ありそうでなさそうな話を書いて楽しむことは僕が求めていたことだった。
だから子供の時から作家になりたかったが、作家になるということは決して簡単でないとよくわかった。
それなりの進学校で国立文系コース、文芸部、物書きの真似事をしていた。
関西のＭ大学の文学部を受け、将来物書きになるんだからとあえて不利な世界史受験。
文学部というものを勘違いしてた・・・文章作法のような講座はそれほどなく、過去の古典や語学や歴史の授業があり、ほとんどの科目を優で終えたが小説家というのは小説を書かなきゃなれない。
文芸部のお遊びの短編を何本書いても難しい。高校と大学通して在学中にまとまった分量の小説を書くことは僕の才能では難しかった。
まずは給料生活をしたいとおもったから出版社を受けることにした。いずれ物書きになるならば、若いうちは編集者として作家さんに
ふれて彼らの文章を紡ぎだす様子を見させてもらって経験つみたいな・・・と。
しかし残念ながら、あちこちの大手出版社を受けどこも引っかからなかった。関西の大学は苦労して卒業しても東京ではすこし実力以下に見られる。
学チカが学問というには僕の大学はネームバリューが足りなかった。
ポルノ雑誌のようなもの出してるその方面で中堅出版社だけ少しひっかかったけど
人の性体験を架空の設定で文章を書けるかと課題を出され
なんとか書き上げたものの（その評価もそこそこいただけたようだが）これを続けて僕は
小説家になれるんだろうか・・・とうんざりして、辞退した。
そうやって僕がやっと職を得たのが東都スポーツ新聞だった。
知ってる人は「都スポ」と書いてミヤスポと呼び捨てる。
野球やサッカーのことがメインだが本当に新しい世間の事件は追わない娯楽新聞だ。
中年と壮年の男性が主な読者でいまでも娯楽として紙媒体で買う人もいる。
表紙と数ページはスポーツの話題だが、数ページめくると女性の裸だの（ほんといやらしい・・自分の会社がだしてるのにこれを電車の中で広げて眺めてる読者が信じられない）
メインの下衆な読者が望むページがあり、そのあとに
「宇宙人を見た」とか「くっしゃらこの首長竜くっしーはほんとにいた」
などなどありえない絵空ごとを娯楽としておいている。
自分にふさわしいところなのかもしれない。
フィクションを生み出して、スポーツと男女のことと同じくらいに面白いと誰かが眺めて
笑ってくれたり、楽しんでくれたらそれも僕程度の物書き志望の経験としていいかもしれない。いつか作家になるための自分の文章データを溜められるのも魅力だった
基本はスポーツの取材が好きな人が多いようで
とんでも噺を書いて経験つみたいです
と自己アピールしたら
ぜひ来てください と
絵空ごとといっても一応どっかで言われてた伝説だとかを下地にするので
取材もさせてもらえるのだそうでそこも僕の気に入った。
ミヤスポ で5年もいたら作家になれるかな・・・・そんな思いで
22歳の4月1日から、勤めはじめた
僕は3年近くここにいることになる
職場に可愛がられて興味のなかったスポーツもすこし記事が書けるようになった
そして頑張ろうと思ってたとんでも話（担当課がある その名もとんでも担当課）
苦労したがだんだん掛けるようになってきた。
毎日絵空ごとをかくことは大変だったが僕が書けなくてももともとやっていた先輩が
適当なUFO写真合成して楽しく書いてくれた。
僕が何個か描くものがあるから、だいぶ助かるらしい。
とんでも担当課の先輩たちは僕をとてもかわいがってくれた。
「実家はどこだね？年末年始帰らないのか？」
ととんでも担当課の課長で、もうちょっとで還暦に手が届くがっちりしたＫさん
「新人ですし、年明けに向けてとんでもを書きとめとかなきゃですし」
実はミヤスポのとんでもは年末年始には年内の面白かったのを再利用して
ほぼそのまま出す・・・・。定期購読する人もいないしだれも真実だと思ってないし
絶対にクレームはない。
でもアピールでなくてなんか面白いものを書きたかった。
「作家になりたいんだってな大邦くん。この時期も仕事してくれるってのならすこし新しいネタでも仕入れるか。
定番の河童の伝説を適当に探して適当な写真とか小話見つけて記事にしてみてくれないか？
予算20万で1週間国内どこでもいいから行っといで」
Ｋさんは骨休めのつもりで休みみたいな出張をくれたんだろう。
とはいえ似たようなとんでも話がたまりにたまったしかも定番の河童でどっかで取材してこいと
物書きになりたいなら適当になんかでっちあげてみなという宿題なのかもしれない。
こんなお遊び企画で骨休めさせてくれるんだ 給料安いけど居心地の良いミヤスポに
僕は本当に感謝した。
Ｋさんに有難うと思うと同時に僕はすこし気負ってきちんと仕上げたくなった。
Webや書籍を漁ってみた。
ミヤスポには仕事道具として大量の妖怪・UFO関連書籍がある。
電子化されてないので書庫に行っていちいち本を取ってみなければならないから
webで怪しげな河童の話をしらべてこの本に詳細があるというのを探してはデスクのコンピュータと書庫を往復した
新しいネタの仕込みなんだからまずはミヤスポの過去記事に被らないものをと探してみると
いろんなのがやっぱりある
お約束のようにでてくるのは岩手県遠野市土淵町
柳田国男が東北の伝承を集めた遠野物語で河童が赤いと書いている
遠野には河童捕獲許可証だのあれこれお土産グッズがあって観光地化してる。
もちろんそれはすでに先輩によって記事にされていた。
茨城、栃木、利根川流域に点在するほぼすべての河童伝説は網羅されていた。
人間に恋をして結婚した女の河童もいたとか（ねねこ河童、茨城県加納新田）
もちろんこれも記事になってる。
九州、山陰地方や中部も過去に先輩が行ってる。九州・山陰では河童が女性にとりついて、取りつかれた女性は男を誘惑するなんていかにもミヤスポの記事になりそうな
