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小説・評論:孤城忍太郎の世界コミュの二十七囘 同音の漢字による書き替へ問題に就いて 『言苑』より

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 第二次世界大戰が敗戰になつてから漢字を廢止するのを目的とする爲に當面の漢字として、時の内閣によつて「訓令・告示」されたのが「當用漢字表」であつたのは公然の秘密であつた。
 しかもそこで發表された文章は、依然として舊字體(きうじたい)であるといふ不徹底ぶりもさる事ながら、その所爲(せゐ)で、「同音の漢字による書替へ」といふ極めて不都合で重要な問題が生じてしまつた。



 この作品を讀む時に、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
 これは自作(オリジナル)の

 『Motion1(Metamorphose・cembalo) 曲 高秋 美樹彦』

 といふ曲で、YAMAHAの「QY100」で作りました。

 映像は東北の山形懸にある、

 『立石寺』

 へ出かけた時のものです。

 雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。





     二十七囘 同音の漢字による書き替へ問題に就いて 『言苑』より


 「五萬もある漢字を覺えなければならないのは、日本人にとつて負擔(ふたん)である」

 さう言つて日本の郵政事業の創始者で「郵便・切手」の名稱まで定めた事で有名な前島密(まえじまひそか・1835-1919)は、慶應二年(1866)十二月に、時の江戸幕府の十五代將軍徳川慶喜(とくがはよしのぶ・1837-1913)に、

 『漢字御廢止之議(かんじおんはいしのぎ)』

 を建白したといふ。
 その中で彼は、

 「國家發展の基礎は教育にある」

 と卓見を述べてゐるが、その後で、

 「學習上困難な漢字や漢文を廢止して假名文字を用ゐ、最終的には公私の文章は口談と筆記を一致させる、所謂(いはゆる)口語體を採用して言文一致」

 を提唱した。


 その根據(こんきよ)として、

 「清(中國)の國力が阿片戰爭で敗れて衰頽したのは、難解な漢字を使用してゐる事に由來するもの」

 だと述べながら、漢字使用の弊害を論(あげつら)つてゐる。
 さうして、

 「日本の國力が振るはず日本人の知識が劣つてゐるのは、表音文字の假名があるのに中國と同じ難解な表意文字の漢字を使用してゐる事に原因がある」

 と主張してゐるものの、

 「必ずしも漢語を廢止はせず、文法の制定や辭書(じしよ)の編輯(へんしふ)によつて表記上の混亂(こんらん)を避けるべき」

 とした。


 西洋の列強と肩を竝べる爲には、二十六文字で表記できる彼らの使用するアルフアベツドのやうな文字にする可きで、日本の近代化を進めるには漢字を制限する必要がある事を述べた彼の言葉を據所(よりどころ)として、「羅馬字の會」や「假名文字の會」が發足する要因となり、その組織が力を増して漢字の廢止を訴へ始め、

 「日本の國力の振興を圖(はか)る爲には學習に時間のかかる漢字を廢止し、誰にでもわかる言語で早急に國民教育をしなければならない」

 という考へを推進し、その時間を他の授業に充(あ)てれば國民の知力の向上に役立つ筈だといふのである。
 これは幕末の西洋の列強の實力(じつりよく)を目の當りにして、追ひつけ追越せの必要に迫られた時代背景を垣間見る思ひ出がする。
 さうして彼が上奏したと言はれてゐるこの建白書は、日本の國語國国字問題史上重要な史料とされ、これ以降の國字改良論の先驅として位置づけられる事となつた。


 それを受けて、西周(にしあまね・1829-1897)の羅馬(ロオマ)字化論の「洋字ヲ以テ國語ヲ書スルノ論(1874)」、更に森有禮(もりありのり・1847-1889)の「英語公用語化論(1872年頃)」等が國語や國字の改革案として提出された。
 また福沢諭吉(ふくざはゆきち・1834-1901)は、その著「文字之教」(1873年)において、

