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六命+一揆 営業日誌コミュの《Melntese》53日目

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【Eno.1149 九】

「両親の記憶は全くないんだ。」

薄く霧掛かった昼下がり、桜の木の下に身を横たえる彼の傍に座っている。

彼の種族は親が子供を育てることはないという。
彼も例外ではなく、生まれて間もなく魔界で一番綺麗な桜の木の下に置いて行かれた。

「でも、お父さんもお母さんも、どういうものかはワカルよ。」

数百年咲き続ける桜の木を養分に成長したから「お父さん」みたいなものでしょ、と笑う。
そして、小さな双子を連れて桜の木に日参する女性には、呼び名を貰い、大切な色んなことを教えてもらった。
「お母さん」とは、ああいう者の事を言うのだと胸を張る。

だからかも知れないけど、自分が親になったらちゃんと子育てしたいと言う。
種族的には変だけど……と呟くと、三日月のように目を細めて彼が続ける。

「イチジクとの子供なら、絶対かわいいもん……たくさんたくさん産んでね!」

爆弾発言に真っ赤になって慌てる自分に、彼が吹き出す。
からかわれていたのかと拗ねる自分を、そんなことないよ〜とふくみ笑いをしたまま抱き寄せる。
抵抗しても体格と力の差はどうしようもなく、腕の中にすっぽりと収まってしまう。

「あ、でも、息子だったらイチジク可愛いから取り合いになるのかなぁ?困るなぁ、イチジクは一人しかいないのに……」

仮に九が何人いたとしても全部自分のもので1人も譲る気はないから何の解決にはならないと、頭上から聞こえる悩ましげなため息。
しょうもない事で悩んでる彼に、なんだか怒りも消え失せてしまう。

いつだって彼が自分の一番なのだから悩む事はない。
そう言い切った自分に、彼は嬉しそうに頬ずりをしてくる。

「うん。ボクを選んでね。」

いつでも、ボクを選んで。
いつでも、ボクを選んで。


ーーボクを選んで……


どうして悲しい声で言うのか。
どうして祈るように言うのか。


もちろんだよ、当たり前だよ、自分には貴方しかいない。
そう返したいのに。
どうして自分は……


「……イチジク?」

怪訝そうな顔でねこっぱちが見ている。

「……あれ。」
「ぼーっとしちゃって…どうしちゃったの?お雑煮、喉につっかえるよ?」

右手に箸。
左手にホカホカのお椀。
食べかけの雑煮の入った器を持ったまま、白昼夢を見たというのか。

ーーーこれは、重症だ。

九は小さくため息をつくと、器と箸を置く。

「新年早々ため息なんてさ〜、大丈夫なの〜?」

のほほんとした声に、なんとなくモヤっとしてしまう。
九はくるくるの髪を指で引き延ばすようにいじる。

「あのさ、なんかオレさ……」
「んむ?」

ねこっぱちは、びろーんと伸びた餅と格闘しながら相槌を打つ。

「……約束してたみたいなんだよな……」

髪を弄びながらの上目遣い。
流石にねこっぱちも怪訝そうに九を見る。餅を食んだままではあるが。

「……たくさん子供産む約束。」

九の発言に完璧な丸になった水色の瞳と、様子を伺うような灰色の瞳が見つめ合う。


一瞬の静寂。


ねこっぱちが口に含んでいた餅を吹き出すと、盛大にむせる。
九は「汚ぇなぁ、アホ猫!」と呆れたように言いながらも、ねこっぱちの背中をさすった。

何故かはわからないけど、九は勝った気分になったのだった。

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