アレンジがされていた。いやそういう伝承があるのだろうか・・・
河童は赤いのもいる。女にとりついて男を誘惑する。知らなかったこともたくさん覚えて
もう河童博士になれた気分だ。
河童を目撃したって話はないのかな？どんな与太話でもいいけど
真偽を確かめる・・・とあれこれ探せば近くにはなんか河童石だとか
あるだろう。写真とって与太話を上かぶせにして仕事は完了だ。
できればおいしいものがあるところでせっかくもらったご褒美出張を
楽しくやろう。
そうこうしてると下関にある水産大学校での目撃談が異様に情報が多くて気を引いた。
webにはない情報で、ミヤスポの書庫にのみ存在する目撃談の投稿がある。
水産大学で夜の警備をしてた時に警備員自らが投稿したようで
当時の担当者が手書きの原文を封筒とともにクリアファイルに収めている。
1994年のとある日付で封筒には下関から投函したことがわかる消印ついていた。
（が僕にはミヤスポがこの手の話を公募してるのでそれに応じての好事家の投稿だと思われた。
ミャスポのとんでもファンは日本にいくらでもいるし、このくらいの細工はしてくる。）
警備員の手記の内容を要約するとこんな感じ。
-------------------------------------------
まず彼本人は警備会社がレスリングの全国大会に出場させるような
鍛えられた格闘技の選手だったらしい。
水産大学校というのは農林水産省が運営する大学で
国立大学と同じくらいの学費で通える、水産業に関わる食品のことや船の航海に関わることを学べる学校だ。
いずれ漁業航海や食品加工業に携わる学生が多く、港や生徒の乗る練習船を2隻擁し、
魚の養殖の研究もしてて、フグやハマチ（ブリ）などを育ててる池などがある
とても広いのである日は港の警備（不法侵入の外国の小型船がくることもある）や養殖場の海水池の警備（やはり外国小型船による魚の窃盗がある）
をする・・・、実際に危険を伴う可能性があるのと広い敷地をランニングかねて見回るので彼のような屈強な人が必要なのだ。
水産大学（略して水大）は年配の社員は警備を任されず、彼のようなスポーツ強化選手を集めて警備されていた。
彼はこの水大の学生が船を操り、クラブ活動でダイビング・遠洋フィッシングなど楽しそうに活動するさまをまぶしく眺めていたようだ。
若く30代にそろそろ手が届くころだったので学生たちが弟のように見えたという（ほとんど男子生徒である）。彼はこの警備先の水大を愛していたという。
そしてある深夜学生も教師もいないときに巡回していたときに彼はフグの養殖場に水しぶきをあげる音を聞いた。
駆けつけてみると身長160cmくらいの赤い皮膚をした女が全裸で泳いでいたという。
女は養殖場から飛び出るように水を蹴って警備員を怪力で押さえつけた。
女は豊満でスタイルの良い女だった。人間とまったく変わらない姿だったという。皮膚の色の違いをないものとすれば美しい女だったという。
ただ皮膚が赤かったと記されている。
鍛えられて力もあるはずの自分が、きゃしゃな赤い女の怪力に押さえつけられてなにもできなかった。
女は人語を解し、自身を河童と人の子だと言ったという。重ねて他言するなと言って警備員を解放した。
養殖フグが数匹減っていたらしい、フグの肝と思しきものが散らかっていた。
彼はフグの肝が捨てられていたと報告したが恐ろしかったのと信じてもらえないと思い警備会社の記録としては赤い女河童の記録は残さなかった。
養殖場は海に柵を設けて細かく管理されているが肝の数と消えたフグの数は一致したという。窃盗者がなぜ海の中に廃棄しなかったかは不明だ。
と記録した。何者かにフグが盗まれたとしても肝だけがその場で捨てられるのはおかしい。外人の窃盗なら肝を廃棄するはずはない。
が彼はなにも記録を残さなかった。
数か月経過して、彼は下関を離れる最後の日にこの封筒を投函したという。
赤い女から受けた辱めに耐えられずレスリングをやめるとの文で手記は締めくくられた。
受理した担当者がワープロで警備員のことを知ってること、しかもはその後の警備員の行方は知れないことも書き添えてある。
レスリングの選手で有名だったとのことで翌年のオリンピックに期待もされていたがもうその後彼を見る人はいなかったという。
そこまで書いて肝心の警備員の名前が書かれていなかった。
-------------------------------------------
レスリングの選手が身長160の女に組み伏せられたことが辱めなのだろう。華奢な女と書いてあったがどういうことだろう・・・
タダの人かもしれないし、でも小柄な女性がレスリングの強化選手を押さえつけることができるだろうか・・・ってかそもそもこの封書がほんとのものか・・・
作り話にしちゃちょいと現場の描写が詳細だし・・・
妖怪なんていない・・・とおもって絵空ごとを描いてやろうと思って生きてるから
人の頭ですらすらと出てくる絵空ごとの限界がわかる。
細部のリアリティだ。それがあるとありえないことがあるようにみえる。
ミヤスポのファンの単なる好事家の投稿ならおいしく使わせてもらえばいいが
何かが足りないから、僕ら担当課が味付けしてちょっとでもリアルにする・・・のが難しいが、これは素人が書いてあそびで書いたようにみえず、まるで真実を暴かれたがってる手記のようにも見える。丁寧で人柄を感じさせられる手書きの文面もとても好感した。
さて記述内容もどうだろう。160�僂浪脇犬箸靴討呂�なり大きい部類だ。（室町時代から河童の記録はあるが皆60-150cm程度になる。一応範囲に収まってる。）
河童が赤いというのも面白い。皆のイメージにあるように伝承の河童は緑や青黒いとされることがしばしばだが遠野物語など含め、江戸明治にかかる目撃談や
地方の語り部はしばしばそれを赤かったという。明治ころにありそうな目撃談とは合致する…。
