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ミュリのオリジナル小説連載コミュのAfter School 〜絵里華の場合〜 後編

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After School 〜絵里華の場合〜 後編

「さて、オレらも部屋に帰るとするか。」
オレは言いながらパソコンを持ち運び用のケースに片付ける。
「真美ちゃん一緒に帰ろう、どうせ階一緒だし。」
沙樹が真美をほぼ強制的に連行していく。オレ達は一緒にクロノスタワーの15Fにあるエントランスゲートに向かった。ゲートに常駐している警備員がオレの姿を見て敬礼する。ゲートを管理する職員は全員オレや親父の顔は熟知している。
「御苦労さま。」
オレはねぎらいの言葉をかけてゲートを通過する。沙樹達は一応簡単な学生証のチェックを受けていた。ゲートを通過するといくつかのエレベーターが並んだ部屋にでる。そこは行き先の階数別にエレベーターが分けられていて、オレ達は一番上の階まで通じているエレベーターの前に移動する。さすがに上層階に行くエレベーターは幹部専用なだけあって利用者も少なく、そう長い時間待たずにエレベーターに乗ることができた。オレは服のポケットからカードキーを出してエレベーターのスロットに差し込んですぐに引き抜く、このエレベーターはカードキーを差し込まないと移動する階数を選択することができない。オレがカードを引き抜くとオレの部屋がある70Fの階数が点灯した。続いて沙樹が自分のカードを読み込ませると沙樹の部屋がある67Fが点灯した。
「どうせならオレの部屋に寄っていってもいいぞ?お姫様はまだ来たことなかっただろう?」
オレは冗談半分に真美に声をかける。真美にとっては今日のカミングアウト?はかなり衝撃的だっただろう。そのついでにもう少し真美にいろいろ見せておいてもいいかなとオレは思っていた。
「それじゃあ、そうしよっか。真美ちゃんも一回は行ってみるべきだよね。絵里華総帥の部屋、最上階だから眺めいいのよね。」
真美のかわりに沙樹が答えたが、結果は同じだ。真美はほぼ強制的にオレの部屋にくることになった。67Fまでエレベーターが上昇し一旦扉が開く、その瞬間冬彦が
「僕ちょっと仕上げたい論文があるから降りておくよ。みんなまたね。」
と言ってエレベーターから降りた。まぁ冬彦も書きかけの論文を抱えて大変だろうことは察しがついたからオレも
「了解、がんばれよ冬彦。」
と言って冬彦を送り出す。組織内ではけっこう頻繁に学会みたいなものも行われており、いろいろな部門から研究発表がされていた。冬彦は薬学部門において注目の若手研究者として名が知られている。ドアが閉まるとすぐにエレベーターは70Fに到着した。なんせ3F分しか離れていない。
「ほらついたぞ。」
ドアが開くのを見ながらオレは言った。そのままエレベーターホールに足を踏み出す。真美もおそるおそる後に続いてくる。こじんまりとしたエレベーターホール前には二つのドアが並んでいた。それぞれに7001、7002と部屋番号がふられている。
「オレの部屋は7002だ。ちなみに7001はあのイケメン総帥の部屋だからな。」
オレが部屋を指差しながら言う。真美が目を丸くしてドアを見つめていた。
「ではオレの私室にようこそ、お姫様。」
オレはカードーキーを差し込んで部屋のドアロックを開ける。
「一応日本式に靴を脱ぐようにしてるんだ。来客用に沙樹がスリッパ用意してるから、それを使ってくれ。」
玄関でオレはそう言うと、ルームシューズに履き替えて部屋に入る。後ろをみると沙樹が真美にかわいい猫がついているふかふかのスリッパを出していた。いつのまにそんなもん用意していたんだか。
