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ミュリのオリジナル小説連載コミュのAfter School

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After School

あたしの名前は田村真美、ごくごく普通の女子高生だ。と言いたいところだけど、あたしの通っている高校は普通とはちょっと違う。表向きは私立の聖ラフィーユ学園という学校なんだけど、一部の生徒を対象に特殊教育をしていた。学園には世界を守るための秘密組織WKFの構成員を養成する裏の学校が併設されていて、あたしは今そこに在籍している。今日も難しい組織の授業を終えて、クラスメートとともに下校している途中だった。
「ねね、クロノスタワーでお茶していかない?」
クラスメートのクリスティーナが言う。このクラスには世界中から生徒が集められていた。クリスティーナはフランス人で両親が組織の人間だ。
「いいね。小腹すいたし、フードコートがいいかな。」
そう言ったのはがたいのいい男の子、仁藤和博だ。野球がとてもうまくて甲子園が狙えるレベルだ。ただうちの学校の野球部は公式試合はあまりでていないのでその機会はない。
「僕も賛成、行こう行こう。」
はしゃいでいるのは藤沢和樹。小柄でかわいい系の男の子だが顔に似合わずハッキングの腕は素晴らしい。あたし達はクラスメート6人全員でかたまってクロノスタワー行きのバスに乗り込む。あたしにとってはクロノスタワーが住居でもあった。クロノスタワーというのは学園内にある高層ビル群で3つのタワーから成りその低層階は一般向けにショッピングや食事が楽しめるスポットになっていた。学園内にはその他にもドーム球場や美術館、アミューズメントパークなどいろいろな一般向け施設もあった。近隣から遊びに来る人も多いし、県外から訪れる人もかなりの数いるため学園内には3つのホテルも完備されていた。あたし達の乗ったバスは30分ほどでクロノスタワーに到着する。学園内はあまりにもひろいためバス移動じゃないと都合が悪かった。
「ついたー。やっぱりここは最高や。」
ちょっと関西弁なまりで話すのは赤毛の持ち主でアシャン・イェリテ。国籍はイタリアだが子供のころから日本に預けられていたらしいので日本語はほぼ完ぺきだ。組織の本部が日本に移ってからは幹部は日本に居住することが多いため、だいたいの構成員は日本語を理解していた。
「10Fのフードコートにいこう。いろんなものがそろってて好きなんだ。」
そう言いながら先導するのは江崎賢祐。彼の両親は聖ラフィーユ大学付属病院で医師をしている。彼も将来医師を目指すらしい。彼はあたしの親友である沙樹ちゃんの友達でもあった。
「オレ肉だな肉、ステーキの店あったよな。」
フードコートにはいろいろな店があって、そこで自由に購入し食堂みたいなとこで食べれるようになっていた。仁藤君は肉が大好きらしい。あたし達はそろって10Fにあるフードコートに向かった。放課後な時間帯のせいか、聖ラフィーユ学園の生徒を中心にけっこう混雑している。学園には外国人の生徒が比較的多いので、ここでは外人がまざっていてもさほど目立ちはしない。学園外なら目立ちすぎのメンツだろう。全員分の席を確保するとそれぞれがお気に入りの店から食糧を調達してくる。ちなみに学園証を電子マネー代わりに使用できて、裏ラフィーユの生徒はここでの飲食は基本無料になるのだ。あたしはフレンチトーストとミルクのセットをゲットして席についた。
「今日も一日お疲れ様。」
クリスティーナの掛け声であたし達はそれぞれの飲み物で乾杯する。
「今日の授業は特に難しかったよね。組織の法律とか、なかなか全部覚えられないわ。関係ない項目も多いしね。」
