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ミュリのオリジナル小説連載コミュの姫宮沙樹の軌跡

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姫宮沙樹の軌跡

 あたしの名前は姫宮沙樹。ぴっちぴっちの17歳の高校生だ。でもただの高校生ではなくて、世界的な秘密結社であるWKFの下部組織JKFの幹部を務めている。あたしの生まれ育った姫宮家は代々医者が多く、あたしのお父様とお母様もあたしの通っている付属高校の大学病院で医師をしている。お父様は精神科、お母様は外科が専門だ。あたしも組織の中では研修医的な立場にある。組織では年齢はあまり関係なく、出来るようになれば何歳からでもいろいろな職に就くことができた。その制度のおかげであたしは17歳の無免許ドクターなんてものをやっているのだ。ただしずーと無免許じゃなくてちゃんと18歳になったら聖ラフィーユ大学医学部に入学予定だし、その6年後には医師国家試験にも合格予定だ。表向きには聖ラフィーユ大学付属高校医学科予備科2年に在籍中ということになっている。ただし授業とかはほとんど出ていない。もう単位は取り終わっているからだ。そんなあたしが医師を目指したのは、もちろんお母様にあこがれたのもあるけどもう一つ理由がある。それはあたしの親友である川井絵里華のためだ。絵里華にはじめて出会ったのはあたしが3歳のときだった。

 あたしは両親と弟と一緒に3歳のときにはじめてフランスにわたった。フランスには当時、今はラフィーユの地下に置かれている組織の本部があって、組織に所属しているお父様とお母様は定期的に本部に顔をだしていた。あたしと弟の冬彦はそのときはいつも預けられていたのだが、3歳になったときにはじめて一緒に連れて行ってもらった。はじめて見る外国の町はとてもキレイであたしは一瞬で虜になった。絵里華の家はフランスの首都のパリ16区にあって、そこは高級住宅街として有名だった。周りの名家に負けないくらい立派な屋敷に空港から車でそのまま乗り付けたあたし達を年に何度か日本で見かけていたアンドリューおじさまが出迎えてくれた。その影からちょこんとのぞいていたのが当時はミシェル・ドゥ・イフェレスという名前で呼ばれていた絵里華だった。
「遠いところをよく来たね、君達姉弟に会えるのを楽しみにしていたよ。私の娘たちだ仲良くしてあげてくれ。」
アンドリューおじさまがそう言って紹介したのは金髪の少女キャロライン、のちの真紀子お姉さまと茶髪であたしと同じ年の女の子絵里華だった。
「コンニチワ。」
アンドリューおじさまは日本語が完璧だったけど、真紀子お姉さまと絵里華はたどたどしい日本語で挨拶した。
「父様と母様はアンドリューおじさまと会議があるから、沙樹と冬彦はキャロラインとミシェルと遊んでいなさい。二人とも英語は少し話せるだろう?キャロラインとミシェルも英語ならわかるからね。」
お父様があたしたちの頭を撫でながら言ってお母様とアンドリューおじさまと一緒に家の中に消えていく。あたしは少しだけ話せる英語で二人に話しかけた。
「こんにちは。あたしは姫宮沙樹、こっちは弟の冬彦よ。よろしくね。」
あたしがいうと、二人はにっこりと笑って
「よろしく。あたし達も日本語を少しずつ勉強中なの、いろいろと教えてね。」
と真紀子姉様が返してきた。そのあとあたし達は日本語と英語を混ぜながら何とか会話をしながら広い庭で遊んでいた。日が暮れる頃には会議も終わって父様と母様とアンドリューおじ様が庭に迎えに来てくれた。
「楽しい時間がすごせたようだね。今二人とも日本語の特訓中なんだ、そのうち日本にも遊びに行くからその時はいろいろと案内してもらってもよいかな?」
アンドリューおじさまの言葉にあたしは
「うん」
と大きく頷いた。あたしはそれから絵里華達と何度も遊んだ。あたしがフランスに行くこともあったし、絵里華達が日本に来ることもけっこう多かった。絵里華は特に優秀ですぐに日本語を習得していった。
