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ミュリのオリジナル小説連載コミュのVampire Chareile

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Vampire Chareile

シャレイル・ウェンスターはその日も一日の職務を終えて自宅のリビングでくつろいでいた。英国の次期公爵である彼には、毎日領地を管理することに関する膨大な執務があった。今年で25歳になる彼には日々の社交界での付き合いや領地の見回りなど、毎日が激務だった。父親であるセドリックは国王の補佐を務めているため王城に住み込んでおり、領地の管理等は一人息子であるシャレイルがすべて任されていた。今も執事であるジェームズが入れてくれた紅茶を飲みながら、今日初めてやっと一息いれられたところなのだ。
「シャレイル様、少しはお休みになられませんと。領地の管理を一部親族のどなたかにお任せになってはどうでしょうか?」
ジェームズの言葉はもっともだったがシャレイルは親族が領民に対して厳しいのを知っていたため、あまり任せたくはなかったのだった。シャレイルは貴族にしてはめずらしく領民を愛し、領民のためにいろいろな政策を実施して少しでも生活が改善されるようにしていた。普通の貴族は領民から税をしぼりたて、自分たちはひたすら享楽に染まっていた。
「叔父達が領民に厳しいのはお前も知っているだろう?私は領民達を苦しめたくはないのだよ。」
シャレイルが政策を施し生活を改善しているおかげで、領民たちもシャレイルに好意的だった。他の領地では領民の反乱も起こっていると聞くが、シャレイルの領地では一度もないことだった。
「シャレイル様は本当にお優しい。我々はシャレイル様を領主にもって幸せでございます。」
ジェームズの言葉にシャレイルは少し照れる。自分は特別なことをしているつもりはない。ただ領地の発展のためには領民を苦しめるより、愛する方がはるかに効率がよいと思っているからだ。
「さてそろそろ眠るかな、ジェームズ準備を。」
シャレイルは執事に命じると湯あみに向かう。湯あみが終わるころにはベッドの支度ができていた。シャレイルがまさにベッドに入ろうとしていた時、急に寝室のドアが叩かれる。その乱暴な叩き方でシャレイルには訪問者がだれだかわかってしまった。叔父であるトーマスだ。シャレイルは仕方なく夜着のままで対応した。
「ごぶさたしております叔父上。本日はどのような御用でしょう?」
冷静にいうシャレイルに対して叔父はなぜか鼻息が荒かった。一種の興奮状態だ。
「シャレイル、ぜひお前に会わせたい方がいるのだ。急ですまないが少し下に来てくれないか?」
シャレイルに断る理由もなく、叔父とともに下の応接室に向かう。そこには一人の美少女が待っていた。
「マリア様。これが甥のシャレイルにございます。」
叔父の態度があきらかにおかしい。17、8歳にしか見えない少女に対して最大限に敬語を使う叔父などシャレイルは今まで目にしたことがなかった。マリア様と呼ばれた少女がゆっくりとシャレイルに近づいてくる。
「こんな時間にいきなりごめんなさいね。でも私どうしてもあなたに会いたかったの。」
少女の声はまるで天上の音楽のように美しかった。シャレイルは一瞬でその姿に魅入られる。その間に少女はシャレイルに近づき少しだけ匂いを嗅ぐような仕草をする。
「トーマス、あなたの甥は間違いなく因子保持者よ。」
少女の口からシャレイルには意味がわからない言葉がでる。しかしその言葉でトーマスは歓喜した。
「光栄でございます。よもや我が一族から因子保持者がでるとは、うれしい限りでございます。」
叔父は意味がわからなくて困惑しているシャレイルの前で、マリアに頭を深々と下げた。
「今日彼を迎えるわ。準備を。」
そう言うとマリアという美少女は部屋を後にする。残されたのはシャレイルと叔父のトーマスだった。
「すまないなシャレイル。突然のことで混乱しただろうが、我が一族にとても名誉なことが今夜起こったのだよ。理由はいずれわかるだろうから、今は私と祝い酒を酌み交わしてくれ。」