 『(不便な漢字を無くす準備というのは)むつかしき字をば成る丈用ひざるやう心掛ることなり』

 として漢文の使用中止や漢字の漸減を提唱されて、「新聞・出版社」は保有する活字を減らしたいという思惑から、漢字の簡略化、總數制限などを唱へた。
 が、それに對して漢字擁護派からは三宅雪嶺(みやけせつれい・1860-1945)の『漢字利導論』や、矢野文雄(1851-1931)の『漢字節減論』などの漢字を廢止したりするのは却つて實用にも教育にも不便であると主張した。


 それにも拘はらず、軈(やが)て漢字廢止論はその後「カナモジカイ」や「日本羅馬字協会」の運動へとつながつて行く事になり、これに勢ひを得て、漢字の不便さや歴史的假名遣の不合理を訴つたへようと、字音や感動詞の長音を、例へば、

 「校長(かうちやう)」を「こーちよー」

 「いいえ」を「いーえ」

 のように,「―」を用ゐて表す「棒引」假名遣が、一九〇〇年(明治三十三)に小學校令施行規則によつて教科書に採用されるものの、時の國文學者の山田孝雄(やまだよしを・1875-1958)らや文學者の森鴎外(1862-1922)や芥川龍之介(1892-1927)などの反對と民間からの抵抗もあつて廢止される事となつた。


 一方で、日本語の主たる表記を羅馬字にすべきだと主張する論者の雄である西周が明治七年に「洋字ヲ以テ國語ヲ書スルノ論」をたてて羅馬字國字論を唱へたが容れられず、しかもその羅馬字化論が羅馬字で發表されず歴史的假名遣であつたといふ皮肉もさる事ながら、その地盤は著々(ちやくちやく)と進み、一八八五年(明治十八年)に羅馬字を推進する團體(だんたい)として「羅馬字會」が創立されるも、採用してゐたジエエムス・カアテイス・ヘボン(1815-1911)による「へボン式羅馬字」に反撥して、田中館愛橘(たなかだてあいきつ・1856-1952)が音韻学理論に基づいて考案した、「日本式羅馬字」を採用する「日本羅馬字會」が設立された。


 その違ひは、例へばサ行の「し」をへボン式では「shi」となり、日本式では「si」といふ表記に差が生じてゐるが、このどちらを公認するかで激しい議論が續いたといふ。
 しかし、先ほども述べたやうに、戰後になつて日本語に使用される漢字の文字數が異常に多い爲に、日本語の習得が困難だから民主化が遲れると考へられて、文字數の少ない羅馬字表記にすべきだと主張され、當時の新聞社も印字が樂になるからと賛成する者が多かつたが、日本の識字率の調査を行ったGHQが、識字率が高かつた事を知り、結局ローマ字化は實行されなかったといふ經緯(いきさつ)になるのである。



 しかるに、一九四六年に出された昭和二十一年内閣告示(後に一九八六年(昭和六十一年内閣告示によつて改定)された現代假名遣が、政府の國令によつて發せられてより約七十年に垂(なんな)んとする。
 これらの國語問題の流れを見ると、結局、文字の亂(みだ)れを正さうとして却つて國語を亂してゐるのではないかと思はれるのである。
 況して、ルビさへも廢して漢字の識字力を減速させてしまつた罪は重いと言はねばならないだらう。
 そこで、

 「同音の漢字による書きかへ」

 といふものがどのやうなものか、五十音に從つて以下に列擧して見る。


 「あ」
 「愛慾→愛欲」「闇→暗」「安佚→安逸」「暗翳→暗影」「暗誦→暗唱」「按分→按分」「闇夜→暗夜」

 「い」
 「意嚮→意向」「慰藉料→慰謝料」「衣裳→衣装」「遺蹟→遺跡」「一挺→一丁」「陰翳→陰影」

 「え」
 「頴才→英才」「叡智→英知」「焔→炎」「掩護→援護」「苑地→園地」

 「お」
 「臆説→憶説」「恩誼→恩義」

 「か」
 「誡→戒」「廻→回」「外廓→外郭」「快濶→快活」「皆既蝕→皆既食」「誡告→戒告」「開鑿→開削」
「廻送→回送」「蛔虫→回虫」「廻轉→回転」「恢復→回復」「潰滅→壊滅」「潰亂→壊乱」「廻廊→回廊」 「火焔→火炎」「劃→画」「廓→郭」「劃然→画然」「廓大→郭大」「挌闘→格闘」「劃期的→画期的」   「活溌→活発」「旱害→干害」「間歇→間欠」「管絃樂→管弦楽」「肝腎→肝心」「旱天→干天」      「旱魃→干ばつ」「乾溜→乾留」

