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高田ねおの創作物置き場コミュのIntersecting Bullett 登美丘詩織編 FILE1『依頼と少女』2

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    三

 「……は?」
 バスター機関本部ビル地下一階。駐車場。
 そこであたしの帰りを待っていたは男は訳がわからない、といった表情で眉を
潜めた。
 長い黒髪を後ろで束ね、やや筋肉質の身体をしている。
 まだ春先で風も冷たいというのに紺のタンクトップとすり切れたジーパンとい
うやたら肌を露出した格好をしている。
 これは今の季節に限ったことではなく、たとえ真冬だろうがなんだろうが、春
夏秋冬、彼はその格好を崩さない。彼の美的センスによるこだわりらしいが、明
らかに世間一般のそれとは大きくかけ離れている、
 原始人のみしか理解してくれそうもない狂ったセンスである。
 −−と、いうよりも見ているこっちが寒くなってくるので、せめて季節にあっ
た格好をしてほしいものである。
 両手首には色違いのリストバンド、右手首にはリング型の腕時計、腰には全長
140センチほどある、反りの入った刀ーーーー日本刀が差されている。
神崎斬(かんざき・ざん)。あたしと同じ十二小隊に所属する、実行部の戦闘要
員である。
 「……人捜し?」
 「そ。人捜し」
 顔の造形を怪訝な表情で固めたまま、問うてきた斬の言葉にあたしは淡々とし
た口調で返事を返した。
 「人捜しって……ひょっとして、アレか? ヒトを探すヤツ」
 「なんか意味がそのまんまのような気がするんだけど……まあ、その人捜し
ね」
 「妖狐探しの間違いだろ? AランクかSランク級の」
 「間違ってない。妖狐じゃなくてヒト。人捜し」
 「分かった! その探すのが、某国大統領の一人娘で、彼女を何らかの策略に
利用しようとしている秘密結社があるんだろ! 彼女を狙うエージェント達の妨
害をくぐり抜け、彼らの目的を探ってゆくうちに知る秘密結社の真の目的! 実
は彼女の出生にはとんでもない秘密がーーーー」
 「そんなスペクタルは一切なしのただの人捜し。ちなみに探すのは男よ」
 「…………」
 「…………」
 「……人捜し?」
 「元に戻るなぁぁぁっ! もう、しつっこいわね! 今回の仕事はただの人捜
しで妖狐関係の事柄もスペクタルもなにもなし! いい加減納得しなさいよ!」
 「ふざけんなぁっ! そんなん納得できるかぁぁぁーーーーっ!?」
 地団駄を踏みながら、絶叫する斬。駐車場内に声が反響して、やかましいこと
この上ない。
 「矢矧の話を聞くついでに、五日間の休暇を申請するはずだったろ! いった
いそれはどうなったんだよ!」
 「あ、それすっかり忘れてたわ。まあ、どのみち仕事入って休み取れなくなっ
たんだから、いいじゃない」
 「よかぁねえよ! 俺は次の休暇に備えて、『全国横断 愛のナンパツアー 
〜五日間のどきどきメモリアル〜』計画を練りに練って、待ちわびてたんだぞ!」
 「あんたまだナンパ師の道諦めてなかったの? 止めときなさい、哀しいくら
い女引っかける才能ないから」
 「うるせぇ! 今度は……今度こそは上手くいく気がしてたんだ! いや、上
手くいってウハウハの確信があったってのに……それを……それを……うがーー
ーーーーーーーっ!」
 「はいはい、分かったわよ。分かったから、とっとと車乗りなさい。出掛けるわよ」
 一人暴れ叫び続ける斬を無理矢理車の中に押し込み、エンジンをかける。
 実力行使。このまま斬の不満を聞いていたら、約束の時間に間に合わなくなっ
てしまう。    
 駐車場を抜け、本部ビルを出る。ビジネス・シティの大道路は絶え間なく車が
行き来していて、渋滞になることもしょっちょうある。
 そうなると車以外の手段も考えなくては行けないところだったが、幸いにも今
日の道路状況はさほど混雑しているわけでもなさそうだ。
 現在の時間は午前十一時三十四分。石和所長との約束は一時だから、充分間に
合うはずだ。
 
