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夢の小料理屋のはなしコミュの続・夢の小料理屋

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コメント(21)

福岡転勤。

そう、「福岡に2年ぐらい行ってもらうよー。」ってな話を貰ったのが、今年の2月。
で、3月の真ん中ぐらいに荷物をまとめて福岡に来て、ようやく一段落したと思ったら「東京帰ってこい、すぐ帰ってこい」だもんね。
サラリーマンてのはさ、上からの命令で動いてナンボだとは思うけどさ、これちょっと酷い話だよね。
それに、この2ヶ月殆ど仕事らしい仕事なんか出来てない。
大体、福岡の美味いものなんか全然食べてない。
やれやれ、ぐったりさ。
でも、まぁそうは言いつつも、ホントはちょっと東京に戻れる事を喜んでるんだけどねぇ。

午後4時・福岡空港。
搭乗手続きを済ませて、立ち食いのうどん屋で遅い昼ご飯。
ここの関西風のうどんが実は結構好きなんだ。
最後の食事ぐらい、せめて食べたいもの食べるぞ、と思ったんだけど、結局これになっちゃった。
でも、後悔はしていない、うん。

午後5時・日本航空324便で空路羽田へ。
機内サービスのドリンクは、迷うこと無くコンソメスープ。
機内放送3チャンネルは、今月はABBAの特集だ。
音楽を聴きながら、30分ほど寝てしまう。
目を覚ますと窓の外の遙か下に、オレンジ色の光の海が見える。
京浜工業地帯だ。
プログラム二周目の「ダンシング・クイーン」を聴きながら、しばしその光景に見とれる。
夕暮れ時、薄汚れた沢山の工場を照らすそのオレンジ色の光は、不思議と優しい。
それはまるで、僕の帰りを歓迎してくれているかのように。
東京湾上空で旋回する飛行機の中から、日没を見る。
一日の終わり、お疲れ様でした。
でも、僕の新しくも懐かしい生活は、今まさにこの飛行機を降りたら始まるんだけどね。

6時35分・羽田空港着。
東京に着いたら、先ずしなければいけない事。
それは、二ヶ月前に止めた時間をもう一度動かす事だ。
さて、帰りますか、神楽坂のあの小料理屋に。

とりあえずリムジンバス乗り場へ行こうとして空港の外に出ると、乗り場の隅の方に銀色の古い車が停車しているのを見つけた。

430グロリア。

見つけた瞬間、顔がほころんでいく自分に気付いた。
車の方向へ歩くスピードが、徐々に速くなる。
スーツケースの車輪が、カラカラ回る。
運転席から、ちょっとだけ背の高い、白いスプリングコートを羽織った見慣れた女性が出てくる。
「お帰り。帰ってくるの、思ってたより随分早かったわね。」
そう言って、女将さんは笑った。
「ただいま。関東人の博多弁は気持ち悪いから来るな、って言われちゃってねぇ。」
僕も笑った。

僕の止まった時間は、もう羽田から動き出したようだ。
東京に帰ってきて、何だかんだで会社に呼ばれてあんな事やこんな事になってて、さーっぱり気が休まらない状態が続いてるんだけどさ、世の中連休だったりすんだよねえ。
人がよく分からない事で会社に縛られてるって言うのに、楽しく旅行でございます、なんつって遊んでるやつも居るんだろうなぁ。
けしからんね。

あー、もうやだ。
やってらんない。
今日は定時で切り上げる。
そしたらさ、僕は行くよ、例の小料理屋にさ。

すっかり日が長くなった神楽坂。
そうだよ、福岡行く前の神楽坂は、この時間はもう暗かったんだよな。
でも、まだ明るい時間の神楽坂もまたいいもんさ。
飯田橋方向から坂を上る夕暮れ時ってのは、それはそれで活気があって好きだねえ。
どこのお店も、これから始まる大人の時間のための準備で忙しそうなんだけど、それもまたこの街の魅力なのかもしれないね。

すれ違うどこかの美人さんのいい匂いを楽しみつつ、さあ、到着だ。
カラカラカラカラ。

「あ・・・おかえり。」
女将さんが振り返りながら笑う。
「随分早かったわね。ちゃんと仕事してきたの?」
「さあ、どうかな。会社に行ったからと言って仕事してるとは限らない、なーんてね。」
「まぁ、フフフ。」

ピルスナーグラスでビールが出てくる。
何度でも言おう。
この店のビールは最高だ。
今日の僕はこのビールのために一日頑張ったと言っても過言では無い。

嘘。

半分ぐらいだな。
後の半分は、女将さんの料理が食べたかったからだろうなぁ。
実は、もう目いっぱい腹ペコだ。
昼から何も食べてない。
サボって駅前の小諸そばに行く時間すら無かったって、どういう事だろうね。

「女将さん、実は腹減っちゃってさ。とりあえず何かがっつり食べたいと思うのよ。何かすぐ出る?」
「あ、じゃあちょっとだけ待ってね。そういう人に打ってつけなもの作るわ。」

ふん、何だろう?
まぁ旨いのは間違いない。
じゃあ、ちょいと辛抱しますか。

「その後、みんなは元気なの?」
「そうねぇ、ミイちゃんも相変わらず来てるし、みんな元気にしてるわよ。瑤子さんも、スタジオの帰りにたまに寄ってくれるしね。ハノイさんがどこか外国に行っちゃ

って来なくなったぐらいかしら。」
ああ、尼さんのハノイさんね。
まぁ、あれで実はお忙しい人だもんな。
そうか、絵だけを残してどっか行っちゃいましたか。
まぁ、また会えるでしょう、きっとここで、ね。

それにしても香ばしい匂いがしてきたね。
こう、直接食欲を刺激するようなさ。

「はい、お待ちどうさま。」

うわ、やられた。
たけのこご飯の焼きむすびと、コシアブラのお味噌汁だ。
「やっぱり、春はこれよね。」
ただでさえ香り豊かなたけのこご飯を軽く炙るというこの心憎さ。
ご飯がさらりと解けると同時に、口いっぱいに春の味覚が広がる。
そしてそれを、山菜の味噌汁で喉の奥に流し込む。
春の味覚が押し寄せる。
「天ぷらにしようかと思ってたんだけど、今日は味噌汁にしてみたの。」
うん、これはこれで正解。

都会では分かりづらい四季の移ろいも、ここでははっきりと感じられる。
はあ、やっぱり僕はこの店が好きだ。
ここでは僕は人間で居られるよ。

「さあ、お酒はどうするの?もうビール無くなっちゃったわね。」

いいかい?
美味しいものを今食べた。
直後、笑顔の和服美人に酒を勧められる。
男が幸せをかみ締める瞬間のひとつだ。
そんな時に言えることは、多分これしかないだろう。

「じゃあ、お勧めの酒をちょうだい。」

あーあ、今夜も帰りが遅くなりそうだ。
みんな、ゴールデンウィークはどこかに行った?
僕は、ゴールデンウィークがどこかに行っちゃったよ。
引っ越しの片付けで大体終わった感じ。
もう、しばらくは引っ越しなんかしたくないよね。
で、連休開けたら夏日だもの。
この前大雪だの何だのって騒いでたばっかりなのにさぁ。
具合悪くなりそうだよ。

具合悪い時?
そりゃあクスリ飲むしかないよね。
酒は百薬の長。
さて、今夜もあの小料理屋に行きますか。

「あら、お帰り。今日も暑かったわね。」
女将さんが手ぬぐいで額の汗をぬぐう。
厨房は、外より熱いからねえ。
どうだいこれ、美人ってのは汗をぬぐう姿すら綺麗だね。
「女将さん、一緒にビール飲まない?」
「良いわね、でも実は。」
そう言いながら、細身のピルスナーグラスを揺らしながら笑う。
そりゃそうだよねぇ、こう暑いとビールの一つも飲みたくなるってもんだ。
程なくして、中ジョッキに注がれた生ビールとご対面。
ジョッキがキンキンに冷えている。
ビールは冷やしすぎてもいけない、と、通の人は言うのだろうけれど、いやいやいやいや、この暑い一日を僕は戦い抜いてきたのだ。
せめて一杯目ぐらいは、こういう銀歯が冷たくなるようなビール飲ませてよ。

「そう言えば、瑤子さんの新しいアルバム、凄いわねえ。今週ランキング3位だって。」
なるほど、さっきから掛かってる歌がそれか。
よく見れば壁にサイン色紙まで飾ってある。
写真も貼ってある訳だけれど、瑤子さんは何故変顔で映っているのだ。
歌のイメージと、素の瑤子さんのイメージが全く違うから面白い。
「脚、直ったのかねぇ。」
「先月来た時は、普通に歩いてたわ。」
「相変わらず?」
「相変わらず。でも、お酒に溺れるような飲み方はしなくなったわね。」
まぁ、あの頃が異常だったんだろうねえ。

しかし、ビールが旨い。
そして、お刺身が登場。
あじのお造りだ。
なんとなく、春から初夏になりつつあるのかねえ。
とろけるような食感とビールの爽快さから、季節の移ろいを感じる。

その時である。
お客様の登場。
誰かに似ている。
それが誰だったかは覚えて無いけれど、一つ言える事は、この人もまた美人だ。
「あー、こんばんわー。」
「あら、ますみちゃんいらっしゃい。」
ああ、この人が例のバーテンダーさんか。
僕も軽く会釈する。
「あー、美味しそうですねー。」
お造りを見て目を輝かせる彼女。
「良かったら一緒に食べませんか?」
「あ、良いんですか?じゃあ、ビールが来たら頂戴します。」
チェックのシャツが可愛らしい。
それにしてもどうだ、この店は美人しか来ないようなシステムにでもなっているのだろうか?