 「き」
 「畸→奇」「稀→希」「氣焔→気炎」「饑餓→飢餓」「企劃→企画」「畸形→奇形」「稀元素→希元素」   「稀釋→希釈」「稀少→希少」「徽章→記章」「奇蹟→奇跡」「稀代→希代」「綺談→奇談」         「機智→機知」「吃水→喫水」「稀薄→希薄」「糺→糾」「糺彈→糾弾」「糺明→糾明」「舊蹟→旧跡」   「馭→御」「兇→凶」「兇惡→凶悪」「饗應→供応」「教誨→教戒」「兇漢→凶漢」「兇器→凶器」      「鞏固→強固」「兇行→凶行」「兇刃→凶刃」「兇變→凶変」「兇暴→凶暴」「馭者→御者」         「漁撈→漁労」「稀硫酸→希硫酸」「技倆→技量」「吟誦→吟唱」 

 「く」
 「區劃→区画」「掘鑿削→掘削」「訓誡→訓戒」「燻製→薫製」

 「けい」
 「繋船→係船」「繋爭→係争」「繋屬→係属」「繋留→係留」「下剋上→下克上」「決潰→決壊」      「蹶起→決起」「月蝕→月食」「訣別→決別」「絃→弦」「絃歌→弦歌」「元兇→元凶」「険岨→険阻」   「研摩→研磨」「儼然→厳然」

 「こ」
 「倖→幸」「宏→広」「礦→鉱」「交驩→交歓」「礦業→鉱業」「鯁(但し環境依存文字)骨→硬骨」     「交叉→交差」「扣除→控除」「甦生→更生」「礦石→鉱石」「宏壮→広壮」「宏大→広大」「香奠→香典」 「昂騰→高騰」「廣汎→広範」「昂奮(亢奮)→興奮」「弘報→広報」「曠野→広野」「昂揚→高揚」     「強慾→強欲」「媾和→講和」「涸渇→枯渇」「古稀→古希」「古蹟→古跡」「骨骼→骨格」         「雇傭→雇用」「混淆→混交」「根柢→根底」「昏迷→混迷」

 「さ」
 「坐→座」「醋酸→酢酸」「坐視→座視」「坐礁→座礁」「坐州→座州」「雜沓→雑踏」「讃→賛」      「三絃→三弦」「讃仰(鑚仰)→賛仰」「讃辭→賛辞」「撒水→散水」「讃歎→賛嘆」「讃美→賛美」     「撒布→散布」

 「し」
 「色慾→色欲」「刺戟→刺激」「史蹟→史跡」「屍體→死体」「七顛八倒→七転八倒」「死沒→死没」   「射倖心→射幸心」「車輛→車両」「洲→州」「輯→集」「蒐荷→集荷」「蒐集→収集」「終熄→終息」   「聚落→集落」「手蹟→手跡」「駿才→俊才」「陞→昇」「銷→消」「銷夏→消夏」「銷却→消却」      「障碍→障害」「情誼→情義」「稱(賞)讃→称(賞)賛」「陞叙→昇叙」「焦躁→焦燥」「銷沈→消沈」    「牆壁→障壁」「蒸溜→蒸留」「書翰→書簡」「蝕盡→食尽」「食慾→食欲」「抒情→叙情」         「試煉→試練」「鍼術→針術」「侵蝕→侵食」「浸蝕→浸食」「眞蹟→真跡」「伸暢→伸長」         「滲透→侵透」「侵掠→侵略」「訊問→尋問」

