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高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ 第三段階『鹿島大学付属病院』10(了)

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「駄目だ、昌美やめろ! 戻るんだ!」

 瞬間物質転送装置(テレポート・ゲート)・改のコンソールに映るモニターを見ながら、石和は大声で叫び、彼女の暴走を阻止しようとした。しかし、必死の呼びかけに応じず。
 『ごめん……なさい』、とかすれた声で昌美はそう言って、インカムの電源を切ってしまった。これではもう、こちらの声は昌美には届かない。

 「くそっ、最悪だ!」

 石和はぎりっと歯を食いしばりながら、コンソールの端に拳を叩きつけた。一番心配していたことだった。篠塚と昌美の関係は詳しく知らないが、想いの深さだけはひしひしとこちらに伝わってきた。それ故に想いも暴走しやすい。なにかの引き金があれば、彼女は自制が効かなくなってしまうのではないか。
 そんな不安が心の片隅にあった。あれだけ反対したのもその危険性があったからだ。そして、予想は最悪の形で的中した。
 「切り捨てる……しかないのか」
 これは彼女の失態だ。あれだけ念を入れて言っておいた約束を向こうから一方的に破棄した。こちらが接続を切っても向こうは文句を言えない。昌美もそれは充分承知の上での行動だろう。しかし――――    

『自分の大切なヒトを助けたいと想うのがいけないことなんですか! なにもしないで諦めるなんて事、あたしにはできません。トキくんを助けたいんです! このあたしの手で!』
『………分かってます。可能性が限りなくゼロであることは。それでも。自分のこの目で確かめるまで、あたしは絶対諦めません。トキくんは私の大事な、大事な人なんです。あたしの半身といってもいいくらいの。あたしはあの人がいないと生きていけない。だから、あたしを……跳ばせて……ください。っ……お願い、します』

 彼女がほんの数時間前に言っていたことを想い出す。半身が引き裂かれた想い。助けられない悔しさ。その痛みと苦悩が石和には分かりすぎるほど、分かった。
 だから、昌美の暴走を石和は無謀とも愚かだとも思わない。ただ、悲しいだけだ。想いは強ければ強いほど弾けやすいのだから。

 「少しだけ……待とう」

 我ながら、甘い選択だと思う。向こうに瞬間物質転送装置(テレポート・ゲート)・改の位置を補足されれば、自分の身も破滅だ。だが、それでも彼女を見捨てたくない。せめて、補足される動きを見せるまでは。待ってみよう。幸い、切られたのはインカムの電源だけで、ビデオカメラはまだ稼働中だ。彼女の行動は把握できている。石和は佐々木に向かって、告げる。

 「佐々木、原子分解モードのまま待機だ。量子分解モードもすぐに出来るようにしておいてくれ。一応、ギリギリまで粘ってみよう」
 「…………」
 「佐々木?」
 「あ、ああ、ごめん。了解。ギリギリまで待とう」

 佐々木が困惑した表情を浮かべながら、パネルを必死に操作している。石和は眉を潜めた。
 「どうしたんだ、変な顔して。なにかあったのか?」
 「いやなんか、急にモニターの片隅に変な文字が表示し始めて……」
 「っ! まさか、もう補足されたのか?」
 「違うと思うけど……なんだろう、コレ。バグなのかな。どういう意味なのか、さっぱりわからない」

 狼狽する佐々木の傍らに歩み寄り、石和はモニターを覗き込んだ。画面の左下に赤い文字で何かの文章が走っている。文章が一通り表されると文字が消え、また再びその文章が最初から書かれてゆく。その繰り返しだった。その文章自体の意味は分からない。
 しかし――――
    
 「なんだ? この文章、何処かで……」

 文章の最後の一節を目にした瞬間、石和はようやくそれに思い当たった。
 
 禍なるかなバビロン そのもろもろの像は砕けて地に伏したり――――   

 そうだ。佐々木が人類進化促進塾の前で言っていた言葉。そして、白い少女が石和の携帯に触れて口走った言葉である。

 「気が付いたかい? 旧約聖書の一節が延々と表示され続けているんだよ。バベルの塔の行(くだり)だね。バグにしては表示される文章が変だし、この文章を消すこともできない。いったい何なんだろう?」

 言いながら、佐々木は原因を模索する。石和はふと、懐にある携帯が気になった。白い少女が口にしたあの言葉。蒼白い光。何か……妙な予感が、する。懐に手を入れて、黒い携帯を取り出してみる。先程のような不自然な光は発していない。
 だが、携帯を開き、中を見ると――――    

 禍なるかなバビロン そのもろもろの神の像は砕けて地に伏したり――――   

 画面に映っている文章とまったく同じものが携帯に表示されていた。それだけではない。その文章が表示されるタイミングも。消えるタイミングも。再表示されるタイミングも。
 そのすべてが。佐々木が見ているモニターのものと全く同じだった。寸分の狂いもないユニゾン。それが携帯と瞬間物質転送装置・改のモニターの中で延々と繰り返される。

 「な――んだ、これは……」

 明らかに異様なこの状況に。石和は大きく目を見開いて、肌を泡立たせた。











第三段階『鹿島大学付属病院』了

第四段階『罪と罰と進化』に続く

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