普通の女性の姿というのと人間との混血というのも変わってる。やせぎすで青黒いというのはむしろ見たことのない人が想像してるのか・・・
そして三十年ほど前の河童目撃談はかなりあたらしい
昭和の中期（終戦直後）くらいまでには河童もつちのこもなかなか「発見」されなくなってきた。
ミヤスポってすごい新聞社なのかもしれない。1994年って平成だよね・・・このころにまだ河童見たって誰かの報告受け取ってるんだから・・・
妖怪は誰かがどっかにいてほしいと思う存在なのか・・・
世間には1974年（昭和49年）に遠野市に最後の河童目撃談があるが、僕はそのあとになる平成の目撃談に触れたらしい。
科学万能の時代に最後の河童をみつけたのか、それとも昭和の断末魔でちょっと平成にかかった壮大な与太話か・・・
コピー機で手記をコピーして、業務用と自宅のPCにスキャンデータも送った。
まがいものを扱う会社は機密情報などというものを気にしなくていいのがうれしい。
課長のＫさんには下関にいきますと伝えた。理由も聞かれなかったがすこし間が空いてから
「あそこはフグがうまいよ。予算に収まれば好きなことしていいからね。とにかく一つ話をでっちあげてくること＾＾」
と・・・
僕は水大にすぐ向かってみたがいきなりどこかに連絡する前に警備員さんの制服と会社名を見ることにした。手記にあったような若い人ばかりでなく門に突っ立っているだけの年配の方もいる。
キャンパスはとにかくひろい、特になにも言われず門をくぐることができた。
Ｓ警備保障、会社の名前が分かった。
下関支社はすぐ近く（水大は下関の吉見という中心から離れたところにある）
手記のコピーをもって「突然すみません。東都スポーツの記者なのですが・・・」
といきさつを話してみた
「河童かもしれないものをみたという30年前のこちらの社員さんの手記を頼りにこちらに来ました。
差し支えない範囲でいいのでこちらに合致する警備の記録がないかと照会させていただけませんか？」
大笑いされた。ほとんどはのんきな年配の方たちで「あの新聞の妖怪記事ってまじめに取材する記者さんがいるんだ」と受けていた。
「いやあ、なんかいつもおわかりのように適当な記事なんですけどね・・・
こんなにちゃんとした取材させてもらってるのははじめてです。」
平成初頭の消印のある封書が僕にまじめな仕事をさせたのかもしれない。
まじめに取材してんのかと笑われたのがすこしはらだたしくなったが胸の張れる会社でもない・・・卑屈に愛想笑いを浮かべてた。
何も取材せずとも与太話を書けばいいのだけど赤い女（河童？）の怪は解いておきたかった。
「失礼ですよっ！」そういって立ち上がって年配のガードマンたちに言い放った女性がいた
髪を真っ赤に染めていたのが印象的な華奢で若くて美しい女性だった。
「河伯さん、どうしたの？」
「そういえば河伯さんっていつもミヤスポ読んでるね・・・そんなエロいおっさん読むような・・・」
ガードマンたちがつぎつぎに驚きなのか彼女に言う
え？ミヤスポ読んでるの？
「私はこの新聞の妖怪の記事が好きなんです。毎回毎回よく書くなって感心しています。
こんな地方までほんとに足を運んでなんか証拠なのか集めてすごいじゃないですか」
「あ・・・、ありがとうございます」僕は最敬礼のように腰を折ってお辞儀していった。
ガードマンたちも言ってた そういやそうだよな うそだあほだといっても面白いよあんたらの記事・・・
そんな言葉が僕をそしてたぶん30年前の警備員を癒したのではないか・・・
30年前の記録を探すのはその女性河伯さんが記録庫に同行してくれることになった
15年くらいならすべて電子化されているのだそうだけどあるとしたら紙媒体でファイルになっているだけだろうと。
古すぎて記録はないかもしれない。東京の本社だったら紙媒体の情報は連携されていないから
探す場所としては最適のところに来たと河伯さんは言ってくれた。
だが実際に窃盗事件が起きてたのならその日だけ残っている可能性もあるとのこと。
「さきほどはありがとうございました。」
「いえあの人たちが失礼で腹がたちました。私、古い妖怪たちの話がすきでUMA（未確認生物）のファンです。」
「あはは、僕はありもしない物語を紡いでみたくてスポーツ得意じゃないのにあの会社に入りました。かなりあのコーナーの記事を書かせてもらっております」
「なぜ河童でこちらに？河童なら東北か九州などが本場かと思ったのですが」
「先ほどお見せした封書のコピーがうちの新聞社に届けられたのが30年前らしいんですが、ここにいた社員さんがかなり克明に様子を知らせてくれているんです。
・・・って僕もほんとだと思ってるわけではないのですが、なんだか書いてあることが真に迫っててうそかほんとかより、一応できるところまで裏を取ってみたかったんです
仕事なのでなにもなくても物語を紡がなければなりません。」
1994年８月に封書は届いた数か月というが念のため1993年あるいは1992年くらいまではさかのぼらせてほしいと伝えた。
「どうぞ気のすむまで見てください。万が一個人情報のようなものがあればその扱いは上のものに相談させてください。」
「ありがとうございます。あのお礼と言っては何ですが・・・出張で上司がすごく予算を出してくれました。僕お店もよく知らないのですけど
よかったら、調査終わったらどこか名物のフグ料理屋さんでもご招待させていただけませんですか？」
勇気を振り絞って言った。美人で口説かれ慣れてるだろうし、ひょっとしたら既婚者かもしれない。
彼女はすこし沈黙。
「あ、もしご家族とか旦那さんとかいらっしゃるなら、ぜひご一緒にどうぞ」
彼女は笑みを浮かべて
「私は独身で一人暮らしです。ありがとうございます。フグ料理下関に住んでて食べたことないんです。お言葉に甘えちゃおうかしら」
「ありがとうございます。なんかうれしいです。」
