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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第九十三回 文芸部A 王都作 自由課題「ス・キ・マ」

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このシリーズ前回の話
(虹がさゆりと再会したとき)
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=99445393

〈あらすじ〉毎年開催されるレジェンドダンサーのバースデーパーティーで起こった、シャム猫連れ去り事件。犯人の要求は何なのか?果たして、猫の運命はいかに!?

〈主な登場人物〉
≪主役はレジェンド≫
ブティックレジェンドダンサー(2022.11.24当日から50)
芸名:小此木マホ(オコノギ)
本名:麻穂(マホ)
セクシーだが真面目。婚姻歴なし。台東区出身
今はイベントホールオーナーが中心。赤縮毛。根っからの猫好き。現役時代は全身タイツや金粉を着けオンステージ、引退後はプロデューサーへ転身
パーソナリティは風吹あんな、表現スタンスはメアリーJブライジ
好きな漫画は『王家の紋章』『ベルばら』他

猫キャロルちゃん(4)
マホの愛猫。雌のシャム猫

男性ツーブロック野郎(53)
芸名:リュウ
本名と通称:磯原竜(イソハラ・リュウ)/ロン/イーちゃん
元ダンサー、現居酒屋やダーツバー経営者。業態拡大を狙う。現在、マホの彼氏。遊び相手でもあるが、今回の件で手柄を上げ結婚相手に
マホに接近した事情:ホールを沢山持ちたいスケベ心から深みにハマる
生年月日:1969.7.31(年齢だけ会話に出てくる)

おじいさん元パトロン(79)
芸名:中村ノボル(ナカムラ)
本名:昇(ノボリ)
表の顔は広告会社勤務を経てアパレルメーカー「リテイルナカムラ株式会社」会長、裏の顔は調教に限りなく狂喜する縛師。貧しい出身で、がめつく、成功してからは惚れ込んだ相手に惜しみなく尽くす。普段の人柄はとても温厚、人望はあるのだが…どうしようもなく人たらしで度を超した変態
生年月日:1943.8.29(年齢だけ会話に出てくる)

バーカズキ(35)
本名:深田一記(ふかだ・かずき)
元パリピのバーテン。板垣さゆりの仲間
ある野望を抱き、このパーティーに参加した

カラオケファロ(50代)
本名:藤沢尚道(ふじさわ・なおみち)
オーガナイザーも務める芸能ライター

新聞マサヤ(50代)
芸名:城雅也(じょう・まさや)
PBS所属のベテランラジオパーソナリティー

女性K /Ou(25)
芸名読み:コウ
本名:白石虹(しらいし・こう)
レジェンドのお気に入りダンサー・さゆりの後輩ダンサー。最近、後進の女の子たちに振付を教える立場になったばかり。この招待制パーティーは初参加

男性宇都宮惇(うつのみや・あつし)(50代後半)
発言力あるイベントオーガナイザーの一人。マホ所有のホールには特に世話になっている関係からこのパーティーに参加

(話に出る)板垣さゆり(29)
本名:同じ
レジェンドのお気に入りダンサーの一人で、カズキとK /Ouの友人。2022年11月に体調を崩し、このパーティーを欠席した(泣あせあせ(飛び散る汗))秋頃にダンスインストラクターとして独立して自分のクラスを持った。虹が他の機会に遭遇したロンを警戒し、2人で作戦を立てていた(第八十九回)


〈本文〉



2022年11月24日
午前9時
横浜某所の小此木邸入口前はまだ閑散としている
門前で待たされていたツーブロックたちが入場
内訳はリーダー格のロンとその連れが3人
ロン「やっとかー!」
連れたち「待ったねぇ〜、イーちゃん」
他にも、邸の主が招いた馴染みの連中がドヤドヤと後に続く。この中に関東キー局ラジオパーソナリティーのマサヤの姿も

