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小説置き場(レイラの巣)コミュの【恋愛】 タカユキ 1 初詣

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 もういいかげん短編はやめて、長編の手直しをしなきゃ…。
 なのに初詣に行って、こんな話が浮かぶ。
 列に並んでいる間って暇なんだも〜ん。

 (この長編とは「シンデレラに恋をしている。」です〜)

 約4500文字。

                えんぴつ

 ジュンイチと僕は幼馴染で、幼稚園から中学校まで同じだった。
 家族以上に長く、同じ時間を共有してきた。
 別々の高校になってからだって、休みはふたりですごしていた。
 長い休みには、たいがいどちらかの家で寝泊りした。

 ジュンイチの嫁さんになったマサコも幼馴染だ。
 同じ歳の僕らは、よく3人で遊んでいた。
 中学に入って、ジュンイチは僕にマサコへの恋心を打ち明けた。
 別々の高校になって、ジュンイチはマサコに告白をした。そしてふたりはつきあい始めた。
 ジュンイチはマサコの事をいちいち僕に相談をし、報告をした。
 その度に『へえ、ジュンイチがあのマサコとねぇ』そう思うだけだった。

 ジュンイチとマサコがつきあい始めても、たまには3人で遊んだ。
 映画に行ったり、遊園地へ行ったり。デートのはずなのにジュンイチは僕にも声をかけた。
 面白そうな時は僕も行った。特に無理でも変でもなかった。
 マサコも嫌な顔をしなかったし、楽しかった。
 ただ、マサコはどんどんいい女になって行き、ジュンイチの女を見る目に感心した。

 大学に入り、ハタチになって、ジュンイチはマサコにプロポーズをした。
『うんって言われた』携帯からのジュンイチの半泣きの声を聞いて、僕の心にトゲがささった。
 トゲはもっと前からあったのかもしれない。
 でも自分がマサコを好きな事に気がついたのはその日だった。
 それからずっと、トゲは僕の心で血を吹いている。

 大学を卒業し、ふたりは正式に婚約をし、今年の春結婚した。
 ジュンイチにマサコへの恋心を打ち明けられてから10年がたっている。
 ふたりの愛は本物だろう。


 除夜の鐘が鳴り始めたので、したくを始めた。
 厚手のセーターに着替え、コート。毛糸の帽子にマフラー。
 デジカメと手になじんだ一眼レフのカメラを持って、初詣に行く。
 ついでに写真を撮る。いや、写真を撮るついでに初詣?
 違うな。写真を撮るのは僕には息をしているのと同じ事だ。
 僕はただ初詣に行く。

 駅向こうの神社は大きい。参拝客も多い。
 毎年交通規制をして、車線の一部が歩道になる。
 なのに、鳥居の何百メートルも前から、列ができる。
 神社の敷地の中にも小さな神社がいくつもあって、それをめぐるだけで七福神めぐりができる。
 その上、このあたりには小さな神社がたくさんあって、1・2時間で七福神めぐりができる。
 あちこちと回る人が多いから、どこもが人であふれている。
 僕はそのひとつひとつを回って、カメラで切り取っていく。

 初詣に行く人は同じでも、どの神社の人の群れも違う表情を見せる。
 それを丁寧にすくい、撮る。
 神社の建物も、植えられた木も、バイトの巫女さんも、夜空の雲も、月も。
 僕のレンズの中で俳優になっていく。物語をつむぎ出す。

 充分に撮り終えて、冷えた指をほほにあてながら僕は帰る。きんと研ぎ澄まされた夜気。
 車の影が時折ゆきすぎる道路。まばらな人影が、駅をすぎてさらにまばらになっていく。
『おめでとう。新年だね。昨日とは違う。多分、だけれど』
 すれ違う人々に心の中だけで声をかける。
『頼むから今年は良い年に。良い世界に。できたら、みんなで』
 ふるまいの甘酒で、ほろ酔いになったつもりでそんな事を考えてみる。

 この気分のままジュンイチの家に押しかけてみようか。
 式の後、仲間達とふたりのマンションに行った。
 結婚前から一緒に暮らし始めていたから、何度か行った事がある。