 「…………」
 助手席に座る斬はあからさまに不機嫌な顔を浮かべ、窓の外を眺めている。
 「まだ、ふてくされてるの? まあ、休暇がなくなったのは悪かったけど……
しょうがないじゃない、仕事なんだから。それにナンパくらいいつでもいけるで
しょう? ま、いったとしても、また無敗ならぬ無勝の記録(レコード)を更新す
るだけでしょうけど」
 「うっせぇっ! ヒトの趣味にけちつけてんじゃねーよ! 俺がムカついてん
のはそれだけじゃねぇ。なんで俺たちが人捜しなんだよ? 俺たちは一介の戦闘
要員で、探偵でも何でもないんだぜ。そういった仕事は情報部の連中の仕事だ
ろ。訳わかんねぇ」
 「あたしも矢矧に同じ事、言ったんだけどね〜、情報部の連中は仕事が大忙し
で、他に人を割く余裕が無いみたい。それに矢矧と情報部の黒住(くろすみ)部長
って、犬猿の仲でしょ? 矢矧が頼みにいっても、門前払い喰らって終わりだと
思うわよ。妖狐関連の仕事ならともかく、ただの人捜しじゃねぇ」
 「ちょ……ちょっと待て。それじゃ、なにか? たまたま俺たちの手が空いて
いたから、面倒な仕事を押しつけられたって訳か? この分野外の仕事を」
 「まあ……そういうことになるわね」
 「あ……あんのぉ古狸! 都合よくヒトを利用しやがってぇ〜〜!」
 拳を強く握りしめて、怒りの咆哮をあげる斬。あたしは『まあまあ』と斬を宥める。
 「そうは言っても、そんなに手間のかかる仕事にはならないと思うわよ、多
分。カスミの能力者(ネオ・チャイルド)の力を使えばヨハネのデータ・ベース
にアクセス出来るし、あらゆるコンピューターに関する情報を入手することが可
能なんだから、その辺の探偵や興信所より、有利な筈よ。上手くいけば二、三日
で終わる可能性もーーーー」
 ーーーーと、そこまで語って。あたしは言葉を止めた。横を見やると、斬が怪
訝な表情を浮かべて、じっとこちらを睨んでいた。
 「な、なによ……」
 「さっきからどうも気になってたんだが……なんで、お前そんなにドライなんだ?」
 「え?」
 「いつものお前だったら、『ふざけんじゃないわよ! なんであたしがそんな
ことやんなくちゃなんないのよ! コロスワヨ』って叫んで、怒り狂うだろ。理
不尽な扱いが人一倍嫌いだからな、詩織は。そんなお前がなんで、そんな落ち着
き払ってんだよ。妙だな、どうも」
 「そそそんなことないわよ! あたしだって、こんな仕事やりたくないし、理
不尽な扱いに頭来てるわよ。でも、ここでぐちぐち文句言ったって仕事が無くな
るわけじゃなし、だったら、割り切った方が気が楽じゃない?」
 「…………」
 「それに、いくら専門外の仕事とはいえ、組織の身内の人間が困っているのを
見捨てるのはどうかと思うのよ。慈悲と慈愛! 愛は地球を救う! 人という字
はヒトとヒトが支え合って成り立つものなのよ! だからあたしもこの仕事も人
助けの一環としてやる気満々にーーーー」
 「買収されただろ、お前」
 「…………」
 「…………」
 「見なさい斬。なんて綺麗な青空。心が洗われるようだわ……」
 「露骨な誤魔化し方してんじぇねぇぇぇぇぇっ!」
 「うっさいわね! 買収なんかされてないわよ! 謝礼金にちょっとくらんだけよっ!」
 「似たようなもんじゃねぇか! つか、逆ギレかよ!?」
 「ちゃんと依頼料は公平に等分するから、心配なんかいらないわよっ! 六、三、一で!」
 「だれもそんな話してねぇぇぇぇっ! それにそれは公平な等分なのか最後の
一ってのは何だ、一って!」
 無言で指さすあたしを見て斬は額に手を当てて、がっくりと項垂れた。
 呆れ果てたらしい。う……そんな態度取られると開き直りにくいじゃないの
よ。これでも一応悪いとは思ってるんだから。
 「……で、どうすんだよ。これから」
 「え?」
 「だからぁ、これから、ヒトを探すんだろ? どうやって探すかって聞いてんだよ」
 「あら、えらく殊勝な態度ね、斬。ひょっとして、やる気満々?」
 「んな訳ねぇだろ! やりたくねえに決まってんだろが、んな仕事! しか
し、仕掛け人はあの矢矧だろ? 一度決定したことを覆したりしたら、ロクでも
ねぇことになるに決まってるからな」
 「あはは……ご明察。隊長であるあたしが頷いた時点で、正式な仕事になっち
ゃったからね。ここで逃げたりしたら、命令違反を名目に大幅な減俸ーーーーいえ、給料三ヶ月なし位のことは平気でやるでしょうね、矢矧なら」
 目茶目茶な労働法基準違反だが、あの男ならあらゆる手を駆使して、やりかね
ない。
 「ぐっ……あの老け狸いつか殺す……」
 「やるしかないわよ、こうなったら。あたしも諦めたわ……」
 大きなため息を二人で吐き、肩を落とした。
 「……で、どうするんだよ。まさか闇雲に探すワケじゃねーんだろ?」
 「うん。とりあえずこれから会って話を聞くわ。矢矧に頼んでアポは取ってお
いたから」
 「依頼人って……家出人の父親か。なんかの研究員とか言ってたよな?」
 「石和生物研究所の所長よ、依頼人は」
 「……?」
 斬は眉を潜めて首を傾げた。
 「知らないの? 有名じゃない。妖狐の生体構造の研究。生体ナノマシンの研
究なんかを中心に莫大な利益を上げている所よ。属性を造り出すのに必要不可欠
な『エネルギー変換リストバンド』や医療用ナノマシン『NEXT(ネクスト)』の開
発もすべてあそこよ」
 「はっ……お偉いさんってワケだ。やり手の」
 「そうね。まあ、その分忙しさは相当なもので、実家にはほとんど帰らず、研
究所に寝泊まりしながら仕事しているって話よ。息子である石和勝義が失踪した
話も、なかなか連絡がつかなくて、いなくなってから四日後にようやく、その話
を知ったらしいわ」
 「けっ……家庭の事情ってヤツが家出の原因か? ますます気にくわねぇ」
 斬が毒づき、あたしは苦笑いを浮かべて見せた。
 「ま、そんなワケで向こうが指定してきた待ち合わせ場所も仕事場なのよね。
なんでも、いま佳境に入っている石和生物研究所での研究と、べつの仕事が重な
り合ってるらしくて……場所はーーここよ」
 正面にあるカー・ナビゲーション・システムのパネルを左手で操作し、目的地
を拡大した。
 「……病院?」
 斬のつぶやきに頷きながら、答えた。
 「そ。大学病院。鹿島(かしま)大学付属病院よ」


    



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