敷地はおよそ100坪は超える広さ、それでいて庭の緑もふんだんにあり、その所々に腰をかけて休憩できるベンチも多い。公園として解放したら悠々と散歩も出来るだろう
邸そのものの外観は…見るなり迫力を感じる白亜の豪勢な造り。聞くと元実業家の別宅を居抜きで譲ってもらったという
間取りは、ヴェルサイユ宮殿を参考に1階メインホールを広く取り、すれ違う人の間にそれなりのスキマが空くようにしている
内装は、極めてシンプルなアーバンスタイル、壁は防音機能はもちろん、汚れたらすぐキレイに拭ける材質。例えば、片手にドリンクを持ったまま壁にもたれて話している途中にふらつき中身が壁にかかったとしてもダスターなどで復旧可能と使用人たちは言う。むしろそこまで飲んだくれるほうが良くないのだが…それを見越したもてなしが行き届いている
ちなみにエントランスを彩っていたシャンデリアは何年も前に傷んで無くなった。邸の主曰く「たとえそれが無くなっても以前のようなワイガヤば変わらない、どころかますます大きくなったみたい。これはみんなのおかげ。ありがとう顔(笑)」と
セキュリティは劣化していたセ◯ムを追い出し、ほとんど自前で仕掛けた。最低限の品質の構内撮影ビデオカメラ、貴重品保管室内の赤外線モニター、くらいのもの。そもそも主もその人脈も互いに信用があるので高い設備は要らないと考えていたフシもある

パーティー主催側業者の設置した追加分の防犯カメラアングルには、 ツーブロックたち招待客の一団のあとに、主催者側がスタッフとして雇っている男たちが2人映った

正面玄関を開くと、まず場内での人数制限と整理、各種感染対策の徹底、それから…
大勢のスタッフが忙しなく動く。その中にバーテンダーのカズキもいた。彼にはある野望があり、それは…通っていた大箱を理不尽なやり方で潰し、一時的にでも生活苦に追い込んだ組織の幹部と親しい彼女にパイプ役を担ってもらいたいというシンプルだが悲願のこもったもの。だから相当必死

慌ただしさ続く中、男性スタッフの一人から
「予定のフルーツバスケットがまだ来ない」「そんなはずない」「とにかくタカノ(フルーツパーラー)へ連絡だ」
こうまでして小此木マホが毎年11月24日、自身のバースデーパーティーを開き、この邸に親しい人間を集めるのには歓談と慰労会のほかに本当の理由、すなわち”コネクション強化“がある
ある専門誌の記事に抱負として各種のダンスイベントを続けることについて「娯楽の火を絶やさない。だからやめちゃいけないの」と語ったことも

10時頃、一階のメインホールで司会を務めるファロが乾杯の音頭を取り、立食パーティー開始(開会)
先ほど問い合わせたフルーツバスケットは予定の時間より少し遅れたが届いていた
会は始まるなりフワッと明るく鮮やかな色合いを帯び、あちこちにシャンパンやワイン、ときにウィスキーや清酒の匂いもした。BGMはクラシック・ロック・テクノトランス・たまにジャズ・ポップス何でもござれのクロスオーバーなグルーヴ。しかも全て生演奏という豪華さ
顔合わせする常連たちと今日のメイン・小此木マホさん
彼女の外見は、赤毛のアンのような赤い癖毛に卵形の輪郭の顔につぶらな瞳、けして高くはないがキュートな鼻と小ぶりの血色の良い唇をしている
彼女がレジェンドにされたのは、比類なき華やかさと明るいセクシーさ、そして早春の太陽みたいなおおらかな暖かさ、黄金の女王・女神級の存在感があるところから
ポールに絡みつきで長い時間魅せる花になれる体力と旺盛なほどのサービス精神。これはなかなかできない。そこに満面の笑顔が振りまかれ、観るものを優しく包み込む
これらのものに惹かれそこに集まったメンバーのたいがいは男性たち、中には彼女に恋い焦がれてそのままダンサーになる娘もいた。ファンは全国に点在するが、限定パーティーに招待される人数はごくわずか
「マホさん、今回もお姿麗しゅう💕」
「あ・り・が・とキスマークー(長音記号2)💕」←エアキス
なんて対応は序の口で、たまに
「ここだけ益々肥えて目がハート
などと言いつつヒップをなで回す不届き者もいる
さすがのマホでも内心穏やかではないが、ここは我慢がまん顔
「そいやキャロルちゃんはどうしてる?わーい(嬉しい顔)
これには
「おかげさまで元気ですよ顔(笑)
「生キャロルちゃん見たいなぁ〜スマイル
「後でねぴかぴか(新しい)
それぞれ。普段はweb動画で見せていて
目もととしぐさが可愛くてしなやかな
かねてから生で見たかったしあまつさえ触れたらあのなめらかそうな毛並みに触りたい
マホさんの愛猫・キャロルちゃん目的な人々から
コロナ禍下で業界バッシングされてもなお八つ当たりも含め愚痴を言い合い激すると罵声や怒号が飛び交う関係者たち(特に老害)
彼らは見た目だけ整えても口が悪い。例えば
「ったく、ただの風邪に毛の生えたごときで客が来ねぇたぁ、何なんだコラ」
「馬鹿言え、ワシらにゃ非はねぇ。悪ぃのはアレ、アベスガキシダだろが」
「そうだそうだ!!ガハガハガハ!」
一部の参加者が発する不快な声の応酬に耐えかねたのか、大御所手前のイベントオーガナイザー宇都宮惇(うつのみや・あつし)が一言
「今日は我らがマホさん50歳記念のパーティーだ!」
皆、すっかり黙った、と思いきや一人は
「ケッ!若造が」とボヤくと、どこかへ行ってしまった
みっともなさ過ぎる、と宇都宮は思った
それを見たマホは宇都宮にひたすら平に謝った
「先ほどはありがとうございました。本当に申し訳なさ過ぎて…来年から前もって告知します」
「いいんですよ。ああいうの幾らでも居ますから…」

