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小説置き場(レイラの巣)コミュの【女友達】セリ・ナズナ2(4−終)

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 5000文字。10/07/20

                           乙女座乙女座

 振り返り、目で聞くセリ。

「私が女だって事を忘れそうになったら、また思い出させて」

 そう言って、私はほほ笑む。
 花のように笑うセリ。目をきらめかせて答える。 

「いいわ。了解よ。
 そして、あんたは私が幸せにしてあげる。
 必ず、よ!」

 私は胸の中で答える。

『バカセリ。女王様でバカなセリ』

 のしのしという音が聞こえてきそうな歩きかたでリビングを横切っていくセリの後姿を見ながら思う。

『私のために御形とあんなパーティーを仕組んでおいて、そのくせ気になって仕事に手がつかないんだから。
 ほんとにバカ。
 そんなあなたが居れば、私は充分だわ』

                  ✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤

 箱部さんは、私が作った食事をガツガツと食べる。
 まるで、何かを取り込もうとするかのように。ブルドーザーが山を崩していくように。
 そんな食事のしかたをする男は、今まで私のそばには居なかった。

 御形は優しかった。優しく、ていねいに、順番に食べていく。
 私と接する時と同じように。

 私は箱部さんの向かい側に座り、つまみとワインで付き合いながら、彼の食事を見ている。

 箱部さんは大学時代の専攻は国文学だった。
 卒論は小林一茶。そのまま、出版社に入り、編集になった。

 けれど高校時代からアメフトに夢中だったという。
 確かに、肩や首に筋肉が張っている。
 卒論を書くために、夏休みには寝袋をかついで、一茶が歩いた旧街道を歩いて踏破したという。

 文系の男に誰もが持つイメージ…、そんな思い込みを、箱部さんの存在は木っ端微塵にする。

 半分ほど食べたところで、顔を上げ、私をまぶしそうに見て

「助かりました…」と言う。

「え?」

「先生です。やっとやる気になってくれました。
 ナズナさんのおかげです」

 そう言って、また食事に向かう。ガツガツと食べる。

 私が男だと知っている。
 でも、時々まぶしそうに私を見る。私を女性として扱う。
 いや、女の子として、かな? それは、私が担当の作家の友人だからかもしれないけれど…。
 箱部さん自身も男性というより、男の子だ。
 箱部さんは考えている事がストレートに顔に出る。顔に出たまま、同じ事を口にする。

 今、心に浮かんだ言葉を口にしたら、箱部さんはどう答えるだろう。

『よろしければ、私と恋をしませんか?』

 下を向いてクスクスと笑う私を箱部さんが食事の手を止めて不思議そうに見ている。
 箱部さんの視線を感じながら、私は知らん顔でワインを飲む。

『ねえ、セリ。私は今、充分に幸せよ』

 夕食の後、箱部さんはネクタイをしたまま、リビングで大の字になって寝てしまった。
 その彼に布団をかけ、私は長いすで映画を観ていた。そしてそのまま寝たのだろう。

                  ✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤

 気配に目を覚ましたら、いつのまにか私にも布団がかけられていた。
 箱部さんにそんな気づかいは無いだろう。多分、セリ。

 起き上がろうか、どうしようか。
 迷っていたら、浮かない顔で箱部さんがリビングに入って来て目が合った。

「先生が居ないんです…」

「セリが? 原稿は?」

 起き上がりながら聞く。

「それは終わりました。
 僕がチェックしてOKを出すまではいらしたんです。
 バイク便を呼んで、印刷所に突っ込んでいる間に出かけたみたいで…。
 全然、寝てないはずなんですが」

 出る前にセリは、長いすで寝ている私を見つけて、布団をかけたのだろう。

「……もしかして」

 携帯を取り出し、かけた。

「御形? そう、ナズナ。良かったわ。番号を代えてなかったのね。
 朝早くにごめんなさい。セリから連絡無かった?」

「あった。
 そう。
 セリが行ったら、ドアを開けないで。
 今住んでいる所は以前のままでいいのかしら?
 そう。すぐにセリを迎えに行くわ」

 携帯を切って立ち上がり、指で髪を直しながら箱部さんに声をかける。

「セリの行った先がわかったわ。タクシーを捜してきてくださる?
 そして、一緒に迎えに行って欲しいの。いい?」

 箱部さんがタクシーを捜している間に、私は支度をした。
 いそいで、けれど念入りに化粧をする。
 女の姿で御形に会う…。

                  ✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤ฺ✲ฺ.:*・゚✤

 早朝の街角にタクシーを待たせたまま、御形のマンションのエントランスに立つ。
 二年前までふたりで暮らしていたマンション。
 無意識に部屋番号を押す。
 手が覚えている事にとまどいながら、御形の返事を待って、声をかける。