クリスティーナの言葉にあたしは今日の授業を思い出した。今日の授業は組織内の規律だ。基本は上からの命令は絶対、ただし自分の主義に反したり自分の命に関わるときには命令拒否可能となっていた。あとは組織に対して裏切りを働いたりすると島流しとか最悪この世から消されるとか、怖いことも聞いた。やっぱり裏の組織は組織だから怖いとこもあるみたい。あとは神の血族と呼ばれるメンバー用にむやみに特殊能力を使ってはいけないとかあるらしいけど、あたし達には関係ない。少なくとも、あたしを含め、藤田先生が担任しているこのクラスは一人も能力者がいない。全員普通の人間だ。もっとも能力がある人はまた別クラスに集められているのだろうけど。
「明日は基礎医学だって。僕の得意分野かな。」
江崎君は両親の影響か医学に詳しい。一応組織の構成員として必要な基礎的医学知識を教育課程で学ぶようになっていた。
「わからないとこは沙樹に聞けばいいよ。あいつは基礎終えて医学の専門課程にいるからね。」
2年間の基礎課程を終えれば4年の専門課程に進むことができるようになっていた。一応組織のスタッフとしては2年の基礎課程を終えれば就けるようになっていて、専門課程はエリート集団のかたまりていう感じで進学する人は少なかった。専門課程はいくつかのコースに分かれていて医学専攻をはじめいろいろ将来的な役職に合わせたカリキュラムが組まれていた。
「オレなんか体力バカだから医学とかやばそうだ。テストクリアできないと進級できないしな。」
仁藤君がステーキを食べながら言う。そういえば学期ごとにテストがあると聞いた。追試もあるらしいけど、どうせなら一回でパスしたい。ちなみにあたし達の通っている裏ラフィーユ学園のほうは2学期制をとっていた。9月から10月が夏季休暇で2月から3月が春季休暇になっている。他の学校より休み長くてラッキー。
「あんまり専門的には問われないらしいから、大丈夫だよ。あくまでも基礎課程だしね。」
江崎君の言葉にあたしはちょっとだけほっとする。あたしなんて本当にちっさいころから一般人だからこの学園に慣れるだけで大変だ。
「やばくなったら沙樹や冬彦に家庭教師頼もう。」
江崎君の提案にみんなが即座に賛成した。
「メール送っとこうか?今のうちから確保しておこう。」
言いながら江崎君が組織から支給されている携帯電話でメールを打ち始める。組織からは携帯電話をはじめノートパソコンやペン型カメラ兼録音機等スパイ映画にでてきそうなものも含めいろいろと支給されていた。江崎君がメール送信すると、1分以内に沙樹ちゃんからメールが帰ってきた。
「沙樹がちょうど私室にいるから、すぐフードコートに降りてくるって。お茶に混ぜろってさ。」
沙樹ちゃんの部屋はあたしの部屋の同じ階にあった。メールの通り、沙樹ちゃんは30分も経たずにフードコートに現れる。しかも弟の冬彦やあたしの天敵絵里華まで一緒だった。
「おまたせ。冬彦と絵里華もいたから一緒につれてきちゃった。」
沙樹ちゃんがにっこり笑って言うが、みんなが凍りついたのがあたしにはわかった。
「そんな緊張しないでくれ。オレは沙樹に無理やり拉致られただけだ。」
あたしを除くクラスの全員が絵里華に対しての態度が硬い。あたしはその意味がわからなかった。たしかに嫌みな奴ではあるけど、そんなに緊張する相手でもないはず。
「総帥と同席できるなんて光栄です。」
クリスティーナがあらたまって言う。ん、総帥ってだれのことだ?
「総帥って何の?」
あたしは訳がわからず混乱していた。
「あ、真美にはまだ説明してなかったや。WKFの総帥は入学式で見たでしょ?WKFの下部組織である、あたし達が現在所属しているJKFにも総帥がいるのよ。それがコレ。」
コレと言いながら沙樹ちゃんが指差したのは絵里華だった。
「えええっ・・・・・・・・・・・・」
あたしは一瞬パニックに陥る。総帥て一番偉い人よね。あたし達の組織で一番偉いのが絵里華ってこと?
