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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第21回 サイモン作『奔るメロス』

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メロスは激怒した。なんとなれば、かような暴虐無道な君主は
王ではない、王たる資格がない、速やかに除かねばならぬ
決意したメロスは真っ直ぐに王城を目指してズカズカと歩き出した。

しばらく行くとグイッと腕を掴む者がいる。
ギョッとしたメロスにむかって男は
「お若いの、そんなに急いでどこへ行くおつもりか?」
手を振りはらおうとするメロスだが、男の手はしっかりと掴んだまま
離れない。
「お主の知ったことではないわ、ええい手を離さぬか」
男は掴んだ手にギュッと力をこめて
「なにをしようとしているか、顔にデカデカと描いてあるぞ
それでは事は遂げられぬ、入り口で追い返されるだけだ、止めておけ」
顔に描いてある、と言われてメロスは思わず手で顔を撫でた。
「お主何者じゃ、おれになんの用がある」
男はうっすらと笑いながら
「悪いことは言わぬ、われについてまいれ」
不思議な威圧感に圧されて、メロスは大人しく男のあとについて行った。

つれて行かれたのは誰のものとも分からぬ大きな屋敷の離れである
それだけでもメロスの家の十倍はあろうか
メロスはそんな離れの一室に通され、すぐに酒と食べ物が用意された。
見目麗しい娘たちが幾人も側について酌をしてくれた。
村の娘たちとは較べものにならぬ、天女かと思われるような美しさで、
メロスはドギマギするばかりである。

しばらくして一人の男が部屋に入ってきた。
先ほどの男とは違い、もっと年配の落ち着いた威厳のある人物である。
男は問うた。
「名はなんという?」
自分はメロスという牧人で、妹の結婚式のために都に買い物に来て
二年ぶりの都がどうも以前と違う気がして、老爺を無理に問い詰めて
王の乱逆無残な悪政について聞き出し、怒り心頭に発し
王を刺してやろうと王城に向かったということを
酒の勢いも相まって、洗いざらいすべて話してしまった。

聞き終えた男は
「そなたこそ英雄の中の英雄である。ともに酒を酌み交わせること誇りに思うぞ」
メロスは恐縮しつつ
「で、あなたはどなた様で?」
「わしはそなたと同じく、この国を憂える者じゃ、残念ながら今の王では国のさきゆきが危うい」
「王がご自分のお身内や重臣の方々を殺した、というのは本当なのですか?」
男は重々しくうなずき
「なんとかせねばならぬ、メロスよわしに力を貸してくれるか?」
「わたしでよろしければ喜んで」

メロスはその日より屋敷にとどまり、男の言う機会を待つことになった。
都では年に一回盛大な祭りが催され、城の中庭が解放され市民が誰でも
入ることができた。
そのおり、王も市民の前に姿を見せるという。
その祭りがもうすぐだという。
だがメロスは日が経つにつれて恐ろしくなってきた。
あのときは一時の怒りにまかせて、王を殺そうと思ったりしたけれど
この屋敷の男のような、力のある者が王を問題としているなら
別に自分でなくても、他にいくらでも腕の立つ者がいるのではないか
暗殺でなくても、他に手はあるのではないか?
しかし、屋敷の男は毎晩のように小さな宴を催してはメロスを煽てあげ
必ずメロスの手で王を亡き者にするべく、釘を刺しているのであった。

メロスは心底恐ろしくなり、ある夜みなが寝静まった頃を見計らって
逃げ出すことにした。
身支度を整え部屋の外に出ると、その腕をグイッと掴む者がいる。
見ると最初の日にメロスを屋敷に連れてきた男である。
「お若いの、そんなに急いでどこへ行くおつもりか?」
とニヤリと笑った。
メロスは悲鳴を上げ
「ゆるしてくれ、人殺しはいやだ」
と泣き顔になると
「大人しく寝よ、明日の朝よいものを見せてやる」
と夜の闇に消えた。
他にも庭のあちこちに見張りがいるらしいのがわかった。

翌朝、メロスは朝食の後、昨夜の男と二人である小部屋に居ると
隣の部屋に幾人かの客人が通されたらしく、にぎやかに声がする
その声を聴いてメロスは隣にいるのが誰か、すぐにわかった。
妹とその結婚相手、そして親友のセリヌンティウスである。
思わず腰を浮かしかけたメロスだが、男がシッと声を立てないように
と指を一本口に当てた。
もう一方の手は腰にある短剣におかれている。
しばらくすると隣の人々は部屋を出て行った。
「お主の妹や友はこの先なに不自由なく暮らしてゆける
なにしろ国を救った英雄の身内なのだからな、ゆめゆめ逃げ出そうなどと思うまいぞ」
メロスは部屋の窓から、遠く屋敷の門を出てゆく妹や親友の姿を
黙って見送るしかなかった。