「私よ。ドアを開けて。セリは?」

『さっきから玄関前で怒鳴っているよ。
 断ったのに、どうやって入ってきたのか。
 なんとかしてくれ』

 御形の返事と一緒にガラスのドアが開く。
 多分、住人の誰かの帰りを待って、一緒に入ったのだろう。
 セリならそのくらいの事はする。

 エレベータを降りて角を曲がると、セリが見えた。
 ドアが開き、御形が顔を見せる。私たちをみつけ、御形がほっとした表情をする。

 セリは私達に気がつかない。両手で御形につかみかかる。

「なんでなの? なんでナズナをつかまえてくれないの?
 どうして!?」

 ただでさえエキセントリックなセリが、徹夜明けの早朝だ。
 なにもかもがハイになって、止まらなくなっている。

「先生っ!」

 箱部さんがそう言って、セリの手をつかんだ。手をつかまれて、セリはやっと私達を振り返った。

「ナズナ…。箱部…。
 箱部! 手を離しなさい。離しなさいってば!
 あたしの言う事が聞けないのっ」

「だめですよ。先生。騒ぎを起こしちゃ、まずいですよ」

 箱部さんが困ったように小声で言う。
 その彼にとげとげしい声で御形が声をかける。

「とっとと連れて帰ってくれ。迷惑だ」

 静かになりかけていたセリが息を吹き返し、また御形に怒鳴りだす。

「男のくせにっ! なんでナズナの手を離すの!」

 箱部さんの片手が腰に回されて動けないセリは、足を伸ばし御形を蹴ろうとしながら叫び続ける。

「意気地無しっ!」

「何を言ってるんだ。振られたのは僕のほうだ!
 帰らないと警察を呼ぶぞっ!」

 御形が怒鳴り返す。
 こんなふうに、怒りを見せる御形は初めてだ。

「元が男だって知っていて、僕はナズナを受け入れたんだぞ。
 それなのに、黙って出て行った。
 僕のプロポーズを断った。なぜだ。
 聞きたいのは僕のほうだ。
 僕は何年も彼女に振り回された。だまされたのは僕だ。
 被害者は僕のほうだっ!」

 なにかが動き、御形の顔面を撃った。
 かがんで顔を抑える御形。

 唖然として、セリが箱部さんを見ている。私も、だ。

「いや…。俺は詳しいことはわかんないっす」

 自分の右手を押さえつつ、箱部さんがぽつぽつと話しだした。
 いつもの口調が消えている。

「でも、男だったら、女の子は守らなきゃいけないっすよ」

「なんで、きみが僕を殴るんだ…。きみはナズナのなんだ」

 うめくように御形が言う。

「だまされたなんて言っちゃいけないっす。好きだったんでしょ。
 今になって、元は男だなんて。卑怯っすよ。情けないっす」

「うるさいっ! 黙れっ!
 言ってるじゃないかっ。振られたのは僕のほうだ。
 僕をほっといてくれ。帰ってくれ。
 そのバカ女と、うそつき女を連れて帰ってくれっ」

 バカ女はセリの事だろう。うそつき女は…。

 私に蹴りを入れられて、御形が玄関の中に倒れこんだ。
 あっけにとられているセリと箱部さんを押しのけて、御形の部屋のドアを閉める。
 頭の中が熱くなり、目に涙が浮かぶ。

 なんと長い時間を、私は無駄にしたのだろう。その事が悔しかった。

「帰りましょう。セリ。
 用事は全部済んだわ。
 あ、待って」

 ドアを開けて、まだたたきに座り込んでいる御形に声をかける。

「セリはバカ女じゃないわよ!」

 御形と目が合った。
 傷ついた目をしていた。御形も苦しんでいる。
 私をうそつき女とよんだのも、御形のその苦しみが言わせたのだ。

 私は…私は…。
 一番に卑怯だったのは私だ。

 今やっと気がついた。

 ドアを閉めてカギをかけた。
 私と御形だけの空間ができる。

 かがんで、御形の目を見た。
 私が傷つけた人の目を。
 そして言った。

「もう、愛してない。
 愛せない」

 御形が私を見る。

「…うん。
 わかった。
 …わかっていた」

 ごめんなさい…とは言わなかった。
 そんな事は言えない事を私はした。

 傷つける事をわかっていて、加害者にならなかった。
 ただ逃げた。

 もう愛せない事はわかっていたのに、未練を引きづった。
 御形にその未練を見せた。

 立ち上がった私を見て、御形は顔をふせた。
 泣くのだろうか。終った事を確認するために。

 もう私はここに居てはいけない。

 ドアを閉めて、セリと箱部さんの腕を取る。

「さあ。終ったわ。帰りましょう」

 セリが私の手をほどいて、ドアを開け、御形に声をかける。

「ナズナはうそつき女なんかじゃないわっ。本物以上に本物の女よっ。
 あんた、バカなんじゃない?」

 そう言ってドアを閉め、私の左腕を取る。

 私は右手で箱部さんの腕を取り、左手でセリと腕を組み、歩き出す。
 早朝のハイが私にも感染したのだろう。

 後ろでカランカランと何かが音を立てる。
 振り返ると、御形の部屋のドアが閉められ、床で私の赤いハイヒールの片方が、くるくると回っていた。
 さっき御形を蹴った時に、ぬげて玄関の中に入ったのだろう。
 御形がみつけて、投げて返した…。

