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高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ 第二段階『人類進化促進塾』

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彼 天より降りる。

エホバ 天をたれてくだりたもう。

御足のもと暗きことはなはだし。

エホバくだりて かの人々の建つる街と塔を見たまえり。

いざ我らくだり かしこにて彼らの言葉を乱し互いに言葉を通ずることを得ざらしめん。

ゆえにその名は バベルと呼ばる。

禍なるかなバビロン

そのもろもろの神の像は砕けて地に伏したり


               旧約聖書 創世記第十一章











 少しずつ、少しずつ、少しずつ。

 電流を流し、流し、流し、ナノマシンを与え、与え、与え、細胞を変質させてゆく。

 『頭頂葉(とうちょうよう)へのナノマシン注入開始。精神レベル60?。汚染レベル0.2上昇。特殊能力スキル87……88……89まで上昇−−−−』

 十六平方メートルほどある部屋だった。白い壁にクリーム色の床。飾り気のない無機質なベットに少女が横たわっている。まだ幼い子供で、年齢は五歳ぐらいだろうか。もっとも、この部屋の処置で五歳という年齢は年長の部類に入る。

 未発達でないと意味がない。この研究は脳が完全に発達してからでは遅すぎるのだ。
 少女は眠っている。眼は閉じていて、意識はない。全身麻酔が完全に効いている状態だ。
 ヘルメットにも似た機械を、少女の頭頂部から目元までをすっぽりと覆っている。そこから剥き出しとなった無数のコードとチューブが長々と伸びており、ベットから壁に繋がっている。

 『精神レベル62?−−−−特殊能力スキル……92を超えました。す、すごい……ここまで高レベルで覚醒した能力者(ネオ・チャイルド)は初めてです』
 『力の種類は……変換憑依か。ナノマシンと電子チップを埋め込めば、自分の意志であらゆる電子機器に干渉することが出来るようになる。いや…ここまでのレベルになると自分の意識を量子データに変換することも可能だ。大型コンピュータに直結させて、彼女を観測者に仕立て上げれば、仮想空間(ヴァーチャル・リアリティ)の構築も現実のものになるかもしれない』

 『……適正値はどうなんだ?』

 『門(ゲート)としての適正値ですか? こちらは……あまり芳しくはないですねえ。64.5?。0.3上昇しただけです。初期適正値としてはかなり高い方だったんですけどね。仕方ないので、この素体は能力者(ネオ・チャルド)としてのスキルを伸ばした方が−−−−』
 『ナノマシンを注入しろ。今度はレベル2でだ』
 『え?』
 『聞こえなかったのか。レベル2だ』
 『む、無茶です! 精神レベルが六十を超えてるんですよ? これ以上汚染レベルが上がれば、人格に障害が発生する可能性があります! 下手をすれば命だって−−−−』
 『そ、そうですよ! せっかく能力者(ネオ・チャイルド)としてのスキルが高レベルで覚醒したのに。いいじゃないですか。今回は諦めて、次の素体に期待すれば』
 『勘違いするな。現在、欲しているのは能力者ではない、門(ゲート)の適格者だ。戸木原博士からも言われているだろう。出来るだけ急いでほしいと』
 『…………』
 『私は戸木原博士の期待に応えたい。報いたいのだ。その為には多少の無茶もやむを得まい』
 『し、しかし!』
 『心配するな。この子は孤児で、両親はいない。万が一の事態が起きたとしても、いつものようなトラブルは起きん。これ以上は言わんぞ。レベル2だ。始めろ』
 『りょ、了解』

 少しずつ、少しずつ、少しずつ。
 電流を流し、流し、流し、ナノマシンを与え、与え、与え、細胞を変質させてゆく。
 回路を開く。それはヒトの脳に眠る未知の回路。それを探り、無理矢理道を造って繋ぐ。 代償は欠落した人格か。破損した肉体か。代償の代わりに得たものは?
 
 −−−−適正値は何??





 「まさかあの騒ぎに君たちが居合わせていたとは…災難だったね、石和武士くん」

 三ツ葉社本部ビル 最上階 専務室。
 無駄に広い部屋の中、三ツ葉社の重役である、島村一彦(しまむらかずひこ)専務がデスクのソファに鎮座していた。歳は五十代後半で、顔には年相応の深い皺が刻まれている。丸眼鏡越しに見えるその眼は生き生きとしており、鋭い。世界でも上位に位置する巨大複合企業本社の専務だ。判断力はその役職に恥じぬほど的確で、発言権も相当高い大物だ。今までも幾度か話したことがあるが、未だ島村専務を目の辺りにすると緊張する。

