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ミュリのオリジナル小説連載コミュの黒潮学舎 絵里華の場合1

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聖ラフィーユ黒潮学舎〜絵里華の場合〜

オレの名前は川井絵里華。まぁ戸籍上は女なわけだが、外見や言葉遣いは完璧に男だ。オレは今世界的裏組織WKFの下部組織であるJKFの総帥を務めていた。主な任務はWKFから割り振られた世界を少しでもよい方向に導くためのミッションや自分達で独自にリサーチしたミッションをこなすことだ。ミッションは当然命がけで、映画の様なスパイ戦もあるし戦闘もある。ただオレ達の活動が表の世界に知られることはまずなかった。オレ達の組織には特殊能力を持った人間や人間以外の者がたくさん所属しており、それぞれの能力を使って、外にバレたらダメなものに対しては徹底した記憶操作を行っていた。そのおかげで、オレ達の組織の事は表向き知られることなく、現代まで引き継がれているのだ。オレ達は自分の組織の構成員を育成するための教育機関を持っていた。聖ラフィーユ学園。表向きは幼稚園〜大学院までそろった大規模な私立学校であるが、オレ達はその裏の部であるラフィーユ学園と呼ばれるところに通っていた。オレはもうカリキュラムはほとんど終えていて、どっちかといえば後輩の指導に回ることも多い。それは幼馴染の沙樹も同様だった。オレは三日後からその一環で新人組の宿泊研修に付き合うことになっていた。一日の業務をそこそこ終えて夕刻、その研修内容を自分の執務室でちらちらと見ていると、デスクの電話が鳴る。ここの番号を知ってるいる人間は数少ないのでオレは惰性で電話をとった。
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
耳に響いた電話の声の主をオレは知っていた。組織の幹部でもあり人間を超えた存在でもあるその男とオレはある契約で結ばれていたからだ。
「そういうシャレイルはどうなんだよ?最近忙しそうで本部でも姿見かけなかったけど。」
電話の主はシャレイル・ウェンスター。外見上は27、8の美青年だが。実際はもっと長い時を生き抜いてきたヴァンパイアだ。
「確かに今むずかしいミッションを抱えていてね。数日前にも久しぶりにアンドリューから提供を受けたんだけど、それでも達成できてなくてね。すまないが君にもお願いをしたいんだが。」
シャレイルの言うお願いとはオレがシャレイルに血を提供することだ。それは神の血族であるオレ達とシャレイル達ヴァンパイアの一族の間で長年交わされてきた契約に基づくもので、オレ達はシャレイル達から自分達が病気にかかったりしないように身体を強化してもらうかわりに彼らが望む時は支障のない限りで血を提供することになっていた。ヴァンパイアにとって血は特殊能力を使うためのエネルギー源みたいなものだった。
「いつでもいいよ。あ、ただ三日後から新人研修に同行するからそれに支障ない程度にしてくれるとありがたいんだけど。」
オレが言うとシャレイルは
「それならアンドリューからも聞いているよ。もちろんそのつもりだ。よければ今からでもいいかな?」
と言ったのでオレは了承を返した。
「じゃあこれから部屋にお邪魔するよ。」
シャレイルはそう言うと電話を切る。その数秒後にはオレの部屋のインターホンが鳴っていた。どうやら瞬間移動でやってきたらしい。オレは部屋のロックを解除する。でも本当はそんなことしなくてもシャレイルなら直接オレの部屋に飛ぶことも可能だろう。親父は自分の部屋に結界をはって容易に出入りができないようにしているが、オレは基本それをしていなかった。そもそもそんな必要性を感じないからだ。このクロノスタワーはある程度のセキュリティーレベルを保っているし。直接ここに攻めてこられる敵もいないはずだった。
