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インテンションコミュの第5話 「ロングディスタンス」

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土曜日の昼下がり

立花つつじは、リビングでテレビを眺めていた。

テレビ画面の中で、弟の立花威咲(たちばないさき)と、恋人の高宮幾佐(たかみやいくさ)が笑っている。

ふたりは『インテンション』という名でコンビを組んで、お笑い芸人になって、もうすぐ1年半になるだろうか?

先月、写真集を発売して、それが驚異的な売り上げを伸ばし、テレビコマーシャルの仕事が増え、ゴールデンタイムのドラマの準主役を射止めるまでになり、あちこちのトーク番組に番宣でゲスト出演していた。



つつじと幾佐の出会いは、ふたりが高校生の時、つつじ18歳、幾佐16歳だった。

食べ物以外は好き嫌いの激しい威咲が、珍しく友達を連れて帰ってきたので、よく覚えている。

「こんにちわ」と礼儀正しく挨拶をする幾佐は、威咲と同い年とは思えなくて、落ち着いて大人びて見えて、最初はてっきり先輩を連れてきたのかと思った。

幾佐は幾佐で、童顔で幼く見えるつつじの事を、てっきり威咲の妹だと思い込み、中学生かな?と思っていた。

この出会いが、幾佐にとって初恋で、しかも一目惚れであった事を、つつじは知らない。

ふたりはどちらからともなく、なんとなく、ゆっくりと近づいて、少しずつ互いの想いを知り、それを確かめ合っていった。

威咲と幾佐は、共に医者を志し、医学部受験の為に夏休みも冬休みも毎日勉強を互いに競っていた。

『どうせやるなら、日本一目指してみようや』

威咲の一言で、幾佐も東大を目指し、受験し、合格を果たした。
だが、つつじには、幾佐との6年間の遠距離恋愛を強いられる事になってしまった。

つつじは、正直それは決して嬉しくはなかったけれど、それでも良いと思おうと、心に決めた。

静かに着実に、将来の夢に向かって進んでいく幾佐が、誇り高く思えたからだ。

やがて幾佐が大学を卒業して、大阪に帰って来た時の喜びは今も忘れない。

抱き合って、泣きあって、これから、たくさんたくさん会えるね。ふたりで会うために、もう新幹線も夜行バスもいらないね。頑張ったら歩いてでも会える距離にいるよね。嬉しいね、嬉しいね。

けれど、あれから、わずか1年半

今、幾佐は、威咲と共に、もっと遠い所に飛んで行ってしまった気がする。

顔は毎日テレビで見れる。メールも毎日、たった1行でも交信がある。
たった1行の交信…。それを寂しいと思うのは贅沢なのかな?と思う。

たくさんの人、女の子たちが、幾佐と威咲『インテンション』にキャーキャーと声援を送っている。チラリと視線を送っただけで歓声が沸きあがる。

威咲に引きずられるままに、人気者の幾佐になってしまっている。

『くーちゃん…』

誰にでも見せてかまわない笑顔や、すまし顔の幾佐がいる、写真集の冷たいページをめくる。


つつじに今、ひとつの選択がせまられていた。




天才とバカは紙一重。

だとしたら、立花威咲(たちばないさき)は間違いなくバカだと、高宮幾佐(たかみやいくさ)は思う。


はい、みなさん、こんにちわ。『てるこの部屋』の時間です。
本日のお客様は、今や大人気の『インテンション』のおふたりです。

幾佐『どうも、こんにちわ〜。よろしくお願いします〜』
威咲『………』(ニッコリ笑顔)

ようこそ、いらっしゃいました。
あらまぁ、お笑い芸人さんとお伺い致しましたが、お二人とも今風のイケメン?ていうんですか?見目麗しくて、モデルさんみたいですわね?若いお嬢さん方に大人気なんですってねぇ?

幾佐『いや、まぁ、お蔭様で…』
威咲『………』(ニッコリ笑顔)

先月発売されたお写真集が、アイドルさんたちを抜く勢いの売り上げを記録していらっしゃるとか?