叔父の言葉にシャレイルは疑問を持ちつつも、応接間のソファーに座り叔父の従者が運んできたワインに口をつける。それは少し苦い味がした。
「まさかとは思っていたが、本当に我が一族から名誉ある一員がでるとは思わなかったよ。本当にうれしい限りだ。」
叔父はかなり上機嫌だ。シャレイルにはその原因にさっぱり見当がつかなかった。
「叔父上、いったいどうなされたのですか?さっきの少女はどなたです?」
まるでアンティークドールのような整った美貌の美少女。マリアと呼ばれていた彼女からシャレイルは異質なものを感じ取っていた。ただの少女にこの叔父があそこまで気を使うはずはない。
「お前はな、選ばれた人間なのだ。いや、人間であるのは今宵かぎりだな。」
叔父の言葉にシャレイルはますます混乱する。
「それはどういう・・・・」
意味なのですかとシャレイルはつなげられなかった。シャレイルの視界がいきなりかすむ。そのまま身体も急速にしびれていく。
「おじうえ・・・・」
聡明なシャレイルには叔父がワインに薬を盛ったのがわかった。苦痛はないので毒ではなさそうだ。ただ身体の自由がきかず強い眠気が身体を襲う。
「表向きお前は病死と言うことにしておこう。兄にもそう報告するよ。」
叔父の言葉をかすかに聞きながらシャレイルの視界は闇に閉ざされていく。意識を失ったシャレイルの身体を従者が数人がかりで外の馬車に運び込んだ。
「ようこそ、我が一族へ。」
馬車の中にはさきほどの美少女マリアが待っていた。意識のないシャレイルはマリアの前に横たえられる。
「城に戻るわよ。はやく彼の血を味わいたいの。」
そう言ってにっこりと笑うマリアの歯がすっと長く伸びて牙に変化する。彼女は血を糧に特殊能力を使うヴァンパイアの一族だったのだ。マリアの命令をうけて馬車はマリアの居住となっている城へと向かう。
「トーマス、約束通り力を貸してあげるわ。貢物の代償にね。」
マリアが言うと、一緒に馬車に乗り込んでいたトーマスが深々と頭を下げた。彼は自分の甥をヴァンパイアの女王であるマリアに差し出すことによって、自分に有利な力をマリアから貸してもらえることになったのだ。馬車は疾走して山奥の古城へとたどり着く。城につくとマリアは横たえられているシャレイルを軽々と抱きあげた。ヴァンパイアである彼女の力は見た目に反して強いのだ。
「ここから先はヴァンパイアの領域よ、命がおしければ戻りなさい。わかっているわね?」マリアはシャレイルを抱きかかえたまま馬車を降りていく。城の前には門番がおりマリアに深々と頭をさげて城の扉を開いた。トーマスはそれを見送ると馬車のドアを締め来た道を引き返す。ここから先に進めば命がないことが彼にはわかっていた。マリアはそれを一瞥するとシャレイルを城の地下へと運んでいく。城の地下には部屋がいくつかあり、そのなかでも儀式の間と呼ばれている大理石の祭壇がある部屋へと彼女は足を進めていく。部屋の中に入ると、部屋の両側に並べられているロウソクが火の気もないのに次々と点灯していった。部屋のほぼ中心にある大理石の祭壇の上にマリアはシャレイルの身体をゆっくりと横たえた。シャレイルはワインに入っていた秘薬の効果で完全に意識を失っている。秘薬は強力で、どんな痛みを与えても彼は覚醒しないはずだった。
「美男子の血は久しぶりだわ。」
マリアはシャレイルにむかってそっと呟くと、シャレイルの夜着をはだけさせる。あらわになった首筋にマリアの牙がゆっくりと突き立てられた。シャレイルは牙を突き立てられても微動だにしなかった。マリアはゆっくりとシャレイルの血を飲み干していく。やがてシャレイルの鼓動が乱れて、そのあと停止する。マリアが顔を上げる頃にはシャレイルの心臓と呼吸は止まっていた。
「美味しかったわよ。目が覚めたらご褒美をあげるからね。」
青ざめた顔で死んでいるシャレイルにマリアはそっと口づける。シャレイルの首筋にはマリアのつけた牙の跡がくっきりと残っていた。

シャレイルが目覚めると見覚えのない天井が目に入った。ぼんやりとした頭であたりを見回すがロウソクの炎が煌めいているだけで他には何もなかった。ゆっくりと起き上ると自分が大理石の台の上で横になっていたことに気がつく。服は夜着のままだった。
「目が覚めたわね。待ってたわよ。」