そんな日々か過ぎていたある日、あたしは絵里華に会うためにフランスに渡っていた。あたしがパリの本部に弟の冬彦と両親と一緒に着くと、いつにもないくらい本部が慌ただしかった。両親はあわてて状況確認に走って、あたしと冬彦はいつもの滞在部屋になっている部屋にぽつーんと残されていた。いくらまっても両親は帰ってこなくて、あたしは冬彦を部屋に残して一人で両親を探しに出た。パリの本部の中は何回も来ていたので特に道にも迷わずにいろいろと移動できた。やっぱり構成員の動きが慌ただしくて、あたしは何かがあったのだということがすぐにわかった。いつも行き慣れている医療施設の方にあたしは向かった。両親は組織で医師をしているので、本部に来た時に医療施設にはかならず寄っていたからだ。医療施設に入ると中はまるで戦場のように混乱していた。あたしは不穏な空気を感じ取りながらも大人達をかきわけて施設の奥に入る。手術室のランプが点灯していたので何か手術が行われているらしいことがわかった。あたしは手術室を見学できる部屋を知っていたのでそこに向かった。手術室の天井近くにガラス張りになっているその部屋にあたしが入ると、中で手術をしているのが見えた。手術台に乗っているのは小さい身体だ。「絵里華だ」直感的にあたしはそう思った。そして手術を執刀しているのが自分の母親なのもわかった。絵里華の身体には何本ものチューブが差し込まれていて痛々しかった。あたしは衝撃をうけて思わずよろめく。よろめいたあたしは後ろから抱きかかえられてびっくりしてうしろを振り返った。そこには組織のトップでもあり絵里華の父親でもあるアンドリュー叔父様が立っていた。
「叔父様・・・・ミシェルは?」
あたしの問いに叔父様は
「大丈夫だよ。少し休めば良くなるからね。」
とあたしの頭を撫でながら言った。
「少し君のお母さんを借りるよ。きっと絵里華を元気にしてくれるからね。」
あたしは叔父様にそう言われて「うんっ」と頷いた。その時実は絵里華のお母さんは亡くなっていたのだけど、叔父様は少しもその気配を見せなかった。今思えば、実はとても悲しかったのだと思う。でも叔父様は組織のトップとして私的感情をほとんど出すことがなくて、それはたとえ相手が子供であろうとかわらなかった。
「君は部屋でまっておいで。そろそろ由記彦は帰れるだろうから。私はまだここを離れなれないからね。」
叔父様に言われてあたしは一人で自分がいた部屋にもどった。ちょうどお父様も戻ってきたところだった。
「沙樹、詳細は知ってるかい?」
お父様の質問にあたしは
「絵里華が怪我してた。お母様が手術してる。」
とたどたどしく答える。あたしもまだ混乱していて、うまく言葉にできなかった。
「実はマリィ叔母様が亡くなったんだよ。ミシェルをかばってね。」
お父様の言葉にあたしも冬彦も衝撃を受けた。
「ミシェルも重傷だけど、命に別状はないよ。マリィ叔母様が自分の命を削ってミシェルの身体を回復させたからね。」
絵里華達は普通の人間とは違い神の血族であり、人間にはない能力がいろいろと備わっていることは聞いていた。裏組織の本部だけあって普段から襲撃などは日常茶飯事だった。でもたいていはしてもかすり傷程度の怪我ですむような襲撃ばかりだったとあたしは聞いていた。特に一般の人間の構成員ならともかく絵里華やマリィ叔母様の様な神の血族が重傷を負うこと等まずないと思っていた。
「今日はお母様は帰ってこれないだろうから、お前達はもう休みなさい。」
お父様はそう言ってあたしと冬彦を寝室につれていく。
「明日になればもう少し落ち着いているだろうから。詳細はそれからね。」
お父様はあたし達の頭を撫でてから部屋を出て行った。
「お姉ちゃん、ミシェル大丈夫かな?」
冬彦が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。お母様が手術してたんだもの、それにミシェルは普通の人間じゃないんだし。」
