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夜とスージーと文学とコミュのレアード・ハントの『インディアナ、インディアナ』

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夜明けまえの薄暗がりのなかにノアがいる。暗く寒い小屋のなかで、ノアは孤独をかこっている。ノアは夜が明ければ鋸を手に取り、畑の先まで行くと言う。あなたはおもう、ノアとは誰? このちいさくかじかみ震えている心、そのもののようなこの人物は誰? かれはいったいなにをしたいんだろう?




引用される手紙。「先週素敵な夢を見ました。夢のなかで、あなたがわたしの部屋に、あかるい赤のリンゴを一袋もってきてくれました。・・・」末尾には、オーパルという名の署名。あなたはおもう、この人はきっと頭がおかしいんじゃないか、ただし、ノアもまたふつうじゃない、そもそもノアという人は何者なの? そしてこのオーパルという、詩のような言葉でへんな手紙を書く人も。




1867年刊の旧約聖書のなかには、ナラ、樺、ヒッコリー、カエデなどの押し葉が挟まっている。聖書には、ノアの一族の名がずらりと示されている。最後の 11人めに、オーパルの名がある、生没年とともに。もっとも新しい死者として。



また別の声がする、「よく聞けよ。これはおもしろい話だぞ。わしが生まれてはじめて映画を観たのは・・・」
読み辛い小説だ。段落ごとに、語りの調子が変わる。ふつうの小説とはえらく違う。ふつうの小説ならば、主人公がわかりやすいトラブルに遭遇し、なるほどそれはそうだろうなとおもわせる判断をし、かれの意志と行動を追う形で、物語は進む。
でも、この小説はそうじゃない、ノアという人の意識そのものの探求の過程が、むしろこの小説を動かしている。とうぜんこの小説は読みにくい。しかし、その読みにくさの向こうに、天使の羽ばたきがある。ノアとは誰? その、ちいさくかじかみ震えている心。いったいかれにかつてなにがあって、こんなにもかれは「奪われ尽くした」んだろう?



むしろ現代詩を読み込んできた読者や、あるいは演劇をやっているような読者は、すんなり読めるに違いない。だが、あえて小説読みにこそ、本書を読んでほしい。本書は、小説の「もうひとつの可能性」を示しているから。いくらかの茨をかいくぐり、本書のどくとくの声に魅了された読者は、ノアの心の動きを追いながら、必ずや心の震えを体験するだろう。第1級の文学とはたとえば本書のことである。もしもあなたが文学好きならば、250作のウェルメイド・ノヴェルと引き替えにでも、読んでほしい。本書を賞賛するポール・オースターの、125倍はイイはずだ。




(Laird Hunt)/著者は、1968年シンガポール生まれ。インディアナ大学、ソルボンヌ大学で学び、現在はデンバー大学で教えながら創作にたずさわる。ほかの著書に「ジ・インポシブリー」(未訳)。 13.5×19.5(cm) 233P 訳=柴田元幸 朝日新聞社刊  定価: 1680円(税抜1600円)

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