「私は事務所に戻っております。ガードマンの方たちはもう現場のパトロールに回りますが事務所に一人でおりますのでお帰りの際は立ち寄ってください」
僕は礼をいって深々と頭を下げた。
記録は意外と残っている。何もない日も普通に、何もなかったということも記録に残しておきたいのだろうか
牧歌的な内容で自由記述欄には学生たちとこんな声かけをしたとか
練習船からどんな魚が上がったとか、学生から聞いた遠洋航海の目的地とか・・・
そんなことが書いてある。
たまに外国籍の船と乗務員が侵入していたとか、そんなことが記録されている。がレアケースだった。
少し後の記録を見ると監視のモニターリングシステムが導入されて侵入者は激減している。
その前後で日報の記録者の名前がどんどん変わっていった。自由記述も減っていく。
今のガードマンたちが手記のように若くなかったのは侵入と窃盗がシステムによって減らされていたからと考えれば
話は合う可能性がある。このころのガードマンは手記のように若かったのかもしれない。
逆にさかのぼっていくことにした。
あった・・・・1994年1月15日
フグの肝が散乱、報告者 え？ 偶然だろうか？ とんでも担当課の課長のＫさんと同姓同名だった。
しかもこれより後には 名前を見ない。
前には・・・たくさんある。自由記述もいきいきと・・・・。
僕はフグの養殖場の警備記録ばかり見ていたが
ブリ養殖場も港も練習船も（停泊時には警備員が点検していたようだ）
みてみたらこの報告者の名前は1月15日を境に後には全く見られず
前にはどのゾーンにも必ずみられて、活発な自由記述欄の書込みをしている。
この記事だ。僕は1994年1月15日の記事の写真をとってクラウドに載せて、会社と個人PCの両方にも送った。
「面白い話になりそうです。後で記事にします。なぜかＫさんと同じ人の名前みつけました。」と課長のＫさんにもメールを送っておいた。
彼が書いた日報はなんでもないその前のものもいくつかとってみた。
個人情報・・・があるとするとKさんと同姓同名の人名しかない。
だけどこの人がいまどこで生きているのか死んでいるのか含めて彼はこれを白日の下に
さらしたいのではないのか？先ほどの嘲笑を耐えてでもこの情報にたどり着けたことがうれしかったし
これを記事にするのは僕の使命のような気がしたのだ。
S警備保障から万が一これは公開できないと言われたときに
この人（Ｋさん）に連絡とって了承して記事にすることは可能だろう。
改めて記事を見ると
フグの肝が散乱していた場所も略図で示してあり、
彼自身はなぜか養殖場の海水を全身に浴びてしまったと不要な記述を書いてある。
差出人不明の30年前の封書はたしかにこの人によって書かれたのだとおもう。
彼なりに河童？なのか怪力女に襲われて恐れていながらも状況証拠を残したのだろう。
女との格闘で濡れた衣服のことを記したのだろうとおもう。
与太話を仕込むにしては不可解で手記がさきに情報くれなかったら想像もできなかった。
1月15日以後の記事で特に直近の内容に気を付けてみてみた
同僚がいなくなったのだ・・・誰かがなんか記録を残してなかったか・・・
なにも連絡もしなかったら どうしたんだろうくらい書くだろうし
最後の日彼がどうだったろう。。。とか
あるいはいまいる年配のガードマンの中に彼の同僚だった人はいないだろうか・・・とも
入れ替わった人も今いる人もいるだろう。
もうガードマンは帰ってしまったかもしれないが、このころの直後の日記をしらべてもＫさんのことは書かれていなかったが
その後ずっと名前のある社員は数名見つかってさきほど事務所であった人もいたようだが、Ｋさんは最後の日にいやな思いをしたのかもしれない
伏せておこう・・・と結論付けた。
そしたら課長のＫさんから電話があった
「大邦くん、まさか水大に行ってたんだね」
「はい。どうされました？」
「さっきの写真の日報・・・あれは僕なんだ。」
「え？」
「書庫に僕の手記があったんだね。何十年も務めてる僕も気づかない書類を見つけてしまったのは君のまじめさだった。
なぜ下関にと思っていたが、僕も自分の投稿が会社に残っていると思わなかった。そもそもきちんと保管されたのかも疑わしかった。
探して見つからなかったし自分の名前を残していなかったからつながると思わなかった」
「Ｋさん。手記は事実ですか？そしてそれを公表してほしいですか？」
「・・・河童との混血といった赤い女は実在した。鍛え上げた僕が微動だにできなかった。おそらく人間でない。まだ君が知らない事実がある。
公表してほしいか？わからない どうでもよかったが誰かにこの事実を知ってほしかった。
君に事実を知ってもらえてもう十分だ。なにも見つからなかったと言ってそのまま帰ってくればいい。」
「華奢な女性に敗れたことがレスリングをやめた理由ですか？
怪物だったら仕方ないし、命とりとめたのだから続ければよかったんじゃないですか？」
「僕は尻子玉を抜かれそうになったんだよ・・・」
「尻子玉！？」
「そうだ尻子玉だ。」
だから子供の時から作家になりたかったが、作家になるということは決して簡単でないとよくわかった。
それなりの進学校で国立文系コース、文芸部、物書きの真似事をしていた。
関西のＭ大学の文学部を受け、将来物書きになるんだからとあえて不利な世界史受験。
文学部というものを勘違いしてた・・・文章作法のような講座はそれほどなく、過去の古典や語学や歴史の授業があり、ほとんどの科目を優で終えたが小説家というのは小説を書かなきゃなれない。
文芸部のお遊びの短編を何本書いても難しい。高校と大学通して在学中にまとまった分量の小説を書くことは僕の才能では難しかった。
まずは給料生活をしたいとおもったから出版社を受けることにした。いずれ物書きになるならば、若いうちは編集者として作家さんに
ふれて彼らの文章を紡ぎだす様子を見させてもらって経験つみたいな・・・と。