そう言いながらもあたしは心配していた。普通の人間ではなかったはずのマリィ叔母様が亡くなっているのだ。ひょっとして絵里華も助からないかもしれない。そう考えるとあたしは自然に涙が出てきていた。
「お姉ちゃん?大丈夫?」
はっと気がつくと冬彦が心配そうにあたしを見つめていた。あたしはあわてて涙をふいて冬彦に
「大丈夫だよ。」
と言って冬彦をベッドに連れて行く。あたしも隣のベッドに横になったけど全然寝れなかった。しばらくして冬彦は隣で寝息をたてはじめたけど、あたしは全く寝れなくて仕方なく起き上がってこっそりと部屋を抜け出した。医療施設のほうに行くと、さっきよりは落ち着いているようで人数も少なくなっていた。手術室もカラになっていて、あたしは病室のほうに足を向けた。一番広い病室を知っていたあたしは迷わずそこに向かう。部屋につくとやっぱりというかそこには絵里華がいた。お母様がつきっきりでモニターを見たりいろいろと書きものをしていた。あたしが部屋に入るとお母様がすぐに気がついてあたしのほうに来る。
「やっぱりきちゃったのね。ミシェルなら大丈夫よ、マリィ叔母様が力を使って癒してくれていたしアンドリュー叔父様も力を使ってるから。3〜4日くらい眠ってればすぐに良くなるわ。」
お母様の言葉にあたしは一応安心したけど、ベッドの上の絵里華はとても顔色が悪かったし、全身包帯だらけだった。
「状態としてはまさに蜂の巣だったわ。マリィ叔母様とミシェルを撃った相手はミシェルが力を暴走させて肉片に変わってしまったけど。今、アンドリュー叔父様が部隊を率いて相手組織に報復戦に行ってるところよ。」
やられたらやり返す。それは組織の掟でもあった。愛する妻と娘をこんな目にあわされた以上は普段和やかな印象を持つアンドリュー叔父様だって相手組織を壊滅させるまで徹底的に叩くだろうということは子供でも分かっていた。
「ミシェルはこれからもこういう道を歩むの?」
あたしはお母様にぽつりと聞いた。
「そうね。ミシェルはWKFの後継者候補だもの。これから先、今以上にもっと怪我もするだろうし命の危険にさらされることも多いと思うわ。」
お母様はそんなあたしに厳しい現実を告げる。あたしはぎゅっと自分の拳を握りしめた。
「あたしお母様みたいな医者になる。そしてミシェルが怪我したときに助けてあげるの。大事な友達なんだもん。」
あたしはこの時に一生の決意を固めた。絵里華はたぶんこの先もいろいろな危険にさらされていくことだろう。それは裏組織で生きるあたし達には日常茶飯事のことなのだ。
「いい子ね、沙樹。」
そんなあたしの言葉を聞いてお母様は優しく笑った。それからあたしの頭をなでてくれる。
「ミシェルのことは心配いらないから、あなたはもう休みなさい。ミシェルが落ち着くまではパリにいるからそのつもりでね。」
お母様に言われてあたしはこくんと頷いて病室を後にした。自分の部屋に戻ると冬彦をおこさないようにベッドにそっと潜り込む。絵里華の様子をみて少し安心したのか眠気が襲ってきて、あたしは闇に飲み込まれた。
次の朝目が覚めると、お父様が部屋にやってきていた。
「おはよう。沙樹、冬彦。」
お父様はあたし達をベッドから起こすと服を着替えさせる。そして朝食をとるためにダイニングホールへとむかった。ダイニングホールには長い机があってあたしたちは端から順番に座る。すぐにメイドさんが朝食を運んできてくれた。あたしはあまり食欲がなかったので軽めに食べた。
「お父様、お母様は?」
冬彦がトーストを食べながら聞く。
「お母様はミシェルにずっとついてるよ。ミシェルの命に別状はないから心配いらないからね。」
お父様の言葉に冬彦も安堵したようだった。
「しばらくパリに滞在することになったから、観光にでも行こうか。ずっと本部にいるのも退屈だろう?」
お父様はあたし達を元気づけたいのだということがなんとなく感じ取られた。
「あたしは賛成。パリには何度も来てるけど観光したことないもの。」
