初めてのソロ作品集は97年に出した"extract from field recording archive#1"(wrk008cd)である。 これは、空間の定在波の記録である。場所の目に見えないが確実に在る状態に着目した。これに関しては先に書いた定在波の説明の箇所を見ていただきたい。このアルバムでの写真はレーベル・メンバーの富永敦の手によって撮影され、8枚のカードとしてCDに収めた。
Hapnaから出した"extract from field recording archive#2"では空洞部の振動というテーマで、瓶やパイプなどの内部の録音を収録した。このときのコンセプトは、限定された空間で見出される出来事についてである。これも言ってしまえば定在波の記録なのだが、あえて強調したのはその乱れである。定在波は本来、定義上は安定したものであるが、ここに収められた録音のように野外で行われたものの振動源はその物体が置かれている場所の環境に由来する。時にヘリコプターなどが飛んでくれば、瓶の中の定在波は揺らぐ。瓶やパイプに耳を付けて聴いてみれば判るが、そのような閉じられた空間で特定の振動が強調されている。この波が外でうねる波によって揺らぐ様子、これは限定された条件の外乱因のようなものと理解できる。そしてその外乱因はどこから響いているか所在が判りづらい。ヘリコプターや船ならすぐそれと判るものの、早朝に窓を開けたときに聞こえる持続的な環境音のような場合、それらはだいたい、交通騒音か建築や工場の駆動モーターか何かであるが、それはいろんなものが混ざり合って漠然と響いている。この限定しづらい振動が、はっきり成り立ちが理解できる波に干渉することに、物事の範囲と別の範囲が関わりあっている。このことに言及した作品である。
"extract from field recording archive#3"は米のIntransitive Redordingsと伊のFringes Recordingsの共同リリースであった。 これには固体振動をまとめた。すべてコンタクト・マイクの振動である。固体間に伝わる振動は空気振動とことなり、その空間のねじれや歪みのような圧力の変動が関わったりしてくる。このCDのトラック3では港の船の低周波が近くで作業するトラック運転手の電動ドライバーの振動が加わることでわずかな変化が起こるものや、トンネル内の金網フェンスにマイクを設置したため、金網自体に伝わる走行車の振動と通過するときの変化の様子など興味深い変化を聴くことができる。最後のトラックは海岸に捨てられたドラム缶の振動で、海と道路の間にある浜辺での録音なので、寄せ返す波の音と交通騒音が判別しづらい状態で干渉しており、振動に揺れる鼓膜の状態をモデル化したオブジェのようなものとして理解できると思う。 ここに挙げた3つのアルバムの解説にはその状況を詳しく記したが、このarchive#3の解説はミスがある。トラック7と8の解説原稿が入れ違えている。
その後、ソロCDはスペインのLucky Kitchenから「Pieces of Air」ポルトガルのSirr.から「O Respirar Da Paisegem」 オーストラリアのNaturestripから「Scenery of Decalcomania」再び Hapnaから「Ridge of Undulation」を出ししたが、いずれもフィールド録音だけでなく、インスタレーションの記録や、収録されたフィールド録音の周波数や振幅に関する実験結果がともに収められている。