ビールが運び込まれて、半分ほど一気に飲むますみさん。
いかにも美味しそうにビールを飲む。
「くはぁ、うーっ!」
そりゃあそうだよねえ、旨いビールを飲んだ時はそうなっちゃうよねえ。
「さってと、それでは、ご厚意に甘えさせていただいて、お刺身頂きます。」
切身に醤油を付けて、そして口へと運ぶ一連の動作が上品で美しい。
そうだよねえ、オトナの女性の魅力ってこういう事だよねえ。
うんうん、おじさん納得。
一通り味わって、一息つく彼女。
「あ、そうそう。お刺身のお礼と言っては何なのですが。」
彼女は鞄から金色の包み紙と銀色の包み紙に巻かれた小さなキャンディー状のものを僕にくれた。

ツナピコだ。

「うちのお客さんは銀の方が好きみたいですけど、どちらがお好きですか?」
「僕も、ぎ、銀かな?」
奥で女将さんがクスリと笑う。
美人とツナピコ。

今日もそんなこんなで夜が更けていくのだろう。
皆様も、楽しい週末を。
見事に二日酔いである。
昨日さ、一人で部屋で飲んでたら飲み過ぎちゃってね。
昔は一升酒飲んでもこんな事にならなかったのになぁ。
最近はすぐこれだ。
年のせいなのかね。

もうね、酒止めた。
一人で家でなんか飲まない!
昼ぐらいにはそう思ったんだけどさ、夕方になると飲みたくなるのがビールなんだよね。

ビールを飲むと、美味いものが食べたくなる。
美味いものを食べると、ビールが飲みたくなる。

ありゃ?そんなセリフどっかで聞いたねぇ。
まぁ、いいさ。
そんな訳で、あんまり食欲はないんだけど、今日も行くよ、あの小料理屋にね。

「おかえりー。あら?今日は随分仕事したみたいな顔してるわねえ。」
女将さんが振り返りながら笑う。
お馴染みの光景だ。
見返り美人、か。
白い絣の着物がよく似合う。
左手に持った落とし蓋すら、何か特別なものに見える。
「あはは、二日酔いでさ。」
「あら、もう夕方だって言うのに?フフフ。」
「でも結局夕方になると飲んじゃうんだよね。」
「困った病気ね、はい、ビール。」

でもねえ、体調がベストじゃないと酒ってのはそんなに美味くないもんだねえ。
いくら美人が目の前にいるとは言え。
「疲れてるんじゃない?何だかんだ2月ぐらいからずっと落ち着かなかったじゃない。」
「まーねー。」
「どこか温泉にでも行って来たら?気分転換は必要だわ。」
「じゃあ、女将さんも行く?」
「まぁ、ちゃっかり誘っちゃって。」
女将さんが笑う。
「これからの季節だと、海の近くの温泉旅館なんか良いねえ。」
「私もしばらく温泉なんか行ってないからなぁ。」

海、温泉、美人。
一泊二日。

二日酔い明けの少々回転の悪い頭の中に、あんなイメージやこんなイメージが膨らむ。
何だか急にビールが旨くなってきた。

「ちょっと、今何か想像したでしょ。」
女将さんがこっちを睨む。
「いや、してないしてない。」
「ホントに?」
「してませんってば。」
「嘘だわ。」
「うん、嘘。」
笑う女将さん。
さあて、どこの海に行こうかねぇ。

とは言え、良い匂いがしてきた。
女将さんが小さな鍋を持ってやってくる。
「はい、じゃあこれでも食べて今日は早く寝る事。」
「今年一番の夏日に鍋ですか。」
「そう、暑い日に熱いものを食べると沢山汗が出てすっきりするじゃない。」
お馴染みの鶏雑炊の香りだけれど、いつもとちょっと違うようだ。
「はい、みぞれ鶏雑炊。大根おろしが入ってるの。」
なるほどねえ、体に優しそうだ。
「早く元気出さなくちゃね。会社があなたを待っている!なーんてね。」
「あらら、随分背負わすねぇ。」
雑炊の滑らかで柔らかな舌触りが、こういう日にはとても有難い。
そうだね、早く元気出さないと。

「ねえ、熱海なんかどう?」
女将さんが、厨房の中からこちらを覗き込みつつ言う。
「熱海ねぇ。最近行ってないなぁ、熱海。」
額に汗を滲ませながら、ちょっと色々と数年前に行った時の熱海を思い出してみる。
「熱海、悪くないねぇ。」
「じゃあ、いつ行こうかしら。」
「そうだねえ、あんまり暑くなる前が良いかねぇ。」

こんな緩い会話が何とも心地良いなぁ。
ふと、僕は思った。
女将さんのグロリアが車検から帰ってきた。
何でも、今回は「修理」に随分手間が掛かったとかだそうだけど、これは多分修理じゃないね。
修理だったら、こんなスポーツカーみたいな音になる訳無い。
おまけに、加速する時に金属音がするんだよ。
と言うか、とても30年前の車とは思えないぐらい速い。
と言うか、こないだ羽田から乗せて貰った時のクルマとはまるで別物。
パッと見た感じこそは昔のカタログそのままの品の良いグロリアだけれど、よく見ると所々おかしい。
幾らクルマにそれほど詳しくない僕でも気付くレベル。

ほら、前にさ、ビールサーバーまで改造しちゃうバーテンダーさんが居るって話したの覚えてる?
どうも、その人の知り合いの整備工場に出したらしいんだけどさ、どうなっちゃってるんだろうね。

そんな訳で、今僕はあの小料理屋の女将さんが運転するグロリアの助手席に座って、東名高速を下っている。
そう、熱海まで一泊二日の温泉旅行だ。

「晴れた日のドライブって楽しいわよね、ウフフ。」
女将さん、ご満悦と言った感じである。
「まるで、新しい車になったみたい。たまにはきちんと修理に出して見るもんね。」
一体どこまでトボけるんだろうねえ。
クルマ好きの話と言うのは聞いてて怖くなる時があるよ。

海老名サービスエリアで小休止。
いくらクルマがパワーアップしたとは言え、そこは30年も前の車。
休み休み走らないとね。

駐車場のグリッドに車を停めた、その時だった。
高速機動隊のクラウンが横に止まった。
中から、警官が二人出てきた。
助手席からは五十代半ばぐらいの人と、運転手は随分若そうな人だ。

あらら、女将さんスピード違反だったんじゃないのこれ。

「こんにちは。エンジン良い音してますね。L28Eのボルトオンターボってところですか?」
警官が意外な事を言った。
「どうなんですかね、どんなエンジンなのかは分からないですけれど、随分慣れ親しんだ車です。」
女将さんが笑う。
「いやあ、あんまりエンジンの音が良いモンだから、ついついお声掛けしてしまいました。」
警官がヘルメットを外す。
白髪頭だが、恐らく若い頃は格好良かったんだろうなと言う雰囲気の人だ。
「昔はこんな感じの車をたまに見かけたモンですけど、最近はとんと見かけませんからねえ。なんか懐かしくなっちゃってねえ。」
「へえ、お巡りさんでも車好きなんて方いらっしゃるんですね。」
「いやいや、兄が整備工場をやってるもんですから、何となく知ってるって感じですけどね。」
警官が微笑む。
「でも、飛ばしすぎには注意して下さいね。これだけの車に乗ると、どうしてもエンジン回したくなる気持ちは分かるんですけど、事故を起こしてははつまらない事になります。ケガもするでしょうし、車も壊れてしまいます。」
「ご心配ありがとうございます。後半は安全運転で行きますね。」
女将さんが言い終わるかどうかの時であった。
パトカーの無線が何かのトラブルを告げる。
「あーあー、もっとお話ししたかったんですけどね、この先で事故みたいです。じゃあ、私はこれで失礼します。楽しいドライブを。」
そう言ってその警官は運転席に乗り込んだ。
「あ、那智さん僕が運転しますよ。」
若い警官が言う。
「いや、たまには俺にも運転させてくれよ、ハハハ。」

へえ、あの物腰の柔らかい警官は、那智さんって言うのか。

白黒のクラウンが、サイレンを鳴らしリアタイヤをホイルスピンさせながら本線へ戻って行く。
直前まで安全運転を説いていた人とは思えないほどに、激しいドライビングだ。
さぞかし若い頃は、この人もトガってたんだろうな。
何となくそんな気がするよ。

小休止終了。

女将さんの運転も、さっきと比べて随分マイルドになった気がする。
「あんな風にお巡りさんに安全運転を勧められたら、従わない訳にはいかないわね。」
ペットボトルのお茶を口に含みながら、女将さんは言った。
「さて、熱海着いたら何食べようか。」
「そう言えば、お腹すいちゃったねえ。」
「ねえねえ、私、久しぶりに鈴廣のかまぼこ食べたい!」
女将さんが急に大声を出す。
「そりゃあ、あの辺でかまぼこって言えば鈴廣だよねえ。」
「それからねえ、それからねえ。熱海の駅前に良い干物やさんがあってね。」

あれだねえ、やっぱり女将さんは食べ物の話をしてる時が一番幸せそうだねえ。
いやー、こないだは楽しかったねえ、熱海。
女将さんと熱海の海の幸を堪能しつつ、お酒と温泉を楽しんでリフレッシュ。
幸い天気にも恵まれたしさ、これってやっぱり日頃の行いなのかねえ。