本当にパリには何度も来ていたんだけど、空港と本部の往復ばかりでほとんどパリという町見たことがなかった。
「僕も賛成。でもお父様も道わかるの?」
両親もパリにきてもほとんど外を出歩いていない気がする。
「そこは案内役がいるから心配しなくていいよ。食事の後に落ちあうことになっているんだ。食べたら出かける準備をしなさい。」
親子旅行かと思えばそうでもないらしい。あたしはちょっとがっかりしながらも観光にいくのは楽しみだった。あたしと冬彦は朝食を終えると一旦部屋に戻ってバッグに必要最低限なものをつめこんでお父様と待ち合わせしていた玄関に向かった。玄関につくとお父様とすっごい美形で長い金髪な男の人が話をしていた。何度か日本のラフィーユ大学病院で見かけたことある人の様な気がする。
「はやかったね。今日パリを案内してくれるシャレイルだよ。」
お父様があたし達にその金髪の男の人を紹介する。
「こんにちは。君達のお父さんと同じ病院で働いているシャレイル・ウェンスターだ。今日は一日よろしく頼むよ。」
シャレイルさんは優しそうに微笑みながらあたし達に挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
あたしと冬彦はそういってぺこりと頭をさげる。
「さすが由記彦の子供達だ。教育がいき届いてるな。」
シャレイルさんが言うとお父様が照れ笑いをする。それからあたし達はシャレイルさんの案内でパリの町をいろいろと見て回った。地下鉄やバスを使って有名な凱旋門やらルーブル美術館なんかを回って、お昼ごはんを食べるのにホテルのレストランに入る。あたし達はレストランの個室を用意してもらっていた。このホテルはどうやら組織の運営する系列のホテルのようだ。豪華なフランス料理を用意してもらったんだけど、あたしはあんまり食べれなかった。お父様と冬彦は普通に食べていたんだけど、シャレイルさんもなぜかワインだけであまり料理を食べていなかった。
「お腹はすいてないのかな?」
シャレイルさんに言われてあたしは首を横にふって否定した。
「ミシェルのことを心配しているんだろう。私も力を使ったから大丈夫だよ。何の心配もいらないからちゃんと食べなさい。」
シャレイルさんの言葉にあたしはなんとかがんばって食事を口に運ぶ。でもあまりおいしくなかった。
「シャレイルこそ、ご飯たべなくていいのかい?」
お父様がワイン中心に飲んでいるシャレイルさんに問う。シャレイルさんはかなりの量のワインを飲んでいたがいっこうに酔ってる気配がない。
「私にとって食事はあまり意味がないからね。味覚はあるから味は楽しめるんだけどね。」
そう言いながらシャレイルさんはクロワッサンを手に取る。
「これは好きかな。久しぶりに食べるけれどね。」
言いながらシャレイルさんはクロワッサンを口にした。
「シャレイルさんはフランスの方なんですか?」
シャレイルさんは本当に迷いなくパリの町を歩いていたので、あたしはなんとなく聞いてみた。
「いや、私は元々イギリス人なんだよ。ただしフランスは隣だから、昔からよく来ていたんだ。かれこれ300年くらいこの町を見てきたかな。」
シャレイルさんの言葉にあたしは目を丸くする。その言葉であたしはシャレイルさんが人間じゃないことを悟った。組織には人間以外の構成員も少数派だが存在する。大きく捉えれば絵里華やアンドリュー叔父様だって普通の人間とは違うのだ。
「シャレイル。まだこの子たちには刺激が強すぎるよ。」
お父様が苦笑しながら言う。
「大丈夫、この子たちだってWKFで生まれ育ってるんだ。大抵のことに対する免疫はもってるはずだよ。」
あたしはシャレイルさんの言葉に頷いた。
「そうか、沙樹と冬彦も組織育ちの血筋を完全に受け継いでるわけだな。」
絵里華のように特殊能力がある人間を見慣れてきたあたし達には、人外の存在であるシャレイルさんを見ても恐怖心はわかなかった。
