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ミュリのオリジナル小説連載コミュの聖ラフィーユ黒潮学舎 第1話

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聖ラフィーユ黒潮学舎 第1話

あたしの名前は田村真美。つい数か月前まで普通の女の子だったんだけど、ある日突然日常とは違う世界に飛び込むことになってしまった。その世界は一般人が知らないだけでかなり昔からこの世界に存在していた。世界には特殊能力を持つ人間が実はかなりの数いて、彼らはその能力を隠しながら世界平和のためにウラで働いていた。そんな能力者達をまとめている組織にあたしはひょんなことから所属することになってしまった。
聖ラフィーユ学園。名前だけならだれもが知っていそうな超有名私立校だ。あたしはそこを友達と受験したんだけど、その帰りに次元の狭間なるものにずっぽりと落ちてしまったのだ。その時に組織の人に助けられた縁で、あたしは組織にそのまま入団?することになってしまった。表向きは聖ラフィーユ学園高校の1年生として、ウラでは組織の訓練校であるラフィーユ学園の基礎課程生として、あたしは毎日忙しい訓練や授業をこなしていた。そしてあたしはその日、はじめての宿泊研修に出発した。

宿泊研修はその名の通り宿泊を伴う研修で年数回行われる予定らしい。最初の行き先は四国の聖ラフィーユの分校。基礎課程藤田クラス全員と絵里華と沙樹ちゃんがメンバーだった。あたしたちは集合場所である学校の門のところに各自お泊りの荷物を持ってその日の早朝に集合した。
「みんなおはよう。今日はみんなにとってはじめての宿泊研修だ。楽しむつもりで気楽に行こう。」
担任の藤田先生がみんなに挨拶する。さわやかなスポーツ系イケメンだが実は元傭兵という噂がある。
「オレも完全に旅行気分だからな。みんなも遠慮しなくていいぞ。」
ちょっと偉そうに言っているのが絵里華。あたしの天敵みたいなもんであり、あたし達の所属する組織JKFの総帥だった。つい最近まであたしは絵里華が総帥であることを知らなかったので、みんなが緊張している中でもあたしは比較的平気だった。
「みんなリラックスリラックス、何も怖いことはないから。本当にただの旅行よ。」
みんなを明るく励ましているのはあたしの親友とも言えるべき沙樹ちゃんだ。あたしと沙樹ちゃんは出会ってすぐにうちとけあい、今ではほとんど一日一緒に過ごしている仲だ。
「では、港までバスで移動する。席は自由だから好きなとこに座っていいぞ。」
今日の旅行行程は学校からバスで港まで移動し、そこから四国の分校まで組織の運航している客船で1日かけて移動になっていた。港を朝10時に出港し翌朝10時に到着予定だった。そして2日ほど分校でむこうの生徒と共にいろいろと活動し帰りは飛行機で帰ってくることになっていた。
「みんないくでー、うちが一番乗りや。」
みんなのムードメーカーであるアシャンが率先してバスに乗り込む。バスは1人掛けの3列シートでトイレもついていた。中央にはコーヒーやお茶のサービスもある。このバスも組織の所有だ。一行の人数が9人に対して27席もあるので席はけっこう自由に選べた。みんな意外と前に固まってる気がするけど。
「さて、出発するよ。」
藤田先生の合図で、バスは港に向けて出発した。ちなみにこのバスも一緒に船にのっけるらしい。帰りは空のまま帰る予定になっていた。なんかもったいない気がするけど、飛行機の移動の仕方も覚えるのも授業だそうだ。
「真美、四国は海がきれいで食べ物も美味しいらしいよ。楽しみだね。」
あたしの隣に座った沙樹ちゃんが目をランランと輝かせている。あたしも美味しいものは大好きだった。イメージ的にはうどんと魚がおいしい感じがする。
「太るぞ沙樹。」
沙樹ちゃんを挟んであたしの向かい側の窓側の席に座っている絵里華があきれたように言う。わかっていることだけれど言われたくない言葉だ。
「いいもん脂肪燃焼の点滴うつから。」
沙樹ちゃんにとっては何でも医学で解決らしい。あたしもその点滴うちたいかも、でも痛いのは嫌だなぁ。
「沙樹は薬に頼りすぎなんだよ。こないだだって、オレ寝かすのに薬使っただろう?いっそ子守唄でも歌ってくれればいいのに。」
冗談半分な絵里華の言葉に沙樹ちゃんがぷっと吹き出す。
「あたしの美声聞いてたら眠るのがもったいなくてよけいに眠れなくなっちゃうわよ。それより注射で速やかにぐっすり眠ってもらうほうがいいでしょ?あたし的にも手間がはぶけていいし。」
結局めんどくさいだけなんだ・・・・あたしには沙樹ちゃんのめんどくささが、ばっちり感じ取れてしまった。絵里華もけっこう沙樹ちゃんにはいろいろされているらしい。前に絵里華が自分は沙樹ちゃんの実験台だとか言ってたけど、ほぼ真実だったらしい。
「お前の声なんか聞き慣れてるっての。オレが注射嫌いなの知ってて、わざわざ毎回注射で薬入れるな。たまには飲み薬で持ってこいよ。」
絵里華はこんな態度でかいくせして注射が大嫌いらしい。それがなんだかあたし的には笑えた。あたしも痛いのは嫌だけど、絵里華ほどおおげさじゃないもん。
「だから飲み薬だと効くのも遅いし効果も安定しないし、注射が一番いいんだってば。速く効くし効果も安定してるもの。」
沙樹ちゃんはどうあっても絵里華に注射したいらしい。まぁ絵里華のあの嫌がり様を見ていたら、ドSっ気のある沙樹ちゃんとしては何が何でもやりたいとこだろう。あたしにはそれがよーくわかった。
「結局オレに勝ち目ないんだよな。まぁオレもいつも沙樹の注射には世話になってるから仕方ないけどな。」
絵里華はあきらめたらしく、座っているシートを後ろに倒して完全に休息モードに入るようだった。
「まぁ、絶対注射の方がいいって。だってさ仮に絵里華が撃たれて帰ってきたとして、超痛いのガマンしてるときに薬飲めっていって、しかもそれが効くまでの時間痛みに耐えてろって言うのと、注射で数秒で意識失うのとどっちがいい?」
それはとりあえず究極の選択だろうとあたしはつっこみたかったが、沙樹ちゃんは笑顔で絵里華にそんな言葉をつきつける。やっぱりドSだ。
「ケースバイケースて言葉をお前は知らないのか?オレだって別に注射するなって言ってるわけじゃないぞ。ただ時と場合を考えろって言ってるだけだ。」
沙樹ちゃんはどうやら絵里華を寝かせる気がないようだ。それから先も絵里華と沙樹ちゃんの攻防が続き、あたしはそれを聞きながら半分うとうとしていた。その間にバスは港についたようだ。車両の積み込みとかの関係上かなり早く到着したらしく、まだ一般客の姿はちらほらしか見えなかった。あたしたちはいったんバスを降り乗船手続きに向かった。藤田先生に先導されてむかった先は団体専用窓口だった。
「ここで学生証かIDカードを見せればいつでも無料で乗船できる。それぞれ手続きをしてくれ。」
あたしたちの持っている学生証はICチップ入りでいろいろなデーターが入っているらしい。あとIDカードは学生が終わった後に主に使用するもので組織の一員である証明書みたいなものだった。あたしはいつもサイフにいれて持ち歩いている。あたし達は順番に乗船手続きをしていった。あたしが窓口のお兄さんに学生証を出すと、学生証のカードを機械にピッとかざした後に学生証と乗船券を渡してくれる。乗船券にはLデッキ703という番号が印刷されていた。先に手続きが済んでいた沙樹ちゃんの乗船券をみると同じくLデッキの702という番号が印刷されていた。今日は一緒の部屋じゃないらしい。他のクラスメートのチケットも順番に確認すると、みんなはAデッキの601〜606までの番号が割り振られていた。
