いしれた黒騎士の言葉に反応してドラゴンは口内に溜めた魔力の塊を放とうとする。
 その時だった。
 「風纏う見えざる大蛇(インヴィジブル・マーダー)!!」
 嵐かと思うほどの轟音と共に巨大な風の塊がドラゴンを襲う。そのあまりの風の勢いにドラゴンは体勢を崩し、ミコナへと放つはずだった魔力の塊はその軌道を大きく逸らせた。
 「ぐっ!一体何だ!!」
 ドラゴンに跨る黒騎士は咄嗟の出来事に狼狽し、手綱を必死に掴みドラゴンの体勢を立て直そうとする。
 不意の出来事に対応できないのは、しかし黒騎士だけではなかった。
 ミコナもまた目の前の事態が飲み込めず呆然としていた。
 「姉さん!今のうちに魔法を!」
 聞き覚えのある声にようやく反応したミコナは途中まで唱えていた魔法の続きを詠む。
 「悠久の時を超え―正しき心を守護する可憐な花よ咲け!最果てに咲く花(スパティフィラム)」
 ホール一体に白い光が満ちる。
 光はミコナの足元へと集まっていき小さなドームとなり彼女を覆った。
 魔法の壁に守られたミコナはその前に立つ一人の少年へと目を向ける。
 黒い巨体と対峙する姿は先ほどまでの自分と同じ。
 少年はミコナに背を向け、ドラゴンを、そしてそれに跨る黒騎士を睨む。
 彼の両手にあるのは二本の短剣。二つの柄は鎖で繋がれている。
 「姉さん、随分服が汚れてるね。」
 緊張感の無い嫌味を吐く彼をミコナはよく知っている。
 「アンタが来るのが遅いからこうなったんでしょ、サウンズ。」
 嫌味を嫌味で返す。
 いつもと変わらぬやりとりに少しだけ元気が湧いた気がした。
 「そっか。じゃぁとっととコレを片付けて綺麗な服に着替えなおそう。」
 目にかかった黒い髪をかきあげながらサウンズ=アルトリバーは目の前の脅威へと向き直った。


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ミドレスタント物語 更新情報

ミドレスタント物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。