高田ねおの創作物置き場コミュの混沌のアルファ　プロローグ

プロローグ



　……世界は多数存在する。

　分裂世界と呼ばれる、世界が無限に分裂増殖する現象が確かに存在する。
　世界はあらゆる可能性を内包している。世界は常に変動している。
　世界はことあるごとに細胞のように分裂し、それぞれが違う世界を構築してゆく。
　それは宇宙の始まりを起源に木の根のように無数に枝分かれし、無限に分裂してゆく。

　つまり、可能性の数だけ、宇宙はこの世に存在しているのだ。

　それぞれの空間は互いに絶対次元壁と呼ばれる空間の領域に囲まれており、他の空間は知覚することすらできない。
　故に分裂世界の立証は不可能と言われていた。だが、ひとつのある事象により、分裂世界の研究は一気に進化を遂げることとなる。

　西暦2022年。6月10日。午前3時24分。

　日本の関東地方にて地震が発生。気象庁震度階級４。地震の発生と同時に東京の外れにある山の上にある物体が落下してきた。

　それは生物だった。それは間違いない。が、それ以上のことは全く分からない。

　爬虫類、哺乳類、両生類等々、この地球上には様々な種の生物が存在しているが、この生物はどの種にも該当しない、不可思議な生命形体をしていた。

　この生物の出現は周囲の住民の騒ぎになりかけたが、情報操作により、地球の大気圏を抜けた小型隕石の落下ということで片付けられた。周囲の公的機関に圧力をかけ、情報を封印したのは複合企業の三ツ葉社であった。

　三ツ葉社の研究機関では昔から、分裂世界への研究を行っており、これがどういった代物であるのかを把握していた。
この規模の地震などさほど珍しくはないが、この振動は従来のプレートとプレートの衝突により生じたモノではない。空間と空間の一部が接触し、その衝撃波が『互いの次元空間』を振動させたのだ。そして、枝分かれした空間と空間が近づき、ほんのわずかではあるが空間同士が衝突した。

　次元震と呼ばれる現象である。そのとき互いの絶対次元壁の一部に境界線が消失し、向こう側にあるモノがこちら側に流出した。
　つまり、これは無限に枝分かれした分裂世界の一つから流れ出た生命体なのである。

　話を聞いた三ツ葉社は早々に動き出し、この生命体を確保。よつのは研究所に収容することに成功した。

そして、この未知なる生物の解析が始まったのだった。
　この生物を研究者たちはα（アルファ）という呼称をつけた。
　研究者たちは歓喜した。生態構造、細胞、身にまとう空気すら『この世界』にあるものと違う。
　未知、未知、未知、未知、未知。
　あらゆる箇所が未知に満ちていた。
　未知なる生物の解析は研究者たちにとって、至上の喜び。研究者たちは歓喜した。

　その生命体は生命活動を行っていなかった。と、言っても、死んでいるわけではない、仮死状態。
　頑丈なカプセルに保護液を満たし、生かした状態のまま、様々な研究が行われた。細胞の解析、生体構造の研究、ＤＮＡの採取、調査、胃に残留していた未知の食物の調査−−−

　ーーーそして、その調査の最中、研究者たちは革命的な発見をした。

　αの因子とこの世界の生命体の因子を結びつけることにより、我々の世界ともうひとつの存在の混合種を造り出すことが出来る。
　ふたつの生命体を融合させた『鍵(かぎ)』を造ることによって、その生命体のいた世界をこちらから引き寄せることができることがわかったのだ。

　未知の世界の探索、調査。その恩恵は計り知れない。

　三ツ葉社の会長、三ツ葉光一の命により、ある計画が発動する。

　佐々木勇二郎(ささき・ゆうじろう)、川原奈々恵(かわはら・ななえ)、川上弘幸(かわかみ・ひろゆき)、戸木原淳(ときはら・じゅん)、そして石和武士(いさわ・たけし)。

　計画に必要な国内最高の研究者を三ツ葉社第五研究所へ集結させ、彼らを中心とした研究グループを編成した。
　空間を制御する計画。机上の空論にしか過ぎなかった別世界の存在を実証する夢のような計画。
　
　時に西暦2027年、5月22日。

　Dimension project。通称、Ｄー計画がこの日、発動した。



第一段階『D-計画へ』

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