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六命+一揆 営業日誌コミュの《Melntese》69日目

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【Eno.1149 九】

彼と永遠の愛を誓った。
二人でずっと幸せに生きることを夢みた。

自分の寿命はもともとそんなに長くはないから、気が遠くなるほど長く生きる彼とずっと一緒に生きることはできない。

契約の悪魔は愚かだと嗤った。
自分でもそう思った。

でも、彼が自分のモノになるなら。
願いが叶うなら。

自分に残されたわずかな時間を差し出しても構わないと思ったのだ。


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「オレのハチさんを還してよ!!」

ねこっぱちの抜け殻をきつく抱きしめた九の悲痛な叫びはやまない。

契約の悪魔は満足げに顎をさする。

「それは……新たな『願い』か?」

冷たい身体を抱きしめたままの九の身体がビクリと震える。

「私と、契約をするかい?」
「そ、れは……」
「でも、これが最後になるよ?」

獲物が罠にかかりつつ、ある。
契約の悪魔の紅い瞳が歓喜に細まる。

「だから、よーぅく考えて決めなさい。おまえとの契約はこれで『三度目』になるし……」
「え、『三度目』ってどういう意味?」

九は背後からの声に振り返る。

「イチジクとは、まだ『賭け』の一回だけでしょ?ボクとは『賭け』とその後の『イチジクの記憶』を取り戻すために力を代償にした二回だけどさ〜。」

大きな大きな黒い獣が小首を傾げて、前足で器用に頭を掻いている。

獰猛な爪も牙も見えないというのに、気を許した瞬間に引き裂かれるのではという緊張感を抱かずにはいられない。
大きな体躯はフサフサと豊かな毛並みに覆われているのに、全てを吸収するような闇色のせいで不安感をもたらす。

全身漆黒なのに、三日月のような猫目だけは光るような水色だ。

九の灰色の瞳から、初めて大粒の涙が零れ落ちる。

「えっ、えっ、イチジク?!」

慌てふためく仕草は充分ユーモラスなのに、そのなりのせいで返って不気味に見える。

「……ハチさん、なの?」
「そ、そうだよ〜っ、ボク以外誰がいるの?」
「だって、ハチさん……契約の悪魔が……」
「うん、契約が成就したから元に戻ったんだよ。」

九が大事に抱えていたねこっぱちの抜け殻を器用に前足ですくいあげる。

「コレは仮の身体だから、そこから魂引っこ抜かれた時に自動的に元の身体に戻ったんだ。ボクは一度仮の身体に入る時に体験してるからわかってたけど、イチジクはあの時もう意識がなかったから、そんなのわからなかったよね〜。」

九は惚けたように涙を零す。

「心配しないでって言おうと思ったけど言う前に……いきなり目の前でやられたら、びっくりするよね〜。ホント契約の悪魔は性格悪いんだ!」

そう言いながら抜け殻を契約の悪魔に投げると「普通に返してはつまらないからね」と言いながら見えない腕でキャッチする。

「その上、イチジクを騙して再契約させようとしただろ!性格悪い上に詐欺師だよ。」

詰られた方は褒め言葉とばかりに微笑む。

「ああ、もうイチジクってば泣かないでよ〜。もう大丈夫だから。どうしたら泣き止んでくれるの?」

黒い獣が恐る恐る九に触れる。

「あうう、久しぶりでなんだか力の加減がうまく思い出せ……あっ、もしかして可愛くなくなっちゃったボクの事嫌いになっちゃった?!」
「……アホ〜っ!!!」

九は獣の前足にしがみつく。

「どんな姿でもハチさんはハチさんだろーっ!他の誰がなんと言おうとオレは好きなんだから!」

ボクも『ボクの大好きなイチジクが好きなボク』だから自分のこと好きなんだ、と獣が照れながら呟く。
しっかりと抱き合う黒い獣と桜色の少女を見て、契約の悪魔は嘆息。

「結局、私はおまえたちの魂を取り損ねたわけか。何故か損した気分だよ。」

愚痴っぽい口調に大きな獣も肩をすくめる。

「よく言うよ〜。充分楽しんだでしょ〜。ねぇ、イチジク?」
「……そういえば、そうだよな。」

背中をさすってもらって、やっと落ち着いたらしい九が同意する。

「オレたちがどんな愛を誓おうと、よく考えたらお前には関係ないじゃないか。」
「そうだそうだ!もっと言ってやって!」
「口車に乗せられて、ハチさんのこと忘れたりして……オレの大事なハチさんとの記憶やハチさんへの想いを賭けの対象にするなんて……」

