小説　空の高さから海の深さまでコミュの空の高さ⑫

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　昼になり僕と猛は職員室にむかった。猛とつるむまでは先生方のよき遣い魔。しかし今ではブラックリストに載っているほど二人がそろってくるときは警戒される。まぁ、どっちにしても常連なんだけどね。
「せんせー」
猛が大きな声で食事中の米田に言う。なんで職員室だけはクーラーが使いたい放題で効いているのだろうか。ノットグットだ。
　米田は40過ぎの中堅国語教師。しかし、新婚ほやほや。遅咲きの熱血公務員に乾杯！！
　今は10くらい年下の奥さんの手作り弁当を楽しんでいるところだった。
「なんだ、お前らか。ちょうどいいとこに来た」
競馬新聞の上に弁当箱を置きふたをして米田は言う。
　ちなみに弁当箱は可愛い赤色。奥さんセンスが奇跡的みたい。
「え～なんも悪いことやってないから雑用はやだよー」
これまた大きな声。
　周りの先生たちがうっとうしそうな目で見てくる。
「富来！！言葉使いに気をつけろ」
米田お得意の感情むき出し声。
「すいませーんでした」
一方、猛はお得意の調子のいい声。
　話が進まないので僕が先生に聞く。
「秋野どうしたんですか？」
　猛を睨んでいた米田が僕を見る。その顔はすでに弁当箱みたいに赤い。もちろん可愛いという形容詞を抜いてだけど。ごほん、と一度咳きばらいをして話す。
「あー。俺もそれを聞こうと思ってたんだ」
「えっ？」
「自宅に電話しても誰もでないしな。あいつ皆勤だったからなぁ。昨日も理由が曖昧なまま帰ってしまったし。あそこ共働きだったしなぁ。住所はここなんだけどな。で、当人はどこにいるかお前らなら知っていると思ってな」
　なんでもっと早く聞かないんだ。と怒鳴りそうになった僕だがその前に猛が言った。
「自宅とか行きました？」
「いや、さすがにそこまではなぁ。俺も忙しいし」
　頭をぽりぽり掻きながら言う。どんどん体が熱くなってきた。
「先生わるいんすけど、俺とマサキちゃん熱があるみたいなんで早退で。ご飯中失礼しました。あっ後、今まで皆勤の生徒が連絡もなく休んでたら普通心配するっしょ。熱血ぶってる中途半端ってあんま好かれないし生徒ってそういうとこ敏感なんで甘くみてると痛い目にあいますよ。なーんてね」
　そう言うと猛は僕にウィンクをして出て行った。僕もいまにも噴火しそうな米田を軽く見てその後を追った。
　僕らは鞄に荷物を詰めると貴子に事情を説明して学校をでた。貴子も一緒に行くと言ったが猛が制した。そこは猛なりの多分思いやりなんだろう。
　僕が愛車のマウンテンバイクに跨ると猛が聞いた。
「あては？」
「ない。でも実は昨日、秋野が駅前で男といるの見たんだ。なんかもめてたけど」
　一瞬、猛の目が大きくなった気がしたがすぐにいつもの表情に変わっていた。
「そっか。じゃあそれが原因かもな。俺はこの通り電車通学だからそれほど広い範囲は無理。だから駅前と街の方へ行ってみるよ。お前は自分の勘を信じて動け。なんかそれが一番な気がする。見つけたら携帯な」
「分かった」
　そして僕らは秋野を探しに校門を出た。まだ日は頭の真上だ。
　取りあえず僕は手当たり次第探した。一度でも行ったことのある店や施設、米田から見せてもらった住所へ行ってみたが表札には「溝口」と、かかっていて家は分からなかった。　なんでその時、真っ先に展望台が思いつかなかったのだろうと後で何度も後悔した。
　猛と何度か連絡をとってみたが、お互い全く手がかりはなく僕は海沿いの道を走っていた。そして、海岸から見える町のシンボル展望台が目に映ったところで僕は自分が鈍感と言われた意味にようやく気づいた。僕は自分が感じている以上に秋野が好きだってことを。
　気づくと同時にギアを最速に切り替え展望台に向かった。
　太陽はすでに西に向かい始めている。