「出港は10時だ、それまで自由行動にする。遅れないように乗船するんだぞ。ちなみに一応、優先乗船できるから一般客より先に入った方が混雑は避けられる。時間まで港にある施設を見学してもいいし、各自に任せるよ。」
藤田先生の言葉にみんながはーいと返事をして各自散らばる。あたしは沙樹ちゃんと一緒にとりあえずお菓子とかを売店で買ってからはやめに船に乗り込んだ。絵里華は先生の話が終わった直後に船に直行したのでもう部屋に入っているだろう。あたしも沙樹ちゃんにつれられて真っ白な船体を輝かせている豪華客船におそるおそる足を踏み入れた。船の名前はシーブリーズ号、潮風って意味らしい。中にはエスカレーターやエレベーターもあって、とても船の中とは思えなかった。あたしは沙樹ちゃんに案内されてエレベーターでLデッキてかかれてあるとこまで上がった。エレベーターを降りるとまるでホテルみたいな空間が広がっていた。通路を進むと特別室と書かれた部屋の入口にかっこいい制服をきたボーイさんが立っているのがみえた。沙樹ちゃんは迷わずそこに進んで乗船券をボーイさんに見せる。あたしも一緒に自分の分のチケットを見せた。
「姫宮沙樹様、田村真美様ですね。今係の者を呼びますので少々お待ちください。」
ボーイさんが手元においてあったベルを鳴らすと、奥の方からこれまたかっこいい美青年のタキシードをきた人が2人でてきた。
「乗船中お世話をさせていただくバトラーです。御用の際はいつでもお呼びください。」
ボーイさんがそう言って二人を紹介する。
「姫宮様担当の上田と申します。」
沙樹ちゃんの前で黒髪を少し長くのばした美青年が挨拶する。そしてあたしの前にも少し髪を茶色くした美青年が頭を下げた。
「田村様担当の星野です。まだ組織で慣れないことも多いでしょうが、何でも聞いてくださいね。」
どうやら彼らも組織の人間らしい。それにしてもひとりひとりに専属のバトラーがいるなんてどんなすごい船なんだここ。
「二人ともよろしくね。」
沙樹ちゃんは慣れたものでにっこりと笑うと荷物を遠慮なく自分の担当のバトラーに渡す。あたしもおそるおそるマネをした。
「では、お部屋に案内いたします。」
あたしと沙樹ちゃんは二人の美青年に伴われて各自の部屋に向かった。その道中もまったく船のなかとは思えない豪華な内装が続いている。あたしはついきょろきょろしながら歩いてしまう。
「こちらが本日の田村様のお部屋でございます。」
そういってあたしが案内されたのはでっかい扉の前だった。なんかドアからして重厚なんですけど。
「あたしの部屋はもーちょい先だから、またあとでね真美。」
沙樹ちゃんは手をふりながらあたしの隣を通り過ぎていく。そのまま廊下の先を曲がっていった。
「カギはカードキーになっております。こちらをどうぞ。」
そういってあたし専属のバトラー星野さんがあたしにカードキーを渡してくれる。それはクロノスタワーで使っているものに似ていた。あたしはそのカードキーをドアのスロットに差し込む。カチリと音がしてドアについているランプが緑に光った。あたしはそれをみながらドアノブをまわす。このあたりはなんとなく慣れている範囲だ。
「部屋の設備についてひととおりご説明しますね。」
