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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第124回「地下鉄」(後編)マキオ作(連作)

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「おはよう、ございます」
今度は遥風から話しかけてみた。
「どうも」
彼はぶっきらぼうに挨拶をした。暫しの沈黙があった後、
「ここにはよく来るの?」
と彼は話しかけてきた。
「いえ、二回目ですね、」
遥風は今年三十歳になる。彼は年齢不詳で年下にも同い年にも年上にも見える。どう接するかを迷い、相手の年齢を尋ねる事にした。
「間違っていたら申し訳ないのですが、もしかして同じくらいですか」
「そうか?俺は先月、四十になった」
「え!見えないですね…二十台後半位かと思いました」
彼は、そんなに若く見えるか?と不思議そうに顔をしかめた。朝の陽ざしが入り込み、気持ちの良い風が吹いた。彼は少し遠くを見るような仕草をした。
「色々あったけどさ、この年になって思うのは、結局世の中って諦めの悪いやつが勝つんだよな」
「諦めが悪い?」
「好きな事とかを、途中で諦められない奴。諦めた奴は結果を残せていない。俺はそう思った」
良く分からないが、色々あったのだろう。
「そういう、ものなんですね。覚えておきます」
それから熱血漢な彼と、この前会った彼は似ているようで対照的だと思い、それが楽しくなってその話をしてみた。
「ふーん、確かに妙な体験ではあるな。もしも俺とそいつのどちらかが、あなたの妄想だとしたらどちらが本物だったら良いと思う?」
「何ですかそれは。決められないですよ。このまま、どちらもたまに会う公園の話し相手で良いじゃないですか」
「あなた幾つ?そんなお婆さんみたいな事を言って」
「穏やかに楽しいことが一番ですよ」
「違うね。いつか挑戦しないと本当に欲しいものは手に入らない」
彼は熱血漢らしくアツいことを言った。
「これはゲームだ。ここの鳥居をくぐる前に警備員がいただろ。彼にメモを渡すと良い。その爽やか青年はA、俺はB。どちらかを書いてメモを渡せば彼らは理解できるから不審がられる事は無い」
「そんな、そんなこととても考えられませんが、仮にそうしたとして、どうかなりますか」
「本物を当てられたら、そいつとは今後も楽しい話し相手の関係が続く。外したら、どちらもあなたの目の前から消える」
そう言い残して彼は去っていった。

 変な話だ。それに乗っかるのもおかしいだろう。遥風は深く考えずに時間を過ごした。
 それからたまにC社公園前に散歩へ行っても二人に会う事はなかった。毎日電車に揺られて、仕事をする。遥風はこのまま会えないならなにか行動をするべきではないか、暇つぶしにメモを警備員に渡しても良いのではないかと思った。「これはゲームだ」そうだ、これはただのゲームなのだから。
 あの話が本当だと仮定したら、どちらが本物なのだろう。当てるのは難しいとして、どちらとまた会いたいと思うのか。出来れば天秤にかけるようなことはしたく無く、どちらにもまた会いたいと思う。けれど選択を迫られる瞬間はいつでもやってくる。どういうことなのか知りたいし、ずっと悩んでいても先に進めないような気がする。

 遥風はメモに走り書きをして、会社に向かう途中で「C社公園前」で降り、受付の警備員にメモを渡した。確かに警備員は「ああ」と言った様子で不思議がる事もなかった。折角なので入っていこうと、一礼をして鳥居をくぐる。
 今日も葉の間から朝の光がきらきらと漏れて綺麗だ。砂利の感触を靴底に感じながら歩を進めると、向かい側から見覚えのある青年が歩いてきた。以前会ったことのある「爽やか青年」である。
「おはようございます。また会いましたね」
相変わらず青年は爽やかな笑顔を見せた。
「おはようございます。また会えるとは思いませんでした」
遥風はそう言って例のメモを頭に思い浮かべた。
「また話してみたいと思っていました。実は僕、始業時間が遅くなりましてね。良かったらもう少し遅い時間に散歩しませんか?」
遥風はそれを聞いて顔を曇らせた。今より遅い時間にすれば仕事に遅刻してしまう事になる。それはできないと思い、話した。
「そうか。残念です。それではさようなら」
青年は出口を目指して去っていった。

 その後、C社公園前を散歩しても彼らに会う事は無かった。
 毎朝電車に揺られて、地下鉄の住民を妄想する日々が続く。公園で会った彼らのうち、どちらが幻だったのか、どちらも妄想だったのか分からない。日常生活に深く関わらない程度で、爽やかな朝に他愛もない話をするという穏やかな時間は手に入らなかった。それでもまれに、あの不思議な体験、彼らの優しい雰囲気や熱血な話を思い出す。
 そうだ、ポジティブに捉えるのであれば、失くした事に意味があったのかもしれないとふと思った。(完)

コメント(3)

他愛もない朝の出会いの話がどう結実するのかと思ったら、ちょっと哲学的な展開に思わず唸りました…!
誰かと出会ったら、別の人とは出会えなくなり、誰かと別れたら誰かと出会える、のかもしれないですね

出会いの価値、重み、尊さのようなものを作品から感じました
>>[2]
コメントありがとうございます!

今日は楽しい時間をありがとうございました(^^)
マキオさんと話していて、文芸部に通い始めた頃の初心を思い出しました笑

恋愛系ではなくても、こういった展開の作品も素敵だと思います!
ぜひ、また文芸部でお話ししましょう〜

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