「この部屋、沙樹が入り浸ってること多いからな。沙樹の私物がかなりあるぞ。」
廊下からオレの執務室まで沙樹の私物が点在している。バックだの医学書だのでっかい犬のぬいぐるみだの、沙樹の趣味が前面にでているものばかりだ。
「まぁ絵里華の部屋は半分あたしの部屋みたいなもん。客室の1つ完全に独占してるしね。」
沙樹がにっこりと笑って言うが、オレには悪魔の微笑みに見えた。オレの部屋には客室もいくつかあるのだが、その中で一番でかい部屋が完全に沙樹の私室になっている。基本オレが在室しているとき以外は使えないものの、沙樹は自分の部屋にいるよりオレの部屋で過ごしているほうが多い気がする。オレは執務室に向かって足を進める。玄関からまっすぐ進んでいって突き当たりにその部屋はあった。部屋に入ると学園内の綺麗な夜景が視界に広がる。
「ここが一応オレの仕事場兼沙樹の爆睡部屋だな。オレが仕事してようがなにしてようが、夜景見ながら寝やがるからなこいつは。」
オレは沙樹への嫌みをたっぷりこめて言いながら、パソコンを机の上に出して置く。
「こっからの眺め見ながらくつろいでると、なんか眠くなっちゃうのよね。絵里華もここの夜景キライじゃないでしょ?仕事部屋にしてるくらいだし。」
沙樹はオレの嫌みにもまったく動じずに軽口で返してくる。
「まぁな」
オレもこの夜景は気にいっているので、肯定を返しながら執務室のデスクの椅子に座った。
「ここには風呂付の客室や会議室、書斎なんかがあるんだ。親父の部屋も作りはぼ同じかな。」
言いながらオレは机の上のパソコンに印刷用のコネクターケーブルを取り付けて印刷をする。
「気にいったらいつでも遊びこいよ。歓迎するぜ?」
印刷した報告書を手に取りながらオレはくすりと笑って言った。真美は戸惑っているようだった。
「あたしと一緒に泊りに来たらいいよ。独占してる部屋ツインルームだし、ベッドも広めのダブルベッドを2つ置いてあるから一つのベッドで一緒に寝るのもあり。」
沙樹がオレの言葉にかぶせるように言う。この分なら沙樹が真美をひきずってでも泊りに来るだろうな。
「さてと仕事も終わったしオレはちょっと寝るかな。沙樹あとの案内頼む。」
オレは印刷し終わった報告書をクリアファイルに挟むと、沙樹に後のことを押しつけて部屋の奥の扉を開く。そこから先は完全にオレのプライベートスペースだった。さすがの沙樹も遠慮してか、このドアから先には緊急時以外は滅多に入ってこない。
オレはドアを締めるとやっと肩の力を抜いた。報告書の入ったファイルを整理棚に差し込むと、その足でベッドルームに向かう。ベッドルームには3人は寝れそうなほどデカイベッドとちょっとした机とソファーが備え付けられていた。オレは制服のジャケットを脱ぐとクローゼットの中にしまう。そのあとベッドルームと続き部屋になっているマスターバスルームに向かった。マスターバスルームには窓がありそこからも夜景が見渡せるようになっていた。何室かある客室にもバスルームはついているが、窓のあるバスルームはオレの私室のバスルームだけだ。服をてきとうに籠に投げ込みオレはシャワーブースでシャワーを浴びる、シャワーブースもガラス張りなっているのでシャワーを浴びながらでもバスルームからの夜景を見ることができた。オレは夜景を楽しみながら軽くシャワーを浴びると、浴室に備え付けられているバスローブを纏ってベッドルームに戻る。ベッドルームからも同じく夜景が見渡せるようになっていたがオレは薄いカーテンを閉めた。ベッドに身を投げ出してベッドサイドにある照明の調節を操作して明かりをうす暗くする。暗闇よりはほんの少し光源が残っている方が、オレは好みだった。すぐに寝ようと思って努力するものの、今日一日いろいろありすぎたオレは寝つけずにベッドの上でごろごろとしていた。そういう時はいろいろと頭が物事を考えるもので、親父は今頃飛行機の中だなとか沙樹と真美は部屋見学して帰ったかなとか、いろいろな思考が横切ってオレは眠れないループにはまっていく。どう考えても眠れそうにないので、オレはあきらめてベッドから起き上がりバスローブのままで執務室に向かった。執務室とオレの私室の境のドアをあけると、沙樹がソファーの上でねっころがって医学書を読んでいるのが目に入る。