「コレで悪かったな。ただの役職だし気にしなくていい。」
絵里華はぶっきらぼうにいいながら席に座る。
「沙樹、適当に何か買ってきてくれ。」
絵里華は言いながら持参していたノートパソコンをひろげる。そんな絵里華を見ながら沙樹ちゃんは、
「了解」
と言って買い物に走って行った。
「WKFへの報告書の作成途中だったんでな、少し仕事するけど気にしないでくれ。」
そう言って絵里華はキーボードを叩き始める。みんなはまだ緊張したままだ。
「僕も何か買ってくるから、みんなリラックスしてお茶会しようよ。」
沙樹ちゃんの弟である冬彦君がみんなに呼び掛ける。
「そやな、組織では役職はあるけど身分に違いなしていっとったし、ここは無礼講でいかせてもらうで。」
アシャンがなんとかそう言うと、みんなも少し緊張をとく。あたしはまだ絵里華があたし達の総帥だってことが信じられなかった。
「真美、お前の疑問に答えてやろうか?」
そんなあたしを見ながら絵里華が言う。
「JKFはオレが作った組織なんだ。親父に対抗するのに豊や沙樹を巻き込んでな。ちなみにオレの親父は入学式にでてきたあのイケメンだ。」
絵里華の言葉はあたしに衝撃を与えるのに十分だった。絵里華がこの組織を作って、しかもWKFのあのイケメン総帥が父親だって?どんだけ年取らないだろう神の血族って。
「いずれわかるだろうと思ってたから説明はあえてしてなかったけど、驚かせたな。」
絵里華は自嘲気味に笑ってから仕事に戻る。まぁ普通に考えれば絵里華て普段から偉そうだし、部屋もそういえばクロノスタワーの最上階だった。何で気がつかないかな、あたしってば。
「はい絵里華、オレンジジュース。」
沙樹ちゃんが戻ってきて絵里華にオレンジジュースを渡す。
「サンキュ、沙樹。」
絵里華は一口飲むとパソコンの横にジュースを置く。
「みんなにもいろいろ買ってきたよ。自由に食べて。」
冬彦もトレイにいろんな食べ物を載せて帰ってくる。ドーナツやフライドポテト等気軽に食べれるものばかりが山盛りにあった。
「ありがとう。いただきますね。」
クリスティーナが言いながらドーナツに手を伸ばす。
「オレも、ありがとう。」
仁藤君がフライドポテトをゲットする。みんなもそれぞれの好物をゲットすると遠慮がちに食べ始める。あたしもチョコのかかったドーナツにかじりついた。
「来週からみんな宿泊研修でしょ?あたしや絵里華も行くことになったからよろしくね。」
沙樹ちゃんの言葉にみんなが一瞬またかたまる。そういえば来週は一週間学外で宿泊研修になっていた。行き先は四国だったっけかな?往路はフェリー、帰りは飛行機だった。
「初めての宿泊研修だ、楽しくいこうぜ。」
仕事がおわったのか、パソコンの画面をパタンと閉じながら絵里華が皮肉気に言ってくる。なんで絵里華まで行くんだろう。
「ちなみにフェリーはうちの組織の所有だ。いい部屋割り当てておくから期待しておいてくれ。」
そういえば学園を運営している川井財閥には商船会社もあり貨物船から豪華客船まで様々な船を所有していた。確か横浜港から四国の学園の分校の近くまで定期航路も運航していたはずだ。一般客に交じって、私たちのような組織の人間もよく使っていた。分校には大学の海洋学部と商船学部、小学校〜高校までの聖ラフィーユ分校があった。
「WKF総帥が四国で人材スカウトして来いっていったのよね。今年の一般入学生がかなりイイらしくて、あたしや絵里華に様子見て来いって。」
沙樹ちゃんの言葉でみんなは納得したようだった。
「みんなで旅行いくと思えばいいわよ。新入生にとっては組織の移動手段を覚えたり出張の感覚を覚えるみたいな旅だから特に用事もないしね。しいて言えば、黒潮学舎に通っている組織メンバーとの交流会かな。」
みんなで旅行か。そういえばまだ荷物とか全然してないや。
「僕や豊は留守番だから、みんなお土産よろしく。」
冬彦のセリフにあたしはOKを返す。それにしてもこのメンツで旅行行くとかなり目立つだろうな。
「お姫様、旅行行く服とかもこのクロノスタワーで調達できるからヒマな時に沙樹と一緒にでも買い物にいっとくといい。学生証で買っておけば費用は組織持ちだからな。」
組織では基本衣食住すべてを無料で提供してもらえる。当然あたしが今住んでいるクロノスタワーの部屋代や制服代、日常に学園内で買い物するものは無料だ。
「明日の放課後にでも買いに行こう。あたしももうちょっと服ほしいし。」
沙樹ちゃんの誘いにあたしものる。
「そのまえに基礎医学の授業だね。僕たちで教えれるとこあったら力になるよ。」
冬彦君の言葉でみんなは組織の教科書を持ち出して質問タイムに突入する。それぞれ沙樹ちゃんや冬彦君に質問していたけど、意外にも絵里華が横から割り込んできて答えることも多かった。意外に絵里華も医学は得意らしい。
「絵里華て医学も得意だったんだね。」
あたしが言うと絵里華はふっと笑って答えた。
「何年この沙樹とつるんでると思ってる?まぁ、オレも病院にお世話になること多いからな。自然に身についていったって感じか。」
そういえば絵里華は訓練やミッションで怪我することも多く、組織の病院ですごす時間もたまにあると聞いたことがあった。ただし神の血族である絵里華は傷の治り方がハンパなく早く、だいたい2〜3日から一週間以内では退院になっているらしい。
「だいたいはこんな感じかな。他に質問はない?」
沙樹ちゃんや冬彦おまけで絵里華のおかげで、あたし達は明日の予習をすることができた。
「大丈夫やとおもうんやけど、まぁ明日になってみんとどーともいえへんな。」
アシャンが教科書をパタンと閉じながら言う。
「基礎医学は、あたしのお父様が教えに行くからたぶん大丈夫よ。」
そういえば沙樹ちゃんの父親も医師で聖ラフィーユ大学病院で働いていた。
「父様は優しいから大丈夫だよ、教え方もうまいし。だからみんな気楽にね。」
冬彦のセリフにみんなはちょっとだけ安堵する。悩んでいても仕方ないし、できる限りのことはやったし、後は明日をまとう。
「ラフィーユには留年システムないから安心しろ。単位とれるまで個人指導してくれるからな。」
絵里華のダメだしにまたみんなのテンションがちょっと下がる。
「どうしてもダメだったら、オレが1から教えてやる。」
絵里華の言葉はみんなにとってはプレッシャーだった。一番偉い人からの個人指導はちょっと、いやかなり遠慮したい。
「みんなとりあえず明日のことはいったん忘れて、みんなで食べるよ。」
クリスティーナに言われて、みんなはそれぞれの食べ物をそれぞれの胃に片付け始める。あたしも自分の確保していたものを全部残らずたいらげた。
「さて対策もばっちりしたことだし、明日のためにも帰って休もう。」
沙樹ちゃんの言葉にお茶どころか夕食もしっかり食べた感じのみんなが席から立ち上がる。
「総帥、おおきに。明日はばっちりやわ。みんなもまたなー」
アシャンが絵里華に手を振りながら去っていく。
「ありがとうございました。僕も失礼しますね。」
藤沢君もちょこんとお礼をして出口に向かう。みんなそれぞれ沙樹ちゃんや絵里華、冬彦君に頭を下げるとそれぞれの部屋に帰って行った。みんなの居住している場所はあたしとはちがう、特別待遇のあたしに比べて彼らはちゃんとランクに応じた居住スペースを振り分けられていた。確か本部の地下に個室が与えられているはずで、あたしの部屋と違ってこじんまりとしたワンルームのはずだ。そしてその場に残ったのは、あたしと沙樹ちゃんと絵里華に冬彦君の四人。
「さて、オレらも部屋に帰るとするか。」
絵里華がパソコンを片付けてコンパクトな持ち運び用のケースにいれる。
「真美ちゃん一緒に帰ろう、どうせ階一緒だし。」
沙樹ちゃんと冬彦君とあたしの部屋は同じ階だ、本来なら組織の幹部専用のフロアなはずだった。あたし達はクロノスタワーのフードコートをでて15Fのエントランスゲートに向かう。ここから先は一般人立ち入り禁止で、24時間警備員が出入りをチェックしているゲートを通らなければ立ち入れなかった。