 左右の足の高さの違いに気がつかないほど、自分が興奮していた事に気がつく。

 箱部さんがそのハイヒールを拾い上げ、私の前に置いた。

 最後に、御形から受け取ったのがこのハイヒールか。
 そう思うと笑えた。
 ひどい言葉でもなく、悲しい思い出でもなく。もちろん、私の蹴りでもなく。
 投げ返されて床でくるくる回っている、赤い、片方のハイヒールが、私と御形の恋の最後の思い出だ。

 箱部さんが置いたハイヒールをはきながら、素直にそう思う。

 三人でエレベーターに向かいながら、セリに話しかける。

「セリ…」

「うん?」

「今日はクリスマスね」

「あぁ、そうね」

「いろいろと、ありがとうね。最高のプレゼントだったわ」

「なあに? 何の事?」

 セリのおかげで、私の中に残っていた御形への未練がきれいに消えうせている。

「で、箱部さん?」

「は、はい」

「そんなに緊張しないで」

「は、はぁ…。
 みっともないところを見せちゃいましたから…」

「いいえ。私のほうこそ。
 でね?
 よろしかったらですが。私とつき合いません? 恋人として」

「はぁっ!?」

 叫んだのはセリだ。

「セリは黙ってて。
 箱部さん、どうかしら?」

「どうって…。いや、うれしいっす。
 しかし、しかし。
 結婚となると、いろいろ障害があると思います…。
 ナズナさん。男でしょ?」

 本当に正直。

「結婚はできるわ。戸籍も変えてあるから。

 でもまだまだ先の話よ。全然、どうなるかわからないし。
 今は、おつきあいってだけっていう話。
 恋人として」

「あぁ、それなら、問題無いっす。
 実は俺もいいかなぁ、とは思ってたんです。ナズナさんの事。
 でも、無理かな、と」

 そう言っててれたように笑う。

「じゃあ、よろしくね」

「やめて…」

 横で小さくセリが言う。

「だめよ。ナズナ。箱部はダメ」

「なぜよ」

 私も小声で聞く。

「箱部じゃ、イメージがわかないわ。
 美しくない」

「は?」

「だって、すね毛だって、胸毛だってあるでしょ。あいつ。」

「見たの?」

「見てないけど。…ある。…感じじゃないの」

「男はみんなあるわよ。すね毛も胸毛も。
 御形にだってあったわよ」

「ぎゃあぁぁっ!」

 エレベータが来て、両手で耳を押さえたセリが飛び込む。
 そして、叫ぶように言う。

「御形は無いの。無いのよ。無いって思えるわ」

「あんた…。
 二十五にもなって…なにを。
 それに、そうやって、いつも私と御形をモデルにして書いてたでしょ。
 BL小説」

「あはっ。ばれてた?」

「あからさまだったわよ」

「そうよ。書いてたわよ。
 だから、どうしてくれるのよ。箱部じゃ台無しだわ。
 私の世界じゃないわよ」

「これからだって御形で書けば? 別にいいんじゃないの?

 ねえねえ、担当さん?」

 エレベータの壁のほうを向いて、聞こえないふりをしていた箱部さんに、私は声をかける。

「あ、俺には、いや僕にはなにも言えません。
 先生の書く世界の事はなにもわかりませんから」

「!」

 セリが目をむいた。鼻息が荒くなる。

「あぁ、いえ、その、そういう意味じゃ無くて。
 良いのはわかります。良いのは。
 読者受けもいいですし。
 これからも、そのクオリティーを維持していただければ、僕としてはなにも言う事は…」

「本当に?」

 私はのぞきこむようにして聞く。

「本当に私と御形がモデルでいいの?」

 少し考え込むようにして

「いいんじゃないかと。別に本当の事じゃないんですから」

 箱部さんがそう言うなら、本当に彼はそう思っているのだろう。
 彼はいやになったら言葉にも態度にも出すだろう。
 それが面倒な事もあるかもしれないが、裏を読みあって傷つき合う事もないだろう。

 待たせていたタクシーに三人で乗り込み、セリのマンションに戻ってと告げる。

「クリスマスパーティーをやり直して、酔って眠りましょう」とふたりに言う。

「僕は仕事があるのでひと寝入りして会社に戻ります」

と箱部さんが言って、セリが

「私の命令よ、今日は休みなさい。編集部には電話をすればいいわ」と言う。

「編集長がガタガタ言ったら、私が出るわよ。代わって」

「売れっ子作家さんには逆らえないですよねえ」箱部さんが笑いながらそう言って、おおげさにため息をついた。
 彼にも早朝のハイが感染しているのだろう。

 私はタクシーの窓ガラスに額をつけて、熱を冷まし、窓の外のまだ目が覚めたばかりの街を見る。
 クリスマスイルミネーションは、まだ眠ったままだ。

「メリークリスマス」

 笑いをこらえて、つぶやく。いい一年だった。来年もきっと。
                                              終わり

一話完結のシリーズはこちらから
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