突然の声にシャレイルは驚いて声のした方向を見る。そこには金髪の美少女がシャレイルを見つめていた。確かマリアと呼ばれていたその少女の事とともに、シャレイルは自分が叔父に薬を盛られたことを思い出した。
「いろいろと疑問だらけでしょうけど、ひとつだけ言っておくわ。あなたはもう人間ではないのよ。私と同じヴァンパイア、その中でも王家ともいえる一族の一員となったのだから。」
マリアの言葉はシャレイルにとって俄かには信じられないものだった。そもそもヴァンパイアという言葉自体シャレイルにとっては聞き慣れないものだったのだ。
「言葉で説明してもわからないだろうから、身体で教えてあげるわ。」
そう言うとマリアは自分の手首を噛んだ。その瞬間あたりに濃厚な香りが立ち込める。それはシャレイルの何かをひどく刺激するよい香りだった。
「おいでシャレイル。」
マリアに言われるまま、シャレイルは祭壇を降りてマリアの元に近づく。
「ご褒美よ、飲みなさい。」
マリアはそう言ってシャレイルに自分の手首を差し出した。そこには小さな穴が2つ開いており、そこから血が滴り落ちていた。シャレイルは反射的にその手首をつかんで血を啜っていた。血の味はとても甘かった。
「いい子ね。」
マリアは血を吸わせながらシャレイルの頭を撫でた。瞬間、シャレイルは我に帰ってマリアの手首から口を離す。
「ふふ、自分で血を吸うのをやめられるなんて。転生したてのヴァンパイアにはとても難しいことなのに、あなたは優秀なのね。」
マリアは微笑んでそう言った。目覚めたてのヴァンパイアははじめて飲む血の感覚になかなか逆らえずに自分で止められるものはごく僅かだ。だいたいは無理やりはじめて突き立てた牙を外されることになる。シャレイルは初めての吸血を見事に自分でコントロールしていた。
「ヴァンパイアとは血を吸う者なのですね。」
シャレイルは自分が人間ではなくなったことを一瞬にして悟った。
「そう、私たちは血を糧にいろいろな特殊能力を使うことができるの。たとえばこんなこととか。」
言うや否や部屋の明かりがすべて消える。しかしシャレイルにはマリアの姿も部屋の周囲もはっきりと見ることができた。
「暗闇も私たちにとっては昼と同じ。他にもいろいろな能力があるけれど、時間はたっぷりあるんですもの、少しずつ覚えていけばいいわ。」
マリアが言いながら手首の傷口を舐める。そうするとみるみるうちに傷口がふさがり跡かたもなく消えてしまった。驚くシャレイルを促して、マリアは地下室を出る。連れて行かれた城の中はシャレイルの暮らしていた屋敷よりもずっと豪華なものだった。
「私たちは伝説の中の存在なのよ。人の血を奪いながら闇に生きる。でもそれは私たちの本当の姿ではない。血を吸うことも本当に必要なことではなくて、あくまでも力を使う媒体なの。私たちには飲食も必要ない。息をすることも、眠ることも人間の時に必要だったことは私たちにとってはまったく必要のないことなのよ。」
城の一室に案内されたシャレイルは、マリアの言葉を聞きながらも信じられない思いで自分の身体を眺めていた。前と何ら変わりのないように見える身体、呼吸もちゃんとしているし脈動もある。
「ためしに息を止めてごらんなさいな。いつまでだって止めていられるから。」
マリアの言葉にシャレイルはそれを実践してみる。確かにいくら呼吸を止めていても一向に苦しくはなかった。
「私たちにとって呼吸とは人に対する擬態でしかないの。あとは大気中の元素を取りこんでエネルギーにかえることもできるけれど、一番の理由は人にまぎれて生きていくための術だわ。」
マリアの言葉を聞いてシャレイルは呼吸を再開する。
「でも心臓は重要よ。私たちにとって心臓は命の源。心臓に攻撃を受ければ消滅することだってあるわ。私たちは心臓から送り出されてる自分の血によって身体を維持しているの。だから心臓を破壊されて身体に血がめぐらないように全身をばらばらにされてしまえば、私たちの身体は消滅してしまうのよ。」
マリアは言いながらシャレイルの胸元に手を当てる。
「でも安心しなさい。私たちの身体は普通の金属では傷つけることができない。同族の牙か特殊な金属でないと私たちの身体を貫くことはできないの。」