しかし残念ながら、あちこちの大手出版社を受けどこも引っかからなかった。関西の大学は苦労して卒業しても東京ではすこし実力以下に見られる。
学チカが学問というには僕の大学はネームバリューが足りなかった。
ポルノ雑誌のようなもの出してるその方面で中堅出版社だけ少しひっかかったけど
人の性体験を架空の設定で文章を書けるかと課題を出され
なんとか書き上げたものの（その評価もそこそこいただけたようだが）これを続けて僕は
小説家になれるんだろうか・・・とうんざりして、辞退した。
そうやって僕がやっと職を得たのが東都スポーツ新聞だった。
知ってる人は「都スポ」と書いてミヤスポと呼び捨てる。
野球やサッカーのことがメインだが本当に新しい世間の事件は追わない娯楽新聞だ。
中年と壮年の男性が主な読者でいまでも娯楽として紙媒体で買う人もいる。
表紙と数ページはスポーツの話題だが、数ページめくると女性の裸だの（ほんといやらしい・・自分の会社がだしてるのにこれを電車の中で広げて眺めてる読者が信じられない）
メインの下衆な読者が望むページがあり、そのあとに
「宇宙人を見た」とか「くっしゃらこの首長竜くっしーはほんとにいた」
などなどありえない絵空ごとを娯楽としておいている。
自分にふさわしいところなのかもしれない。
フィクションを生み出して、スポーツと男女のことと同じくらいに面白いと誰かが眺めて
笑ってくれたり、楽しんでくれたらそれも僕程度の物書き志望の経験としていいかもしれない。いつか作家になるための自分の文章データを溜められるのも魅力だった
基本はスポーツの取材が好きな人が多いようで
とんでも噺を書いて経験つみたいです
と自己アピールしたら
ぜひ来てください と
絵空ごとといっても一応どっかで言われてた伝説だとかを下地にするので
取材もさせてもらえるのだそうでそこも僕の気に入った。
ミヤスポ で5年もいたら作家になれるかな・・・・そんな思いで
22歳の4月1日から、勤めはじめた
僕は3年近くここにいることになる
職場に可愛がられて興味のなかったスポーツもすこし記事が書けるようになった
そして頑張ろうと思ってたとんでも話（担当課がある その名もとんでも担当課）
苦労したがだんだん掛けるようになってきた。
毎日絵空ごとをかくことは大変だったが僕が書けなくてももともとやっていた先輩が
適当なUFO写真合成して楽しく書いてくれた。
僕が何個か描くものがあるから、だいぶ助かるらしい。
とんでも担当課の先輩たちは僕をとてもかわいがってくれた。
「実家はどこだね？年末年始帰らないのか？」
ととんでも担当課の課長で、もうちょっとで還暦に手が届くがっちりしたＫさん
「新人ですし、年明けに向けてとんでもを書きとめとかなきゃですし」
実はミヤスポのとんでもは年末年始には年内の面白かったのを再利用して
ほぼそのまま出す・・・・。定期購読する人もいないしだれも真実だと思ってないし
絶対にクレームはない。
でもアピールでなくてなんか面白いものを書きたかった。
「作家になりたいんだってな大邦くん。この時期も仕事してくれるってのならすこし新しいネタでも仕入れるか。
定番の河童の伝説を適当に探して適当な写真とか小話見つけて記事にしてみてくれないか？
予算20万で1週間国内どこでもいいから行っといで」
Ｋさんは骨休めのつもりで休みみたいな出張をくれたんだろう。
とはいえ似たようなとんでも話がたまりにたまったしかも定番の河童でどっかで取材してこいと
物書きになりたいなら適当になんかでっちあげてみなという宿題なのかもしれない。
こんなお遊び企画で骨休めさせてくれるんだ 給料安いけど居心地の良いミヤスポに
僕は本当に感謝した。
Ｋさんに有難うと思うと同時に僕はすこし気負ってきちんと仕上げたくなった。
Webや書籍を漁ってみた。
ミヤスポには仕事道具として大量の妖怪・UFO関連書籍がある。
電子化されてないので書庫に行っていちいち本を取ってみなければならないから
webで怪しげな河童の話をしらべてこの本に詳細があるというのを探してはデスクのコンピュータと書庫を往復した
新しいネタの仕込みなんだからまずはミヤスポの過去記事に被らないものをと探してみると
いろんなのがやっぱりある
お約束のようにでてくるのは岩手県遠野市土淵町
柳田国男が東北の伝承を集めた遠野物語で河童が赤いと書いている
遠野には河童捕獲許可証だのあれこれお土産グッズがあって観光地化してる。
もちろんそれはすでに先輩によって記事にされていた。
茨城、栃木、利根川流域に点在するほぼすべての河童伝説は網羅されていた。
人間に恋をして結婚した女の河童もいたとか（ねねこ河童、茨城県加納新田）
もちろんこれも記事になってる。
九州、山陰地方や中部も過去に先輩が行ってる。九州・山陰では河童が女性にとりついて、取りつかれた女性は男を誘惑するなんていかにもミヤスポの記事になりそうな
アレンジがされていた。いやそういう伝承があるのだろうか・・・
河童は赤いのもいる。女にとりついて男を誘惑する。知らなかったこともたくさん覚えて
もう河童博士になれた気分だ。
河童を目撃したって話はないのかな？どんな与太話でもいいけど
真偽を確かめる・・・とあれこれ探せば近くにはなんか河童石だとか
あるだろう。写真とって与太話を上かぶせにして仕事は完了だ。
できればおいしいものがあるところでせっかくもらったご褒美出張を
楽しくやろう。
そうこうしてると下関にある水産大学校での目撃談が異様に情報が多くて気を引いた。
webにはない情報で、ミヤスポの書庫にのみ存在する目撃談の投稿がある。
水産大学で夜の警備をしてた時に警備員自らが投稿したようで
当時の担当者が手書きの原文を封筒とともにクリアファイルに収めている。
1994年のとある日付で封筒には下関から投函したことがわかる消印ついていた。
（が僕にはミヤスポがこの手の話を公募してるのでそれに応じての好事家の投稿だと思われた。
