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小説置き場(レイラの巣)コミュの【サスペンス】子供の時間-Dサイド-ウザ子

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こちらは「子供の時間」の別バージョンとなります。

本編の「子供の時間」(全2回)はこちらです。↓ 当コミュ内です。
(1) http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=73888953&comm_id=4788856
(2) http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=73890161&comm_id=4788856

Bサイドは別コミュ(アナタが作る物語)でヨシさんが書いてくださいました。
こちらです。↓
子供の時間-Bサイド-ウサ子
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=77497279

子供の時間-Cサイド-父はこちらです。↓ 当コミュ内です。
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=4788856&id=77748038&comment_count=0

子供の時間-C´サイド-母はこちらです。↓ 当コミュ内です。
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=4788856&id=77788805&comment_count=0

この作品だけでもわかるように書いたつもりですが、お時間があったら、本編および別サイドにもお目を通していただけたらと思います。

初出 2015/3/8 文字数7200文字


                               乙女座

 ふふん、と思う。計画通り。

 私の入学した高校は主要4教科を英語で授業をする。
 英語、物理、科学、そして化学だ。

 で、その英語で授業をする4教科と、日本語で授業をする国語と古典、日本史と世界史を足して8教科。
 中間と期末のテストでの上位20名はリストにして廊下に張り出される。
 前期と後期の2期制の学校だから年に4回だ。
 私たち生徒は競馬馬みたいなものね。
 キライじゃない。むしろはっきりしていて好きだ。

 入学して最初の中間で私は3教科しか入らなかった。
 期末の今回では8教科全て入った。まったく計画通りだ。

 トップは無かったけれど、まあそれはいい。
 ここからトップを取るための時間と努力は他の事に使いたい。

「ウゼエ。やぱ〜りウザ子はウザイネ」

 いつの間にか隣に来たポンが残念なイントネーションで言う。

 彼は帰国子女で、それなのに英語の成績は悪い。今回も英語のリストに入らなかった。
 首ひとつ分私より背が高くて、ブレイクダンスが好きで、年中どこかでこれ見よがしに踊っている。少しずつ仲間を増やし、ゆくゆくはブレイクダンス部を作ろうと目論んでいるようだ。

 この学校は英語で授業をするから帰国子女が多いのだ。
 最初の中間のテストでは英語の成績上位者リストには帰国子女達が並んだ。
 私はぎりぎりで滑り込んだが、ポンの名前は無かった。
 つまり英語も日本語もどちらも中途半端。ポンはそういう類の帰国子女だ。

 中間テストの時にポンはリストの私の名前を指差して「ウゼエ」と言った。
 ミミカだからうさ子、ウザいうさ子でウザ子。
「オマエは今日からウザ子だネ」
 変なイントネーションでそう言って以来、彼は私をウザ子と呼ぶ。

 小学生の頃、ひそひそと呼ばれていたウザ子というあだ名が太陽の下でおおっぴらに呼ばれるようになった。
 やれやれ、と思う。勝手にすればいい。まるで子供じみている。

 ポンの本名はアンジーで、みなにはアンと呼ばれている。
 本人は「Eのついたアンでヨンデネ」なんて赤毛のアンみたいな事を言っている。

 だから私は彼をポンと呼んでいる。
「アンポンタンだから、よ」って言ったら「ナニ? アンポンタン、ナニ?」って聞く。
 だからね。だからあんたはアンポンタンよ。

 前期の期末テストが終わって、いよいよ文化祭をどうするかという時期になった。
 後期の中間テストの2週間前という悪魔の仕業としか思えない日程で文化祭はある。

 部活の出し物(?)は大体研究発表だそうだ。運動部も、だ。

 クラス参加は模擬店。3年生なら食べ物屋もOK。1・2年生はそれ以外。
 クラス毎の参加だけれどクラス全員の強制参加じゃない。参加は自由。
 しかし何もやらなかったクラスは中間テストで全教科一律マイナス10点される。クラス全員だ。
 やりたければ1クラスで2つ、3つと店を持ってもいい。
 売り上げは生徒のものだ。どう分けてもいい。もっぱら参加者で山分けと聞いている。
 すごい学校だなと思う。
 偏差値は高く、難関校だが入って良かった。面白いわ。
 自由は偏差値が低くなるほど無い。当然よね。