「すまないね、こんな夜分に。」
シャレイルはオレがロックをはずしたドアから正式にオレの部屋に入ってきた。
「夜の方が都合いいだろう?終わったらそんまま寝ちまったほうが楽だ。」
オレは仕事を切り上げてシャレイルを自分の寝室に招き入れる。シャワーも仕事の合間に浴びていたし、部屋着だったのでオレはそのままベッドに横になった。
「ほんの少しだけにしておくつもりだったんだけど、そこまで準備万端だと欲が出てくるね。」
シャレイルがそんなオレを見ながら微笑む。
「まぁオレの身体なら2-3日寝れば貧血なんて改善するだろうから遠慮しなくてもいいよ。」
オレ達の身体は普通の人間とは違い再生能力が極めて高い。大量に失血しても2-3日おとなしく寝ていれば容易に回復するのだ。
「じゃあお言葉に甘えようかな。」
美しいシャレイルの顔が近づいてくる。まるで何かの物語の王子様のような整った顔立ちを見ながらオレは自分の首を少し傾けてシャレイルが噛みやすいようにしてやった。シャレイルの手がオレの首筋に触れる。続いて激痛が首筋に走った。オレはたぶん顔を顰めたと思う。でもそれはほんの一瞬のことですぐに苦痛は消えていき、かわりに心地よい感覚が全身に広がっていく。まるで眠る前の一時の気持ちいい時間のような感覚がオレを支配した。ヴァンパイアに噛まれると一種の麻酔薬の様な毒液が注ぎ込まれる。それは痛覚をマヒさせて快感を与え相手の動きを奪うのだ。人間は苦痛からは逃げようとするが快感にたいしては身をゆだねてしまう。そのあたりを計算しきったヴァンパイアの戦略がこの毒液だった。シャレイルはゆっくりとオレから血を奪っていく。神の血族の血のおかげかオレは血を奪われる感覚を少しだけ把握することができた。普通の人間なら血を吸われる頃には失神してしまっていることが多いため、このなんともいえない至福感を味わえるのはオレ達だけなのだ。やがてシャレイルの牙がオレから引き抜かれた。オレはしばらく動くことがだるかった。シャレイルにはそんなオレの状態がわかっているらしく、優しくベッドに横たえられて布団をかけられる。
「ありがとう。おかげさまでかなり補給ができたよ。私は任務に戻るから絵里華はゆっくりと休むといい。」
シャレイルはそういうと一瞬にしてオレの目の前から消えた。直接どこかに飛んだらしい。オレは人の気配のしなくなった自分の部屋を確認すると残っている気だるさにそのまま身を任せて瞳を閉じた。幸い眠りはすぐにやってきた。

次の日オレは早朝から電話のコール音に強制的に目覚めさせられた。ベッドサイドにおいてある電話を取ると、一番オレが聞きたくない声が響く。
「おはようバカ娘。研修前に一仕事頼みたいんだが、当然OKだな?」
電話から聞こえるクソ親父の声にオレは
「選択肢はないんだろうが、さっさと要件を言え。」
と怒鳴る。昨日の供血の影響が残っているのかとんでもなく身体がだるかった。
「話がはやくて助かる。実は敵対組織のスパイが組織に潜り込もうとしているみたいでね。ただ下部組織の一つに潜り込むのが精いっぱいだったらしい。本部から捕えるように人員を派遣したんだが、失敗したようでね。お前にその後始末をつけてほしいんだよ。詳細はメールで送ってある。」
ようするに自分の部下がミスったぶんオレがカバーしろってことか。オレじゃなくてもいくらでも派遣要員はいるんだろうが、親父はあくまでも嫌がらせにオレに任務を与える気らしい。
「生死は問わずでいいんだな?」
オレは念のため確認する。
「それはもちろんだが、お前はなるべく生かそうとするだろう?」