「御苦労さま。」
絵里華が警備員に一言かけてゲートを通過する。さすがに絵里華は顔パスだ、警備員が敬礼をしている。あたし達は簡単な学生証のチェックを受けてゲートを通った。ゲートを入るといくつかのエレベーターの並ぶ広い部屋に出る。あたし達は幹部専用のエレベーターの方に足を進めた。そこにもいつも警備員が立っていて、絵里華を見ると敬礼をする。どうやら絵里華が総帥ということを知らなかったのはあたしだけだったみたいだ。
エレベーターはすぐにやってきてあたし達はそれに乗った。絵里華が服のポケットからカードキーを出してエレベーターのスロットに差し込む、このあたりは学園のエレベーターシステムと似ている。絵里華がスロットからカードキーを引きぬくと70Fが点灯した。続いて沙樹ちゃんがかばんからカードキーをだして差し込むと、あたし達が部屋を割り当てられている67Fが点灯した。
「どうせならオレの部屋に寄っていってもいいぞ?お姫様はまだ来たことなかっただろう?」
絵里華の言葉にあたしは驚いたが、沙樹ちゃんの
「それじゃあ、そうしよっか。真美ちゃんも一回は行ってみるべきだよね。絵里華総帥の部屋、最上階だから眺めいいのよね。」
というミーハーな発言で強制的に絵里華の部屋に拉致られることが決定してしまった。エレベーターは67Fまで上昇していったんドアを開ける。
「僕ちょっと仕上げたい論文があるから降りておくよ。みんなまたね。」
ドアが空いた瞬間冬彦君がそう言ってフロアに降りる。
「了解、がんばれよ冬彦。」
絵里華も慣れてるみたいで、ひらひらと手を振っている。あたしもどっちかといえば降りたいかも?でも無情にもドアは再びしまってしまう。あたしと沙樹ちゃんと絵里華はそのまま最上階である70Fまで昇って行った。
「ほらついたぞ。」
絵里華の言葉とともにドアが開く、フロアにでてみるとそこはまるで玄関ホールみたいにこじんまりとしていた。ちょっとしたホールがあって向かい側にドアが2つ。それぞれに7001、7002と部屋番号がふられていた。
「オレの部屋は7002だ。ちなみに7001はあのイケメン総帥の部屋だからな。」
絵里華が部屋を指さしながら言う。あたしは入学式のときにみたイケメンの総帥の顔を思い出した。よくみると目元とか絵里華に似てないこともないかも?
「ではオレの私室にようこそ、お姫様。」
言いながら絵里華がカードキーでドアのロックをはずす。ドアが開くと中はちょっと広めの玄関になっていた。
「一応日本式に靴を脱ぐようにしてるんだ。来客用に沙樹がスリッパ用意してるから、それを使ってくれ。」
絵里華は玄関で靴を脱ぐとルームシューズに履き替える。あしたも沙樹ちゃんがだしてきたかわいい猫がついてるスリッパに履き替える。なんかスリッパにも沙樹ちゃんの趣味がにじみでていた。
「この部屋、沙樹が入り浸ってること多いからな。沙樹の私物がかなりあるぞ。」
冗談めかして絵里華はいったが、廊下を進んでいく間のいたるところに沙樹ちゃんの痕跡が残っていた。
「まぁ絵里華の部屋は半分あたしの部屋みたいなもん。客室の1つ完全に独占してるしね。」
沙樹ちゃんがにっことり笑って言う。
「一応客室が5つほどあってよかったよ。そうでなければオレの部屋なんてすでに沙樹に占領されている。」
絵里華は皮肉気にいいながら、長い廊下の突き当たりの扉を開いた。瞬間あたしの視界に学園内の美しい夜景が飛び込んできた。扉の中は広いリビングになっていて、落ち着いた色合いのソファーやテーブルが配置されていた。前方がガラス張りの窓になっていて、そこから綺麗な夜景が見渡せるようになっていた。
「ここが一応オレの仕事場兼沙樹の爆睡部屋だな。オレが仕事してようがなにしてようが、夜景見ながら寝やがるからなこいつは。」
絵里華は沙樹ちゃんを軽くにらみながら大きな机の上にパソコンを置く。
「こっからの眺め見ながらくつろいでると、なんか眠くなっちゃうのよね。絵里華もここの夜景キライじゃないでしょ?仕事部屋にしてるくらいだし。」