さらにマホさんから件の関係者たちへ頼むように
「みんなねぇ、一匹狼なのよ。もっと団結しましょ」
一様に黙ってしまった
そんな中誰かから
「そういや、ノボルさんここ数年顔見せないですね。どうしてるんだろう?」
マホさんは
「ホント、今はねぇ…なかなかたくさんは会えなくなっててね。世知辛くなって久しい」
また別の誰か「まぁノボルさんのことだから多分どっかで誰かの世話焼いて忙しいんだろうな」

ノボルとは…言ってしまえばマホの腐れパトロンだったジジイ
表の顔は博◯堂系広告会社勤務を経てアパレルメーカー「リテイルナカムラ株式会社」の外から招んだ役員から会長にまでなった人。裏の顔は調教に限りなく狂喜する縛師。元々貧しい出身で、がめつく、おまけにしつこい。惚れ込んだ相手には惜しみ無く尽くし、人望は厚くもあるのだが…
それにしても、彼については病で倒れ静かにしているというイメージが誰の口からも全く出ないことに、かつて身近で関わったことのあるマホはある意味感心した
早くも車寄せ近くにカズキが出入りしている、ほかスタッフ複数もいる。去っていく白や黒の高級車の窓から政治家の二●や芸能人の梅●のような有名著名人の顔も見えた。他に予定の詰まっているマサヤや惇たち先乗りメンバーの中から邸を出るのも少しいた

正午を過ぎ、虹たち後乗りのメンバー到着。
この中にツーブロックたちに会うために来た若手連中が続々。中に実力あるDJでラッパーの那由多とミキサー上がりのアレンジャーのソーニャがいた
虹は着くなり、受付で
「板垣先輩の体調が思わしくなく、彼女から今回は行けないことを伝えてほしいと言われました」
と伝え、彼女から預かったプレゼントを主催側に話を通して了解を得、マホさんに手渡した
虹とマホさん抱き合い、虹がマホさんの匂いと柔らかな雰囲気に感心する
虹もしばらく周囲と歓談した後、少しの間だけ庭へ出て深呼吸し、メインホールへ戻った

キャビアは味と食感が受けつけず、フォアグラで胃もたれする虹は初めからフードには手を出さず、ジンジャーエールと途中でウェイターから薦められた白くフワッとしたムースみたいなデザートを口にした。紹介される前の緊張とともに
ついに新人お披露目タイムに入り、何人かのニューカマー(ここではまだ使われる)の簡単な自己紹介が続いた後にトリとして虹が挨拶
「(前略)マホさん、そしてダンス業界の先輩たちのおかげで、まだ慣れないながらも後輩たちに振付をする側になれました。ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」
マホが後衛の若手を選ぶ基準は、伸びる期待の持てるコたちかどうか―この一点だけ
このセレモニーの後、虹たち昼から参加のメンバー退散。虹は一目散にさゆりの住む台東区の宅へ向かった