親父の言葉にオレはむかつきながらも了解を返して電話を叩き切った。そのまま執務室に行きパソコンを立ち上げてメールを確認する。添付資料付きで今回のミッションの概要が送られてきていた。それによれば本当に底辺の組織にスパイが紛れ込んでいるようだが情報を持ち出した形跡もないしたいしたこともできていない。下部組織でも末端の構成員で放置しておいても組織に対しては直接問題にはならないような感じだった。ようするに親父も本気ではないということだ。あくまでも訓練代わりのお遊びといったとこだろう。たぶん親父が差し向けた部下も訓練中の末端の構成員だったのだろう。あくまでもオレをロク休ませないための嫌がらせだ。どうせシャレイルからは報告が行ってるだろうから、今のオレの状態を親父は把握しているはずだった。考えても仕方ないのでオレはとりあえずその任務をサクっと終わらせることにした。

オレは戦闘服に着替えをすると、直接指令のあった場所の近くまで瞬間移動する。瞬間移動の感覚は普通の人間には慣れないものだと思う。表現するとすれば空間を飛ぶのだがその間の時間と現実時間の間にはズレがあって、1分くらい空間を飛んで移動した距離が現実時間ではタイムラグなしでの瞬間移動とかになるのだ。本来なら一回の空間移動で移動可能なのだが、現在力の大半を封印されているオレは何度か空間移動を繰り返して任務地の近くについた。オレはすぐに任務地の状況を探る。そこは秘密基地のようで山奥の山小屋みたいなところだった。その組織は山奥で麻薬の栽培等をおこなって精製し組織のために供給していた。その途中には何か所もの組織を挟んでいるため直接WKFと関わりを持っているわけではなかったが、親父は末端の末端まで管理しないと気が済まないらしい。オレは見張りを襲い一撃で気絶させると山小屋の中に入った。中では親父が送り込んだらしい若い数人が捕らわれていた。オレはそいつらをまず解放してやる。
「WKFから派遣されてきた。ミッションはこれ以降オレが遂行するからお前達は本部に戻れ。」
オレがいうと青年達は素直に従う。中にはオレの顔を知っているメンバーもいるようだった。とりあえずお荷物になりそうなのを排除すると、オレは出会いがしらに山小屋の人間を全員ぶっとばしていってみた。彼らにとってはオレ達の存在は隠されているため仲間という意識がない。敵と認識される前にとりあえずだまってもらったほうがいいからだ。山小屋にいた全員を片付けるとオレは資料にあったスパイを探した。そいつはけっこう簡単に見つかってオレはそいつを肩にかついで離れたところまで瞬間移動をした。山小屋からそこそこ距離をとり人目につかない山中まで移動すると、オレはそいつの目を強制的に覚ます。そいつはオレの顔を見てだいたいの事情が呑み込めたらしい。
「さすがはWKFだな。こんな末端にまで目を配るとは。」
敵組織のスパイとはいえ、そいつからは強いオーラが感じられた。おそらく相当の実力の持ち主だ。
「適材適所って言葉をあんたの組織は知らないみたいだな。こんな低ランクのミッションに駆り出されるなんて、WKFでは考えられないことだよ。」
オレはとりあえず視線をそいつからはずさないようにしながら言葉を続ける
「どうせならWKFに来たらどうだ?悪いようにはしないぜ。」
オレ達はなるべく敵を味方に変える戦法をとっていた。ある程度組織に所属しているということはなんらかの才能があるということだ。組織によってはそれがいかせないこともある。人間が裏組織に所属するにはいろいろと理由があるのだろう。それ以外でいきる道がなかった者も多い。オレ達は平等にチャンスを与えたいのだ。それに優秀な人材を確保することは組織にとっても利点が多い。裏切りを心配するのもあるのだろうが、人間の心を読める人材も抱えているWKFではその可能性も低かった。
「本当に説得するんだな、話に聞いてはいたが。」
スパイは驚きながら言う。みたところいかにも頭がきれそうな東洋系の青年だ。
「名前教えてくれる?本名じゃなくても通り名でいいよ。」
