半蔵門かきもの倶楽部コミュの第九十一回　文芸部Ａ　王都作「【パイロット版】プリテンダーズ・ロックンロール（下）」（テーマ選択「ココナッツ」「ロングコート」）

（上）の続きです

〈妹視点〉
"もぅマジで帰りたい。アラモアナセンターにも行けてないままずっと動かないし

"
型通りのやりとりに飽きた私は店内の非常灯をぼんやり見ながら
"兄貴ってば、説明し終わったらいつになく動作がぎこちなくってさ。普段はヘラヘラしながら流暢に話すくせに

それにしても、おじさんは兄貴に甘過ぎ

こんな人だなんて知らなかった…"
とか、ぼんやり考えていた、とホテルに戻る途中で並んだ本人へ長々と。つくづく嫌んなる悪い癖…
余りの怒りに思わず両手で自分の頭を掻きむしりたくなったが、パウダールームに入ってしばらく唸りながらも冷静に戻って止めた
…つもりでいたけど、おばさんから
「足元がノーエレガント。爪先開いて歩いちゃダメ」と言われてしまった

パウダールームから戻ると興が乗ったジェイムズが甲高い声で
「そういうときアソコのこと、XXXXXXって言ってますよね？」
"え？今何て！？？"
私は何でもいいから、話を遮って
「言わない言わない絶っっ対言わない！」
一瞬だけ場が静まった。伯父が私をクールにチラ見、おばさんは少しだけ軽く私を気に留めた
横にいる兄貴に目を移せば、想定外の横槍だったからか、すっかり黙っていた

〈奴(兄)視点〉
この後しばらく伯父と無駄話して興奮を静めようとしたが逆効果だったようで、伯母と妹から白けられてしまった。
内容はPenthouseやPLAYBOYの話に始まり、最近の動画やSNSのクールでホットな
ちなみにトレンドは仕事で事務的に見るだけ。要るからね
そして予想通り伯父からはニンマリと微笑まれ、女性陣から総スカンを喰らった
俺のスケベさは既に知られてしまっていたようだ
開き直った俺は冗談混じりに妹へ
「俺、ジゴロになろうかな？」
妹「やめろ！似合わない。へなちょこが

」
ジ「えへへ:-)」
妹はかなり投げやりな顔をした
と、そんな俺たちを優しく見守る伯父のコントラストが奇妙に存在する
一方で義伯母はすっかり呆れ返っていた
スマートフォンの時刻表示は、現地時間17時を少し過ぎていた

ほどなくして我々は店を出た
外は肌寒く、帰り際に伯母と妹の驚く声が聞こえた
どうやら二人のスプリングロングコートが取り違えられ、それぞれ相手のそれを渡されたらしい
おまけにそれらは、2014年春を先取りしたアイテムで同色、風合いもいっしょ
店内は少し暗めの照明に変わっていた

〈妹視点〉
来たときに店員に預け、帰り際に他の店員から渡されたレディースのスプリングロングコート

二人のコートが取り違えられたことに気づいた
去年、来春のトレンドデザインで同じ色と同じ風合い…
私が先に渡されたそれに袖を通して
感じた、マンダリンの香り
ローラ義伯母さんが後に渡されたそれに袖を通して
感じた、若い女性特有の汗の香り
気づいた瞬間、お互いに
「スミマセン！」言い合って
互いにコートを本来の持ち主へ戻した
同時に柔らかな雰囲気が出て
ともに笑い合った
店内は少し暗めの照明に変わっていた

〈奴(兄)＋伯父視点〉
置き去りされた男たちは顔を合わせ
ともに小首をかしげ、手のひらを横に外に広げ軽く引き上げた

ホテルへ帰る
俺ら野郎は何とも言えない後味の悪さがこびりつくように思え、地階にあるバーで黙々と飲み直した

――Materials――
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