例年ならそろそろパーティーの目玉、定番の、「常連限定!」シャム猫好きにはたまらないキャロルちゃんとマホさんのオフショット鑑賞タイムへ…動画のコアなファンたちにも知られているウワサのぴかぴか(新しい)exclamation ×2マホさんが着飾って室内の階段をゆっくり降りて生お披露目するはずだったが・・・・・・・・・・・・
マホさんの愛猫がいなくなった!普段から動画で人気のあるあのコ。知れ渡るなり場内がざわめきどよめく
大体の参加者は
「いち早く無傷で助かって欲しい!」系で
中には勝手なことを言う奴もいて
「たまにトラブるマホさんだから、なんか問題あったんじゃない?」なんてのも
スタッフ数人が防犯カメラで確かめると、堂々と運び去る姿があった
連れ去った連中の背格好から絞り混むと、開場時にゲストの後について行ったスタッフの男たち2人だったと判る
彼ら、実はノボルの部下たち。連れ去った方は40代の小柄な男で、パーティースタッフとして潜入に成功し、小此木邸の入構カードを持っていた
見張り兼雑務担当は30代の中背で浅黒い男。彼も40代の先輩と同じ理由で怪しまれず潜入に成功
この2人が潜入しやすかった事情は、各種イベントのスタッフを随時募集していて、よく参加した先輩はチーフの信頼を得ていたことだった
小此木邸側純正スタッフの一人がつぶやいた
「何で堂々と…?」
建物が古く、セキュリティも古くなり、見る範囲が広いぶん一斉に見直すと高くつく。そのためたまにバグが起こるという不備があるも放置
通信機越しに連れ去った側からアクセスあり、マホとロンが対応。ロンがちゃっかり交信そのものをiPhoneに録っていた
その間に司会を任されていたファロがパーティーホールにいる参加者たちを一先ず2階の広い会食室へ案内し、安全を図った。ここは災害発生時の避難所に出来る造り
ファロは願った
“キャロルちゃん…無事戻ってきて!”
と同時にそれは、会場にいる多くの仲間の願いでもあった
近くの黒塗りボックス暗い車内後ろの座席で恰幅良く見える老紳士が懐に抱いていた。猫は激しく鳴いていた



(通信機越しに音声のみ聞こえる)
キャロル「ニャーニャー!」
警備員から
「え〜、今警察呼びますか?」
それに対しロンは
「バカ野郎、まだ警察は呼ぶな。誰も死なんし傷つかん」
彼らは成り行きを見届けることにした
しばらくリモートでのやり取りが続き、猫を引き渡ししてもらうため、先方指定の場所へ行くことに。条件は「マホを連れてくる」こと
メンツはマホ本人、ロン、と…ずっと操作してたスマホをジーンズのポケットに入れたカズキの3人で向かう
もちろん、建物近くで県警待機
そして某ヤ◯ザホテル中階の防音ルームへ
入り口からすでに胡散臭そうなケバさと重ったるさ際立つ壁の装飾が3人を迎え入れる。なぜか周りに監視や従業中の人間が一人もいない
そこの奥の部屋、壁にへばり付いている悪趣味な皮張りの巨大な玉座のような金ピカ椅子に座る年老いた主を見てマホが目を見開き
「ノボリぃ?」
ノボリとはマホの初期のバースデーパーティーに足繁く参加した、あの“パトロンだった男”の本名である
マホは一瞬眩暈を感じ、ふらつくも体勢を立て直す
「ば……か…じゃ、ないのォ?」
思わずこぼれ出た
ノボリは肥り、加齢臭が立ち上ぼりそうなぐらい顔が脂ぎっていた
“ウチのキャロルを、コイツになんか盗られてたまるか!”

ノボリがふいにマホの側に居る男どもに目をやる
ロンと目が合い、尋ねた
「マホの隣に来るなんざ、良い度胸だな」
対するロンは
「男には、大切な相手を守る責任がありますから」
ノボリは機嫌を一気に損ね
「何ィ!?業界でマホを長年守って育てた俺に向かってその口は何だ!!若造が!」
ここでマホは思った
“守って育てた?冗談言うな。性奴隷手前の扱いがほとんどだったこと◯春にリークしよか?私はもう怖くないから”