ミャスポのとんでもファンは日本にいくらでもいるし、このくらいの細工はしてくる。）
警備員の手記の内容を要約するとこんな感じ。
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まず彼本人は警備会社がレスリングの全国大会に出場させるような
鍛えられた格闘技の選手だったらしい。
水産大学校というのは農林水産省が運営する大学で
国立大学と同じくらいの学費で通える、水産業に関わる食品のことや船の航海に関わることを学べる学校だ。
いずれ漁業航海や食品加工業に携わる学生が多く、港や生徒の乗る練習船を2隻擁し、
魚の養殖の研究もしてて、フグやハマチ（ブリ）などを育ててる池などがある
とても広いのである日は港の警備（不法侵入の外国の小型船がくることもある）や養殖場の海水池の警備（やはり外国小型船による魚の窃盗がある）
をする・・・、実際に危険を伴う可能性があるのと広い敷地をランニングかねて見回るので彼のような屈強な人が必要なのだ。
水産大学（略して水大）は年配の社員は警備を任されず、彼のようなスポーツ強化選手を集めて警備されていた。
彼はこの水大の学生が船を操り、クラブ活動でダイビング・遠洋フィッシングなど楽しそうに活動するさまをまぶしく眺めていたようだ。
若く30代にそろそろ手が届くころだったので学生たちが弟のように見えたという（ほとんど男子生徒である）。彼はこの警備先の水大を愛していたという。
そしてある深夜学生も教師もいないときに巡回していたときに彼はフグの養殖場に水しぶきをあげる音を聞いた。
駆けつけてみると身長160cmくらいの赤い皮膚をした女が全裸で泳いでいたという。
女は養殖場から飛び出るように水を蹴って警備員を怪力で押さえつけた。
女は豊満でスタイルの良い女だった。人間とまったく変わらない姿だったという。皮膚の色の違いをないものとすれば美しい女だったという。
ただ皮膚が赤かったと記されている。
鍛えられて力もあるはずの自分が、きゃしゃな赤い女の怪力に押さえつけられてなにもできなかった。
女は人語を解し、自身を河童と人の子だと言ったという。重ねて他言するなと言って警備員を解放した。
養殖フグが数匹減っていたらしい、フグの肝と思しきものが散らかっていた。
彼はフグの肝が捨てられていたと報告したが恐ろしかったのと信じてもらえないと思い警備会社の記録としては赤い女河童の記録は残さなかった。
養殖場は海に柵を設けて細かく管理されているが肝の数と消えたフグの数は一致したという。窃盗者がなぜ海の中に廃棄しなかったかは不明だ。
と記録した。何者かにフグが盗まれたとしても肝だけがその場で捨てられるのはおかしい。外人の窃盗なら肝を廃棄するはずはない。
が彼はなにも記録を残さなかった。
数か月経過して、彼は下関を離れる最後の日にこの封筒を投函したという。
赤い女から受けた辱めに耐えられずレスリングをやめるとの文で手記は締めくくられた。
受理した担当者がワープロで警備員のことを知ってること、しかもはその後の警備員の行方は知れないことも書き添えてある。
レスリングの選手で有名だったとのことで翌年のオリンピックに期待もされていたがもうその後彼を見る人はいなかったという。
そこまで書いて肝心の警備員の名前が書かれていなかった。
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レスリングの選手が身長160の女に組み伏せられたことが辱めなのだろう。華奢な女と書いてあったがどういうことだろう・・・
タダの人かもしれないし、でも小柄な女性がレスリングの強化選手を押さえつけることができるだろうか・・・ってかそもそもこの封書がほんとのものか・・・
作り話にしちゃちょいと現場の描写が詳細だし・・・
妖怪なんていない・・・とおもって絵空ごとを描いてやろうと思って生きてるから
人の頭ですらすらと出てくる絵空ごとの限界がわかる。
細部のリアリティだ。それがあるとありえないことがあるようにみえる。
ミヤスポのファンの単なる好事家の投稿ならおいしく使わせてもらえばいいが
何かが足りないから、僕ら担当課が味付けしてちょっとでもリアルにする・・・のが難しいが、これは素人が書いてあそびで書いたようにみえず、まるで真実を暴かれたがってる手記のようにも見える。丁寧で人柄を感じさせられる手書きの文面もとても好感した。
さて記述内容もどうだろう。160�僂浪脇犬箸靴討呂�なり大きい部類だ。（室町時代から河童の記録はあるが皆60-150cm程度になる。一応範囲に収まってる。）
河童が赤いというのも面白い。皆のイメージにあるように伝承の河童は緑や青黒いとされることがしばしばだが遠野物語など含め、江戸明治にかかる目撃談や
地方の語り部はしばしばそれを赤かったという。明治ころにありそうな目撃談とは合致する…。
普通の女性の姿というのと人間との混血というのも変わってる。やせぎすで青黒いというのはむしろ見たことのない人が想像してるのか・・・
そして三十年ほど前の河童目撃談はかなりあたらしい
昭和の中期（終戦直後）くらいまでには河童もつちのこもなかなか「発見」されなくなってきた。
ミヤスポってすごい新聞社なのかもしれない。1994年って平成だよね・・・このころにまだ河童見たって誰かの報告受け取ってるんだから・・・
妖怪は誰かがどっかにいてほしいと思う存在なのか・・・
世間には1974年（昭和49年）に遠野市に最後の河童目撃談があるが、僕はそのあとになる平成の目撃談に触れたらしい。
科学万能の時代に最後の河童をみつけたのか、それとも昭和の断末魔でちょっと平成にかかった壮大な与太話か・・・
コピー機で手記をコピーして、業務用と自宅のPCにスキャンデータも送った。
まがいものを扱う会社は機密情報などというものを気にしなくていいのがうれしい。
