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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第七十二回 あつし作「歌会始」(初詣・餅・駅伝)

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東京・中野にある日本酒バー≪パレスサイド≫には、
いつもの3人が陣取っていた。
≪パレスサイド≫はスツール5席だけの日本酒専門バーだ。

マスターの松永は棚から細身のボトル瓶を取り出し、
アルバイトの女子大生・いるかに渡す。

いるかは慣れた手つきで3つのワイングラスに注ぐと、
まず一番奥に座る和服姿の70代の客の前に置いた。

「今日は何だい?」
「春鹿の『秘蔵古酒』です」

松永の答えに満足げに頷き、
グラスを掲げ黄金色に輝く液体を愛でるように見つめる。

いるかは他の2人の前にもお酒を置いていく。

真ん中に筋肉が盛り上がったタンクトップ姿の30代。
入口近くには髪を七三に分けたスーツ姿の50代が座る。

「キリッとして深い!」
「辛口だけど奥にほんのり甘みがありますね」

春鹿は奈良にある老舗蔵元で『超辛口』で知られる。
『秘蔵古酒』は平成18年醸造の純米酒を常温貯蔵した熟成酒だ。

「私も、もらっていいですか」
いるかが首をかしげ、尋ねながら自分のワイングラスに注ぐ。

答えをもらう前に、もう呑んでるじゃないか。

松永はそう思ったが、3人のお客は満足げだ。
上下するいるかの白い喉に見とれている。
いるかのゆったりとしたセーターの首元から、
細い鎖骨と緩やかに隆起した胸元がのぞく。

「そろそろお始めになった方が」

皆の意識を逸らすように、松永は言う。
いるかは表向きはアルバイトということになっているが、
実は店のオーナーの姪っ子なのだ。
社会勉強を兼ねたお手伝いで、
アルバイト代もオーナーから出ている。
万が一のことがあっては、自分の首があぶない。

「そうじゃな、では新年最初の歌会・歌会始を行うとしよう」

和服姿の海老沢が言う。

元々は企業の会長を務める海老沢が、
趣味で始めた短歌を常連客の前で披露し始め、
いつの間にか常連客も短歌を詠むようになった。
今では月1回程度、歌会と称し短歌を披露しあっている。
言い出しっぺの海老沢が短歌の会でも会長だ。


・闇空をゆらゆら泳ぐ白い月一糸まとわぬ君に溺れる


詠み上げるとにやりと笑って、いるかを見る。

「いるか君の一糸纏わぬ姿を、
 死ぬまでに一度でいいから見てみたいものだ」
「いやーん、エビ会長ったらエッチ!」

海老沢の時代掛かった軽口を、いるかがさらりと受け流す。
エビ会長ならぬエロ会長である。


「次は僕が行きます!」
この男の声はイチイチ大きい。
肩の筋肉を盛り上げた中山、スポーツジムのインストラクター。


・焼きたてのパン屋に並ぶ柔らかなあたなのほっぺが輝いている


「どう、いるかちゃん?僕はいるかちゃんのほっぺが食べたいよ。」
「ほっぺなんて美味しくないよ」

いるかは少し天然でもある・・・。
エロ会長だけでなく、この男もいるか狙いなのだ。

「ちなみに"丸いもの"は何ですか」

眼鏡をキラリと輝かせ堅岡が尋ねる。
そう、毎回テーマを決めており、
今回は"丸いもの"がテーマになっているのだ。

「もちろん、まあるいほっぺだよ!」

脳みそまで筋肉で出来ているのだろうか。
松永は心の中で悪態をついた。


「いるか君のを聞きたいな」
エロ会長がいるかの気を自分に引き戻そうと言う。

「えっー、じゃあ、いるか行きま〜す」
いるかのノリも軽い・・・


・野球部が忘れていった校庭の隅に白球ひとつ落ちてる


いるかの甘ったるい声に、
松永は久しく忘れていた高校のグラウンドを思い出した。

「いるか君ともう一度青春時代を送りたい、儂と一緒に・・・」

エロ会長を遮るように、堅岡が言う。

「いるかさんの感性は本当に素晴らしい。感動しました。」
「ありがとう。先生の歌は?」

堅岡は予備校講師をやっているのだ。
いるかの言葉に頬を赤らめ、露骨に嬉しそうにしている。

くそ、歳の差を考えろ!松永は憤る。


・庭球のラリーのごとく言の葉を互いの間で通じ合わせる


「言葉も丸くありたいものです」

堅岡がしたり顔で言って、いるかを見つめる。
いるかは洗い物に専念していて、堅岡がはっきり肩を落とす。

松永が安心の息を吐くと、
いるかが突然こちらを振り向き驚かされる。

「じゃあ最後はマスター!」


・寝正月初詣も自粛する駅伝見ながらお餅をを食べて


「えー、丸いのが入ってないじゃん」
「丸くなったのは僕のお腹」

松永はお腹を出してぺろりと撫でる。

「やだー最低!」

と言い、いるかが松永の肩を軽く叩く。


いるかの触った部分がじんじん熱くなるのを胡麻化すように、

「今年も一年、変わらぬご愛顧を」

と松永は頭を下げた。

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