え?お酒と温泉の後はどうしたって?
そんな事聞かないでよ、頼むよ。

まあそんな訳で、この週末も例の小料理屋で、夢の余韻に浸ろうか。

女将さんが、何だか楽しそうだ。
うきうきした感じが背中からも見て取れる。
良いねえ、楽しげな女の人って言うのは。
見てるだけでこっちも楽しい気分になるよ。
もっとも、今日のお酒が美味しいって云うせいもあるんだけどね。

「今日ね、寿司屋の太郎ちゃんが来てくれたのね。」
「へえ、新兵衛寿司の太郎が?久しぶりだねえ。」
「最近忙しいみたいね、お店。暫く顔出してないからー、なんて言ってね。」
「あいつも律儀だねえ、顔に似合わずさあ。」
昔はあいつもよく飲みに来てたんだけどさ、仕事の合間に。
でも、腕は確かなんだよ。
飯田橋界隈の寿司屋じゃあ、ちょっとしたもんだからね。
「それでね、これ置いてったの。食べる?」
「うわ、凄いね。」

カジキのお造りだ。

カジキって、どっちかって言うとスーパーで買える安い刺身の魚ってイメージあるけどさ、ところがどっこい当たりの時は高級魚にも引けを取らないぐらい本当に美味しいんだよ。
冬の方が脂が乗ってて美味しいなんて話もあるけれど、僕は初夏のカジキが好きだね。
「どう?美味しい?私も食べちゃおうっと。」
女将さんも一切れつまみ、少しだけ醤油を付け、食べる。
唇の上を滑りながら消えていくカジキの切り身が、どうにも艶っぽい。
「わあ、流石ね。美味しいわぁ。」
しばし、二人でカジキに舌鼓を打つ。
「美味いね。」
「美味しい。」
思いがけずに本当に美味しいモノを食べた時と言うのは、顔の筋肉が緩んでしまうものだよね。

「でも、不思議だよねえ。」
「何が?」
「いやさ、こんな繊細な味を分かってる人の趣味が、古い車なんだもんね。」
「あら、そうかしら。」
女将さんは笑う。
「古い車には今の車には無い繊細さがあるわ。」
確かにねえ。
今の車と比べると、昔の車ってのは大分華奢に見える時はある。
でも、確実に良さはある。
「でね、今の技術があるから昔の技術を生かせたりする部分もあったりしてね。温故知新だわ。」
「へえ、面白いもんだねえ。僕も車買おうかねえ。」
「あら、車が欲しくなったの?」
女将さんがこっちを見る。
そして、笑いながら言った。
「でも、あなたには運転手付きの素敵な車が既に一台あるわ。」

そうだった。
さて、今度はどこに行こうかねえ。。。
いやあ、何だか急に暑くなってきたねえ。
暑くなるとさ、そりゃあ仕事の後にはどうあってもビールが飲みたくなるでしょ?
飲まなかったら死んじゃうモンねぇ。
むかーし、「私の血はワインが流れてるのー」なんて言ってた女優さんが居たけどさ、そんな訳あるかってーの。
血はサッポロの生に決まってるってーの。

ささ、今日も飲みますよ、ビール。
勿論、例の小料理屋でね。

「ただいま!」
「おかえり。今日も暑かったわね。」
そうなんだ、ここが僕がこれから帰ってくる場所なんだ。

一人暮らしってのは気ままで良いものだ。
でも、一日が終わって家に帰って玄関のドアを開けた時に、「ただいま!」なんて言っても返事は帰ってこない。
それは、ある時期を境に結構寂しくなったりする。
こんな毎日が、あとどれぐらい続くんだろう、なんて思っちゃったりしてね。
「おかえり」が返ってくる日々が、暫くぶりに僕に戻ってきた。
それが、今は何よりも嬉しい。
そしてそれが、これからもずっと続けば良いなと思う。

「どうしたの?顔がニヤけてるわ。暑さで頭のネジでも緩んじゃった?」
女将さんは笑う。
「ハハハ、そうなんだよ。そこが東北人の構造的欠陥でね。そのうちリコールのお知らせなんて葉書が来ると思うから郵便受けチェックしといて。」
「それは他の東北の方に失礼だわ、フフフ。」
良いねえ、こういう軽口の応酬ってのはテンポが良くて。

「じゃあ、東北人の大好物でも食べる?」
そう言って出てきたのは、キリッと冷えた生ビールと鰊の山椒漬けだ。
「わ!よくこんなもん手に入れたね。」
「作ってみたの。上手に出来たかどうかは分からないわ。」
いやいや、なかなかどうして。
見た目はホンモノだよ。

鰊の山椒漬け。

福島県は会津地方の郷土料理だ。
古くは新潟辺りの身欠き鰊を、五月から六月の山椒の若い葉で漬け込む一種の「保存食」みたいな食べ物だった訳だけれど、鰊は昔と比べてなかなかの高級魚になりつつあったりして、今やちょっと贅沢な食べ物だ。
作り方と材料は、実はそんなに複雑なモノでもない。
ただ、手間がちょっとかかる。

「ねえねえ、私、こう言う時に一度で良いから言ってみたい事があったの。」
「へえ、なになに?」
「あのね、『詳しくはこちらのアドレスで!』って。」
女将さんがカウンターの辺りで指を左右に往復している。
ああ、これは多分気のせいじゃないな。
何か字幕スーパーみたいなのでホームページのアドレスが見えてきた気がするよ。

http://www.rdpc.or.jp/kyoudoryouri100/recipe/recipe/070242

何でもアリだな、この店は。
まあ「夢の小料理屋」だもんな。
でも作者、次はこの手は許されないぞ。
材料一覧をExcelファイルで添付するとかもダメだからな。

それにしても美味い。
口いっぱいに広がる山椒の風味と鰊の味わいと歯ごたえが、酒に合う。

「うん、我ながら上出来上出来。」
女将さんも小皿に取り分けた山椒漬けを試食する。
「でも、これはビールより日本酒だと思わない?」
うん、確かに。
この鰊のうま味が更に広がって楽しくなるよねえ。
「そこで今回オススメなのが、南会津は國権酒造のこちらのお酒です。」
出ました、國権特別純米酒山廃仕込み!
そりゃあ美味いだろうさ。
「でも、お高いんでしょ?」
「それが何と!・・・なんてね、フフフ。」
女将さん、何かちょっと楽しそう。

でもあれだ、今日のこの店はまるでコントだね。
まあ、良いか。
一日の締めくくりは楽しくなくっちゃだよ、ねえ。
日曜日。
ああ、それなのに僕は仕事ですよ。
起きなくちゃいけない。
でもねえ、夕べ飲み過ぎちゃったの。

あの小料理屋でさ。

これから出掛けなくちゃ。
でも、瞼が重い。

それにしても、夕べは楽しかったな。
みんなと楽しく飲んだんだ。
それで、閉店までお店に居て、女将さんと一緒に帰って来て、…んー、そこまでは覚えてる。

多分、そこの辺りで寝ちゃったんだ。
て事は、多分夕べ風呂入ってない。
シャワー浴びなくちゃ。
起きなくちゃ。

ベッドルームから出る。
いい匂いがする。
味噌汁だ。

「あ、おはよう。朝ごはん作ったわ。ちゃんと食べてかないと力が出ないわよ。」
「おはよう。て、日曜日なのに早起きしてたの?」
「同じ時間まで寝てたら、シャワーが混む事になるわ。」
女将さんはさっぱりした顔で笑う。
女将さんのシャンプーの香りで、目が覚める。
男の一人暮らしではまず滅多に嗅ぐことのない香りだ。
「何か悪いね、日曜日ぐらいゆっくり寝たいだろうに。」
「でも、そんなに難しいものは作ってないから大丈夫。」

とは言え、凄いよ何か。
鮭の切身と出し巻き卵。
オクラ納豆。
そして、艶艶なご飯と茄子の味噌汁。
完璧な朝食だ。

駅前の小諸そばでささっと済ませようと思ってたのに、これはビッグサプライズ。

「どうせ二日酔いでしょ?そんな朝は味噌汁が美味しい筈よ。」

流石だねえ、女将さん。
飲み人の心がよく分かる。
やっぱり、酒呑みの女性って良いよねえ。

茄子の味噌汁って、夏の味噌汁では定番だけどさ、口当たりが優しくて好きなんだよね。

熱々のご飯に、醤油を入れてよくかき混ぜたオクラ納豆を乗せる。
至福の時間だ。
「夏はこのネバネバが重要なのよ。お互い、暑いけど粘り強く一日頑張らないとね。」
「そうだね、これだけのもん食べたら頑張らない訳にはいかなくなるよね。」

でも、あれだねえ。
朝食ってのは、誰かと話しながら食べると凄く美味しく感じるもんだよねえ。
第一、楽しいしさ。

「ご馳走様、充電完了だよ。今日も一日頑張っちゃうぞ!」
「そうね、パキッと仕事片付けて来てね。フフフ。」

何か、仕事なのは残念だけど、今日はいい日曜日になりそうな気がして来たね。

よし!気合い入れて行くぞ!
夜の生ビールの為にね。
今年は梅雨入り早かったねー。
もう毎日雨でさ。
で、たまーに暑くなったと思ったらまた雨。
これじゃ具合悪くなっちゃうよね。
こうグズグズした天気だとさ、沖縄のスカッと抜ける様な青空が恋しくなるってもんだよねぇ。

