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小説置き場(レイラの巣)コミュの(15) シンデレラに恋をしている

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 神様は、人生は、優しい。
 最後にひろと子供を僕にくれた。


 作陶にあきると、ひろのアトリエに行く。
 僕がらせん階段を降りて行っても、ひろは振り返らずに絵を描いている。

 ひろの絵がまた変わった。
 人形は光の中でまどろんでいる。
 花は水を含み、香りを放っている。
 そして、全てを天使の羽が包んでいる。

 僕がアトリエに行くたびにそんな絵が増えていった。

 しばらく黙って見ているが、いつもひろは絵を描き続けている。
 僕のほうを見ない。

 作業場へ戻ろうと、らせん階段に向かう途中で振り返った。
 光に満ちたひろの絵が、目に入った。
 気がついたら声に出して言っていた。

「今、きみを抱いてもいい?」

 怒るかと思ったら、ごく自然な返事が返ってきた。

「だめよ。忙しいの。
 個展が近いのはあなたも知っているでしょう?」

 近江さんとはよばなくなった。その事をひろは気がついているのだろうか。

「お腹が大きくなったら、できなくなってしまうよ」

「外から見えてしまうわ。
 まわり中、窓よ」 

 筆を動かしたままだ。

「ここがいい。
 きみの絵が見ている」

 なんと答えたらいいのかわからない。そんな顔をしてひろが振り返った。
 僕はそのひろの手から筆とパレットを取って床に置いた。



 ひろの妊娠を根津とよねさんに伝えた。
 ひろは変わっているから、難しいところがあるけれど、ひろと子供を守って欲しいと二人に頼んだ。
 よねさんは、根津と目を見交わすと、ころころと笑った。

「ひろ様は、お若い頃の旦那様にそっくりでございますよ」

「え…」

「旦那様はお体が弱くて、よく学校をお休みなさいましたねぇ。
 でも、作陶だけはお休みになりませんでした。

 大奥様が、天順様がおふとんに居ないとご心配になって。二人でお探しすると、いつだってろくろの前でございました。

 そうそう、作業所の床で寝ていらした事もたびたびでございました。
 本当にそっくりで…」

「しかし、それは…、僕の場合はただそうしたかったからで…」

「ほっほっほっ、ひろ様も同じ事でございますよ」

「ひろは何も持っていなかった。
 ただ、炎の様な情熱だけで絵を描いていた。

 僕は父がここに家を移して、作業場を作ってくれて、裏の山に登り窯まで作ってくれた。
 僕を預かってくれる窯場を、探したのも両親だ。
 僕は楽な道を歩いて来た」

 よねさんは、またころころと笑いながら「それはみんな旦那様がご自分で引き寄せたのでございますよ」と言った。

「大旦那様や大奥様が、どんなに反対されても、お止めになりませんでしたからねぇ」

 根津までが、そう言い出した。

 確かに僕の両親は、何度も反対をしていた。
 でも、僕は両親の反対を、あまり気に留めた事は無かった。
 両親が事故で死んだ時、当たり前の様に父が所有していたいくつかの会社を処分した。
 跡を継げと言われた記憶もあるが、それほど深く考えた事は無かった。

 ひろは炎だけれど、僕は自分の事を水の様だと思っていた。
 流れる様に生きてきただけだと。何も無理はしなかった。
 ひろの炎を僕も欲しいと思った。

 でも、僕も炎なのだろうか。考えた事も無かった。
 そして、ひろも水の様に生きてきただけなのだろうか。
 ただ、絵を描きたかっただけ。そうなのだろうか。

 そして、水の様に流れて僕と結婚をした…。

「ご安心下さいませ。ひろ様もお子様も、ちゃんとお守りいたしますよ。
 ねえ、根津さん」

 根津は笑いながらうなずいた。

「まだまだもうろくはできませんなぁ」

「ええ。
 小麦を、しっかりとひろ様をお守りできるようにしこまなければ。
 お子様がお産まれになったら、忙しくなりますねぇ」

 年寄りが二人で、なにもかもわかった様に笑い合っている。
 僕が居なくなった後の事を、明日の予定の様に話している。

 僕は、僕が居なくなってこの屋敷が無くなってしまう事が怖かった。
 父や母が作り上げたこの空間を、僕は引き継ぐ事もできず壊してしまうのかと。

 ひろとひろの子供がここをつないでくれる。
 根津も、よねさんも居る。
 僕が居なくなっても、何も変わる物は無いのだ。

                                                ……つづく

(16)はこちら
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=50460431&comm_id=4788856

 今までのお話、その他はこちら
 長編・目次
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=49963083&comm_id=4788856

コメント(2)

 なにも言葉はありません。
 6号です。さん。本当にありがとう。感謝します。

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