そういうとマリアは自分の胸元から短剣を取り出してシャレイルの胸元をついた。一瞬シャレイルは冷たさを感じたが、苦痛はなく出血もなかった。
「私の胸も突いてみる?」
いたずらっぽく笑ってマリアはシャレイルに短剣を手渡す。シャレイルは受け取った短剣でマリアの胸に狙いを定めた。自分の例があったのでためらいなく突きさしたがマリアの胸に短剣を刺した瞬間、短剣が跳ね返される感触を感じた。当然マリアの胸元には傷一つついていない。
「そろそろ着替えた方がいいわね。服を用意しておいたの、気にいるといいけれど。」
そう言ってマリアがパチンと指を鳴らすとすぐに服を抱えた召使が入ってくる。
「隣の部屋を使うといいわ。さすがに見られているとはずかしいでしょ?」
いたずらっぽく笑ってマリアは隣の間に続くドアを指差した。シャレイルは召使から服を受け取ると隣の部屋に移動する。自分が着ていた夜着を脱いで上質な絹のドレスシャツと黒のズボンを身につける。着替えが終わるとシャレイルはすぐにマリアの待つ部屋へと戻った。
「よく似合っているわ。さて話の続きをしましょうか、そこに座りなさい。」
マリアに促されるまま、シャレイルは部屋のソファーに座る。
「私たちは滅多には死なない。ううん、死ぬと言うより消滅といったほうが正しいわね。私たちが消滅するためにはこの身体をバラバラにしなければいけないのだから。」
言いながらマリアは自分の身体を撫でた。
「私たちは自分が一番美しい時でその外見をとどめるの。ただし人間でいたときの時間は戻らないわ。自分が変化してからで一番いい時に身体の成長が止まるの。私は7歳で変化して、18歳くらいで成長が止まったわ。あなたはどれくらいで止まるのかしら?」
シャレイルは思わず部屋に置いてあった大きな姿見を見つめる。そこに映っている顔は、人間として生きていた時となんら変わりはなかった。
「私たちが人間からヴァンパイアに変化するのには2つのパターンがあるの。自然に因子が目覚めるか、因子保持者が死んでからヴァンパイアとして変化するか。その二種類でしかヴァンパイアは生まれない。私が前者であなたが後者ね。ただし因子保持者が死んでから変化する場合、他のヴァンパイアから致死の吸血を受けて死んだ場合のみほぼ100%の確率で変化を起こすけれど、自然死の場合は変化の確立がかなり低いのよ。」
シャレイルはマリアの言葉で人間であった自分が一度死んだことを悟る。死ぬということはもっと苦痛を伴うことだと思っていたが、シャレイルの記憶には死ぬときの苦痛は一切なかった。
「私はその中でも特に特殊なの。普通は因子保持者しかヴァンパイアに変化することはできないけれど、私の血を飲めば普通の人間でもヴァンパイアとして生まれ変わることができるの。ただし致死量のぎりぎりまで血を奪った後に血を与えないとだめだから、成功率は低いのだけれど。私たちはその能力を持つヴァンパイアのことを始祖種と呼んでいるわ。残念ながらあなたは始祖種ではないけれど、ヴァンパイアの中ではかなり高位の能力を持っているわ。あとは使い方を覚えることね。」
つまりマリアには普通の人間を同族に変える力があるが、自分にはないということか。そして自分にはいろいろな特殊能力がある、しかしまだその使い方を知らない。聡明なシャレイルはすぐにそのことを理解した。
「先ほども言ったけれど、時間はたっぷりあるんですもの。ゆっくりと覚えていけばいいわ。」
マリアは微笑んでシャレイルを見つめた。本当にどこからみても完全な美少女だった。
「この城には私を城主として何人もヴァンパイアが住んでいるわ。あとはたまに人間の供血者が訪れるけれど、その時以外人間は城にいないの。供血者というのは私たちと契約を結びその血を捧げる代わりに私たちの特殊能力で利益を得ている者たちよ。彼らから定期的に血をわけてもらえば、私たちはいつでも自由に力を使える。ただし血をもらうには私たちの側に相当な忍耐力が必要なの。私たちにとって血は麻薬よ、中毒になってしまえば自分から吸うのをやめられず致死量を超えて奪ってしまうわ。だから普通のヴァンパイアは人の血を飲まないままで力も使わずに生きていくの。まるで永遠に生きる人間のような生活だけれど、私たちの存在を人間から隠すためには必要なことなの。」