でも、ここは東京。
そして週のうちで一番憂鬱な月曜日。
そんな日はね、酒を飲むに限るってもんだ。
勿論、あの小料理屋でね。

「おかえり。月曜日でもちゃんと仕事してきた?」
あらま、女将さんにはバレバレだね。
「どうにかやるべき事だけはやった、って感じかねえ。気合いが全然入らないよ、ハハハ。」
「しかもこの天気だもんね。」
「そう、飲んでなきゃやってらんない。」
「あら、気合いが入ろうが入るまいがお酒は飲むくせに、フフフ。」
どうも最近、女将さんは鋭くていかんね。
ま、こう云う会話もまた楽しいんだけどさ。

そんな時、お客さんが入ってきた。
あらま、本郷のミーちゃんだ。
珍しいねぇ。

「あら、お兄さんお久しぶり。月曜日から飲んでて大丈夫?」
・・・久しぶりに会えば随分だねえ、この猫娘。
皮剥いで三味線にしちゃうぞ。
「久しぶりね、元気にしてたの?」
「お陰様で。今日はビールが飲みたくて来たの。」
「こういう日はビールに限るわよね、はい。」
ミーちゃんと僕に、クラゲが浮くほどキンキンに冷えた中ジョッキが出てくる。
夏のビールはこれに限る。

「でもあれだねえ、こう暑いと、何か沖縄にでも行きたくならない?青い海、青い空。そしてビール。飛行機で行ける天国だよ、あそこは。」
「あ、お兄さん良いねぇ、沖縄。」
「じゃあ、今日は沖縄っぽいものでも作るわね。ちょっと待ってて。」
女将さんはそう言うと厨房に消えた。

「お兄さんは沖縄好きなの?」
「僕は好きだねぇ。住んでも良いと思うほど。」
「へえ、沖縄。私行った事無い。」
「じゃあ、彼氏でも連れて行くべきだね。暑いけど空気が東京と全然違う。」
「じゃあ、彼氏作るところから始めなくちゃだわ、ハハハ。」
ミーちゃん、昔は年中違う男と遊んでた気がするんだけどねぇ、猫違い、いや、人違いじゃなければねえ・・・。

厨房から良い匂いがしてくる。
程なくして、料理が出てくる。
ん?物凄くシンプルなソーメンチャンプルーだ。
「おまちどおさま、那覇は牧志の名店『八合一升』仕様のソーメンチャンプルーよ。」
「こりゃまた、恐ろしくシンプルだねえ。」
「まぁ、話は食べてから聞くわ。」女将さんがニヤリと笑う。
兎に角食べてみる。

美味い。
見た目以上に味が複雑だ。
そして、後を引く。

「美味しいでしょ。」
「え、これって何か特別なモノが入ってるの?」
「フフフ、内緒。」
「あ、分かった!ツナだ!」
流石は猫娘、微妙な魚の匂いを嗅ぎ取ったか。
「フフフ、ヒミツよ。でもね、沖縄行ったらこの店に行ってみるといいわね。ホンモノを食べる事が出来るわ。」

女将さんがショップカードを見せてくれた。
http://hachigoissu.ti-da.net/

「私もね、ここのお店の大ファンなの。前に行った時にあまりの美味しさに感動しちゃったのよ。」
女将さんが笑う。
「シンプルだけど、凄く深い味わいよね。」
「うん、美味い。」
「じゃあ、更に沖縄気分に浸ってみる?」
女将さんが奥から一升瓶を出してきた。
カリー春雨、泡盛だ。
「良いねぇ。」

あああ、沖縄が恋しくなって来ちゃったよ。
今日から夏日復活だってさ。
キャー、たまんないね。
まーた会社の行き帰り汗だくだよ。
もうさ、顔から首から背中から、汗が噴き出ちゃう訳でさ、こんなんずーっと続いたら僕はひからびちゃうと思うんだよね。
みんなならそんな時どうする?
駅前のプロントで引っかけちゃう?

僕なら、今日もあの小料理屋に行くさ。

「ただい・・・」
今日は珍しく先客が居る。
「こんにちは。」
すかさず言い直す。
「あらいらっしゃい、こちらが空いてますよ。」女将さんが笑う。
この店での僕の席は、4席あるカウンター席のうちの一番左の席だ。
この席で、壁にもたれながら僕は、毎晩の様に女将さんを眺めては酒をちびちびやっている。
恐らく会社で僕の席が無くなる事があっても、この席が無くなる事は多分、無い。

僕の席の隣の隣。
今日は、見知らぬ客が居る。
年の頃はどれぐらいだろうか。
恐らく僕らよりちょっと年上と言う気がする。
貫禄のある女将、と言う風情だ。

「たまには、こうして外で飲むのも良いですよねぇ。いつもお店に籠もりっきりで、なかなか外で吞む機会が無いものでねぇ。お客さんがひっきりなしですから。」
「わざわざありがとうございます。」
「私の店は、幸いお客さんに恵まれていうと言うのか、ねぇ。」

あーすいませんねーぼくみたいのがじょうれんのおみせにわざわざごそくろうなこって。

「ちゃんとしたお客様が多いので、中々気が抜けませんの。」
「ちゃんとしたお客様?」
「社長様とかお医者様とか、世の中をよくご存知の方々ですよ。皆さん口が肥えてて、一流のモノしかお飲みになりませんし、大変ですわ。」

いちりゅうねぇ。

「女将さん、さーせん、僕にビール。一流のサッポロ生、キンキンで。」
手を挙げて女将さんにオーダーしてみる。
「はい、かしこまりました。」
女将さんの笑顔の中から、ちょっと黙ってろ光線が飛んでくる。
きゃは、怖い怖い。

「一流のお酒、一流のメニュー。それが一流のおもてなしと言うモノですわ。」
「そんな素晴らしいお酒をずっと仕入れるのは大変なんじゃ無いですか?」
「もう、毎日インターネットと睨めっこしてますの。十五代、飛露幸、白龍・・・。この辺りを切らせると、うちは商売するの恥ずかしいですね。」

ほうほう、十五代、飛露幸、白龍・・・。
九平太と猪祭が抜けてるぜ、おばさん。
あー、気分悪りぃ。
ビールを一気に流し込む。

「良いお酒というのは、研ぎ澄まされた味が魅力ですからねぇ。その良さを分かっていただけるようなお客様以外は、うちは来ていただかなくて結構なんですよ。」
「研ぎ澄まされた味、ですか。」

「ええ、そう言うものを理解していただけるような感覚と言うのは、やはりきちんとしたお仕事をされてるきちんとした方じゃないと難しいんじゃないですかね。」
「なるほどねぇ、じゃあ、皆さんリピーターさんで?」
「勿論ですよ。皆さん、女だてらによく頑張って勉強していると褒めて下さいますわ。」
心なしかドヤ顔のおばさん。
よくこんだけ喋るもんだと感心する。

「じゃあ女将さん、小笹屋燗で。それと、何かお造りちょうだい。」
ビールの次は日本酒かね。

「ちょっと失礼します。この暑いのに燗酒ですか?お珍しい方がいらっしゃるもんですね。」
おばさんが、薄笑いしながらこっちを見る。
「あー、アハハハ。どうもね、育ちが卑しいせいか、フルーティな酒が苦手なモンでして、ヘヘヘ。」
「でも、フルーティなお酒はお食事の邪魔をしませんのよ。」
「なーるほど、でもそれなら僕は水を飲みますよ。水もね、あれで結構食事の邪魔をしないんですよ。奥さんも試してみますか?」
「結構ですわ。」
ムッとするおばさん。
怒った顔が鬼瓦みたいだ。
「あなたには、酒の良さなんか分からないのでしょうね。きちんとした酒というのを勉強された方が良いですわ。お外で恥をかかれますよ。」
尚も説教する鬼瓦。
「あなたみたいな人はうちのお店じゃ笑われますわ。そう思いませんか?女将さん。」

すると、女将さんは振り返って、笑顔でこう言った。
「大丈夫です。この人は人様の看板背負って吞む酒に興味がありませんから、そちらにお伺いする事はございませんわ。」

「まぁ、クッ!」

鬼瓦、早々に帰っていったよ。

「多分ね、あの人はああやって世間と戦ってきたのよ。」
鬼瓦の食器を片付けながら、女将さんは寂しそうに言った。
「そんなもんなのかね。そうやって勝ち取った世界があんな見てくればかりの世界なら、僕なら戦わないけどね。」
すっかり温くなった燗酒を舐めてみる。
流石に深い味わいだ。
「女将さんも、これから戦ってでも手に入れたい世界なんかある?」
女将さんは一呼吸置いて、そして笑いながら言った。

「私は、もう無いわ。」
しっかし毎日蒸し蒸しするねえ。
このスッキリ暑くない天気ってのがホント嫌いでさ。
気分的にも滅入って来ちゃうもんねえ。
て言うか、最近そんな事ばーっかり言ってる気がするんだけど、まあ、こう言う時はどこに行くか、もう分かるよねぇ。

そう、あの小料理屋しか無いよね。

「おかえり。」
女将さんの声が今日は1オクターブぐらい高い。
「おう、ただいま。今帰ったぞ!なんてね。」
「あら、随分偉そうじゃない?フフフ。」
心なしか女将さんが楽しそうだ。
「女将さんどうかしたの?何かウキウキしてない?」
「そうかしらん?こんな天気の日は気持ちぐらい明るくしてないと、ね。」
まあ、そう言うもんだけどさ。
女の人が楽しそうにしてると、男ってのはそれだけで嬉しくなっちゃうけどさ。
ましてや、晩酌の時間なら尚更。
同じビールでも、って、ここのビールは僕が知る限り日本一美味いんだけどさ、その日本一のビールが世界一美味しくなっちゃったぐらいの得した感が付加されるよね。