九は黒い獣を抱きしめていた腕に力を込める。

「この大事なものを消してしまおうなんて、ほんと悪魔……」
「あ〜、悪魔のようなってよくいうけど、あれ、本当だねぇ。」

黒い獣も頷く。

「消えてしまって、そして思い出して、本当に実感した!おまえ、超サイテーだなっ!」

先ほどまでは涙に濡れていた灰色の瞳に強い意志の光が宿り、キラキラと輝く。

「でも、オレたちが勝ったよ!おまえの負けだよ!」

「ザマーミロ!」と九と獣が同時に言うと、顔を見合わせ笑う。

「……やれやれ。これ以上、お前達と関わると興ざめしそうだ。」
「うん、ボクたちの事はもう放っておいてよ〜。」

獣がしっしっと追い払うような手振りをすると、九もベーっと舌を出す。
ぞんざいな扱いに契約の悪魔は少しだけ眉を寄せるが、何かを思い出したように唇を緩める。
ふわりと風に乗ると獣から九を軽く引き剥がす。

「あっ、ちょっ!」

焦る獣から視線を外さずに、九の耳元で九にしか聞こえないように囁く。

「小鳥、残り少ない余生を悔いなく送るといい……」
「……!!……おまえなんか馬に蹴られちまえ!」

九の返事に契約の悪魔は微笑むと、現れた時と同じ唐突さで消えてしまう。

改めてぎゅうっと九を抱きしめると「何言われたの?」と獣が尋ねる。

「……祝福、いや、負け惜しみ、かな。」

ふさふさの毛並みに埋もれながら答える。

契約の悪魔と交わした契約は、二つ。
この賭けと、そしてーーー。

契約の悪魔の『一つ目』の契約を九は愛しい獣に告げる気はない。
契約の悪魔も守秘義務を蔑ろにしないだろうから、彼がそれにまつわる話を知ることは、この先もきっとないだろう。

全てを思い出した今、彼と初めて出会った日の記憶も鮮明に蘇る。

『小鳥さん、桜の花びらみたいな羽の色で綺麗だね。』

彼のたった一言が、自分の運命を決めた。

大空を舞う自由を、甘く奏でる歌声を、そして、ただでさえ少ない自分の寿命の半分をーーー
彼と一緒に生きれるならと差し出した代償は、はたから見たら大きなものかもしれないけど、得られた幸せを考えれば大した事はないと思う。

でも、そんな過去はもうどうでもいい。
この先の自分たちの未来だけをみつめられれば、いい。

それはきっと穏やかで幸せな時間だろう。


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魔界のとある場所に、1000年近く咲き続ける桜の木がある。
桜に囚われた悪魔の魂を糧に薄紅色の花が美しく咲き誇っているという。
そこに住み着いていた孤高の獣と桜の精のような少女が、永遠の愛を誓った事を知る者は少ない。

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ここではない何処か。
外の世界への道が完全に閉ざされてしまった箱庭。
砂漠を行く旅人の影が二つ。

「……本当に、ちゃんとこの世界から出る算段考えてますぅ?!僕達閉じ込められちゃってるんでしょ?!」

長い方の影が白髪の長い髪を揺らす。

「そんな事、ボクにわかるわけないじゃ〜ん。」

フラフラと飛んでいた丸っこい影が答える。

「余計なこと考えてるとさ〜、また転ぶよ?どんくさいんだからさ〜。」
「そんな……ぶっ。」

早速、砂に足を取られた相棒に、黒猫っぽいコウモリっぽい生き物が大仰にため息をついた。

不意に空を見上げ目を細める。

そして。

「これって……一応ハッピーエンディングなのかなぁ?」と、肩をすくめた。




-Fin-

コメント(1)

【Eno.1148 ねこっぱち】

ボクとあのこのお話は、これからもつづく。

この世界から抜け出しても、次の世界へと一緒に旅立つんだ。

あのこを取り戻した、キミと一緒に。

-Fin-

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