沙樹ちゃんの言葉に絵里華は
「まぁな」
と言ってでっかい机の後ろに座る。
「ここには風呂付の客室や会議室、書斎なんかがあるんだ。親父の部屋も作りはぼ同じかな。」
言いながらパソコンを持ち運び用のケースから出してコネクターをつなげる。どうやら報告書を印刷するらしい。
「気にいったらいつでも遊びこいよ。歓迎するぜ?」
印刷しながら絵里華はくすりと笑って言う。どこまで本気なのかはわからない。
「あたしと一緒に泊りに来たらいいよ。独占してる部屋ツインルームだし、ベッドも広めのダブルベッドを2つ置いてあるから一つのベッドで一緒に寝るのもあり。」
どんだけでかい客室なんだろう。あたしの部屋もけっこう広いのはひろいけど客室はない。あるのは寝室と執務室みたいなのとでっかいバスルームにリビングが1つ。それでも相当なスペースは確保されている。
「さてと仕事も終わったしオレはちょっと寝るかな。沙樹あとの案内頼む。」
言いながら絵里華は印刷した書類をクリアファイルに挟むとそのまま奥の扉に消えていく。どうやらそのドアの向こうが絵里華の生活スペースのようだ。
「とりあえず。あのドアから先はあたしも緊急時以外は入らないようにしてる。絵里華の寝室とかがあるだけなんだけどね。少しは絵里華にもフリースペースあげとかないと。」
沙樹ちゃんの言葉にあたしはなんとなく頷けた。とりあえずそのスペース以外の絵里華の部屋はほぼ沙樹ちゃんの手が伸びているらしい。
「なんか今日はびっくりすることはっかりだ。心臓に悪すぎるよ。」
あたしが言うと沙樹ちゃんが笑って答えた。
「こんなことでびっくりしてたら心臓が持たないよ。来週には豪華客船の旅だし、そのうち組織専用の飛行機にも乗せてあげる。」
なんかスケールがでかすぎてあたしはついていけそうにない。今いる絵里華の部屋をとってみてもとても一般人が居住できるスペースではないわけで、こんなとこに普通に住んでて違和感感じてない沙樹ちゃん達はすごいと思う。世界の違いがはっきりとそこにあった。
「あたしの部屋に行こうか、こっちおいで。」
沙樹ちゃんに手招かれて、あたしは今まであたし達がいた部屋を後にする。廊下を進んでいくつかある角のひとつを曲がりこれまたいくつもあるドアの1つに入る。
「じゃーん、ここがあたしの秘密基地。」
部屋の中に入ると、ぬいぐるみやマンガ本であふれかえっている。そのなかにまぎれてむずかしそうな医学書も転がっていた。それでも二つあるベッドは奇跡のようにキレイなままだった。
「今日は一緒にここでお泊まりする?」
楽しそうに聞いてくる沙樹ちゃんの提案をあたしは迷いながらも却下した。
「とても・・・眠れそうにないよー。それに明日の勉強があるし。」
自分の部屋ですら豪華過ぎて落ち着かないのに、最上階とかで寝れるわけがない。
「それもそうか。あたしは慣れてるからなんてことないけど、総帥の部屋とか普通は緊張するよね。」
それだけではないんだけど、あたしはそういうことにしておいた。
「じゃあ出口に案内するね。エレベーターにカードキーいれたら自分の部屋の階で止まってくれるから。」
あたしは沙樹ちゃんに案内されて絵里華の部屋の出口にむかった、エレベーターホールにでるとちょっとだけほっとする。とりあえず案内なしだと迷いそう。
「じゃあおやすみ、また明日ね。」
沙樹ちゃんに見送られてあたしはやってきたエレベーターに乗り込む、カードキーを差し込むと自分の階が点灯する。なんとか自分の部屋まで戻ってくると、その場でどっと疲れがおしよせてきた。あたしが知らなかった世界が今日またひとつ広がった。あたしはあらためて自分がとびこんでしまった世界のことを考える。でも、それも長くは続かなかった。あたしはとりあえずパニックになってる頭を整理して明日の授業の勉強をするために自分の勉強机に向かった。

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