キンキンに冷えた生ビールに、夕日が差し込む。
黄金色の倖せは、ここにある。

お通しのほうれん草のおひたしが、また絶妙に美味い。
上に乗った鰹節の風味が、その旨さを更に引き立てる。

「そのほうれん草美味しいでしょ。昔のほうれん草の味がするわよね。」
そう言えば、ほうれん草って子供の頃はもっと「ほうれん草の味」がした気がする。
いつからか、味が軽くなったような。
「そこの八百屋さんでたまたま売ってたの。八百屋さんの今日の一押しだって。」
なるほどね、八百屋がそこまで言う理由が分かる気がするよ。

でも、腹が減ってきた。
「女将さん、腹減っちゃった。何かサクッと食べたいや。今日お昼食べそびれちゃってねえ。」
「あら、珍しい。食べるために生きてる人なのに。」
うむ、最近の女将さんは鋭い事を言う。
でも、そんなやり取りも嫌いじゃあ無いんだけどさ。
「じゃあ、そうめんでも茹でようか?」
「良いね、冷たいのでチュルチュルって行きたいね。」
「じゃあ、ちょっと待っててね。」

程なく、そうめんが登場する。

そうめんの山と、麺つゆ。
薬味は、ネギとミョウガ。
それから、温泉たまご。

「あれ?温泉たまごなんて珍しいねえ。」
「これね、ちょっと凄いのよ。食べてみて。」
ちょっと箸で割ってみる。
黄身の部分が気持ち柔らかい。
「飯坂温泉は阿部留商店のラジウム玉子よ。」
「へえ、温泉たまごなんてみんな一緒だと思ってたよ。」
「そう思うでしょ?ところが違うんだなあ。」
蕎麦猪口に薬味と温泉たまごを落としてみる。
そうめんと一緒に食べてみると、おやおや、濃厚な黄身の味が濃い目の麺つゆと共に絡みついてくる。
旨い。

「ここの温泉たまごは少し柔らか目なんだけど、それがまた優しい味で美味しいのよ。」
へえ、本当だ。
優しい味だけど、ちょっと贅沢な気もするねえ。
「こんな美味しいものを頻繁に食べられる地元の人ってちょっと羨ましいわね。」

そうめんってさ、子供の頃は旨いとかあんまり思った事無いけどさ、最近凄く美味しく感じるんだよね。
これも、歳を食ったせいなのかね。

「女将さんさ、こう言う何気無いのが美味しいってのは嬉しいもんだねえ。」
「そうね、それにどちらかって言うとそうめんってお家で食べる事の方が多いもんね。」
「そう言えばそうだねえ。あまりお店で食べた記憶が無い。」
「でしょ?美味しいのにね。どちらかって言うと、家庭の味と言うか。」
「そうだねえ、家庭の味。」
「家庭の味、意外とそうめんの食べ方ってお家によって違ったりするしね。薬味が違ったり、麺つゆの濃さが違ったり。」
そうか。
家庭って、良いもんかもね。
何だかね。
「いつか家庭を持ったら、こう言う感じのそうめんが自分の家のそうめんだったら良いねえ。」
「こう言う感じ、じゃなくて、これがあなたの家のそうめんになるんだけど?」

そうか、そうなんだ…。

…今、何て言った?
今日から7月だ。
一年も折り返しだもん、早いよねぇ。
何だかさ、一年がだんだん短くなってる気がするんだよねぇ。
昭和60年ぐらいまでは割と一年って長くなかった?
ありゃ消費税分ぐらい時間が引かれてるぜ。
四月から更に短くなった気がするもんな。

まぁ、そんな事はとりあえずどうでも良いか。

7月と言えば、夏だよ。
夏は短いから焦るよね、ハートがね。
そして、この季節を感じにくい東京にも7月はやってくる。
それじゃいっちょ、夏を感じに行きますか、神楽坂にあるあの小料理屋にさ。

「お帰り、今日も蒸すわね。」
女将さんが上気した顔で迎えてくれる。
カウンターの中ってのは何処の店もそうだけど暑いんだよね。
「女将さん、着物で暑くないの?」
「暑いからと言ってタンクトップでお料理お出しする訳にもいかないでしょ?」
笑顔の額に汗が噴き出ている。
「まぁ、そうなんだけどさ。でも、まぁ大変だねえ。」
「でしょ?だから、今日はちょっとだけ失礼するわ。」
女将さんは、ウインクしながらビールの入ったグラスを揺らす。
まぁ、それは小料理屋の特権かねぇ。
「おいおい、それ僕にも頂戴。」

夏のビールってのは、何かこう特別なモノに見えるよね。
一日頑張ったご褒美とか、そう言うのを遙かに上回った「とても素晴らしいもの」に。

「じゃあ、今日のお通しね。夏は夏のものを食べないとね。」
鰹のヅケだ。
プリップリの鰹と生姜醤油の織りなす、夏の醍醐味である。
そこにまた、葱の香りが絡み合って食欲を刺激する。
「そうか、そう言う季節だよねぇ。」
「日本の夏は、美味しい鰹の為にある様なものだわ。」
そうだねえ、ましてやこんな旨い鰹を食べた日にゃ、そうも思いたくなる。
確かにビールと鰹は最高と言って良い組み合わせだとは思う。
だけど、ここは日本酒が飲みたくなるってもんだよな。
「女将さんさあ・・・」
言い終わる前に、女将さんが冷蔵庫から一升瓶を出してくる。
流石だねぇ。
「北島の雄町純米無濾過生原酒、どうだっ!」
滋賀県湖南市は北島酒造の名酒である。
女将さん、今日は冴えてるね。
そうそう、こう言うの飲みたかった訳ですよ、僕ちゃんはさ。
「女将さん凄いね、こういう酒だよねぇ、今日みたいな日はさ。」
「これだけ毎日一緒にいたら、あなたが何を考えてるか大体分かるわよ、そりゃ。」
まぁ、そうなんだろうけどさ。
「これでいいんでしょ?違った?フフフ。」
「よろしくどうぞ。」
片口に一升瓶から酒が注がれる。
これぞ夏の酒、って感じだねえ。
そして、女将さんのお酌で片口からぐい飲みに酒が移る。
「ありがとう。」
「いいえ。」
「女将さんもどう?」
「じゃあ、ちょうだい。」
女将さんのぐい飲みに返杯する。
「はいはい、そのくらいで良いわ。」
カウンター越しにコチンとぐい飲みを逢わせてから、さて御相伴。
雄町特有の太さと香りがありながら、ちょっとだけまだ発泡感のある、爽快な良い酒だ。
そしてまた、鰹に合う。
「いや、この酒と肴の組み合わせ、サイコー。」
「でもホントは、酒なら何でも良いんじゃないの?フフフ。」
「うん、否定はしない。でもさあ、やっぱ折角なら美味しいモンが飲みたい訳ですよ、ここはさ。」
そう言って、カウンターに目を落とす。
味を楽しみ、目で更に楽しむ。
そしてついでに、女将さんの和服姿も楽しむ。
日本男児で良かったと思う瞬間である。

「ねえねえ、今度どこかまた行きましょうよ。」
「そうだねえ、ちょっとゆっくり行きたいよね。」
「あなたはどこ行きたい?」
「この季節、美味しいモノがあるところが良いねぇ。」
「じゃあ、何か食べながら考えてみる?」
女将さんは、そう言うと次の肴を出してきた。

鱧だ。
これもまた、日本を代表する夏の食である。
梅肉入りの程良く酸っぱいであろうつけだれと共に登場だ。
恐らく、北島にジャストフィットだ。

「ねえ、どこ行こうか。」
女将さんが満面の笑みでそう言いながらこっちを見ている。
この状況で京都以外に思いつく男が居るなら、僕は尊敬したいね。

とは言え、今年の夏はいつもの夏より楽しくなりそうな気がしてきたよ。
秋深し、隣は何を食べてるの?

なんてね。

いやー、なんか昼間暑かったね。
朝晩涼しいから油断しちゃうって言うかさ。
今日、会社近くの定食屋の前通ったらさ、秋刀魚を焼く香りがした訳ですよ。
あの香りはヤバいよねえ。
匂い嗅いだだけでさ、燒いて滴り落ちて、墨の表面でパーンと弾けながら煙といい香りに化ける脂が脳裏に浮かんじゃうもんね。
でも、秋刀魚定食を食べるのを我慢してやったさ。
何故かって?

そりゃあ今晩僕は、あの小料理屋で秋刀魚を食べたいからさ。

「ただいま。」
暖簾をくぐると、女将さんが仕込みをしながらラジオを聴いている。
多分、ニューヨーク辺りのジャズ専門チャンネル。

ジャズと小料理屋。
綺麗な女将さん。
そして、神楽坂の夕日。
他に、何が欲しい?