そういって星野さんはあたしに部屋の設備をいろいろ教えてくれた。船の中なのにシャワールーム付きのお風呂やトイレ等が部屋にはそろっていて、ベッドルームにはベッドが2台並んでいた。ベッドの向こう側にはソファーセットがおいてあってその向こうの窓からはここが船だと唯一わかるように海が見えていた。といっても港に停泊中なので大部分は陸地の風景だ。そのあと内線電話の使い方や用事のあるときに星野さんを呼び出す方法とかも一通り教えてから星野さんは頭をさげて部屋を退出していく。あたしはドアが閉まるのと同時になんか身体の力が抜けてしまった。組織の人って美形多い気がする。そんな美形ばっかりに囲まれたら緊張するよー。あたしが気を取り直して荷物をひっぱりだしていると、部屋の電話が鳴り響く。でると沙樹ちゃんの元気な声が聞こえてきた。
「ハロー。絵里華の部屋に遊び行くわよー、迎え行くから部屋の入口でまってて。」
有無を言わせない沙樹ちゃんの言葉に従って、あたしは荷物を簡単にまとめて部屋の片隅に置いてから沙樹ちゃんの迎えをまった。部屋が近いのかすぐに玄関?のチャイムが鳴る。あたしがドアをあけると沙樹ちゃんがピースしながら待っていた。
「ちゃんとカギはもった?まぁ、もってなくてもバトラーさんに言えばすぐに開けてくれるんだけどね。」
沙樹ちゃんの言葉にあたしは服のポケットを確認する。よし、ちゃんとカードキーは入ってる。
「絵里華の部屋はあたしの部屋の隣なんだよね。行くことはもう伝えてあるから、レッツゴー。」
いつものノリで沙樹ちゃんはあたしの手をひっぱって出発する。もうこのテンションにもだいぶ慣れたきがするのは気のせいかなぁ。あたしは沙樹ちゃんにほぼひきずられながら通路を進んでつきあたりを曲がった。そこにはドアが向かい合わせにあってそれぞれ701、702と番号がふられていた。そういえばあたしの部屋も703とふられてたっけ。沙樹ちゃんが迷わず701のチャイムを鳴らす。すぐにドアが中から開いて不機嫌そうな絵里華がでてきた。
「お前はオレを休ませる気はまったくねーな?」
しぶしぶでてきた感じの絵里華は朝にはそんなに気がつかなかったけどけっこう疲れているらしく、顔色が若干悪かった。
「だって久しぶりの旅行なんだよ。寝るのもったいなくない?」
沙樹ちゃんのはしゃぎぶりがいつもよりましている気がする。絵里華はそんな沙樹ちゃんの様子を冷たい目でみつつも諦めたようにあたしたちを部屋の中にいれてくれた。
「お邪魔します。」
あたしは沙樹ちゃんに続いて絵里華の部屋に入った。中はほぼあたしの部屋と同じ作りになっているらしい。
「適当に座って、飲み物も冷蔵庫にあるのも基本自由だし、メニュー表にのってあるものならバトラーに注文すればすぐに持ってきてくれるから。」
絵里華はそういいながら自分はグラスにミネラルウォーターを注ぐ。
「何か食べ物たのんじゃおうかな、真美どれがいい?」
沙樹ちゃんがカラオケボックスのノリでメニュー表をあたしに見せる。中にはスナック類から軽食、食事までいろいろとリストが載っていた。
「あたしホットケーキでいいや、真美は?」
あたしはメニューをぱらぱら見ながら、たまごサンドイッチを注文することに決めた。
「絵里華は?」
沙樹ちゃんが聞くと、絵里華はソファーに座りながら
「ローストビーフサンド。」
と簡潔に言う。それを聞いた沙樹ちゃんはみんなの注文を電話でバトラーさんに伝えた。注文を終えると沙樹ちゃんはあたしの隣、絵里華の向かい側に座った。
「そういえば絵里華、3日くらい前にシャレイル先生に提供したんだっけ?どうりで疲れてるわけだ。」
沙樹ちゃんが思い出したように言う。絵里華はそんな沙樹ちゃんを見てため息をついた。
「まぁ、ほんのちょっとだけどな。研修の事は伝わってたから、研修に支障がでない程度には抑えてくれてるはずだ。」
あたしには沙樹ちゃんと絵里華のやりとりの意味がさっぱりわからなかった。
「久しぶりにシャレイルが派手に力使ったみたいでさ、オレと親父のを少しずつとあとは常備のやつで賄ったらしいけど。」