本名なんてわからない人間も多い。ようするに呼び名があればいいのだ。
「コウキだよ。親父が香港マフィアなんだ、母親は日本人だけどさ。親父にひきとられて悪いことに足つっこまされてるってわけ。」
少なくとも本人の意志ではなかったのだろう。でも他に生きていく術がなかっただけだ。
「WKFにくれば悪いことだけじゃないぞ。望みなら普通の人生もおくれる。それともすべて終わりにしたいと言うなら、今ここでオレが殺してやるよ。」
オレは言いながら銃を構えた。いつも使っているS&Wのヘビーガンだ。殺傷力はかなり高いし、急所を狙うのはお手の物だった。
「まだ死にたくはないな。でも本当にオレみたいなのでも助けてくれるの?」
おそらく彼が今まで生きてきた世界では信じられないことなのだろう。
「信じる者は救われる。いろいろと噂はきいてるだろう。自分の目で確かめればいい。」
オレは言いながらコウキと名乗った青年に手を差し伸べる。彼は戸惑いながらもオレの手をとった。
「ようこそ、オレ達の世界へ。」
オレが言うと同時にオレの背後からさっき逃がしてやったWKFの構成員たちが出てきた。オレはずっと気配を感じていたので別に驚きもしないが青年がびくっとするのがわかった。
「心配いらないよ、今から彼らは仲間だから。君が潜入していた組織の方も上の方から通達がいって何も問題なく処理される。君はあたらしい人生を歩むといい。彼の案内を頼むよ。オレは先に本部に戻る。」
最後の方は構成員たちに言いながらオレは青年を彼らに託す。青年に微笑みかけると青年も少し安心したようだった。それからオレはまた瞬間移動を行い本部まで戻ってきた。さすがに少し疲れがでたのか息があがっていた。貧血の状態で重い銃器も携帯したし戦闘をこなしたのだ身体に負担がかからないわけがない。オレはミッション管理局に軽く報告を済ませると自分の部屋に飛んだ。重い戦闘服を脱ぐとそのままシャワーを浴びる。一通り身体を整えると普段着に着替えた。そのあと執務室のパソコンに向かいメールの整理を行う。嫌がらせのように報告書の作成依頼がたくさん送られてきているのは親父の策略だろう。オレはむかつきながらもそれを仕上げていく。気がつくともう深夜になっていた。オレはとりあえず横になったがあまり寝れなかった。そんな状態のまま朝を迎えて、身体の疲れも極限状態になっていた。その日も朝から雑用に追われて、午後からは沙樹の買い物にも付き合わされた。夕方自分の部屋に戻ると明日からの研修旅行の荷づくりをする。3泊くらい泊まりがあるので荷物は旅行用のキャリーケース一個分はあった。これを明日早朝から運ぶのかと思うとさすがに嫌気がさしたが、オレにとってそれは決定事項なのだ。とりあえず、すべてをあきらめたオレは体力を少しでも回復させるためにはやめにベッドに入る。昨日よりは寝る時間が確保できたものの、体調はまだ完全とは言い難かった。集合時間は朝の6時半だったのでオレは五時には起きる。オレが出かける準備をしていると沙樹が電話をしてきた。
「おはよー絵里華。気分はどう?」
昨日のオレの状態を知っている沙樹はからかい半分だ。
「わかってることは聞くな。もう準備できたから下の駐車場で待ち合わせでいいか?」
オレは集合場所であるラフィーユ学園高等部の校門までクロノスタワーの地下から組織の車を手配していた。
「了解ー、じゃあ下でね。」