 で、実行委員長を誰にするかという時にポンが私を指名しやがった。
「ウザ子なら、やれるオモウ」などと、しれっと言いやがった。

 ポンは勝手に何人かの男子とストリートダンスをやる、とエントリーした。
 私は女の子達と毛糸のアクセサリーを作り売った。
 ポンの投げ銭の売り上げも、アクセサリーの売り上げもたいした金額にはならなかったけれど。
 先生達の間で、1年生なのに無事に2つの出し物をやりきった私の株は上がったらしい。
 で、ウザ子の呼び名はクラス中に定着した。

 ケシにお礼のメールを送った。
 毛糸のアクセサリーはケシにレクチャーを受けた。

 返事は来ない。私もケシから来たメールに返事はしない。
 月に1回か2回、ケシからメールが来る。私もそのくらい送る。
 あの事件の前からだから何年になるだろう。ケシからのメールは全部取ってある。

 で、後期の中間テストだ。
 今回も私は8教科とも20位以内に入った。
 たとえ文化祭の2週間後だって、予定を立てて順番にこなしていけば、簡単な事だわ。
 全て計画通り。

 今回もポンは側に来て「ウゼッ」と言った。
 うふっ。

 高校1年。今年中に私は結婚できる歳、16歳になる。親のサインが要るけどね。
 そうか、世の中には私と同じ歳で結婚して母になる人間がいるのだ、と思う。
 それはほとんど脅威だわ。
 私はまだ自信が無い。まだ親にはなりたくない。
 まだ子供という身分に安住していたい。

 冬になって、ケシの誕生日にケシの住んでいる街に行ってみた。
 私にとっては故郷だ。
 駅前には大きなビルが並ぶ。その一軒が大きな本屋で参考書関係はここのほうがそろっている。
 というのは多分に言い訳だろう。だってアマゾンで買ったほうが早いもの。

 買い物が終わって、駅前のベンチに座って、迷っていた。
 住んでいた所まで行ってみようかな。
 でも小学校時代に一緒だった子達には会いたくない。
 自分の黒歴史は見たくないというか。

 まあ、壁を作っているのは今でも同じだし。
 凡人なクラスメイトを軽蔑してるっていうのは、今でも同じだし。
 黒歴史は続いているのかなぁ。

 でも、私と違う考えを持って生きている人達を面白いと思うぐらいには成長した。

 女の子の集団がキャラキャラ騒ぎながら歩いてくる。
 と思ったら、その一人が男の子で。おやおや、と見ていたら、その一人の男の子がケシで。
 なるほど、着ている派手なデザインの毛糸のセーターはケシの手編みらしかった。

 知らん顔をして座っている。
 私はブログもやってないし。自分の顔をさらすなんて事はしない。
 自分の顔はキライだ。肉に埋没している小さな目、厚すぎる唇。
 小学生の頃から太っていた私は今では3Lだ。
 黙っていたらわからないだろう。

 そう。気づかずにケシは女の子達と通り過ぎて行った。
 何をしているのだろう、私は。

 疲れきった気分で家に帰った。
 家は母の実家で、とにかく広い。
 創業者のおじいちゃんは今でも時々会社に顔を出してるし。
 おばあちゃんも精力的に出歩いている。
 お手伝いさんも来るけれど、食事は大体ママが作っている。
 パパと別れるまでしていた専業主婦とたいして変わらない。

 応接間の前を通ったら、母の声が聞こえた。
 来客? じゃないようだ。電話中だ。
 パパだった人の奥さんに催促の電話をしている。

『子供ができた。あんたのだんなの子だ』
 そう言って若い女の人が我が家にやってきたのは私が6年生の時だ。
 母はあっさりと離婚をした。
 ずっと前から離婚するって言ってたけど、きっとしないだろうって思っていたからびっくりした。

 後でわかった。
 毎月5万円の養育費。
 それから私が大学を出るまでの学費をパパは払うと約束させられていた。
 なにしろ相手が妊娠しちゃったから、パパには拒否できなかったのだろう。