ロンも下がらず毅然と
「男の価値は年季でも年齢の高さでもありませんから」
ノボリはやり込められた代わりに、ロンの名前を尋ねた
「ところで、、あんたの名は」
「業界では「ロン」です」
「じゃあ聞く。ロン、あんたの年は?」
「年齢のことですね。私は今53歳です」
「そっかぁ、俺と26(歳)も違うのか……まるで息子だな」
一連の流れにカズキはハッとして、自分の着ているトップスを脱ぎTシャツの襟ぐりを掴み、脱いだ
首回り裏についているタグには“Retail Nakamura.Co,Ltd”…目の前のジジイが隠居してる会社だ
カズキはニヤリとした

その後マホとノボルの腐れ縁から来るレクリエーションがしばらく続く。その間ロンとカズキから見えたマホとノボリの姿と印象はそれぞれ
“腐れ爛れとるなぁ…”
“アホやコイツら”
やっと本題へ
マホから
「キャロルを返して」
ノボリは即答で
「マホが俺のところに戻るなら」
マホは自身の唇を噛みながらもグッと堪えた


――
そもそもマホとはノボリに引き立てられ、この業界で成功できた。そのことについては深く感謝してはいるが、ノボリが彼女の現役中に数々の凌辱を犯し、マホが現役を引退して後進の若い子たちを送り出すようになった頃些細なことで言い争うようになり結局別れた、と彼女は認識していた。そのため、後年ノボリがマホに連絡しようとしてマホの個人事務所に電話しても、マホが出ることはただの一度もない。ノボリはさらに普通郵便で手紙まで送っているが、受け取りを拒まれ返送されている。一方、ノボリは未練がましく昔の愛人の愛猫を拐ってまで…世間で肩書きの立派な老年の男が、まして一人の人間として深く関わったこともある存在がこんなに落ちぶれてしまうなんて。まさに想定外のことだった

2人の出会いは今から30年ほど前、ノボリが今よりもっと精気に満ち満ちて逞しく攻め上げられた頃、懇ろにしてもらえていた女たちの熱い波があらかた退いてしまった辺りと重なる。あたかも夕方の潮退けを思わせるほど呆気なかったとノボリ自身はいう
そんな頃、マホがノボリのリビドーの尖鋭な一部を心身で一時期たっぷり受け入れた。あのときは錯覚や陶酔を伴ってめくるめく快楽へつながった上に、あれやこれや至れり尽くせり良くしてくれたが、マホにとっては今やソレは泡のような幻でしかなくなっていた
――


マホは俯きながら右手で自身の眉間を押さえながら
「まぁったく…よりによって50になったアタシに何まとわりついてんのよ。フミチャン(64)やハルチャン(48)とか他のマダムや女の子たちは?」
ノボリは嗄れた声で
「俺がそれだけの馬鹿だと思うか?」
「それだけの馬鹿。じゃなきゃしないでしょこんな茶番」
「茶番だなんて心外だな」
マホの中で張り詰めていた何かが切れる音がした

この間、ロンは
「いざとなったら飛び込む算段で」
カズキの答えは一つ
「はい」

マホ、周りを180度見渡しながら
「それと付け足すけど娯楽やトレンドに振り回される業界の特に年配超えてる人間なんてこんなもんよ、あんまし変わらないから」
ノボリ「何度も折々言ってきたが、俺は…」
マホ「は〜いはいはい!聞かない!」
終わった過去は振り返らないどころか戻さないマホにしてみればもう、遠い記憶の中の関わりでしかない。かつての有名すぎるCMコピー
「恋は遠い日の花火ではない。Old is New.」だったか、
彼女にとってあれはさしづめ
「腐れ恋は遠い日に捨てた。Old was End.」辺りか