 視線をそらし、窓に目を向けると陽光が揺らぎ、石和の顔を照らした。眉を潜め、眼を細める。光がやけにまぶしく感じる。カーテン越しに入ってくる光なので光量自体は大したことないと思うのだが。普段、心地よい陽の光が現在はきつい。昨晩、なかなか寝付けなかったせいだろう。
 あんな光景を目の当たりにした直後にゆっくりなど、寝られるわけがない。
 特に、我々Dー計画に携わる者にとって、あれは悪夢以外の何者でもない。

 「……で、あの騒ぎに巻き込まれて、その後どうしたのだね? 相当大きな騒ぎになり、被害者も出たと聞いているが。君や石和くんに何か問題や怪我などはなかったのかね?」

 島村専務の問いに石和は背筋を伸ばし、静かにかぶりを振った。

 「いえ、大丈夫です。現場は最初、混乱状況に陥りましたが、すぐに警察と機動隊の増援が到着し、非常線を張って民間人を誘導していましたので。私の車も誘導に従って、現場を離れ、川原を送り、その後帰宅しました」
 「うむ。怪我がなくてなによりだった。川原博士のその後の様子は?」 
 「笑顔を浮かべてましたが、顔は青ざめてました。やはりショックは大きかった様です。車で待機しているように言っておいたのですが、外へ出てしまい、殺害現場を目の当たりにしてしまったので」
 「……まあ、しばらくはゆっくりと休むことだな。二人とも身体は大事にしてくれたまえ。川原くんも石和くんも我が社にとって、大事な存在なのだからね。特に石和くん、君にはこの先、頑張ってもらわねばならない。丁度Dー計画の第一段階も一息つきそうな時期だ。休暇でも取って、ゆっくりと休むのもいいかもしれない。なんならよい温泉宿を紹介してあげよう」
 「どうもありがとうございます」

 そう言って頭を下げる。しかし、休暇を取るつもりになどなれない。なれるはずがない。この件についてはっきりさせておかないと、このモヤモヤ感はずっと残ることになるだろう。

 「島村専務、少し聞きたいのですが、あの事件についてはなにかご存知ですか?」
 「ん? 特殊なドラッグ、クラック・ボールを投与したと思われる男が十字路で車を爆破。死者十二名、重軽傷者四十三名の被害を起こした事件。ここ最近の事件では一番の大惨事だ。その後、犯人は新しい包囲網が出来る前に十字路から路地裏へと逃走。五百メートルぐらいは追撃したらしいが、その後完全に目標を消失(ロスト)。目下捜索中らしいがね、まだ居場所は判明してないそうだ。私もこの位の情報しか知らない。早く犯人が捕まるといいが」
 「島村専務は犯人の事を知ってますか?」
 「いや、詳しくは。そもそも、犯人の身元は判明してないと聞いている」
 「私は犯人の顔を見ました。この目ではっきりと」

 そう告げて、島村専務を顔をきっ、と睨み据える。島村専務に動揺は微塵も見受けられない。もっとも相手は世界上位に位置する巨大複合企業の専務だ。ポーカーフェイスなどお手のものだろう。何も知らぬ顔をしているからといって、本当に知らぬとは限らない。
 石和は続けた。

 「一度、このビルの中でお会いしたことがあります。アレは『新井武之』博士です。間違いありません」  
「新井武之博士というと−−−−出張中に行方不明になったという……彼のことかね」
 「はい」

 島村は顎に手を当て、

 「ふむ……何かの勘違いではないかね。新井博士は剛胆な性格だが、人柄はまっすぐで間違ったことを嫌う人物だった。犯人はPCPを投与している薬物中毒者らしいが、彼が薬物に手を出して、犯罪を犯すなど あり得ないと思うのだが」
 「その通りです。新井博士とは私も一度話しただけですが、芯の強い、真っ直ぐな印象を受けました。どんな状況下でもクスリに逃げるようなことはないと思われます。しかし、第三者の介入があったとすれば、話はまた別です」
 「と、いうと?」
 「そのままの意味です。第三者に強制的にクスリを投与されたとすれば、依存症となり自我が崩壊しても不思議ではないはずです。いえ、それ以前の問題として、あれは本当にクラック・ボールなのでしょうか。クラック・ボールは確かに幻覚、麻酔、アドレナリンの過剰分泌など、様々な症状が発生する場合がありますが、昨夜の男はヒトとしての規格をはるかに超えた能力を持ってました。そもそも刃物も何も使わず、首を切り落とせる人間がいるとお思いですか?」
 「…………」
 「単刀直入に言います、誰かが新井博士の肉体にα細胞を投与した可能性があります」