 私はママの言うとおりに私立のお嬢様中学校に入学した。
 その高い学費をパパが払ってるって知って。
 嫌になった。

 ミミカちゃんってちゃんづけで私を呼んで、毎日私の髪をすいて二つに結びながら。
「女の子はかわいくなくちゃね。そしていいお嫁さんになるのよ」って繰り返す。
 学歴だってお嫁さんになるためのアクセサリーと思っている母。
 その母の言うとおりに生きるのは、もううんざりした。

 自分のお小遣いで髪をベリーショートにして。
 母が悲鳴を上げても、クラスメイトの間で私が教師に失恋したという噂話が広がっても、もうどうでもいいと思った。
 ベリーショートの私の丸い顔は、海苔をはりつけた団子のようだった。
 今でも。

 お嬢様学校の中学で私が覚えた事は、男が居ないクラスで群れになって生きている女子中学生の生態だ。
 ほとんど世の中をあきらめて、そのくせなめきって、自分を稼ぎの良い男にお嫁さんという肩書きで売り飛ばす事しか考えてない。
 男の居ない世界で男の話しかしない。

 公立で一番偏差値が高くて面白そうな高校を選んだらここになった。
 私は自分の選択が間違ってなかったと思っている。

 足音を徐々に小さくして、私が立ち去ったと母に思わせてドアのところで母の話を聞いていた。
 ねちねちとパパの奥さんにいやみを言っている。
 また入金が遅れたのだろう。
「私が離婚してあげたから、あなたの子ども達は私生児にならずにすんだのよ」と恩着せがましい。
 パパの新しい家庭には子供が二人いて、二人とももう小学生だ。
 毎月5万円と私の学費は重い負担になっているだろう。
 それでも払うべきだと私も思うけど。でもね。

 大学も国立にしよう。行かないという選択肢は考えられない。
 スリッパをぬいで、足音をたてないようにしてそっと自分の部屋に入った。

 ふと、やせてみようと思った。ヒマだし。
 ママにやせなさいよ、と言われていた時には全然思わなかったのに。

 成績は目的を達した。このままを維持すれば行きたい大学に入れるだろう。
 文化祭も終わった。

 何かをやりたい。生活の全部が勉強なんてばかばかしいわ。
 もし外資系に入りたいなら太っている事はハンデになるという。
 あと1年で3LからMサイズに。ちょっと面白いかもしれない。
 検索して、ダイエットの計画を立てた。あとは実行だ。

 決して、ケシが私に気がつかなかったからじゃない。

 2年生の文化祭で私はまた実行委員になって、また毛糸のアクセサリーを売った。
 1年で参加した女子の何人かは腕を上げていて積極的に参加してくれた。1年の時よりも売り上げはあがった。
 ポンは文化祭の成功に気を良くしてブレイクダンス同好会の申請を出して却下された。

 今回も毛糸のアクセサリーはケシにレクチャーしてもらった。
 お礼のメールにケシからの返事は無い。数日立って「おやすみ」だけのメールが来た。
 ケシのメールはだいたいそんなものだ。

 ケシはネット販売の店を立ち上げた。店っていうほどのものじゃないけど。
 ホームページに自分でデザインして編んだセーターやマフラーや小物に値段をつけて並べている。
 なかなか独創的でかわいい。
 時々ソルドアウトの印がつくから、売れてはいるのだろう。
 ブログでも自作の編み物作家が将来の目標、みたいな事を書いている。
 男でもいいんじゃないかなぁ。
 編み物王子なんていってTVに出てる人もいる。

 高校2年のケシの誕生日が何事も無く過ぎて、クリスマスの少し前。
 ケシから会いたいってメールが来た。渡したい物があるって。
 私のほうにも聞きたい事があったので、会う事にした。
 何年ぶりだろう。
 去年のケシの誕生日にすれ違ったのは会ったうちに入らない。