…秋刀魚だよ秋刀魚。
今日は、何が何でも秋刀魚なのだ。

「おかえり。どうしたの?秋刀魚が恋しくなった?」
女将さんが笑う。
「今朝、寝言で秋刀魚がどうとか言ってたわよ。」
んんん、じゃあ、今日の僕の体は起きる前から秋刀魚を欲してたのか。
「ちょっと待ってね、今燒いてあげるわ。その前に、これ食べて待ってて。」
揚げナスとミョウガのサラダとビールを出すと、女将さんは七輪の準備を始めた。

「今日昼間暑かったでしょう?こう言うの食べたいかなと思ったの。」
女将さん、もう図星ですがね。
ビールの旨いこと旨いこと。

素揚げした秋茄子に十分染み込んだ出汁が、口の中でじゅわあっと広がる。
ミョウガの苦味と相まって、それは秋の味となる。

旨い。
顔がほころぶ。

「フフフ、やられたって顔してるわよ。」
「へへ、ヤラれちゃったよ。」
「そりゃあそうだわ、そう言う顔が見たくて作ってるんだから。」
「そして、僕はまんまとそう言う顔をしちゃった訳だ。」
「ええ、あなたの負けだわ。」
負けても良いさ、こんな美味しい茄子にありつけるならね。

秋刀魚を乗せた七輪から、例の煙が立ち上って換気扇へ吸い込まれていく。
きっと、表の通りには秋刀魚の香ばしい香りが立ち込めて、道行く人の鼻を愉しませているに違いない。
「今日はかぼすも良いのがあるの。きっとこの秋刀魚は美味しいわ。」

いい感じに焼けてきた。
もう少し待てば、至福の時がやってくる。

その時だ。
「こんにちはー。」
ミーちゃんがやって来た。
おのれ猫娘。
「近くに寄ったらいい匂いがして、たまらず立ち寄っちゃいました。」
「あら、じゃああなたも秋刀魚が目当てね。」
「エヘヘ。じゃあ、今日はお兄さんと秋刀魚の夕べですね。」
小さく舌を出しながらこっちを見るミーちゃん。
「じゃあ、レディファーストであなたが先ね。」
女将さんがミーちゃんに秋刀魚を先に出す。
「あ、お兄さんゴメンなさーい。」
たいして悪びれることも無く秋刀魚を食べ始めるミーちゃん。
うわあ、そりゃあ無いよこの猫娘め。

「ホコホコして美味しい!」
彼女に満面の笑みがこぼれる。
「やっぱり、秋刀魚は神楽坂に限るわ。」
まーったく、こっちはまたしてもしばしのお預けだよ。

でもさ、美味しそうに秋刀魚を食べる若い子を見ながらのビールも、悪く無いねぇ。
それじゃもう少し、秋刀魚の味を想像しながらビールを楽しもうかな。
「女将さん、ビールおかわり!」
こないだ秋刀魚食べたらさ、以来気分がすっかり秋になっちゃったね。
秋は良いよね、いろいろ美味しくてさ。
小諸そばすら、秋はいつもより旨い気がするもんね。

さてと。
珍しくね、女将さんから「今日はよそ行っちゃ駄目メール」が来たよ。
僕は飲み屋の営業メールって、基本的には応えないの。
行きたきゃ、行く。
行きたく無きゃ、行かない。
なんか、仕事終わったら好きなトコに行きたいじゃない?
一日中頑張ったんだからさ。
まあでも今日は、そんなメールがあっても無くても行くつもりだったんだけどさ。
あの小料理屋にね。

「ただいま。」
「おかえり。早かったわね。」
「そりゃあ珍しくメールが入ってくるんだもん、大急ぎさ。」
「メール嫌いのあなたがメールに従うなんて珍しいわね。」
女将さんは笑う。
秋っぽい白い着物が、またよく似合う。

「そう言えば、さっきまでマスミちゃんがうちでお茶飲んでたの。」
「へえ、元気だったんだ?」
「ずっとツナピコ食べてたわ。『
秋はツナピコよね。』って言いながら。」
「やっぱ、ツナピコにも旬とかあるのかね?」
「それは分からないけど、春にも『春はツナピコよね。』って言ってたわ。」
「なお一層訳が分からないな。」
「でも、作るお酒は超一流よ。」
世の中分からないもんだよねぇ。

するっとビールが出てくる。
そして小さく、乾杯。
ビールは、秋でも春でも旨い。
「いい鯖が入ってたわ。食べる?」
「良いねえ、鯖。」
〆鯖も、絶妙な〆方と言うのがある。
きっちり〆るのも良いのだが、出来たら〆過ぎないのが食べたい。
でも、そう言うのを食べるといい日本酒が欲しくなり、いい日本酒を飲むと旨い肴が欲しくなる。
まさしく菊正ループシステム。

鯖が舌の上でとろけていくようだ。
これこれ、こう言うのが僕の好きな〆鯖。

「女将さん、お酒欲しい。」
「やっぱりね。欲しくなるわよね。」
そう言って女将さんは、酒を出してきた。

カベルネ・ソーヴィニヨン。
…ワイン、ですか???

「魚には白ワインって言うのが定番なんでしょうけどね。」
フルボディのワインと〆鯖。
未知の世界だけれど、一緒に食べてみる。
…これは!
「そうなの。何故か鯖と赤ワインってマッチするのよ。」
鯖とワインが、お互いを引き立てている。
凄い発見である。
「へー、こんな事もあるんだねえ。」
「〆鯖とのマリアージュなんて、面白いわよねえ。」
「組み合わせでこんな風に更に面白くなるってのが良いよねー。」
「そうね、組み合わせで、ね。人間だって組み合わせでもっと楽しくなったりするじゃない?」
女将さんが、そう言って笑う。
何か言いたそうだ。
「じゃあさ、ワイン目線で見てさ、ちょっと鯖が物足りないと思ったら、女将さんならどうする?」
「そうねえ…〆方を変えてみる?」

今宵は、鯖の気持ちがよく分かった夜である。
やっと打ち合わせが終わった。
打ち合わせって言っても、飲むのが目的のサラリーマンにはお馴染みのあれだよ。
どうにも、あれが好きじゃ無くてねえ。
いや、そこそこ良い酒飲んだんだけどさ、そう言う事じゃないんだよね。
酔えない酒はホントに嫌だよ。

さあ、飲み直すとするかね。
勿論、あの小料理屋でね。

とは言えだ、既に結構飲んじゃってるんだ。
飯田橋の駅から神楽坂を歩いてる途中、酔いが回って来ちゃってさ。

「おかえり。あら、珍しく酔ってるわね」
「でも、ちゃんと帰って来たよ、フフン。」
「なーにがフフンだー!」
あれ、小上がりから聞こえて来たその声は、瑶子さんだ!
「あるぇ?瑶子さん久しぶり!」
「お久しぶり。いいお酒飲んでる?」
「お陰様で。瑶子さんも足大丈夫?」
「もうすっかり良くなったわ。その節はお騒がせしましたー。」
歌手の瑶子さんは、ここの常連さんだ。
こないだようやく発売になったアルバムも結構評判が良いらしく、ここのところよくラジオで掛かっている。
「瑶子さんが元気だと、お店も明るくなるわね。」
「私は電球か、って。」
「まあ、ウフフ。」
瑶子さんの笑い声は、場を明るくする笑い声だ。
テレビとか雑誌で見るクールな瑶子さんしか知らない人は、多分ここで大笑いしているのを見たら驚いちゃうだろうね。

さて、でももう今日はそんなに飲めない自分に気付いた。

「女将さん、飲み過ぎちゃってさ。酒はちょっといいかも。」
「分かったわ、じゃあ、良いもの作ってあげるわね。」
女将さんは、そう言うと何かを作り始めた。
「そう言えば、あなたたち今一緒に住んでるんだって?」
「瑶子さん、みんなにはまだ内緒よ。」
「いいなあ、いいなあ。私なんか帰ってもだーれも居ないもん。」
「僕も、大抵誰も居ないけどね。」
「でも、待ってればこんな美人が帰って来るのよ?もうそれだけで楽しみじゃない?」
「まあ、ねぇ。」
「ドキドキしながら待ってる?」
「うん、まあそりゃ。」
「お兄さんダメよ。毎晩スケベな顔して『おかえりー』とか言っちゃ。」
「言ってないよ。」
「ニヤけた中年男ぐらい、みっともないの無いんだから。」
「ニヤけてないよ。」
「ホントに?」
「ホントだよ。」
「ホントなら、お兄さんちょっと熱燗おかわりして来て。」
傍若無人だな、瑶子さん。
でも、彼女はいつも楽しい酒を飲む。

そんなこんなで待っていると、瑶子さんの熱燗と、僕のために作られた料理が出てくる。

土瓶蒸しだ。

「まだちょっと松茸には早いかもだけど、初物だから楽しんでみて。」
お猪口に土瓶蒸しの出汁を注ぐ。
瑶子さんと、出汁で乾杯。
口の中に秋のいろんな味覚が一気に広がる。
「お兄さんさ、中を覗かないの?きっと、美味しいものいっぱい入ってるわよ。」
「それはね、後のお楽しみなんですよ。」
中を覗かずに出汁をすすって、味と香りを頼りに何が入ってるのかを当てるのが、僕の土瓶蒸しの楽しみでもある。
「へえ、粋な楽しみ方するのね。」
「見ちゃうとさ、そのイメージになっちゃうからね。最後まで見ないのさ。で、最後に一つ一つ味わう、と。あ、あの味はこれだったのかー、なんて言ってね。」
「お兄さん、酒と肴の話する時楽しそうね。」
「まあ、楽しいもん。」
「そか、そうよねー。ハハハ。」
瑶子さんが居るのを分かってたら、少し酒を加減しておくんだったな。
でも、いいか。
土瓶蒸し楽しいし。
「でもさ、女将さんて流石よね。お兄さんが欲しいもの、だいたいジャストで作るんだもんね。」
感心する瑶子さんに、女将さんは言った。
「それはそうよ、だって、ここは夢の小料理屋ですもの。」
飲み過ぎた。
同僚とさっきまで焼き鳥屋で飲んでたんだけどさ、ずっと仕事の愚痴を聞く役になっちゃった訳。
美味いもん食ってんだから、愚痴なんかよせば良いのにさ。
でも、たまにそんな酒が必要になるのもまたサラリーマンの宿命なのかもね。