「絵里華、真美は帰ったけどあたしは泊っていくからね。よろしくー。」
オレの姿をちらっとみながらも、沙樹はそのまま本に夢中だ。
「お前のその能天気さを、少しオレにわけてくれ。」
多少呆れ気味に、オレは沙樹の寝転がっているソファーの前の椅子に腰かける。
「性格は仕方ないわよ。絵里華はマジメすぎるんだってば。」
沙樹はオレの言葉に医学書を閉じて、オレの顔を見つめてくる。
「総帥来てたんでしょ?絵里華が眠れない時って、けっこうおじ様がらみの時多いし。」
沙樹は親父のことを昔からおじ様と言う。沙樹はちっさいころから頻繁に両親に連れられてフランスのオレの家まで遊びに来ていた。その時にオレの親父のことをおじ様と呼んでいた名残らしい。だいたいフランスでは沙樹とオレは日本語か英語で会話をしていたのだが、親父と沙樹は完全に日本語で会話していた記憶がある。それにしても完全にオレの状態をよまれているのはさすがといおうかなんといおうか。
「今晩の専用機でフランスに行ったよ。本家に用事があるんじゃね?」
今でこそ日本で暮らしているが、オレの生まれたのはフランスだ。戸籍も日本とフランス両方に持っている。それは親父や他の家族も同様だ。
「幹部会があるんじゃないかな、父様がそんな話をしてた気がする。」
沙樹の言葉にオレはうっすらとそんな話を聞いていた記憶が戻ってきた。幹部会とは組織の幹部で構成されている監査機関のようなもので、けっこううるさく口を出してくるのだった。組織では総帥である親父が当然一番の権限をもっているわけだが、幹部会は組織内で唯一総帥に意見をする権利を持っていた。幹部会の制度ができたのは組織ができたのと同時で、親父も幹部会の意見にはそうそう逆らえない時もあった。たとえばオレの命を断とうとした時とかが最近の例か。親父は幹部会からオレの存在が世界にとって危険と言う判断を下され、一度はオレに神の血族にのみ有効な毒を飲ませたのだ。母親のマリィが助けてくれなければ、オレは今頃この世にいないのかも知れない。
「絵里華は幹部会嫌いだもんね。今でも絵里華のことを危険と認識してる人たちが幹部会にはいることだし。」
沙樹が言っていることは半分正しい。オレは確かに幹部会に対していいイメージは持っていない。しかし自分の存在を否定した幹部会がすべて間違っているとも思っていなかった。オレの力は世界にとって確かに諸刃の剣だ。うまく力がコントロールできなければ確実にこの世界にとっての脅威になりうる存在であるという自覚はあった。今は親父達のかけた封印のおかげで力の大半は封印されているため周囲にそう危険を及ぼすことはないが、封印がとけたときうまくコントロールがきくのかどうかオレには自信がなかった。
「幹部会だってすべてが嫌な奴ばかりじゃないさ。シャレイルだって幹部会に名を連ねていることだし。」
幹部会もすべてが敵というわけではない。シャレイルをはじめ豊の父親である貴司等オレにとって好意的な人物も幹部会の半分くらいの人数をうめていた。
「そうね、川上のおじ様とかシャレイル先生とか味方も半分くらいいるわね。」
沙樹も思い出したように言う。
「まぁ絵里華は今のとこ大丈夫、なんたってあたしがついてるんだから。」
沙樹はどんと自分の胸を叩いて言う。どっからでてくるんだその自信の根拠は。
「さてと、絵里華。眠れないならあたしが寝かせてあげようか?」
