聖書より希望と慰めの言葉コミュの「ここで焼いて　一緒に食べよう」

「ここで焼いて　一緒に食べよう」

おーい、ペトロ
おーい、トマス
今日はどこにいるんだ
あいつら、まだ、気にしているのかなあ
ぼくのことを
知りません
知りません
知りません
って、三度も言ったことを
まだ、気にしているのかな

イエスが復活して
ここにきて
みんな　安心しなよ　
って言ったなんて
おれは、ぜったい、信じない
手のひらの釘跡と
脇腹の槍の傷跡を
さわってみなければ
おれは、ぜったい、信じない
って、言ったことを
まだ、気にしているのかな

ぼくは、十字架につけられて
息絶えて
暗い穴の中に寝かされた

ところが、それから、どれくらい経っただろうか
お父さんがそこにやってきた
お父さんは体を屈めて
たおれているぼくに
ふとくて、やわらかな手を
ぐっと伸ばしてくれた

ぼくはその手をぎゅっとつかんだ
お父さんはその手をぐっと引いた
ぼくは起き上がらされた
ぼくは起き上がった

みると、マリアが泣いている
マリア、どうして泣いているの
ぼくはここにいるよ

マリアはぼくにとびついた
ああ、マリア
また会えたね
これからは、ずっと一緒だね

でも、マリア、
ちょっとだけ、その手を緩めてくれないか
ほかのやつらのかおも
ちょっとのぞいてきたいんだ

いた、いた、
こんなところにいたのか
こんな小さな家に
みんな閉じこもっちゃって
鍵もしっかりかけちゃって

こわかったんだね
おそろしかったんだね
心配だったんだね

でも、だいじょぶ
だいじょうぶ
ぼくは、ここにいるよ
一緒にいるよ

おい、ペトロ、イエスさまはどこに行ってしまったんだろう
あの日、突然、あの家の中に、すっとあらわれて、
だいじょぶ、だいじょうぶ、なんて言ってくださったけど、
あれっきり、お姿を見ないよなあ

しょうがないよ、トマス
おれたちは、イエスさまにひどいことをしてしまったのだから
お前は、イエスさまを信じない、と言い、
おれは、イエス様なんて知らない、と言ってしまったんだ。

イエスさまがいないのなら、
おれたちだけで、魚をとるしかない
さあ、舟をこぎ出そう

それにしても、とれないなあ
一匹もとれやしない
やっぱり、おれたちだけじゃ、だめなんだなあ
こんな真っ暗闇で、一晩やってみても
おれたちじゃあ、だめなんだなあ
もう夜も明けて、魚が湖の底に戻ってしまう

おや、岸辺に誰かいるみたいだ
こんな朝早く、誰だろう

どうだあ、何かとれたかあ
ぜんぜん
じゃあ、舟の右側に網を投げてみろ
そんなこと言われたって
だいじょぶだから、やってみろ
じゃあ、やってみるか

おお、重い
網が切れそうだ
舟に引き上げられない

イエスさまだ
そうだ、イエスさまだ
ここまで来てくださったんだ
裸じゃ申しわけない
舟を岸へつけるんだ
まどろっこしい
おれは泳いでいく

魚を焼いている
パンもある

今とった魚、何匹だ
153匹
じゃあ、ここで焼いて
一緒に食べよう
ほら、朝ご飯だ
一緒に食べよう

ぼくはパンを手に取り
少しずつちぎって
皆とわけあった。

焼きたての魚も
熱い熱いと
にぎやかに食べた