絵里華の話にあたしが混乱していると、沙樹ちゃんがこそっと耳打ちしてくれた。
「絵里華は献血して貧血気味なのよ。だからこんな不機嫌なの。」
献血で貧血って・・・・あたしはびっくりして絵里華を見た。絵里華てそんなヤワそうに見えないのに。
「沙樹、その回答じゃ真美が誤解するだろう。真美は契約のこととかシャレイルのこととか知らないんだから。」
絵里華は沙樹ちゃんを軽くにらみながら言う。
「ついでだ、今日はシャレイルのことでも説明しとくか。ただしめちゃくちゃ信じられないくらいぶっとんだ話だぞ?」
絵里華たちの存在自体がもうすでにぶっとんでる気がする。そしてあたしがこの場にいることも、去年までの普通の暮らしに比べたらとびすぎな状態だ。今さら何を驚けというのだろう。
「大丈夫、だいぶ耐性できたもん。」
あたしはサラッと言った。けっこう自信はあった。でも絵里華の話はそれをさらにぶっとんでいた。
「オレたちの組織にいるのは人間だけじゃない。人間がヴァンパイアと呼ぶ者たちも所属しているんだ。」
絵里華の言葉にあたしは一瞬息をするのも忘れてしまった。去年までのあたしなら笑い飛ばした話かもしれない、でもこの非現実的生活を体験してしまったあとではすぐには否定できなかった。
「映画とか小説で書かれてるみたいには組織のヴァンパイアは人間襲ったりしないぞ。ただ血を飲むのは本当のことで、オレのような神の血族とかが提供者となって彼らを養っているんだ。そのかわりに彼らの持つ特殊能力を貸してもらったりしてるんだけどな。」
そう言いながら絵里華は自分の首筋を見せた。ほんとうにうっすらだけど2つくらい赤くなっているところがあった。
「これ牙の痕だよ。今晩あたりには完全に消えるだろうけど。オレ達は人間と違って傷の治りが速いからな、普通の人間なら噛まれて一週間は痕が残ってる。」
あたしは信じられない思いで絵里華の首筋を見つめていた。
「絵里華はたまにシャレイル先生ていう組織でも幹部にいるヴァンパイアに血を提供しているの。シャレイル先生は普段は聖ラフィーユ大学医学部付属病院で医師をしているんだけど、たまに組織のミッションに関わったりしているわ。ヴァンパイアはね、基本特殊能力を使うと血を欲するの。別に人間の血でなくてもいいんだけど、人間の血が一番能力回復に効率いいみたいなのよね。あとは同族の血もいいらしいけど。」
沙樹ちゃんの補足にもあたしはただ驚くしかなかった。組織に特殊な人間がいることは理解していけど、ヴァンパイアまでいるとは思っていなかった。
「てことは・・・絵里華噛まれたんだ?」
あたしの言葉に絵里華はちょっと笑った。
「噛まれる時けっこう痛いんだけど、噛まれた後は気持ちよくなっちゃうんだよな。」
それってドMてこと?てあたしが思いながら絵里華を見ると、絵里華が思いっきり突っ込んできた。
「ヴァンパイアの牙からは麻酔効果のある毒液がでるんだよ。命に関わる毒じゃないけど、それが苦痛を忘れさせて夢心地にさせてくれるんだ。別に痛いのが良いって意味じゃないからな。」
なんだそうなんだ、でも絵里華てけっこうMかもしれない・・・とはあたしは口が裂けても言えなかった。
「普段なら2-3日も寝ればすっかり回復するんだけど、ちょっと仕事が立て込んでてな。休みがとれてないから回復が遅れているだけだ。」
そういえば絵里華はいつも忙しそうにしているかも。そりゃ組織のトップなんだもん、当然忙しいよね。
「旅行中ゆっくりすればいいじゃん。今夜くらいは寝かせてあげるわよ。」
沙樹ちゃんの言葉にあたしは若干の毒を感じていた。
「そう思うならホットケーキ食ったら休ませろよ?」
絵里華がそう言った時、部屋のチャイムがなって男の人の声がした。どうやら注文した食事が届いたらしい。絵里華がドアをあけると金髪の男の人がワゴンをついて入ってきた。
「ご注文の品でございます。どうぞごゆっくり。」
外見完全に外人なのに完璧な日本語でその人は言うと、頭をさげて部屋をでていった。
「ほら、沙樹エサがきたぞ。」
絵里華は自分のローストビーフサンドの皿をつかむと、のこりのものがのったワゴンを沙樹ちゃんの前に押した。
「うわー美味しそう。真美もサンドイッチ食べなさい。」
そうしてあたしたちはそれぞれの注文したものを味わった。沙樹ちゃんはホットケーキにたっぷりとメープルシロップをかけて食べた。絵里華は黙々とサンドを口にしている。あたしもたまごサンドにがっついた。各自が食事を終わるころには船の外がにぎわってきていた、どうやら出港のセレモニーをしているらしい。
「そろそろ出港だな、一般客も乗り込んできてるし。」
絵里華が窓から外の様子をみながら言う。あたしもつられて窓の外を見てみた。船に続く階段みたいなのからたくさんの人が船に乗り込んでいる。
「このフェリーけっこう評判いいからな。プチ豪華クルーズという売り込みで黒字運航らしい。」
これだけの船だ、維持費はかなりかかるはず。しかもこんな美形なバトラーさん達もいっぱいいることだし。あたしはいろいろ思いながら自分のお皿を片づける。
「まぁ一般客はAデッキまでしか入れないんだけどね。このLデッキは完全に組織専用だ。その分くつろげるからいいけどな。」
そういえばあたし達以外のみんなはAデッキだ。あたしだけいいのかな、こんな贅沢しちゃって。
「あたしもLデッキで大丈夫なの?みんなAデッキなのに?」
あたしはとりあえず思ったことを言ってみた。そんなあたしの言葉に
「別にいいんじゃね?AデッキとLデッキの違いは各部屋専属のバトラーがいるかどうかだけだし、Aデッキでも2-3部屋くらいずつに専属バトラーがついてるから他のみんなも不便はないだろう。ちゃんといい部屋をわりふってあったしな。お姫様がここなのはお姫様だからだよ。」
と、最後はからかい半分に絵里華は言った。
「いいじゃん、あたしと同じデッキの部屋なんだから。今回は一部屋ずつにしてみたけど、どっちかの部屋に泊りにきてもいいのよ?」
沙樹ちゃんがにっこりと笑って言う。なんだか庶民なあたしは二人の感覚についていけてない気がする。
「まぁ、組織の雰囲気になれる勉強だと思っておけばいいさ。お姫様はどっちかといえば特待生なんだから素直に甘えとけばいい。」
いいながら絵里華は電話を取ると、バトラーさんに連絡してお皿をさげてもらった。そして沙樹ちゃんの方を向くと皮肉げに笑いながら
「さて、休ませてもらおうか?」
と沙樹ちゃんに言う。沙樹ちゃんも覚悟は決めていたのか。
「はいはい。」
と言って席をたつ。あたしもそれに習った。
「あ、絵里華。これあげるね。」
そう言いながら沙樹ちゃんは服のポケットから小さな紙包みを出した。どうやら薬袋らしい。
「ぐっすり眠れるお薬。イチゴ味にしてあるから、そのまま水で飲んで大丈夫だよ。」
沙樹ちゃんに薬を手渡された絵里華はくすくすと笑ってそれを受け取った。
「やればできるじゃんか。じゃあオレはこれ飲んで寝るから、しばらく連絡つかないと思ってくれ。」
絵里華は早速グラスにミネラルウォーターを注ぐと薬袋を開けて中の薬を一気に口の中に放り込んで水で飲み込む。
「じゃあお休み、絵里華。」
沙樹ちゃんはそういうとあたしと一緒に絵里華の部屋を出た。閉まるドア越しにベッドに横になる絵里華がちらりと見える。よっぽど疲れていたんだ。あたしはちょっとだけ絵里華に同情した。

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