祭りの日、王は刺され落命した。
刺した男は捕えられ即座に処刑された。
王の幼い弟が跡を継ぎ
実権は一人の大臣が握ることになった。




コメント(10)

原作っぽい世界観がスリラー風になってて、短いこともあり、楽しんで読めました。
>>[1]
ありがとうございます
楽しんでいただけたなら幸いです
発想とかアイデアの元になる映画や作品がありますが
それら詳しいことは会のときに
英雄というものの意味を考えさせられますね。なんというか、得する人がたくさんいて虚しい感じがします。
発想の元となった作品が気になりますね!
明日、楽しみにしています。
短いのに見事だと思います。
最後の段落では敢えて、刺した男とか、一人の大臣とか、そういう言葉を使って表現されているので、余計に考えさせられる感じが表現されていました。
>おたけさん
>たかーきさん

明日楽しみですね

英雄が必要とされるような世ではないのが
平和な世だという思いがあります

最後あえてメロスでなく男が
としたのは
客観的にそれまでより少し引いた目線で書いたのと
刺した男がメロスとは限らない
という含みを持たせるためでした
詳しくは明日
短い作品の中に、ドラマティックな展開がコンパクトに表現されていて、見事だと思いました!起承転結がちゃんとあって、すごいなと思います。私も、最後の部分に余韻を感じて、やはりラストが素晴らしいなぁと感じております。
メロス、とは書いていないものの、
悲しい最期ですね…
自己犠牲の美学とも言いましょうか…
原作よりダークな雰囲気が良いと思います。
コンパクトにうまくまとめられていて、凝縮されているのに内容が充実していてスゴイ!と思いました。

何かメッセージ性もあるのかなと思っていたら、「英雄が必要とはされない方が平和な世の中」とのことで、なるほど納得させられました。
仮題『薔花紅蓮伝』
第二十三回の課題の前編です
これで半分の予定、タイトルも仮です
正式に決まったらこれ用のトピックを作ったほうがいいかな。



夜具の中になにかがもぐり込んできた。
布団を上げて見るとお腹のあたりで白い顔がこちらを見上げた。
「オンニ(韓国語でお姉ちゃん)、一緒に寝てもいい?」
「いいよ、おいで」
双子の妹スヨンは同じ年なのにひどく甘ったれだ。
二人別々の部屋で寝るようになってからも、度々夜中にわたしの寝床にもぐり込んでくる。
ズリ上がってきた妹を抱きしめた。
「怖いの?」
「ううん」
「なんでいつも一人で寝ないのよ」
スヨンは柔らかくて暖かくていい匂いがする。
生まれてから生きた年数は同じなのに、なんだかとっても幼く感じて
愛しくてしょうがない。
わたしが守ってあげなくちゃ、という気持ちになる。
「さっもう寝よ」
「・・・」
スヨンは黙ってうなづいた。


オンニとわたしは見た目はそっくりだ。
双子だから当然、なのかな。
髪型も示し合わせたわけでもないのに、同じ長さ、肩に届かないくらいで
揃えてる。
目の下にあるほくろの位置が左右逆なので、それがどちらかを見分ける目印に
なるのかな。
とにかく向かい合うと鏡を見ているような気になる。
でも性格は全然違う。
オンニはとてもはっきりした強気な性格で、物事ははっきり言うし、
決断も早いので行動も迅速だ。
わたしは全く逆で、すごく臆病で優柔不断だ。
物事をなかなか決められない。
いつも幼いころから、しっかりしたオンニの背中に、隠れていた記憶しかない。
大きくなって、一人づつの部屋を持つようになったけど、一人で寝るのは嫌だ。
特に、この家は夜静かすぎて、何か物音がする度にドキッとする。
オンニに抱きしめてもらうと安心して眠れる。
今日もオンニの為に呪文を唱えよう。


「タリタックム、タリタックム」
「なにそれ?」
「おまじない、なんでも願いがかなうの」
「スヨンたら、どこでそんなの覚えるのよ、で、なにをお願いしたの?」
「ないしょ」
スヨンは時々不思議なことを言う。
もっと子供のころは、見えない何かと話してるみたいに、一人でキャッキャッと
笑ったりしていた。
いつもちょっと知恵おくれかと思われるような、はっきりしない表情をしてるけど
実は物事をよく見ていて、記憶力もいい。
わたしが言って、忘れた言葉もちゃんと覚えてる。
だってオンニ言ったじゃない、てよく反撃される。
本を読むのも好きで、難しい言葉をよく知っている。
さっきの呪文も本で覚えたのかな。
「もう寝た?」
そっと囁いてみた。
黙ってるけど、きっとまだ起きてる。
でももうじき寝るだろう。
するとスウスウと可愛らしく、規則正しい寝息が聞こえるようになる。
それが聞こえる前に、きっとわたしも眠りに落ちるだろう。
心も体も、とても安心する、幸せなひととき。

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