課長のＫさんには下関にいきますと伝えた。理由も聞かれなかったがすこし間が空いてから
「あそこはフグがうまいよ。予算に収まれば好きなことしていいからね。とにかく一つ話をでっちあげてくること＾＾」
と・・・
僕は水大にすぐ向かってみたがいきなりどこかに連絡する前に警備員さんの制服と会社名を見ることにした。手記にあったような若い人ばかりでなく門に突っ立っているだけの年配の方もいる。
キャンパスはとにかくひろい、特になにも言われず門をくぐることができた。
Ｓ警備保障、会社の名前が分かった。
下関支社はすぐ近く（水大は下関の吉見という中心から離れたところにある）
手記のコピーをもって「突然すみません。東都スポーツの記者なのですが・・・」
といきさつを話してみた
「河童かもしれないものをみたという30年前のこちらの社員さんの手記を頼りにこちらに来ました。
差し支えない範囲でいいのでこちらに合致する警備の記録がないかと照会させていただけませんか？」
大笑いされた。ほとんどはのんきな年配の方たちで「あの新聞の妖怪記事ってまじめに取材する記者さんがいるんだ」と受けていた。
「いやあ、なんかいつもおわかりのように適当な記事なんですけどね・・・
こんなにちゃんとした取材させてもらってるのははじめてです。」
平成初頭の消印のある封書が僕にまじめな仕事をさせたのかもしれない。
まじめに取材してんのかと笑われたのがすこしはらだたしくなったが胸の張れる会社でもない・・・卑屈に愛想笑いを浮かべてた。
何も取材せずとも与太話を書けばいいのだけど赤い女（河童？）の怪は解いておきたかった。
「失礼ですよっ！」そういって立ち上がって年配のガードマンたちに言い放った女性がいた
髪を真っ赤に染めていたのが印象的な華奢で若くて美しい女性だった。
「河伯さん、どうしたの？」
「そういえば河伯さんっていつもミヤスポ読んでるね・・・そんなエロいおっさん読むような・・・」
ガードマンたちがつぎつぎに驚きなのか彼女に言う
え？ミヤスポ読んでるの？
「私はこの新聞の妖怪の記事が好きなんです。毎回毎回よく書くなって感心しています。
こんな地方までほんとに足を運んでなんか証拠なのか集めてすごいじゃないですか」
「あ・・・、ありがとうございます」僕は最敬礼のように腰を折ってお辞儀していった。
ガードマンたちも言ってた そういやそうだよな うそだあほだといっても面白いよあんたらの記事・・・
そんな言葉が僕をそしてたぶん30年前の警備員を癒したのではないか・・・
30年前の記録を探すのはその女性河伯さんが記録庫に同行してくれることになった
15年くらいならすべて電子化されているのだそうだけどあるとしたら紙媒体でファイルになっているだけだろうと。
古すぎて記録はないかもしれない。東京の本社だったら紙媒体の情報は連携されていないから
探す場所としては最適のところに来たと河伯さんは言ってくれた。
だが実際に窃盗事件が起きてたのならその日だけ残っている可能性もあるとのこと。
「さきほどはありがとうございました。」
「いえあの人たちが失礼で腹がたちました。私、古い妖怪たちの話がすきでUMA（未確認生物）のファンです。」
「あはは、僕はありもしない物語を紡いでみたくてスポーツ得意じゃないのにあの会社に入りました。かなりあのコーナーの記事を書かせてもらっております」
「なぜ河童でこちらに？河童なら東北か九州などが本場かと思ったのですが」
「先ほどお見せした封書のコピーがうちの新聞社に届けられたのが30年前らしいんですが、ここにいた社員さんがかなり克明に様子を知らせてくれているんです。
・・・って僕もほんとだと思ってるわけではないのですが、なんだか書いてあることが真に迫っててうそかほんとかより、一応できるところまで裏を取ってみたかったんです
仕事なのでなにもなくても物語を紡がなければなりません。」
1994年８月に封書は届いた数か月というが念のため1993年あるいは1992年くらいまではさかのぼらせてほしいと伝えた。
「どうぞ気のすむまで見てください。万が一個人情報のようなものがあればその扱いは上のものに相談させてください。」
「ありがとうございます。あのお礼と言っては何ですが・・・出張で上司がすごく予算を出してくれました。僕お店もよく知らないのですけど
よかったら、調査終わったらどこか名物のフグ料理屋さんでもご招待させていただけませんですか？」
勇気を振り絞って言った。美人で口説かれ慣れてるだろうし、ひょっとしたら既婚者かもしれない。
彼女はすこし沈黙。
「あ、もしご家族とか旦那さんとかいらっしゃるなら、ぜひご一緒にどうぞ」
彼女は笑みを浮かべて
「私は独身で一人暮らしです。ありがとうございます。フグ料理下関に住んでて食べたことないんです。お言葉に甘えちゃおうかしら」
「ありがとうございます。なんかうれしいです。」
「私は事務所に戻っております。ガードマンの方たちはもう現場のパトロールに回りますが事務所に一人でおりますのでお帰りの際は立ち寄ってください」
僕は礼をいって深々と頭を下げた。
記録は意外と残っている。何もない日も普通に、何もなかったということも記録に残しておきたいのだろうか
牧歌的な内容で自由記述欄には学生たちとこんな声かけをしたとか
練習船からどんな魚が上がったとか、学生から聞いた遠洋航海の目的地とか・・・
そんなことが書いてある。
たまに外国籍の船と乗務員が侵入していたとか、そんなことが記録されている。がレアケースだった。
少し後の記録を見ると監視のモニターリングシステムが導入されて侵入者は激減している。
その前後で日報の記録者の名前がどんどん変わっていった。自由記述も減っていく。
今のガードマンたちが手記のように若くなかったのは侵入と窃盗がシステムによって減らされていたからと考えれば
話は合う可能性がある。このころのガードマンは手記のように若かったのかもしれない。