沙樹が電話を切るとオレは荷物をまとめて部屋を出た。ホールにでてエレベーターのボタンを押す。エレベーターは最上階であるこの階のホールでボタンを押した場合、最優先で上がってくるようになっているのでオレはあまり待たずにエレベーターに乗ることができた。まぁ70F上がってくる分だけは待たされたが。そもそも幹部専用のエレベーターだ、利用者も少ない。高速で降りるエレベーターのGを感じながらオレはエレベーターの壁にもたれかかる。身体はけっこうしんどかった。各居住区の部屋に通じているエレベーターは15Fのエントランスホールまでしかつながっていなので、オレは15Fで降りて地下の駐車場に行くエレベーターに乗り換えた。エレベーターホールの誘導係が気を利かせてエレベーターを貸切にしてくれる。このあたりではオレは顔パスなのだ。地下の駐車場に着くと待合室みたいなところに入る。そこはいろいろなミッションにでかけるための組織の構成員の集合場所でもあるわけで、オレが中に入ると中にいた数人がオレにむかって敬礼をした。
「オレのことは気にしなくていいよ。任務御苦労さま。」
オレは言いながら沙樹がくるのを待つために部屋に置かれているソファーに座りこんだ。オレが待合室についてからそんなに間をおかずに沙樹も部屋に入ってくる。
「おまたせ。もう車は来てる?」
沙樹が言いながらガラス張りで見えるようになっている駐車場の乗車スペースを確認する。そこには大型バスや高級車が並んで停められていた。
「5番に停まってる車がオレ達のやつだ。行くぞ。」
オレは沙樹に言うと、荷物をかついで待合室の自動ドアを抜けて車に向かう。
「あーまってよー。」
沙樹も荷物を持ってオレに続いた。車にいくと運転手が頭を下げる。よく知っている初老のベテラン運転手だ。
「短い距離だけど頼むよ。さすがに荷物抱えてバス移動はきついからさ。」
運転手さんに荷物をトランクに積んで貰うと、オレは開けられていた後部座席に乗りこむ。沙樹も続いて乗り込んできた。トランクが閉まってオレ達がのってきたドアも閉まる。オレは座り心地のよい高級車のシートに身を預けて目を閉じる。時間にして数分だろうが身体を休めれる時間がとれるのは今のオレにとってはありがたかった。車はゆっくりと地下駐車場を出て地上に向かう。地上に出て少し走るともう学校が見えてきていた。校門の前で車を降りると、研修旅行にいくメンバーがもうそろっていた。
「みんなおはよう。今日はみんなにとってはじめての宿泊研修だ。楽しむつもりで気楽に行こう。」
藤田クラスの担任である藤田先生が挨拶する。彼は親父の直属の部下で元フリーの傭兵で各地の戦場を渡り歩いていたそうだ。とある戦場で敵軍にいた親父にスカウトされて組織におさまったらしい。
「オレも完全に旅行気分だからな。みんなも遠慮しなくていいぞ。」
オレはオレの姿をみて緊張している藤田クラスの生徒達に言った。彼らからしたら、JKFの総帥であるオレが一緒の旅というものはあまり積極的に行きたいものではないだろう。オレが親父と一緒に旅行とか考えられないのと同じくらい。
「みんなリラックスリラックス、何も怖いことはないから。本当にただの旅行よ。」
沙樹がオレのフォローをする。それでもみんなの緊張がとけてないのがなんとなく感じられた。
「では、港までバスで移動する。席は自由だから好きなとこに座っていいぞ。」
藤田先生の言葉でオレ達はぞろぞろとバスに乗り込む。学園所有のバスのなかでもかなり高級なバスが用意されていた。席も3列シートの一人ずつ座れるタイプのものでバスの中央付近にはトイレと水とお湯のサーバーが用意されていた。そこに備えつけのボックスの中にはコーヒーや紅茶のパックも用意されていた。バスが出発するとオレは席を少し倒して休む態勢に入る。
「真美、四国は海がきれいで食べ物も美味しいらしいよ。楽しみだね。」
オレの隣に座っている沙樹がオレのちょうど向かい側の席に座っている真美に楽しそうに話しかけている。真美はオレ達の組織にはめずらしくまったく外部から組織に入った人間だ。しかも何の特殊能力もない、ただ運だけで組織入りしたという稀有な例だ。現在オレ達の組織の大半は代々組織に所属していた家系か特殊能力を持って生まれてきて組織がスカウトしてきた人材が占めており、真美のようにまったく普通の人間というのは極少数派だった。
「太るぞ沙樹。」
