小説　空の高さから海の深さまでコミュの空の高さ③

　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

ここはどこだろうか？なんか懐かしい。声が聞こえる。誰かがなにか言っている。　　　
「…いっ。おい、起きなさい。真崎！！」
その瞬間、頭をたたかれた。
「って！」
僕は思わず立ち上がった。
「あれ、教室？」
「な～にが教室？だ。真崎。いくら生物が受験科目じゃないからって堂々と寝るんじゃない！」
といい、生物の安藤先生にまた頭をたたかれた。
　と、先生が黒板に向かっていくのを確認した、隣に座って麻雀の役を覚えている猛が笑いながら小声でいった。
「安藤の奴、最近かみさんが実家に帰っちゃってて機嫌悪いんだってさ。あっ、沙耶ちゃんがこっちみてるよ。手振ってあげなきゃ、色男」
　そういい僕の左手をつかみ手をふった。それをまた安藤に見つかり僕らは強制退出を命じられた。
　授業後、職員室で安藤と担任の米田にこっぴどく叱られた僕と猛は渡り廊下を歩いていた。猛とはいえば反省の色もなく窓から顔を出している後輩に無邪気に手をふっている。
「あのなぁ…。なんで俺までこんなことになるんだよ。お前といるとこんなことばっかだし。それに俺と秋野はそんなんじゃないっての！」
そんな猛に少しいらついて感情的に言った。
「そんな怒った顔すんなよ、マサキちゃん。せっかくの男前が台無しだよ。それに寝てたんだから授業サボれてよかったじゃん。ってか腹減ったよね～。今日は購買かい？」
こいつはいっつもふざけて軽い奴…。周りからは中々、優等生と見られている僕が人生の岐路に立たされる高３にもなって、こんな毎日遊んでばかりいる奴とつるんでいるのが不思議らしい。まぁ、僕も実際、猛と何時からこんなにつるむようになったかはいまいち覚えていない。気づけばいつの間にか一緒に飯を食うようになり週末には僕の部屋に居座るようになった。
　まぁ、なによりも女好き（本人は相当自身があるらしいが実際のナンパ成功率はピッチャーの打率くらい低い。けど学校内ではその打率が強打者にかわる）なのは確かだが人間味にあふれていて一緒にいて無駄な力をいれずにいれて楽だし、自分をしっかりもっている気がしたからかもしれない。
「あぁ、わかったわかった。焼きそばパンで手を打とう」
「うわっ、人気ランキング上位の焼きそばパンかぁ。じゃあ購買のおばちゃんに予約してこ～っと。じゃね～」そう言い猛は購買へ向かう。
こんな会話が毎日飽きもせず続いている。教室に戻りすでに弁当をひろげているクラスメート達が怒られたことをからかってくる。それに笑いかけ窓際の自分の席に座った。２階の教室からは向かいの校舎と芝生の中庭、そして見える範囲の六月の梅雨の晴れ間が目に映る。
　僕が住んでいる所は海と山に包まれた長閑な街だ。都市化が進む隣の駅前に行けば欲しいものは大概手に入るし電車に乗れば小一時間で都会にはでられるので物品に困ることもない。都会から来た人は空気がうまいといい、住んでいる僕たちには夏はすぐ山や海に行け遊び場が豊富な地元って感じである。街のシンボルとして海を一望できる展望台が山の頂上（ちなみに頂上まで徒歩20分）にあり、今では隠れた中距離ドライブデートの穴場スポットになっているらしい。確かに水平線をはっきりと見ることができ地球の丸さを感じることができるし、夜は街の灯りと海が色気を醸し出す。これで満天の星でもでていたらそのカップルは永遠にお幸せになれる気がするのだろう（まぁ、今まで誰とも真面目に付き合ったことがない僕が言うことではないのだけれど…）　
　ふと中庭を見ると友達と二人で歩いている秋野沙耶と目が合った。僕に気づくと彼女は笑い手を振ってきた。僕も少し恥らいながら振りかえす。
秋野との出会いは僕にとっては衝撃的なものだった。
　その説明の前にもう少し詳しくこの町のことをいっておかないと…。
さっきも言ったようにこの町には展望台がある。それは５年前くらいに作られたものであり今では誰もが利用するスポットとなっている。しかし実はその前にも同じ山にもうひとつ展望台が作られていた。実際は建設途中で止まってしまったのだが。誰がどういった目的で作り始めたかは知らない。確かにそこに行くまでに今では30分程の獣道まではいかないまでも整備されていない道を登っていかなければならないし、何より景色は今活躍中の展望台よりもの寂しい。
　海と町の光、そして人のいる空気を感じることのできる展望台とは違い、海しか見られないのである。そして何より波の音以外なにも聞こえない。まるで波以外の音がない世界にきてしまった感覚に陥る。
　そこは美術の教科書で見たことのある古代ギリシャの神殿様な作りであり、今では地元の誰も近づかない。というかその存在自体知らない人が多いかもしれない。
　それほどにまで人の気配がないのである。とても眺めのいいベランダはいつからか僕だけのものとなっていた。
そして僕はそこがなによりも好きだった。初めて見つけた時は小学生の卒業式が近づいて来るころだった。その頃はまだ建設中で人が多く働いていた。僕は仲間うち三人で山の中を散策しているとき偶然見つけたのだが僕以外の二人はすこし見て興味が湧かなかったらしくすぐに他のものを探しに行ってしまった。しかし僕だけはそこでしばらくの間その神秘的なその建築物に見とれていた。それから毎日のように学校が終わるとそこへ行き職人たちの仕事を見ていた。
　しかし、ある日突然誰もそこに来なくなった。一週間ほど通ったがやはり工事の人たちが来る気配、来た気配がない。僕は初め悲しい気持ちになったが急に飛び跳ねるくらい嬉しくなった。「秘密基地」が手に入ったのだ！と。それからそこは僕の場所になった。
　たまに誰かが見にきたりした痕跡があったがそれも中学初の夏休みを迎える頃にはなくなっていた。建設途中であるが外観以外はもうできあがっており崩れる心配はなさそうであった。
僕は理由もなくそこへ一人で行き音楽を聴きながらお気に入りの小説を読み、ただなにも考えず海を眺めていた。親にも友達には絶対この場所の存在は話さず誰もつれてこなかった。
　そしてあの日、僕と秋野はここで出会った。