逆にさかのぼっていくことにした。
あった・・・・1994年1月15日
フグの肝が散乱、報告者 え？ 偶然だろうか？ とんでも担当課の課長のＫさんと同姓同名だった。
しかもこれより後には 名前を見ない。
前には・・・たくさんある。自由記述もいきいきと・・・・。
僕はフグの養殖場の警備記録ばかり見ていたが
ブリ養殖場も港も練習船も（停泊時には警備員が点検していたようだ）
みてみたらこの報告者の名前は1月15日を境に後には全く見られず
前にはどのゾーンにも必ずみられて、活発な自由記述欄の書込みをしている。
この記事だ。僕は1994年1月15日の記事の写真をとってクラウドに載せて、会社と個人PCの両方にも送った。
「面白い話になりそうです。後で記事にします。なぜかＫさんと同じ人の名前みつけました。」と課長のＫさんにもメールを送っておいた。
彼が書いた日報はなんでもないその前のものもいくつかとってみた。
個人情報・・・があるとするとKさんと同姓同名の人名しかない。
だけどこの人がいまどこで生きているのか死んでいるのか含めて彼はこれを白日の下に
さらしたいのではないのか？先ほどの嘲笑を耐えてでもこの情報にたどり着けたことがうれしかったし
これを記事にするのは僕の使命のような気がしたのだ。
S警備保障から万が一これは公開できないと言われたときに
この人（Ｋさん）に連絡とって了承して記事にすることは可能だろう。
改めて記事を見ると
フグの肝が散乱していた場所も略図で示してあり、
彼自身はなぜか養殖場の海水を全身に浴びてしまったと不要な記述を書いてある。
差出人不明の30年前の封書はたしかにこの人によって書かれたのだとおもう。
彼なりに河童？なのか怪力女に襲われて恐れていながらも状況証拠を残したのだろう。
女との格闘で濡れた衣服のことを記したのだろうとおもう。
与太話を仕込むにしては不可解で手記がさきに情報くれなかったら想像もできなかった。
1月15日以後の記事で特に直近の内容に気を付けてみてみた
同僚がいなくなったのだ・・・誰かがなんか記録を残してなかったか・・・
なにも連絡もしなかったら どうしたんだろうくらい書くだろうし
最後の日彼がどうだったろう。。。とか
あるいはいまいる年配のガードマンの中に彼の同僚だった人はいないだろうか・・・とも
入れ替わった人も今いる人もいるだろう。
もうガードマンは帰ってしまったかもしれないが、このころの直後の日記をしらべてもＫさんのことは書かれていなかったが
その後ずっと名前のある社員は数名見つかってさきほど事務所であった人もいたようだが、Ｋさんは最後の日にいやな思いをしたのかもしれない
伏せておこう・・・と結論付けた。
そしたら課長のＫさんから電話があった
「大邦くん、まさか水大に行ってたんだね」
「はい。どうされました？」
「さっきの写真の日報・・・あれは僕なんだ。」
「え？」
「書庫に僕の手記があったんだね。何十年も務めてる僕も気づかない書類を見つけてしまったのは君のまじめさだった。
なぜ下関にと思っていたが、僕も自分の投稿が会社に残っていると思わなかった。そもそもきちんと保管されたのかも疑わしかった。
探して見つからなかったし自分の名前を残していなかったからつながると思わなかった」
「Ｋさん。手記は事実ですか？そしてそれを公表してほしいですか？」
「・・・河童との混血といった赤い女は実在した。鍛え上げた僕が微動だにできなかった。おそらく人間でない。まだ君が知らない事実がある。
公表してほしいか？わからない どうでもよかったが誰かにこの事実を知ってほしかった。
君に事実を知ってもらえてもう十分だ。なにも見つからなかったと言ってそのまま帰ってくればいい。」
「華奢な女性に敗れたことがレスリングをやめた理由ですか？
怪物だったら仕方ないし、命とりとめたのだから続ければよかったんじゃないですか？」
「僕は尻子玉を抜かれそうになったんだよ・・・」
「尻子玉！？」
「そうだ尻子玉だ。」
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コメント(11)
これ、めちゃくちゃ面白いですねぇ。
おはようございます、去年8月の文芸部に顔だけ出したヴァンさんという者です。
読者を引き付ける冒頭に、私も引き付けられて、前編を読んだところです。小説を読む人の何割かは作家になりたくなって、ご多分に漏れず、私もその1人だったので。
ミステリーなんだけど、ユーモラスで、文章もお上手(上から目線だったらすいません)なので、スラスラ読めました。
この時点で感想を書かせていただいたのは、謎が解き明かされる前に「面白いよ！」と言いたかったからです。あと、8月の文芸部でみなさんの作品を当日にバババッと目を通しただけで、発言できなかったので。
本当は直接お話したいところですが、朝が早いため、夏休みとかになってしまいそう。
ですので、ここでのコメント失礼いたします。
おはようございます、去年8月の文芸部に顔だけ出したヴァンさんという者です。
読者を引き付ける冒頭に、私も引き付けられて、前編を読んだところです。小説を読む人の何割かは作家になりたくなって、ご多分に漏れず、私もその1人だったので。
ミステリーなんだけど、ユーモラスで、文章もお上手(上から目線だったらすいません)なので、スラスラ読めました。
この時点で感想を書かせていただいたのは、謎が解き明かされる前に「面白いよ！」と言いたかったからです。あと、8月の文芸部でみなさんの作品を当日にバババッと目を通しただけで、発言できなかったので。
本当は直接お話したいところですが、朝が早いため、夏休みとかになってしまいそう。
ですので、ここでのコメント失礼いたします。
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