 こっちの駅前で会った。駅前のただのベンチだ。寒い。

「ほい」そう言ってケシは持っていた紙袋を渡した。
 中からでっかいセーターが出てきた。
 男といえ細身のケシにも大きいだろう。

「うさ子のだ」

 へえぇ。
 コートとそれからカーディガンを脱いで着てみた。
 やっぱり大きい。そりゃ私は太ってるけどさ。これほどじゃない。

「お前やっぱり変だ」とケシが言う。

「?」

「女がさ。ここで着るか? 普通」

「? 裸になるわけじゃないわ」

「じゃなくてさ。周りに人間が居るだろ。俺もさ。居るよ? 脱ぐか?」

「わけわかんない」

 もらったセーターを脱いで、カーディガンを着て、コートを着て。
 脱いだセーターを丁寧にたたんで袋に入れて、つき返した。

「大きすぎるわ」

「うん」

 ケシはおとなしく受け取った。

「なんで? なんで私にプレゼント?」

「ほら、うさ子は僕の命の恩人じゃないか。
 まだ、ちゃんとお礼をしてなかったからさ」

「ふうん」

 変なの。
 他に特に用事も無いようだ。
 で、聞いてみた。

「あのね。聞いてもいい?

 あの日ね。
 ケシがカレーを食べて具合が悪くなった日。
 カレーにいろいろ入れたの、ケシ?」

 裕子さんは最後まで否認して、実刑を受けた。
 もう出所している。

「ああ、そうかぁ」

「あの日、私が行くって思ってたでしょ?
 お昼を食べるにしては遅い時間だったわ。
 私が来そうな時間に合わせて食べたんじゃない?」

 長い、長い沈黙があった。もしかしたら短かったのかもしれないけれど。長いって感じた。

「なあ、うさ子。
 子供の犯罪者っていうのはさ、ちゃんとみつけられてちゃんと罰を受けないとゆがむんだってさ」

 なんの話?

「あら。未成年は守られるんじゃなかった?」

「今じゃ12歳から逮捕されるよ、死刑だってある。
 罰は受けるのさ。ただ大人みたいにただの罰じゃなくて更正をめざすんだ」

 ふうん、調べたんだ。

「うさ子はどっちがいい。
 ゆがんだ人間と、前科者とさ」

 どきりとした。これは告白ではないか?
 ケシの犯罪の告白。
 でも、なぜかな、アイノコクハクに聞こえた。
 
「そうね。私はケシがケシでいられるほうがいいと思う」

 これならアイノコクハクの返事ではないよね?

「僕が入れたのはさ、あの日のカレーの殺鼠剤だけなんだ」

 やっぱり、ケシが自分で入れたんだ。
 悲しいな。利用されたのかな、私は。
 でも、最後のカレーの殺鼠剤だけ?

「じゃあ、やっぱり裕子さんも入れたんだ。
 そういう事よね」

「さあね。誰だかなんてわかんないよ」

「だって、裕子さんじゃなかったら」

 だって、そうしたら。

「親父はさ。被害者なのさ。いつだって。
 だから自分を守るためなら、なんだってやるよ。
 僕だって捨てる。やりかねない人だ。
 で、やっぱり被害者だと思っているのさ」

「で、でも・・・。
 だってお母さんは。
 あ、ごめん」

 ケシは横目で私を見て、うっすらと笑った。
 だって、あの時ケシはお母さんに殺されかけた。
 それなのにケシはお母さんを選んだ。

「彼女にとって僕は一部なんだよ。
 だから自分が死んでいく時は僕も一緒なのさ」

「………」

「あの人が生きる気になったら、なんとしても僕を守るんだ。
 そりゃもうウザイくらいにさ」

 そう言ってケシは笑った。
 離婚した後、医療事務の資格を取ったと聞いた。
 そうか。きっとウザイくらいにケシを守っているんだ。

 なぜだか、私はママの事を思い出した。
 みっともなく実家に戻り、元の旦那に私の養育費をたかっているママ。
 もしかしたらママだってそうなのかもしれない。
 知りたくはないけどね。