幾佐『はぁ、なんか、ありがたい事です。僕らもビックリしてますわ〜』
威咲『………』(ニッコリ笑顔)

では、そのお写真をちょっとだけ、テレビをご覧のみなさんにもご紹介しましょう。
あらまぁ、これは、映画やドラマのワンシーンをイメージされて、こういう作品になったんですか?

幾佐『ええ、いつもの僕らとは違うイメージでやってみようかって話になりまして…』
威咲『………』(ニッコリ笑顔)

あのぅ、撮影前日に、威咲さんがお怪我なさったとか?

威咲『………』(はにかみ笑顔)
幾佐『あ、そうなんですよ。こいつ、こう見えてドンくさくて、転んでメガネ割れて、顔に傷作ってしまいましてね。スタイリストさんたちが、頑張ってくれはって、急遽、あの、ケガドルっぽい雰囲気でやってみよか〜ってなりまして(冷や汗)』

そうなんですってねぇ。でも、それが、かえって好評を呼んだとか?

威咲『………』(手首に巻いた包帯を見せて、ニッコリ笑顔)
幾佐『えぇ、あれ以来、包帯巻いて舞台に立っだけでウケたりするんですわ。あはははは…(冷や汗)』

さて、今こちらにご用意させていただきました、新製品のお菓子、どうぞ召し上がってくださいませ。このお菓子のイメージキャラクターにも起用されて、来週からCMがオンエアですってね?

威咲『………』(ニッコリ笑顔)
幾佐『はい!これ、僕もめっちゃ好きなんです!チョコレートとウェハースって昔からある組み合わせですけど、やっぱ美味しいですよねぇ』

あの…威咲さんは、いかがですか?さっきからニコニコ、とっても可愛い笑顔でいらっしゃいますが、あんまりお話しになりませんけど?

幾佐『あ、こいつ、実は、めっさシャイで…』
威咲『…俺、芋けんぴの方が好きかなぁ』
幾佐『…い……(冷や汗)』

芋…芋けんぴ…ですか…?

威咲『昔、おじいちゃんと一緒によく食べてました。『甘いもんは脳みその栄養になる、さつま芋は一番ええ』て、おじいちゃん言うてました』(ものすごい笑顔)





『い、い、威咲ーーー!!』

楽屋に帰って、幾佐の怒りが爆発する。

『お前なぁ!全国放送のトーク番組の生放送で、ろくに何も喋らんて、どないやねん?!』

『俺、あの司会のオバハン嫌いやねん』

『そーいう問題かー?!しかも何も喋らんか思うたら、最後の最後にあの発言はいったいどういう事や!?』

威咲はタバコをくゆらせながら、素知らぬ顔をしている。

『お前?スポンサーの手前とか、もうちょっと気ぃ使えんのか?ウソを言えとは言わんが、もうちょっと、気の効いたコメントが出来んのか?!それに、芋けんぴてなんやねん?!お前、自分の顔、ちゃんと鏡で見た事ないんか?お前、その顔が芋けんぴ好きなキャラに見えるとでも思うてるんか?』

『…幾佐、芋ケンピに失礼やぞ』

幾佐は二の句が継げない。もはや、処置なしである。

暴漢に襲われて負傷し、少しは反省するかと思えば相変わらずのマイペースだ。


今日も、幾佐は疲れ果てて家路に着く。

家に帰って、バッタリとベッドに倒れ込んでケイタイを握りしめる。

『つつじさんに、おやすみのメールを打たなきゃ…』

なかなか会えなくて、だからこそ、せめてメールだけでも欠かさずにいたかった。

そう思いながら、つい眠ってしまって、ふと目が覚めた時、つつじからの着信に気がついた。

留守電のメッセージを聞いてみる。

つつじの声が静かに聞こえてくる。

『くーちゃん…ごめんね…。うち、お見合いすんねん…』


………えぇ?

幾佐は、いきなり頭を殴られたような衝撃を受けた。



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