マリアの言葉はシャレイルも納得できることだった。人間は異質なものを排除する。マリアや自分のような存在が公になれば、普通に生活を送るこことはまず無理だろう。普通の生活と言うにはこの城は豪華すぎるかもしれないが。
「別に人間なんて私たちにとっては何も怖くはないんだけど、煩わしいのは好きじゃないから。」
確かに人間が束になってかかってきても、自分達を滅ぼすのは容易ではないだろう。むしろ無理に近い。しかしこれだけの強力な力を持っていれば、人間を従えて自分達の王国を作ろうとは思わないのだろうか?シャレイルの胸にふとそんな疑問が浮かんだ。
「私たちが君主にならない理由、教えてあげましょうか?」
マリアの言葉にシャレイルは驚く。自分の考えはマリアには筒抜けらしい。
「私の特殊能力の一つにテレパシーがあるの、要するに他人の思考がある程度読めるということね。そして私達が君主とならない理由。それはね、私達はいわば天使みたいな役割を負っているからなの。神々が人間に残した遺産の一つが私達の存在よ。そしてもう一つ神の血族と呼ばれる少数の人間達、私達は彼らと共に人間がそれなりに幸せに暮らしていけるように世界を調整する役目を負っているのよ。」
マリアの話はシャレイルにとっては難しすぎる話だった。しかし一つほっとしたことがあった、それは自分の存在が決して悪いものではなく、人々の幸福のための存在であるということだ。人の血を奪うことに抵抗はあるが、それも必須事項ではないし死なない身体ならではの、いろいろと世の中のために自分が何かをできそうな気がした。
「私達の組織はローゼンクランと言うの。いずれはあなたに後を継いでもらうのもいいかもしれないわね。私ももう長いこと総帥をしているから、あなたがヴァンパイアとして大人になったら交代してもらうわ。」
シャレイルの運命はすでに決められているらしい。マリアの言葉を聞いてもシャレイルに特に抵抗感はなかった。自分が少しでも世界のために役に立つのなら、人間でなくなったことも気にすることではないかもしれない。
「その勉強も少しずつしていけばいいわ。いずれは神の血族と契約も結んでもらわないといけないしね。しばらくは私の血を吸う練習をしなさい。吸血のコントロールがうまくできなければ契約を結ぶこともできないし、表の世界で生きることも容易ではないのよ。私達の仲間で吸血のコントロールができないものは皆、人間の世界から距離を置いて暮らしているわ。そのうち彼らの暮らす集落にもつれていってあげるわ。」
契約という意味はわからなかったが、シャレイルには自分を制御する自信はあった。現に目覚めたときもマリアの血を吸うことに対してあまり執着を感じていなかったからだ。マリアはそんなシャレイルの心が読めるらしく
「いい子ね。」
と言って微笑む。シャレイルにはそれが少しだけうれしかった。
「そろそろあなたの部屋に案内しましょうか。あなたが目覚めるまでにと急いで整えたの。しばらくはこの城で暮らすことになるのだから部屋があったほうがいろいろ便利でしょ?」
そう言うとマリアは立ち上がりシャレイルを手招きする。シャレイルはマリアに導かれるままに部屋をでて城の通路を進んでいった。シャレイルの部屋は城の5Fの南向きの端部屋だった。
「あなたには日の光が似合うわ、あたしは残念ながら月の方が似合うのよ。これから毎日いろいろなことを教えてあげる。あなたは私の後継者なのだから。」
マリアの言葉にシャレイルは盲目的に頷いた。自分がもうここにしか居場所がないことをシャレイルは察していた。どうせ領地に戻っても、もうシャレイル・ウェンスターという人間は存在していないのだろう。叔父のことだ、領地をすべて自分の物にしてシャレイルの墓も立てているかもしれない。シャレイルには叔父がとるべきたろう行動が手に取るようにわかっていた。
「本当にあなたは聡明ね。あなたに出会えて私は幸せよ。」
マリアがシャレイルを抱き寄せるとまるで薔薇の様な香りがした。こうしてシャレイル・ウェンスターは人間としての生を終え、永遠に生きる者ヴァンパイアとして転生したのだった。

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