 空気が変わっていた。同棲の部屋から新居に。
 一緒に暮らしているふたりから、夫婦に。
 カメラ越しに確認して、シャッターを押した。

「いい写真だね」

 仲間達が言った。『結婚』それが絵になっていた。

『今夜は遅すぎる。あしたにしよう。
 あした、ジュンイチに連絡を取って…』

 思わず笑う。そんな事を繰り返し1ヶ月たっている。

 式の少し後、カメラを片手に旅に出た。
 フリー契約の何社かに写真と記事を送りながら、日本中を回った。
 帰って来たのは1ヶ月前だ。

 足音が追いかけてきて、腕をつかまれた。

「タカユキ。ひさ。帰ってたんだ」

 振り返るとジュンイチだった。
 目で探した。後ろ。10メートルぐらい離れてマサコが居た。
 互いに目で挨拶する。

「ひさ、じゃなくて。あけおめ、ジュンイチ」

「ああ。あけおめ。
 タカユキも初詣?」

「ああ。新婚さんもか?」

「もう新婚じゃないよ。あと2ヶ月で1年だ。
 式の時はありがとな。
 いい写真がいっぱいあった」

「本職だよ。いい写真があって当然。
 第一、愛が違うよ、愛が。
 ジュンイチとはホモかって言われた仲だぜ」

「このままうちに来て飲もう」とジュンイチが言い、僕が返事をしないうちにそう決まった。

 僕の前を歩くふたりをレンズで切り取っていく。

 ふたりを街頭の光の中に入れてシャッターを押す。
 スポットライトの中に浮かぶ人影のようになる。
 アスファルトは光にとんで柔らかな舞台のように輝く。

 今度は僕が街頭の光の中に入り、暗闇に光度を合わせる。
 モノトーンの中にふたりの表情が浮かぶ。
 髪の毛やうぶげに光が散って、絵本のようにきらめく。

 全身を。顔のアップを。手を。足元を。

 レンズの中でふたりは名優になって、いろいろな物語を切り取られていく。
 僕が切り取っていく。

 ふたりのマンションが見えてきて、ジュンイチが振り返り、

「あそこで冷えたビールを仕入れて来るからさ、ふたりで先に行って」

 と向かいのコンビニを指差した。

「あ、かまわないでよ。ビールは要らないし」

「わかってるさ。焼酎はあるよ。
 冷えたビールは僕の分。だからね」

 こっちの返事も待たず、走り出す。
 マサコと顔を見合わせ笑った。

「タカユキの好きな焼酎は用意してあるのよ。
 ジュンイチは焼酎は飲まないのにね」

 エレベータが来て乗った。ドアが閉まってゆき、

「奥さん。やっとふたりっきりになれましたね」

 僕は声を低めてささやいた。

「あはははは」

 マサコが楽しそうに笑う。

 一度閉まったドアが開いて、息を切らしたジュンイチが乗ってきた。

「間に合ったぁ。」

 壁に寄りかかってハァハァ言っている。

「今、タカユキにくどかれそうになったぁ」

 マサコがそう言って、まだ息が整わないジュンイチが苦しそうに笑う。
 僕が、

「奥さ〜ん。それを言っちゃルール違反ですよぉ」

 今度は3人で笑う。

 エレベーターを降りて、ふたりが先にたって歩く。
 僕は携帯を出してへたな演技を始める。

「すまん。先に行っててくれ。仕事先から連絡が入った」


 ジュンイチと私だけで部屋に戻り、飲み会の準備を始めた。
 冷蔵庫をのぞき、おせちを出した。
 レンジで温めるものを分けてお皿に取り、おなべを火にかける。

 ジュンイチの携帯が鳴り、やっぱりと思う。
 がっかりしたようにジュンイチが携帯を切って、

「タカユキ、朝イチで打ち合わせが入って飲めなくなったってさ。
 準備もあるし帰るって」

「あらそう。残念。
 でも、お正月早々、フリーって大変なのねぇ」

 多分、連絡なんて来なかった。
 こんな逃げ方、タカユキらしくない。

「あ。来た来た」

「?」

「今撮った僕達の写真をいくつか携帯に送ってくれるって、タカユキ。
 デジカメのならすぐ送れるからって」

「へえぇ」

 いい写真だった。携帯の画面でもいい写真だとわかった。

「な。タカユキ、きっといつか大きな仕事をするよ」

 ジュンイチが自分の事のように自慢をする。

「タカユキは僕とは違うんだ。僕には絶対できない生き方だよ。
 だけど、タカユキがそうやっててくれると安心するんだ。
 僕は安心して僕らしく生きられる。
 わかるかなぁ?」

「うん。わかるよ」

 私の横顔の写真があった。
 淡い光の中で表情が変わる寸前。瞳の中で街の灯りが光っていた。
 まつげの上で光が踊り、かすかに歯を見せて微笑んでいた。

 タカユキの愛が満ちていた。

 私がタカユキを好きだと気がついたのは、ジュンイチとつきあいだしてしばらくたってからだった。
 タカユキも私を好きだと気がついた時には、お式の日取りも決まっていた。
 もっと前に知っていたら。そう思ったけれど、でも、何も変わらなかったろう。
 知っていても、私はジュンイチを選んだだろう。

 私はジュンイチと生きていきたい。ジュンイチとなら一緒に生きていける。

「僕、長生きしなくちゃな。
 早死にしたら、タカユキにきみを取られそうだ」

 私の横顔の写真を見ながらジュンイチが言う。

「ないない。それは絶対」

 笑いながら言ったけれど。少し考えて付け加えた。

「でも、幸せにしてくれなかったらタカユキと浮気するかも」

「かんべんしてくれ〜」


 こんな写真を送ったら、僕の気持ちがばれるかな。
 携帯の中のマサコの横顔の写真を、もう一度見て閉じた。

 いいさ。ばれたって。ばれてふたりの間にささやかな波風が立つといい。
 年の初めだ。誰もが神に祈っている。
 ひとりぐらい小さな悪事を企んだって、大目に見てくれるさ。

 マサコを幸せにしたい。それは僕もジュンイチも同じだ。
 でも、僕には絶対に言えない事がジュンイチには言える。
 カメラを片手に風に吹かれるように出かけてしまう僕。

『幸せになろう。幸せにする』

 僕には言えない。僕には待っててくれとしか言えない。
 どこでもいい。好きな所で好きな事をして待っててくれ。
 いつか、多分いつか、僕は帰るから。

 だったらどこでも同じだ。ジュンイチのそばで幸せになれ。
 待つ事だけで幸せになれる女じゃ、マサコはない。
 たまに、僕は会いに行く。幼馴染に会いに行き、ついでに彼女が幸せか確認する。
 それでいい。

 今日は不意打ちだったから逃げ出したが、今度はもっとうまくやる。
 さて、なにをして時間をつぶそうか。
 今夜は自分の部屋に帰りたくない。
 根無し草のふりをして街を漂いたい。

 …つづく

タカユキ(2)桜前線はこちら
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=50771495&comm_id=4788856

その他、長編・目次はこちら
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=49963083&comm_id=4788856

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