だがもう、自分でも、気づいている。環境が変わって、周りの人間が変わっても、俺が変わらなければ、同じことの繰り返しだ。どこに住むかで、残りの人生でやれることが変わるものじゃないだろう。 しかし、俺は何をしたらいいのだろう?子供がいない俺にとって金儲けはもう興味が無くなった。今の俺には、人の作った芸術を味わうか、自分で芸術をやるかしかしていない。芸術をするとき、時間は、あっという間に過ぎる。俺のしょうもない絵や、小説や、楽器にも、それなりに生みの苦しみはあり、一日は短い。だが、そんなことをやっていてどうなるというのだ。今更、売れることや、何十年も残ることは出来ないと分かっているし、仮に出来たとしても何の意味があるだろう。と、そこまで考えて、 「あ」 と声がでた。 人間には仕事や芸術だけじゃない、やる事があった。 恋。 なんだか少し嬉しくなり、 「まだ、捨てるのは、やめておこう」 と日本語でひとりごちた。 シンガポール人の女が不思議そうに目をあげて俺の方を見る。 これからも、しばらくはTokyoにいることにすると決めたら自然に「愛が全て」のサビを口ずさんでいた。 I can't give you anything But my love. But my love. すると、彼女も 「ワオ。Stylisticsね」と言い、 I can’t give you anything. But my love. But my love. とリフレインを合わせた。 終わり