それより今のマホにはロンしかいない。
出会ったきっかけはマホの苦境だった。それは4年ほど前、今まで借り続けてくれていたベテランのイベンターたちが次々に引退したり、亡くなったりが続き、ホールそのものを所有・管理しているマホとしてはかなり頭が痛くなる状況が続いていた。食事はほぼ喉を通らず、常用のバファリンも効かない状態だったが、それでも誰にも、当然ノボリにも頼らなかった
そんな折、マサヤ(城雅也)からの紹介で、ロンという男からEメールが届いた
“mail_from:ロン(Isohara Ryu)(アドレス略)
初めまして、居酒屋とダーツバーを経営している磯原竜と申します。城雅也さんからあなたの窮状を知りました。今の僕ならあなたのお役に立てる確信があります。これから僕が書くキーワードに関心あれば連絡下さい。(以下略)”
マホは即座に案内を受ける旨返信した
“ご案内された案件、すべてとても関心があるものばかりです。是非とも詳しくご教示願います。”
ちなみにマホ所有の物件の多くはJR中央線、一部は山手線沿線にあり、各駅から遠くて6分圏内。利便性は高いほうに属する。
その後YouTuberやVTuberたちの動画撮影所レンタルや前者らのコロナ感染対策しながらのオフミーティングや、公開座談会、小説の一部や詩や短歌の朗読会、畳の間での寄席配信、コスプレ撮影会、中には◯烈や◯爆クラスのバンドメンバーのファン限定イベントなどにも貸し出せた。これで所有している物件全て手放さずに済んだ
難局を切り抜けお釣りも出た直後にロンからメールが
「困ったらいつでも僕を呼んでくださいね!」
マホは胸が一杯になるのを抑えきれなくなっていた。そこから互いに距離を縮め仲を深めるのに時間はかからなかった。後日マホからロンにこの件について聞くと、彼から「そりゃあ、あんなに真面目でしっかりした文面で来られたら…コッチも真剣に取り組まなきゃって思うよぴかぴか(新しい)愛してる🥰」



「そんないつまでもダラしない奴よりロンの方がちゃんと人間よ」と、マホは言い放った
言い終えたマホの中でロンの株が爆上がりしている
さらにマホはこうも
「あなたはね、いまのアタシを見・て・な・い・の!わかる?もういい加減に目を覚まして!ほら!」
見るに見兼ねあぐねていた状態だったロンが、ついに二人の間に割って入った。ロンが口を開き
「中村さん、今日のところはもう帰ってください。さあ」
「さあ」の直後にノボリが抱き込んで離さない猫を招き寄せ、スルリと懐へ。その手際のよさに思わず目を見開いたノボリ

さらにカズキがしゃしゃり出て、自分の持っているスマホ画面をノボリの目の前に突きつける
そこからノボリとマホのやり取りが…
カズキ「これ神奈川県警直通でしたよむふっ



帰りの車内でペチャクチャ
車はカズキが運転し
キャロルはマホの腕に戻り爆睡している
今はロンが自らのスマホで先ほど録った音声ファイルを県警に送っていた
ロンとカズキとマホの3人でノボリの憔悴しきった表情を思い出す度爆笑
ちなみに、ノボリが既に過去の人だからゴシップ誌も張りつかなかった
マホさんの口からポロッと
「ワタシが片付けなかったからイケナイの。パーティーはもちろん続ける。ワタシが元気な限り」
皆、心強さを感じた

何だかんだで無事帰還
マホは自邸の正面玄関に着くなり皆の真ん中に立ち、インターフォンを鳴らした
すぐに出たファロと目が合うなり飛びつかれ
「よかった、よかった。みんな!」


〈女子たちの先輩さかのぼり編・完〉


―― Materials ――
ホール経営について
賢者タイムと割れ目の間について
ノボリがつらつら考えたこと
「Masquerade」Trf
Des'lee You Gotta Be
「カンナ8号線」松任谷由実
『深夜のダメ恋図鑑』1巻 講談社
サントリーオールドCM
風吹あんなさんの旧ブログ
[男女のキャラ逆転で]『ビル・エヴァンスと過ごした最期の18か月』ローリー・ヴァホーマン著、山口三平訳 DiskUnion
[基本設定逆転で]『#9 ナンバーナイン』原田マハ 宝島社
猫の生態

コメント(2)

相変わらずキレのいい文章で、楽しく世界の中に入っていけました!
あまり馴染みのないダンサーの世界、なんというか、きらきらした感じが伝わってきました。そのきらきらな世界の中で繰り広げられるサスペンスな展開。なんというか、世界観とそのサスペンスさが、いい味&いい効果を出してるなぁと思いました。
登場人物が多いですが、冒頭にキャラの紹介が出てくるので、「そうか、あの人か」と確認することができてわかりやすかったです。
この登場人物たちの世界がすっかり出来上がっているのを感じます。だから、このリズム感のある文章や、生き生きしたセリフが生まれるのですね。ほかの人には書けない独特の作風の魅力を堪能しました。

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