オレはうれしそうな沙樹にクギをさしてやった。すると沙樹はオレのほうを見て
「いいもん脂肪燃焼の点滴うつから。」
と言い放った。沙樹にとっては何でも薬や医学で解決らしい。沙樹らしいといえばらしいが、オレは苦笑するしかなかった。
「沙樹は薬に頼りすぎなんだよ。こないだだって、オレ寝かすのに薬使っただろう?いっそ子守唄でも歌ってくれればいいのに。」
オレはせめてもの反論に冗談を飛ばした。すると沙樹はぷっと笑って
「あたしの美声聞いてたら眠るのがもったいなくてよけいに眠れなくなっちゃうわよ。それより注射で速やかにぐっすり眠ってもらうほうがいいでしょ?あたし的にも手間がはぶけていいし。」
とアホなことをぬかした。オレは一気に頭が痛くなった。どうやら沙樹に口では勝てないらしい。でも負けっぱなしは悔しいのでオレは言葉を続ける。
「お前の声なんか聞き慣れてるっての。オレが注射嫌いなの知ってて、わざわざ毎回注射で薬入れるな。たまには飲み薬で持ってこいよ。」
いつも沙樹はオレが嫌いなことは率先して行う。確信犯なのだ。
「だから飲み薬だと効くのも遅いし効果も安定しないし、注射が一番いいんだってば。速く効くし効果も安定してるもの。」
沙樹の言い分は確かに納得できるものだった。オレはその能力のせいか元々薬が効きにくい体質をしている。飲み薬なら特に効果が安定しない。注射なんかは血管に直接入れるおかげか、なんとか安定した効果を得られるのだ。
「結局オレに勝ち目ないんだよな。まぁオレもいつも沙樹の注射には世話になってるから仕方ないけどな。」
オレはもうあきらめて座っているシートを本格的に倒して完全休息モードに突入した。少しでも身体を休めておかないと、とても研修が乗り切れそうになかった。
「まぁ、絶対注射の方がいいって。だってさ仮に絵里華が撃たれて帰ってきたとして、超痛いのガマンしてるときに薬飲めっていって、しかもそれが効くまでの時間痛みに耐えてろって言うのと、注射で数秒で意識失うのとどっちがいい?」
沙樹はオレを休ませる気はないらしく、さらなる攻撃をしかけてくる。確かにそんな状況だったら注射の痛みとか感じてるヒマないだろうし。苦痛がはやく消えるほうが楽には違いない。
「ケースバイケースて言葉をお前は知らないのか?オレだって別に注射するなって言ってるわけじゃないぞ。ただ時と場合を考えろって言ってるだけだ。」
オレは半分目を閉じながら言った。
「じゃあ、今この場で速効性の注射打って寝かしてあげようか?心配しなくても効果が10-20分の短いやつ。港に着くまでには目が覚めるわよ?」
そう言って沙樹は持っているバッグの中身をちらりとオレに見せる。中にはハンカチやティッシュなんかと一緒に数種類の薬品と注射器が入っているケースが押し込まれていた。さすがと言おうかなんと言おうか。
「そんな短時間のために痛い思いなんかしたくないぞ。」
オレは沙樹の悪魔の微笑みを見なれていた。そんなこんなでオレと沙樹がしょうがない攻防を続けてるうちにバスは港についてしまった。結局オレは休息をとれていなかった。出港時間よりははやめに着いたので、オレ達は自由行動ののちに船に乗り込むことになった。オレは特に自由行動もいらなかったので、そっこう自分に手配されている船の部屋に向かった。東京と四国を結ぶ組織の運営しているその船にはオレは何度も乗っているしクルーもだいたいはオレの顔を知っているので顔パスで優先的に乗船させてもらう。手配されていた部屋は最上級のものだった。そこは一般客の出入りが制限されているので比較的気楽に過ごすことができた。オレは部屋のある階までエレベーターで向かう。エレベーターを降りるとフロントみたいなところがあって、そこで見知った顔が待っていた。

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