沙樹がソファーから起き上がってオレのほうを見る。その目がいやにランランとしている。絶対ロクなことを考えていないな。
「どうせ睡眠薬でも注射しようとか思ってるんだろう?オレが注射嫌いなの知ってるくせに。」
オレは半分諦めたように言った。どうせ拒否しても沙樹はやる気満々なのだ。
「ちゃんと朝までぐっすり眠れるように調合してあるから。実はもう用意してたりするんだよね。」
言いながら沙樹は自分のバックからケースを取り出す。中には薬液が満たされた注射器が入っていた。最初からオレに注射する機会をうかがっていたらしい。表向きは聖ラフィーユ大学医学部に進学が決定している沙樹は、組織内ではもう研修医をしている。沙樹にはもうほとんどの医療行為が可能な実力がついていた。それにオレ達の身体は便利なもので、薬を使った時に自分に必要な薬効は得られるが副作用などの影響はほとんど受けない。睡眠薬を連用しても普通の人間のように中毒になったりせずに、毎回ほどよい効果を得られるのだ。沙樹が多少仕損じても、オレにする分には影響はないだろう。
「いいよ、注射で入れるなら速効性だろ?なら寝室で打たないとダメだな。」
薬を服用するのに比べて、静脈内に直接薬剤を入れる注射は効果が発現するまでの時間が短い。そのため下手な場所で注射を打つとベッドにたどり着く前に意識を失ってしまう可能性があった。そんなみっともないところをみせるわけにはいかないので、オレは素直にベッドルームに沙樹を伴って戻る。沙樹もこういうときだけはオレのプライベートスペースに少しの時間入ってくる。
「お邪魔しますー。」
能天気にいいながら沙樹がオレの寝室に入ってくる。
「あいかわらずシンプルな部屋ね。最低限のものしか置いてないし。」
確かに寝室にはベッドとちょっとしたテーブルとソファーしかない。でもそれ以外に必要なものもなかった。オレは素直にベッドに横になって腕を沙樹に差し出した。
「とりあえず朝までぐっすり休みたいから、頼む。」
オレが半ばあきらめた口調で言うと、沙樹が悪魔の微笑みを浮かべて注射器片手に近づいてくる。ポケットから駆血帯を取り出してオレの二の腕を縛るとすぐにオレの腕に血管が浮かび上がってきた。沙樹は指先でオレの腕を探ると血管の目星をつけてアルコール綿で消毒をした。オレの身体は感染なんかにも強いので消毒など必要ないのだが、沙樹は一通り基本通りにする。
「じゃあ痛くないようにしてあげるから、こわかったら目つぶってなさいよ。」
沙樹の言葉にオレは苦笑しながらも、視線は沙樹の手元からそらさなかった。とりあえず痛くないわけはないだろうと沙樹にツッコミを入れたい。
「いきまーす。」
沙樹の言葉とともにオレの腕に痛みが走る。この瞬間がオレはけっこう苦手だ。銃で撃たれる痛みにはだいぶ慣れたというのに、この小さな痛みにだけはなかなか耐性ができない。沙樹は針が血管に入ったのを逆血で確認してから駆血帯をはずし、ゆっくりと透明な薬液を注入していく。薬液の量はそんなに多くなく、すぐに注射は終わった。
「1-2分で眠くなると思うから、逆らわずに寝ちゃいなさいね。」
沙樹が針を抜きながらオレに言う。そのままオレの止血をするが、注射の跡など一晩もあればオレの身体では完治する。沙樹が圧迫を止めるころには完全にオレの出血は止まっていた。そしてその頃には薬が効いたのか、オレは自分の身体から力が抜けていくのを感じていた。そしてふわふわと身体が漂いそうな心地よい眠気に襲われる。
「じゃぁお休みなさい、絵里華。」
沙樹がいいながらオレの部屋から出ていく。オレはそれをなんとか見送ってから薬の作用に身を任せた。そしてそのまま朝までぐっすりと身体を休めたのだった。

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