ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

インテンションコミュの番外編 「不良少年」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
高宮幾佐(たかみやいくさ)と立花威咲(たちばないさき)の出会いは高校の入学式だった。
ふたりは同じ医学部特別進学クラスで、出席番号順で隣同士になった。

(…わ、カッコいいな、こいつ)

それが、幾佐の威咲に対する素直な第一印象だった。
ふたりはなんとなく気があって普通にクラスメートとして仲良くなっていった。

夏休みがあけて登校した時、幾佐は威咲を見て驚いた。

金髪、ピアス、ブリティシュロックT、ブロークンスリムリーバイス。

ふたりが通う高校は、神戸の某有名男子校で、一応制服はあるものの、服装も髪型も規則は特になく、生徒それぞれの個性を伸ばして行く教育方針だ。

今時、金髪も茶髪も珍しくはないし、他の生徒でも茶髪はいくらでも見かけた。

しかし、自由と放縦は違う。学生にふさわしいものでなければならないと、校則では謳っている。


『威咲?夏休みに何かあったんか?』

興味半分で訪ねた幾佐に、威咲は目を合わせずに

『……おじいちゃんが死んだ』

と答えた。


ふたりが昼休みに学食で一緒に食事をしていると、周囲からヒソヒソ声が聞こえてくる。

『おい、あれ誰?』

『立花。ほら、医特進クラスの…』

『あぁ…、あいつテレビに出てへんかった?』

『うそ?なに、それ?』

『なんか、女の化粧品?香水かなんかのコマーシャル…』

『マジで…?』

『その写真、雑誌に載っとったで』

広まる噂と共に、その写真も巡り巡って、幾佐も目にする事になった。

『……っ!』

背筋にすぅっと刃物が触れるような冷たい衝撃が走る。

素肌に女物の赤い肌じゅばん(着物用下着)をサラッと羽織っただけの半裸姿で、物憂気な瞳で見つめてくる妖艶な、けれどまだ16歳の威咲がそこにいた。

この件について、威咲は誰に何を聞かれても

『三宮歩いとったらスカウトされて、面白そうやったから1回だけの約束でやった』

と、まるで否定もせず恥ずかしがる風でもなかった。

そうして、威咲は、たちまち全校生徒が知る存在になって行った。

最初は誰もが、威咲の事を『あぁ、ドロップアウト組か』と思っていた。
中学ではトップクラスの成績だった者が、レベルの高い高校に進学して、成績が伸び悩んで、遊びに逃げて挫折して、やがて普通レベルの学校に転校していくのはよくある事だ。

だがしかし、威咲はそうではなかった。
髪型や服装、態度の悪さを注意する教師に向かって

『俺をアメリカかイギリスからの留学生やと思うてくれませんか?』と茶化したり

『結果残したらええんですよね?』と、冷たく笑って、常に及第点を獲得していた。


それが証拠に、廊下に設置された巨大スクリーンに掲示される定期テストの結果の上位10位以内には、必ず威咲の名前がランクインしていた。

威咲は勉強に対して次第に狡猾さを覚えていった。 何にでもコツがあるように、勉強にもコツがあるのを会得していったのだ。 何も100点を取らなくてもかまわない。ボーダーラインを超えてしまえば良いだけなのだから。

それでも中には威咲を目の敵にする教師もいて、物理の計算問題を3問黒板に書いて、それを全て威咲に当てて来た。

その陰湿な教師は生徒のほぼ全員が嫌っていた。

威咲は、タッタッタッと黒板一杯に数式を展開し、一問づつご丁寧に解説を入れながら解いていった。

もはや、この授業の教師は立花威咲である。

最後の一問を終えた時、丁度チャイムが鳴って

『はい!これ試験に出るぞ!』

言いながらチョークを黒板に思い切り叩き付けて割り、ビビる教師に向かって

ニヤリと笑って『出すよな?』と脅しをかけ、教室中を沸かせた。



けれどまた一方で、威咲には、また怪しげな噂が流されてきた。

夜は年齢をごまかして水商売のバイトをして女に貢がせているだの、小学生の家庭教師をして、その母親をたぶらかしているだの。あまり深く関わらない方が良いだの…

幾佐自身が知る限りの威咲は、確かに見た目が派手な分、そんな誤解も受けやすかろうが、他人が憶測する程、酷くはないと思っていた。ただ確かに飲酒や喫煙はしているようだが。

ひとつ意外だったのは、威咲がそのキャラで『お笑い好き』という点だった。 何度か演芸場に誘われて、漫才や新喜劇に付き合わされた事がある。なんでも、姉のつつじの影響で、そっち方面が好きになったと言っていた。 どこからどう見ても、ライブハウスで歌ったり、ギターかなんか弾いてる方がさまになっていそうなのに。

立花威咲は同じ服を2度と着ない。

これも威咲について語られる噂のひとつだった。

確かに、雑誌のモデルのようなスタイルで、流行の服を着こなして、道行く女性が振り返るのを、幾佐も何度も目撃した。

そんな威咲が、何度か、前日と同じ服で登校してきたので、冷やかし半分で『お泊りでしたか?』と聞いてみたら、すかした笑顔で『まあな』と言ってのける。

悔しいけれど、そんな事をサラっと言える威咲は、大人びてやっぱりカッコいいなと思えてしまう。

だからなのか、いつしか、威咲に、幾佐以外の友人が増えていった。

一見派手でアウトローな素振りを見せて、それでも仕事は外さない的なキャラに惹かれての事だろうか。

それから間もなく、また別の噂が流れ始めた。

『立花威咲とつきあうと、成績が落ちる』

これには威咲と幾佐は、顔を見合わせて笑った。

『朱に交われば?』

『紅くなる?』


それは、絶対に威咲の責任ではない。成績が落ちるなんて、その本人の責任に他ならない。そんな事を言う奴は、勉強が出来る出来ない以前のバカだ。


ある日、

幾佐と威咲は、公園で喫煙しているところを巡回している警官に見つかり補導されてしまった。
交番に連行され、身元引き受け人が迎えに来るまで返してもらえない状況になった。
幾佐にとっては初めての事で、青ざめた。
威咲は顔色ひとつ変えず『じゃあここに連絡して下さい』とケイタイの画面を警官に差し出した。

間もなく、彼らの身元を引き取りに来たのは、幾佐の知らない人だった。

その人は、『お世話になります。ありがとうございました』と言って、それだけで、威咲も幾佐も返された。

迎えに来た人の車に乗せられて帰宅の途につく。

幾佐には、訳がわからない。

『守ってくれるんなら、守ってもらえばええねん。使えるモンは、利用させてもろたらええねん』

そう言って、威咲は底寒い笑顔を浮かべた。

この件に関して、威咲にも、幾佐にも、補導履歴はつかなかった。
幾佐は、この時初めて、こいつはある意味、本当にヤバイのかも知れないと感じた。

威咲には、あまり深く関わらない方が良いという噂は、本当なのかも知れないと。


やがて学年が進むにつれ、受験が近づくにつれ、幾佐は遊びに関しては威咲に近づく事は警戒するようにした。

やがて、ふたりは、同じ大学に合格はしたが、高校時代ほどの親密さはなくなっていった。だが返って逆に、着かす離れずの距離間はお互いに気が楽でもあった。


http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1032302420&owner_id=9223751&org_id=1033012694

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

インテンション 更新情報

インテンションのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング