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大阪 デザイン史コミュのデザインの話

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デザインのひろがり

 1991年3月、堺商工会議所報にこんな話を掲載させていただきました。
一部付け加えたとこともあります。

 1987年11月、大阪府に産業デザイン研究センターが設立されて、あっという間に三年半がたちました。その間を改めて振り返ってみますと、本当に忙しかったという思いがします。決して甘い自己採点をつけているのではなく、デザインを必要とする領域が急激に膨らんだために、私ども自身も産業におけるデザイン活動の状況を見定めるのが精一杯というのが正直な感想です。ましてや、第一線で活躍されているデザイナーはもっと多忙だったことでしょう。
 実際、ここ数年でデザイナー(デザイン事業所)は、従来のデザインの活動範囲を趣えていろんな分野でも仕事をし始めました。デザイナーによっては、例えば企画、市場調査、販売促進、経営戦賂の確立の仕事などにも参画しています。もちろん、これらの仕事の一つ一つが、企業活動のなかで重要なことがらですが、同時に今日ではデザイン活用の観点でも非常に重要なことがらです。
 一方、コンサルタント、プランナー、プロデューサーといった人々が、盛んにデザインの能力を活用したり、デザインの概念や言葉を使って仕事を行っています。このように、今日、デザイナーの仕事が拡大する一方、他の分野の仕事にもデザインが必要になってきました。領域の垣根がなくなる傾向にある今日、よほどよく注意しておかないと、デザインとはなにかがわからなくなってしまいそうです。

デザインとは

 では、今日、デザインするということはどういうことなのでしょうか。
 日本では、DESIGNという言葉が伝わってきたときに、それに相当する概念が推敲できなかったせいか、その結果を捉えて「意匠」「図案」或いは「設計」とも訳されましたが、結局は適訳を見い出せないまま、外来語の「デザイン」が定着してしまいました。
 このため、今日も学識者によって、その解釈についてはかなり幅があります。生活者にとってのデザインは、主に「デザインされた商品」を指しています。学識者やユーザーのデザイン理解はここではひとまず置いておくとして、産業活動のなかでのデザインについて考えていくことにしましょう。
 企業内でデザインに関係する人は、なにより先にデザインとは何かをはっきり理解しておかないと、デザインを活用するとき、例えば企業がデザイン部門を作ったり、デザイン事務所と契約したりするときに、自分自身が抱く期待と実際にでてくる答えに隔たりが出てこないとも限りません。
 さまざまな変遷を経てわが国でデザインという言葉が社会や産業活動のなかに一般に使われだしたのは、昭和三十年頃のことです。
 この頃(昭和三三年)に発行されたデザインハンドブック(東京家政大学教授宮下孝雄編・朝倉書店発行)では、「デザインとは、実用的美的造形を計画し、これを可視的に表現すること」と、比較的狭義にかつ明確に定義されています。それが昭和六四年発行の現代デザイン事典(勝井三雄・田中一光・向井周太郎監修…平凡社発行)では、「デザインとは、…生活のために必要な物をつくるにあたって、物の材料や構造や機能はもとより、美しさや調和を考えて、ひとつの物の形態あるいは形式へとまとめあげる総合的な計画、設計のこと」と、比較的広義にかつ総合性を求めて定義されています。この二つの「デザインとは」の定義からも読み取ることができるように、この三十年間でわが国のデザインの解釈はずいぶん変化しています。

ふたたびデザインとは

 今日、商品開発にデザインの活用が不可欠であることは、ほとんどの企業経営者の方々もよくご存じだと思います。しかし、デザインが分かっているとおっしゃる経営者でも、商品開発が成功したときと失敗したときでは、デザインに対する評価や責任範囲を大きく変えてしまうことがあります。極端な例では、商品開発の失敗がすべてデザインのせいにされてしまうのです。これも、経営者、デザイナーの立場によってデザインが異なって解釈されることと関係がありそうです。残念ですが、現在のところ商品開発や企業経営に、デザインがどの程度有効であったかということを定量的に計ることができる物差しはありません。ましてや、企画もデザイン、市場調査もデザインというような理解をしてしまいますと、デザインの評価がますます難しくなってしまいます。企画や市場調査は、デザイン開発に必要とされる条件であっても、十分とされる条件ではありませんし、企画や市場調査にとってはデザインは必要なプロセスであっても十分なプロセスではありません。
 しかし、今日、デザインの領域は急激に拡大し、他の領域と重層的に絡み合って効果を発揮するようになっています。そこで、「デザインとは」がもうすこし分かりやすく理解できる方法がないものかと考えてみました。非常に単純な発想かもしれませんが、私には、デザイナーにしかできないことを見定めることがその命題の答えを与えてくれるような気がします。
 商品開発にかかる仕事は、いろんな視点からのアプローチが必要で、経営者、技術者、企画関係者などいろんな職能の人々がかかわります。もちろんデザイナーもその一人です。商品開発という、企業経営を左右するたいへんな仕事のなかで、デザイナーにしかできない領域があります。それは、「社会的な造形活動」の領域です。今日、デザイナーは企画、技術、市場調査、経営などさまざまな分野に関与しますので、企画に強いデザイナーもいれば、技術に強いデザイナーもいます。そのすべてができるデザイナーも少数ながら存在します。しかし、それは諸分野との関係性を深めることであって、デザイナーとしてはいつもこの「社会的な造形活動」に足を据えていなけれぱなりません。つまり、「社会的な造形活動」は、デザイナーとしての必要不可欠な条件だといえます。この条件を外してしまいますと、プランナー、マーケッターの行う領域と区別がつかなくなります。また、もっぱら自分の内なる精神や哲学を表現するすめに造形活動を行う人は、芸術家と呼んだほうがわかりやすいのではないでしょうか。
 このように考えますと、デザイン行為の基礎は「造形」をつくり出すことにあるといえます。そして、造形を基礎にさまざまな社会的な要素を関係付け、まとめあげる総合的な計画、設計のことと理解できれぱ、デザインを有効に活用することや、デザインの責任範囲も見えてくるのではないでしょうか。
 確かに今日の商品開発においては、デザインの活用範囲が拡大する方向にあります。そして、総合的な観点から商品開発にかかわりたいと思っているデザイナーも少なくありません。しかし、デザインを有効に活用するという観点から見ると、デザインの中心を見定め、デザイン行為がもっとも力を発揮できる領域について、企業、デザイナー双方が、理解を深め、開発という共通の目的のために協働することが大切なように思えます。
一九九一年三月 堺商工会議所報

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