「ちなみに私はヴァンパイアだ。心配しなくても人間は襲わないから安心して。神の血族と我々の種族の契約は聞いたことがあるかな?私はそれに従ってしか吸血は行わないんだよ。それに、私達には基本血も必要ないんだ。普通に生きていくだけならエネルギーの摂取は必要ない身体なのでね。」
確かヴァンパイア族は映画や小説とは違って吸血が必要なわけではなく、ただ死なない人間で少し特殊能力を備えていると聞いた。ただし特殊能力は自分の血を媒体にして使うため、使った分の補充の時のみに吸血が必要だとは聞いている。
「シャレイルは現在の穏健派ヴァンパイアの王なんだ。医師としても優秀だからいろいろと教えてもらうといい。」
お父様の言葉にあたしたちはこくんと頷いた。ヴァンパイアには組織に所属しておとなしく吸血を控えていたり契約にのっとった吸血のみをおこなうような穏健派と人間の血を無差別に奪いたい放題の過激派がいる。お父様達が所属しているWKFという組織とヴァンパイアの穏健派の組織であるローゼンクランとは昔から協定を結んでいた。
「二人とも将来はお父さんと同じ医師になるのかな?」
シャレイルさんの質問にあたしはすぐにうんっと答えたけど弟の冬彦は少し考え込んだ。
「僕は、薬の研究がしたいかも。薬剤師のほうが合ってるかな?」
冬彦の言葉にお父様は微笑んだ。
「シャレイルは薬の知識も豊富だからね。きっといい先生になってくれると思うよ。」
お父様の言葉のとおりに、あたしたち姉弟はシャレイルさんからいろいろなことをおそわっていくことになったのだけど、それはもう少し先の話だ。あたしたちは食事を終えるとホテルに来ていた迎えの車に乗って、組織が所有している城に向かった。お城はパリの郊外にあって比較的静かなところだった。
「今日はここに泊まるよ。本部はまだ慌ただしいからね。」
城には常駐の使用人がいるらしく、あたしたちは大勢のメイドさん達に出迎えられた。
「御苦労さま。」
お父様がそう言って奥の方に控えていた初老の執事さんに声をかける。
「お世話になるよ。」
「お久しぶりでございます、由記彦様。シャレイル様もお変わりないようで。」
どうやら執事さんはお父様やシャレイルさんのこと知ってるみたい。
「僕の子供達だ、よろしく頼むよ。」
お父様はあたし達を執事さんに紹介する。
「冬彦様と沙樹様ですね。お父様から何度かお話は伺っておりました。私はこの城の管理を任されておりますモーリスと申します。御用の際は何なりとお申し付けくださいませ。」
あたし達はぺこりとモーリスさんに頭を下げた。
「それではお部屋に案内させていただきます。」
あたし達はそれぞれ担当のメイドさんに泊まる部屋まで案内してもらった。城内はけっこう広くて迷子になりそうだった。あたしと冬彦は同じゲストルームでお父様とシャレイルさんが一人ずつの部屋をもらっていたようだった。あたし達はシャレイルさんに一通り城の中を案内してもらう。シャレイルさんは何度もこの城に来たことがあるようで、城内に精通していた。
「もうひとつ、この城の秘密を教えてあげよう。」
シャレイルさんがそう言ってあたし達を案内したのは城の地下だった。そこは不思議な空間になっていた。古い鉄の扉を開けると、中はまるで庭園のようになっていた。
「ここには古代の植物が植えてあるんだ。特殊な薬草なんかもあるから私もよく来るんだよ。」
よく見るとそこらへんに冬彦が好きそうな草がいっぱい生えていた。
「興味があるなら毎日探検してみてごらん。いろいろと興味深いものもみつかるだろう。」
冬彦はシャレイルさんの言葉に顔を輝かせた。冬彦の性格ならこの城に滞在している間ずーとここにこもりそうだ。組織では古代の植物や動物の保存も行っている。パリの本部の地下にも宝石が中に入っている果物をつける樹なんかが植えてあるし、組織が管理している国であるリザド王国の島々の1つに自然保護施設として立ち入り禁止になっている島があるのだが、そこにはペガサスやユニコーンが生息していた。シャレイルさんは他にもいろいろと城の中を案内してくれた。中には中世に使われていたという牢獄なんかもあったりして冬彦はちょっとびびっていたが、シャレイルさんだってヴァンパイアなのだ。その事実がある以上、牢獄だろうが何だろうがあたしにとってはまったく恐怖を感じさせるものではなかった。それからの数日をあたし達は城ですごした。お父様は城の膨大な書庫からいろいろと本をひっぱりだしてきて読書に勤しんでいたし、冬彦はシャレイルさんを連れて城の地下にこもっていた。あたしは退屈に思いながらも城の珍しい設備や庭園を走りまわってヒマをなんとか潰した。三日くらいたった頃にお母様が城にやってきた。
「いい子にしてた?沙樹、冬彦?」
お母様の言葉にシャレイルさんが
「いい子だったよ。さすが沙矢の子供だと思ってたところだ。」
と笑いながら答える。
「僕、薬剤師になりたい。シャレイルさんにいろいろ教えてもらったんだ。」
冬彦がお母様に抱きつきながら言った。
「そう、ここにきて目標ができたのね。」
お母様は優しく冬彦を抱きしめた。
「もうミシェルの身体も心配ないから、明日には日本に一旦戻るわね。総帥が今回のことで本部を本格的に日本に移す決定をしたみたいだから、忙しくなるわよ。」
最初はあたし達に、後の方はお父様とシャレイルさんにお母様は言った。
「相手組織は壊滅状態よ。しばらくはケンカうってくる組織もいないんじゃないかしら?あそこまでキレた総帥をみたのは私もはじめてだったわ。」
お母様の言葉にお父様の顔が少し青ざめる。たぶん口では言えないような惨劇が繰り広げられたのだろう。
「シャレイルもありがとう。由記彦一人じゃ心配だったけど、あなたがついてくれて助かったわ。」
お母様がシャレイルさんに言うと、シャレイルさんは微笑んで返した。
「私こそ、久しぶりに楽しめたよ。冬彦も沙樹も先が楽しみな子だ。」
お母様はシャレイルさんの言葉が嬉しかったみたいで、顔がはにかんだ。あたし達はその晩を城で過ごし。次の日絵里華の家に寄ってから日本に帰った。絵里華の様子を見に行ったけど、あれだけぐるぐるまかれていた包帯はすっかりとれていて、傷一つなかった。
「大丈夫?」
あたしが絵里華に聞くと絵里華は
「うん」
と頷いた。でも絵里華は前と少し変わっていた。
「オレ強くなるから。沙樹や冬彦を守れるようにさ。」
あたしは絵里華の口からでた言葉に驚いた。その頃の絵里華はけっこう日本語をマスターしていたんだけど。完全に男の子の口調だった。
「オレ女やめることにした。強くならないといけないんだ。強くならないと。」
そんな絵里華の姿にショックを受けつつ、あたしは一回絵里華とお別れして、日本に帰る途中にお父様に聞いてみた。
「ミシェル、大丈夫なの?」
あたしが聞くとお父様は少し考えながら言った。
「大丈夫とは言い難いけど、総帥がそのままでいいと言ったんだ。それに心の負担を考えると、無理に矯正するよりは今のままの方がミシェルにとっては負担が軽いだろうしね。」
総帥にとっても悩んだ決断だったんだろう。でもあたしはそんな絵里華を受け入れることにした。しゃべり方が変わったとしても絵里華はあたしの大事な友達だ。あたしが日本に戻って3カ月が過ぎようとしたころ、アンドリューおじ様と絵里華と真紀子お姉さまが日本にやってきた。そして組織の本部もラフィーユ学園の地下に移転してきたようだった。あたしは空港まで絵里華を迎えにいった。組織専用機から降りてきた絵里華は髪も男の子のように短くしていた。
「沙樹、久しぶり。今日からオレの名前は川井絵里華っていうらしいんだ。よろしくね。」
あたしはそんな絵里華の手を取った。そして日本での絵里華の生活が始まった。あたし達は10歳になるとラフィーユ学園と言われる組織の構成員の養成校に入学してそれぞれ教育を受けていった。そして現在に至るのだ。あたしは医師として、絵里華は総帥としてそれぞれの職務をこなしている。あたしは今の自分の人生に満足している。これから先もずっと絵里華の力になり、絵里華を癒してあげること、それがあたしの生きる糧だ

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