さて、腹が減った。
こんな時は、ちょっとお茶漬けでもかき込みたいよね。
じゃあ、行きますか。
あの小料理屋にね。

「あら?どこで飲んできた?」
女将さんが振り返る。
「うん、夏っちゃんちの焼き鳥屋。」
「あら、良いわね。私もあそこの焼き鳥好きなの。」
「だと思った。はい、お土産。そぼろごはん。」
「キャー!私の好物よく分かったわね!」
「これだけ一緒に暮らしてりゃ、だいたい分かるさ。」
ジャケットを脱がせてもらいながら、カウンターに腰掛ける。
熱いおしぼりが、顔に気持ちいい。
「何か飲む?」
「うん、酒はもういいや。お茶漬け食べたい。」
「珍しいわね、あなたが飲まないの。」
女将さんが笑う。
「あれだけ酎ハイ飲んでりゃ、もう十分だよ。まだ月曜日だって言うのにさ。」
「じゃあ、今日はとっておきのお茶漬け出すわね。鯛茶漬けで良いかしら?」
「お、豪勢だね、鯛茶漬けとは。」

しばし、ジャズに耳を傾けながら、お茶漬けが出て来るのを待つ。
時折、賑やかな団体さんの声が外を通り過ぎる。
神楽坂の夜は、そう言う街だ。

「はい、お待ちどうさま。」
三つ葉のいい香りと共に出て来たのは、鯛の最中が乗ったお茶漬けだ。

「ね、鯛茶漬けよ。」
「こりゃあ随分面白いね。」
「うふふ、あなたなら面白がると思ったわ。」
いや、確かに面白い。
最中を割って、丼の中で散らしてみる。
鰹と昆布のいい香りが広がりつつ、ジュレと具が出てくる。
「へえ、面白いね、これ。」
サラサラとかき込んでみる。
思ったよりも、複雑な味わいが楽しい。

「ご馳走さん!美味しかったよ。」
「お粗末さま、じゃ無いわね。私が作った訳じゃ無いし。これは、林久右衛門商店の鯛茶漬けジュレって言うの。美味しいし楽しいわよね。」
「へえ、こんなものがあるんだねぇ。」
「一日の終わりに美味しいものを食べると、明日も頑張れるでしょう?」

女将さん、明日もホームランだな。


遊び心いっぱいの鯛茶漬けをかきこみたい
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=165&from=diary&id=3103380
あー、寒い。
昼間はそうでもないんだけどさ、ちょっと暗くなってくると凄い寒くなってきたよね。
会社帰りの人たちも、もうぼちぼち冬の出で立ちだねえ。
飯田橋から歩いて神楽坂を登るんだけどさ、道行く人たちの服に季節の移ろいを感じるよねえ。
で、冬ってちょっと嬉しくない?

え?そんな事無いって?

それはきっと、冬の小料理屋を知らないからさ。
熱燗から湯気。
鍋から湯気。
お料理から湯気。
もわっと良い香り。
至るところから立ち昇る湯気がね、幸せな気持ちにさせてくれるんだから。

そんなこと考えてたら、神楽坂着いちゃったよ。
じゃあ、ちょっと今晩も行ってみようかね、いつもの小料理屋にさ。

「あら、おかえり。寒かったでしょう?」
「ただいま。寒いねー。寒すぎて鼻が取れるかと思ったよ。」
「あらまあ、大袈裟だこと。」
女将さんが笑う。
「でもあなたが寒いって事は、みんなも寒いわよね。そこで、今日から開始です、ジャジャーン!」
おお、おでん鍋の登場だ!
しかも、割と本格的なステンレスの器具。
「冬の定番だわよね。さて、とりあえずビールで良い?」
「ああ、ありがとう。」
季節は移り変わってもビールは美味い。
特にこの店のビールは。

喉を黄金色の幸せが通り過ぎる。
まるで、今日一日の人に言うまでもない頑張りを讃えてくれるかのように。
ああ、その為に生きてますともさ。
ビールの美味い国に生まれて本当に良かった。

さて、おでんの心配をするか。
おでんってのは、全国各地で具が違う。
まあ、それがその場所その場所の特色だったりする訳だ。
定番の具はもちろん楽しい訳だけれど、そう言う地方独特の具ってのもまた楽しみだったりする。

「じゃあ、適当に美味しそうなところから入れるわね。」
女将さん特性のおでんつゆに沈められたおでんの具たちがサルベージされる。
「まずはタマゴ。それから、鰹のへそと黒ハンペンね。」
黒ハンペンの鰹のへそ。
黒ハンペンとは、鰯を練り込んだ灰色のハンペン。
関東じゃああんまり食べる機会は少なかったんだけどさ、最近はたまに見かけるようになったね。
「女将さん、鰹のへそってなーに?」
「それはね、鰹の心臓の事よ。焼津のあたりでは、こうやって串刺しにしておでんに入れるんだって。美味しいわよ。」
魚のアラをおでんで食べるってのも面白いね。
濃厚な食感が楽しい。
「いいね、これ。酒が進むかも。」
「酒が進むかも、って、熱燗飲みたいんでしょう?」
ばれたか。
「竹鶴、で良いわよね?」
出ました、小笹屋竹鶴。
僕が一番好きな酒。
もしもたった今僕が死んで、何か一つだけ好きなものをあの世に持って行って良い、って言われたら、迷わず僕は竹鶴を持って逝くだろう。
それぐらい、好き。

「でもね、美味しいおでんと熱燗の組み合わせって、贅沢だわよね。」
「冬の楽しみだよね。」
「でもね、カウンターに置くと、割と暑いのよね。」
湯気の向こうには、額にうっすらと滲んだ汗を手ぬぐいで拭く女将さん。

これだよ、これ。
小料理屋のお楽しみは。
ソフトフィルターさながらの湯気の向こうに居る美人女将を見ながらの熱燗。
最高の酒の肴ですよ。
でもね、凝視してはいけない。
それが、大人。
多分。
凝視してるのがバレてしまうようでは、熱燗紳士失格である。

さて、週の真ん中水曜日の夜に美味いもん食べたなら、明日からの後半戦も頑張らないとね。

でも、あれだな。
今晩はもう少し熱燗楽しみたい気もするかな。
休日出勤で残業の日ってのは、なんか嫌だよねえ。
なんだかんだと、忙しい日だったよ。
昼ごはんすら食べられる時間がないぐらいにね。
だから、今猛烈に腹が減っている。
ペコペコだ。
こう言う時はうまいもんが食いたいよねえ。
ましてや、冬はそこまで来てる。
あったかいもんを食べたい。

行きますか、あの小料理屋にね。

休日だと言うのに、今日は店が混んでる。
いい事だねえ。
まあ、女将さんは大変だろうけどさ。
そう言うときは、ほかのお客さんに混じって静かにするのが僕の掟。
例のおでんを突きつつ、閉店まで飲みますか。

さて、看板。

女将さんと並んで家まで帰る。
と言っても、そんなに遠い距離では無い。
「今日は忙しい日だったわ。」
「休日なのにね。」
「おでん始めてから、割とお客さん多いわよね。」
「でも、いい事じゃん。」
「売り上げ的には嬉しいけれど、私はもう少しゆとりのある感じが好きだわ。」
「しかし、お腹すいた。」
「私も。あ、ねえ、たまには屋台のラーメンとか行ってみない?」
「お、良いねえ。」
「あそこの駐車場でね、夜やってる屋台のラーメンが美味そうなのよ。」
「お、やっぱりそう思う?」
「気になるわよね。」

小料理屋から屋台のある駐車場まで300メートルぐらいだろうか。
その屋台は、ここ最近そこに店を開いてる。
昔ながらの、木製の屋台だ。

「らっしゃい!寒いねー!」
「今晩は。大将?ラーメン二つ!」
「へいよ!」

不思議なもんで、屋台のラーメンと言うのは、何故か美味い事が多い。
恐らく、外で食べると言うシチュエーション的な理由のような気がするけれど、外れってのはあまり聞いたことが無い。
「ねー、ちょっとだけお酒飲もうか?」
女将さんが妙に嬉しそうにしている。
「いいね、大将、熱燗もね。」
「ほい来た!」
しばらくして、湯せんした熱燗が登場。
銘柄は…どこだろう?
でも、まあそんなに良い酒では無いけれど、これも屋台のせいなのか美味しい。
オチョコをコチンとぶつけて、お互い労をねぎらう。
ここのところ、毎晩乾杯だけはしてるな。
女将さんが、半分ぐらいクイっと飲んで、酒が染み渡るのを楽しむかのようにしている。
「これからすぐラーメンが出てくるの知ってても、飲んじゃうわよね。」
まあ、それこそが最大の楽しみだもんねぇ。

2合徳利を二人で手早く仕上げると、お待ちかね、ラーメンの登場だ。

昔ながらのシンプルな支那そば。
でも、チャーシューの代わりに、薄く切った鶏肉が乗ってる。
具は他に、ほうれん草とノリとなるとぐらいだろうか。
ガラダシのスープに、それらがマッチする。