 ケシはあの時、父親を切り捨てた。
 自分の生きる場所を自分で選んだ。
 私にはできない。
 ケシは多分、私よりずうっと早く子供をやめたんだ。

「夏休みになったら警察に行くよ。まだ17歳だしね。充分に守ってもらえるさ」

 ケシはそう言って笑い、立ち上がった。
 私はそのままベンチに座って駅に入っていくケシを見送った。
 泣きたかった。

 時おりケシから来ていたメールは、気づいているかもしれない私の様子を探っていたのかな。
 セーターのプレゼントは口封じの賄賂かな。
 で、もしかしたら知っちゃった私は口封じに殺されるのかな。

 あと半年とちょっと。
 何事も無く夏休みになって、ケシは警察に行くのだろうか。



 冬休みが終わって、そろそろ進路の話が出ている。
 3年で選択授業を決める時、すでにどんな大学に進む気なのか、先生と話し合う。

 この学校は理数系が多い。理数系で世界に出て行くなら英語は必須だ。
 私は文系。法科に進みたい。
 できたら企業の顧問になりたい。できたら海外企業の。

 ポンはアメリカの大学に行く。それはラスベガスに近いならどこでも良くて。
 ダンス教室に通って、オーディションを受けて、ストリートで踊って。

 なんでラスベガス? って聞いたらハリウッドやニューヨークより舞台が近いんだって。
 へえぇ。

「ノシアガリタイノネ」とポンは言う。

 そのために英語が学べるこの学校にしたらしい。

 ポンはアメリカというか英語圏からの帰国子女じゃなかった。
 イタリア、フランス、ドイツ。
 父親の都合で2・3年ごとにヨーロッパをウロウロしたらしい。
 なるほどね。
 彼の中で言語は重きを持たない。彼の表現方法はダンスなのだ。

 ケシのネットの販売は順調に増えているようだ。
「海外発送はお受けしていません」と一文が入ったのは、海外からの問い合わせが入ったのかもしれない。
 あの3Lサイズのセーターも1万円以上の値段で売りに出され、しばらくたってソルドアウトになった。
 売るかなぁ、普通。

 ポンもケシも軽やかに国境を越えていく。
 私もね。越えたい。
 彼らよりも不純な動機だけど。私は日本から脱出したい。
 日本的なものの全部から、私は逃げたい。

 春になる少し前、ケシから小包が届いた。
 編み直したぴったりサイズのセーターだった。季節はずれね。
 私を見ただけでぴったりサイズっていうのは気味が悪わ。

 2Lサイズ。
 1年がかりで3Lから2Lになった。
 予定ではMサイズだったはずなのに。
 ダイエットは勉強ほどには計画通りってわけにはいかないのね。
 そこが面白いわ。

 ポンとケシ。
 私はどっちが好きなんだろう。
 もちろん向こうが、じゃなくてね。そんな事はありえない。
 私はどっちなのだろう。

 でも、ケシが私の口を封じるために殺しに来るっていう想像はわくわくした。

 夏休みになってケシから「これから警察に行く」ってメールが届いた。
 新聞の片隅で小さな記事になった。

 自分で自分を傷つけただけだし。冤罪を作ったのは警察だし。もしかしたら冤罪じゃないかもしれないし。
 第一まだ少年A。
 話題にはならなかった。なったのかな? ケシの周りでは。

 入れたのは誰だったのだろう。
 本当にケシが入れたのは最後のカレーの殺鼠剤だけだったのだろうか。
 多分、永久にわからない。

 夏休みの終わりには「終わった〜」ってメールが来た。
 なにが〜って突っ込みを入れたかった。なんでもいい。

「今年の僕の誕生日にはちゃんと会おう」ってメールがきて。
 もしや、と思う。
 なんで最初のセーターが3Lだったのか。
 気がついていたのかもしれない。
 3Lだった時にケシとすれ違った。

 18歳で高校を卒業して、ハタチになったら成人だ。社会がお前は大人だと言う。
 子供の時にはできなかった事がだんだんやれるようになっていく。
 タバコ、酒、親の承諾なしの結婚。
 水垢のように知識とスキルが身についていく。
 たいくつで凡庸な大人の時間が近づいてくる。
 やろうと思ったらなんでもできた子供の時間の終わりが近づいている。

 終わり

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 シリーズ・目次
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