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夜とスージーと文学とコミュのカナダの都市トロント誕生の「真実」

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ここ25年のあいだ文学には、「夢のイミテーションを描く作家」がひとりと、そして「現実というものはイミテーショナルなものであり、そこでは真実もまた夢の集積であることを証明せんと試みる作家」がふたり現れた。前者はポール・オースターであり、後者は、リチャード・パワーズ、そしてマイケル・オンダーチェである。ここではマイケル・オンダーチェについて論じよう。




かれはドイツ−インド系としてスリランカに生まれ、英国在住を経て、カナダ人になった。かれはかれの人生の、それぞれの局面に想像力の光を当て、ひとつひとつ小説にしてきている。「アニルの亡霊」「イギリス人の患者」『家族を駆け抜けて』(彩流社)。詩的表現力を駆使し散文の可能性を拡張し、ときにさりげなくポストモダニスティックなコラージュを用いながら。他方、かれにはもうひとつの(小品ながら忘れがたい)系統、「ビリー・ザ・キッドの全仕事」および「バディ・ボールデンを覚えているか」があり、そこでかれは、あまたのイメージをコラージュし、ひとつの文化表象の栄枯盛衰を、クロニクルに編み上げるという離れ業をなした。



だが、かれが作家として大いなる可能性を手にした記念碑的作品は、本書『ライオンの皮をかぶって』だった。本書は、かれの無名時代、原著刊行1987年の作品。(かれを有名にする「イギリス人の患者」が出版されたのが5年後である)。ここでかれは、自分の詩的表現力を駆使した散文で、移民の国カナダの都市、トロントの1930年代を舞台に、都市トロント誕生の「真実」を、自分の手で掘り起こし、歴史の書き替えを要求する。



かれは問う、この都市を作ったのは誰だ? 



いかにも移民国家カナダにふさわしい主題である、ただしその筆致のなんとみずみずしいことだろう。都市を作った名誉は、誇り高い名もない移民たちなのだ。本書は、多数の登場人物をもつ全体小説であり、一見いにしえの19世紀的小説をおもわせるが、ただし、本書は、そうでありながら「なおかつ」現代の(最上の!)小説として仕上がっている。そう、かれは証明する、現実というものはイミテーショナルなものであり、そこでは真実もまた夢の集積であることを。かれにとって1930年代トロントは、いかにもその主題にふさわしい。本格小説マニアは、本書から聞こえてくる、さまざまな声に耳を澄ませ。




マイケル・オンダーチェ著『ライオンの皮をかぶって』水声社刊2006年



(Michael Ondaatje)/著者は、1943年ドイツ−インド系としてスリランカに生まれる。トロント在住、カナダを代表する作家。) 13.5×19.5(cm) 336P 訳=福間健二

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