「こう言うラーメン好きだわ。」
「良いよねえ。」
「派手さは無いけれど、ちゃんと満足させてくれるんですもの、最高だわ!」
和服でラーメンを啜る女将さんが、いつもの凛とした感じと違って可愛いと思った。
「そう言えば、今日会社忙しかった?」
「まあね。」
「ちゃんと仕事したのかしら?」
「勿論、頑張って片付けて来ましたよ。」
「派手さは無くても仕事はしっかり、ね。」
女将さんが笑う。
「そりゃ、ラーメンに負けないように頑張ってますよー。」
ずずりとラーメンを啜る。
口いっぱいに、醤油の香ばしさとガラダシの芳醇さが広がる。
何も余計でなく、何も不足していない、そう言う美味しさだ。
「何も足さない、何も引かない。・・・そんなキャッチコピー、昔あったわよね。サントリーだったかしら?」
「あったね、『時は流れない、それは積み重なる。』なんてのもあった。」
「『おいしい生活』なんてのもあったわよね。」
「それは西武百貨店だよ。」
「よく覚えてるわね、フフフ。」
「頭の中、余計なもので満ちあふれているからね。」
「でも、無駄なものでは無いわ。」
「とは言え、そんな知識一文にもならないさ。」
「私はその一文にもならない部分が好きなんだけどなぁ。それにさ。」
「それに?」
「それに・・・派手さは無いけれど、ちゃんと満足させてくれるんですもの、最高だわ!」

地味な男で良かったと、生まれて初めて思ったよ。
さて、ぼちぼちコートが手放せない時期である。
コートの襟を立ててみたりする訳だが、猫背のせいなのか背中がスースーする。
寒い。
こう言う日は、熱燗に限る。
まだ、お店の小笹屋竹鶴は残ってた筈。

こりゃあもう行くしか無いね、あの小料理屋にさ。

先客が居た。
猫娘のミーちゃんだ。
「お兄さんご無沙汰です、へへー。」
何やら楽しそうに飲んでいる。
「おかえり。ミーちゃん、出張から帰って来たんだって。お土産頂いたから、後でお裾分けするわね。」
「あら、悪いね。じゃあ後で頂戴するよ。」
「いつもお世話になってるもん、そりゃあお土産ぐらい買って来ますよー、へへへ。」
白いモコモコのニットが妙に似合ってる今日のミーちゃん。
でも、もう結構飲んだと見える。
「あなたは、熱燗が欲しいって顔してるわね。」
「顔に書いてあったかい?」
「顔を見なくても分かるわ。」
それはそれは、恐れ入ります。

熱燗と共に、お通しが出てくる。
鰹の酒盗だ。
「それが、ミーちゃんのお土産よ。土佐まで行ってたんだって。」
「この酒盗美味しいのよ、濃厚で。」
熱燗と酒盗。
いいねえ、嬉しいねえ。
口いっぱいに酒盗の旨味が広がる。
それを熱燗で流す。
フフフ、日本に生まれて良かった!

それにしても、酒盗かぁ…。

「わたしーほしまるー、あなたーともだちー。」
そんな鼻歌を歌いながら、僕は中学校の部活から帰って来た。
もう、日は暮れていた。
引っ越し屋の車が、同級生の家の近くに止まっていた。
恵子と言う僕の後ろの席の、クラスでも可愛い部類の女の子の家の前だった。
可愛い、と言うよりは、少し大人な感じがしていた気がする。
リアル中二病全開の僕は、すぐ後ろの席の彼女に話しかけることができなかった。
本当は話しかけたくて仕方がないくせに。
そんな彼女の家の辺りから、誰か引っ越して行くんだなあ、と思った。

あくる日の朝、恵子が家の都合で引っ越した事を先生がクラスのみんなに告げた。
誰にも別れを告げず、彼女は僕のクラスから居なくなった。

ひと月ぐらい経ったある日、うちに小包が届いた。
彼女の母親から、うちの母親へ宛てたものだった。
どうやら、母親同士は仲が良かったらしい。
瓶詰めが二本と手紙が入っていた。

手紙には、離婚して実家の高知へ引っ越す事になった旨と、急に引っ越してしまって迷惑を掛けた事を詫びる旨が書いてあった。

晩御飯のおかずに、酒盗が出た。
例の瓶詰めだ。
あったかいご飯に乗せて食べてみた。
この世にこんなに旨いものがあるのかと思った。
でも、もう彼女に話しかけることが出来ないのだと思うと、寂しい気持ちでいっぱいになった。

その夜僕は、手紙を書いた。
酒盗が美味かった事。
話しかけることができなかった事を後悔している事。

次の朝読み返してみた。
「女性への手紙は夜書いてはいけない」と言う、男としての基本を僕はその時学んだ。
手紙を書いては消し、書いては消しの日が何日か続き、そして数日後、僕は手紙を投函した。

…懐かしいねぇ。

そんなことを、30年近く経った今急に思い出した。

「お兄さん、美味しい?」
ミーちゃんの声で我に返った。
「あ、ああ、美味しいよ。酒にぴったし!」

つづく

つづきだよ。

一週間ぐらいして、恵子から返事が届いた。
何か宝物でも見つけたかのような気分で、その封筒を部屋に持ち帰った。
胸が、キュンとなった。
手紙には、彼女も酒盗が好きだと言う事と、うっすらとこういう結末が来る事を彼女自身がずっと前から予感していた事と、彼女も僕ともっと話したかった旨が書いてあった。

僕も、もっともっと彼女と話したかった。
こんな気持ちになるのは、生まれて初めてだった。
僕は、言葉を選んで返事を書いた。
それから程なく、また彼女から返事が来た。

そんな繰り返しが、4年ぐらい続いただろうか。
その内容はと言えば、年頃の青年と女の子の何の他愛もない、けれど、圧倒的な現実の話。
でも、ある頃を境に、やり取りは途絶えてしまった。
その後彼女がどうなったのか、今何処で何をしているのか、僕は知らない。
でも、彼女との繋がりが途絶えてしまった時の喪失感だけは、今も心のどこかにぶら下がったままだ。

あったね、そんな事がさ。

口の中に、酒盗の旨味が広がる。
あの日のご飯の上の酒盗のように。

「どうしたの?誰か昔の女でも思い出した?」
女将さんが顔を覗き込む。
「まあ、長く生きてりゃいろいろあるさ。」
苦笑しつつ、返事してみる。
「随分昔の話だよ。」
熱燗が、喉に染みる。
それにしても、旨い酒盗だ。
まだ口の中に居る。
女将さんは、にっこり微笑んだ。
「誰にでも、そんな夜はあるわよ。それにね。」
女将さんは、ピルスナーグラス一杯分のビールを飲み干し、真っ直ぐこっちを見て言った。
「そんな、夜に思い出しちゃうほどの素敵な女性が居たのに、今あなたは毎晩ここに居るわ。」

僕は、これからもずっとここで飲むんだろうなと思った。

「じゃあ、お兄さんは毎晩ここに来て、いい女が来るのを待ってた訳ですね。」
べろんべろんに酔ったミーちゃんが、自分を指差しながら言った。
自分はいい女だと言わんばかりに。
口元に酒盗が付いている。
「お兄さん、とびきりのいい女が好きなんだよねー、女将さん、ねー。」

話を振られた女将さんが、ミーちゃんの酔っ払いっぷりを見ながら笑って言った。
「ええ、知ってるわ。」

さ、会社の忘年会終わったよ。
仕事の仲間と楽しく飲んで、騒いだ騒いだ。
さて、ここからはちょっと独りで静かに飲む時間だ。
そう、これからあの小料理屋で一杯。

今日は暖簾が掛かってない。
今年最後の営業だ。
とは言え、多分もう今年は誰も来ないだろう。
「ただいま。」
「あ、お帰り。意外と早かったわね。」
カウンターで独り手酌の女将さん。
「お隣の席、空いてます?」
「ええ、空いてるわ。」
微笑む女将さん。
女将さんの左隣の席に腰掛ける。
「ぬる燗で良い?」
「ああ、それが良い。」
二合徳利から、信楽焼のお猪口にぬる燗が注がれる。
小さく乾杯。
しばし無言で酒を口全体で楽しむ。
「純米吟醸雄町黒牛よ。」
ああ、またこう言うのを持ってるんだよねえ、女将さんは。
燗にしても壊れないばかりか、味が立つ。
和歌山の名酒である。
「今年もいろいろあったわね。」
「福岡転機騒動とかね。」
「あれは何だったんだのかしらね。」
「きっと、どこかの誰かがネタに困った末の出来事さ。」
「でも、あの一件があったから仲良くなったんだわ、私たち。」
「そうだねえ。」
「もう転機は無さそう?」
「わからない。だけど、次に同じような事になったら辞めちゃうかもね。」
「どうして?」
「僕はここに居たいんだよ。」
「それなら心配無いわ。私、時間を止めるの得意よ。」
「知ってる。」
「試しに止めてみようか?」
「止めてみて。」

時間が、止まった。
黒牛の味がする。
黒牛の味を押し返す。

「…いろいろ、あったねえ。」
「あったわよね。」
「来年も、いろいろあるんだぜ、きっと。」
「いろいろあるけど、多分ここは変わらないわ。」

そう、来年も僕は多分ここで美味しい肴で美味しい酒を飲むだろう。
去年や今年と同じように。
ささやかながら、僕にとってそれが一番の幸せだ。

これで、今年の小料理屋の話ももう店じまい。
常連さんの皆様、今年一年暖かく見守ってくださいましてありがとうございました。
来年は是非、握りしめたスマートフォンの「こちら側」で僕や女将さんと一緒に飲みましょうよ。
約束ですよ!

それでは、良いお年をお迎えくださいませ。

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