 言った。オブラートに包むことなく、思ったことをありのまま。しかし、それでも島村専務の表情は微動だにしない。石和は更に続けた。

 「新井博士の眼を私は見ました。紅いルビー状の眼球。あれは『赤眼(レッドルビー)』です。α細胞を生物に投与すると、α細胞が浸食し、肉体の変態と同時に眼球を紅く鮮やかな色に変質させます。変態の形体は様々ですが、眼球が紅く染まることに例外はありません。
 何者かにα細胞を投与されたとすれば、新井博士が見せた特異体質、それに手刀のみで車や人の身体を切り裂いた、通常ではあり得ない超現象もすべて説明がつきます」
 島村専務はふう、と溜息を軽く吐き、ずれた丸眼鏡をくい、と人差し指で戻した。
 「つまり−−−−Dー計画スタッフの誰かがα細胞を新井博士に投与して、その結果が昨日の事件だと、そう言いたい訳だな?」
 「はい、残念ながら」
 「……あり得ないよ、石和くん」

 そう言って、島村専務は大きく首を左右に振った。

 「君の言葉を信用しないという訳ではない。だが、その見解は間違いだ。理由が聞きたいかね?」

 詰め寄りたい衝動に駆られたが、両拳をぎゅっと握りしめ、堪える。

 「……是非」     
 「まず第一に見間違えの可能性だ。昨日、現場は混乱状況にあった。しかも夜。それに付け加え、危険な状況下にあったのなら、非常線は張られていたはずだ。至近距離で視認することは不可能に近い」
 「私が嘘をついていると?」
 「そうは言っていない。だから、見間違えだと言ったのだ。体格と顔が新井博士に似ていたのを石和くんが彼だと誤認し、それが真実だと思い込んでしまった。しかも、石和くん、君と新井博士の面識は只の一度きり。間違えても不思議ではないと言うことだ」
 「いえ、私はたしかに−−−−」
 「こちらの話はまだ続いているぞ、石和くん。ヒトの話は最後まで聞くものだ。第二に犯人の眼が『赤眼(レッドルビー)』であった話だ。これも先と同じ理由で片づけられる。見間違い−−−いや、錯覚と言った方がいいか。辺りの車が爆発炎上したとなれば、辺り一面は大火事、視界は赤だ。光の反射で彼の眼が赤く染まって見えたのだよ」
 「確かに見ました。あれは見間違いなどではありません」
 「ヒトの眼は自分で信じているほど、確かなものではないよ。特に自分の意識が混乱、錯乱しているときには認識は狂いやすい。それらしく見えたものを、『そう見えた』と確信しているだけだ。それに『赤眼』は深い紅だ。深紅はその色の性質上、闇に溶けやすい。至近距離でならともかく、離れた場所でそれを確認するのは難しい。違うかね?」
 「う……」
 「そして、第三に−−−−石和くん、もし先の犯人にα細胞が投与されていたと仮定して、『本当にそんなことが可能なのかね?』」
 「え?」

 ……島村専務の言っていることが分からない。Dー計画のことは逐一、島村専務には報告されている筈だ。α細胞によって、身体が変態を起こし、紅い眼になることも、その後、驚異的な能力を持つことも。よつのは研究所での惨事を含め、すべて、知っている筈。
 こちらが困惑をしているのを見て、島村はふうと嘆息し、

 「意味が分からないかね? ではこう言い換えよう。いま、君がDー計画で成そうとしていることはなにかね?」
 「っ!」

それでようやく、島村の言わんとしていることが分かった。

 「気付いたかね? 自分が矛盾したことを言ってるのに。そう、α細胞を体内に投与すれば確かに超常能力を持った生物が出来あがる。昨日のような事件を一人で起こすことも可能だろう。しかし、α細胞を体内に投与すると、α細胞に浸食され、別の情報に書き換えられてしまう。言ってしまえばこの世に存在しない、化け物になってしまうということだ。それは例え、ヒトに使用としたとしても例外ではないだろう。だが、昨日の犯人は化け物だったかね? ヒト以外の形をしていたのかね? この時点で君の推測は破綻しているのだよ」
 「いえ、α細胞との融合は順調で、完成は目前です。現在の実験体にも何の変調は見られないので、可能の筈です」
 「だが、完成はしていない。君自身も分かって言っているはずだ。少なくとも、現時点でそれを行うのは不可能だと。それとも君たち以外に、そんなことができる人物が他にいるとでも? 不可能だろう、技術的な問題もあるが、実験体αは君たちの元にある。瞬間物質転送装置(テレポート・ゲート)も実働しているのはここの一台しかない。誰かがそれを持ち出さない限り、他の人間に精製は不可能だ」
 「……では昨日のアレは一体なんだというのですか?」
 「分からん。現時点では推測もしようがない。しかし、それはどうでもいいことだよ、石和くん。アレは新井博士ではない。アレは『赤眼』ではない。アレはα細胞を投与したものではない。私たちとの因果関係は何一つ無い。すなわち無関係であるということだ。従って、この件を追求する必要はない」
 「−−−−」
 「今日はもう帰りたまえ。他に休暇申請があれば、受け付ける。繰り返すが、君は我が社にとって大事な存在だ。充分に休養を取り、Dー計画の遂行に全力を注いでほしい。以上だ」







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