 「す」
 「衰頽→衰退」

 「せ」
 「制禦(馭)→制御」「棲(栖)息→生息」「性慾→性欲」「蹟→跡」「絶讃→絶賛」「尖鋭→先鋭」       「全潰→全壊」「銓衡→選考」「煽情→扇情」「洗滌→洗浄」「戰々兢々→戦々恐々」「船艙→船倉」   「尖端→先端」「擅断→専断」「煽動→扇動」「戰歿→戦没」

 「そ」
 「沮→阻」「惣→総」「象嵌→象眼」「倉惶→倉皇」「綜合→総合」「相剋→相克」「惣菜→総菜」      「裝幀→装丁」「剿滅→掃滅」「簇生(叢生)→族生」「沮止→阻止」「疏水→疎水」「沮喪→阻喪」     「疏通→疎通」「疏明→疎明」

 「た」
 「褪色→退色」「頽勢→退勢」「頽廢→退廃」「颱風→台風」「大慾→大欲」「奪掠→奪略」「歎→嘆」   「歎願→嘆願」「炭礦→炭鉱」「端坐→端座」「短篇→短編」「煖爐→暖炉」

 「ち」
 「智→知」「智慧→知恵」「智能→知能」「智謀→知謀」「註→注」「註解→注解」「註釋→注釈」      「註文→注文」「長篇→長編」「沈澱→沈殿」

 「て」
 「彽(環境依存文字)徊→低回」「牴(觝)觸→抵触」「鄭重→丁重」「叮嚀→丁寧」「碇泊→停泊」     「手帖→手帳」「顛倒→転倒」「顛覆→転覆」

 「と」
 「蹈→踏」「倒潰→倒壊」「蹈襲→踏襲」「特輯→特集」「杜絶→途絶」

 「に」
 「日蝕→日食」

 「は」
 「悖徳→背徳」「破毀→破棄」「曝露→暴露」「破摧→破砕」「醗酵→発酵」「薄倖→薄幸」         「抜拔萃→抜粋」「叛→反」「叛旗→反旗」「叛逆→反逆」「蕃殖→繁殖」「蕃族→蛮族」「反撥→反発」  「叛亂→反乱」

 「ひ」
 「蜚語→飛語」「筆蹟→筆跡」「病歿→病没」

 「ふ」
 「諷刺→風刺」「腐蝕→腐食」「符牒→符丁」「物慾→物欲」「腐爛→腐乱」

 「へ」
 「篇→編」「邊彊→辺境」「編輯→編集」

 「ほ」
 「輔→補」「哺育→保育」「崩潰→崩壊」「妨碍→妨害」「抛棄→放棄」「防禦→防御」「繃帶→包帯」   「厖大→膨大」「庖丁→包丁」「抛物線→放物線」「輔佐→補佐」「鋪裝→舗装」「歿→没」         「輔道→補導」「保姆→保母」

 「ま」
 「磨滅→摩滅」

 「む」
 「無智→無知」「無慾→無欲」

 「め」
 「名誉慾→名誉欲」「棉花→綿花」

 「も」
 「摸→模」「妄動→盲動」

 「や」
 「野鄙→野卑」

 「よ」
 「熔(鎔)→溶」「鎔解→溶解」「熔岩→溶岩」「鎔礦爐→溶鉱炉」「熔接→溶接」「慾→欲」

 「ら」
 「落磐→落盤」

 「り」
 「理窟→理屈」「悧巧→利口」「理智→理知」「離叛→離反」「掠→略」「掠奪→略奪」「俚謡→里謡」   「諒→了」「輌→両」「諒解→了解」「諒承→了承」「輪廓→輪郭」

 「れ」
 「聯→連」「連繋→連係」「聯合→連合」「連坐→連座」「聯想→連想」「聯珠→連珠」「煉炭→練炭」   「煉乳→練乳」「聯邦→連邦」「聯盟→連盟」「聯絡→連絡」「聯立→連立」

 「わ」
 「彎→湾」「彎曲→湾曲」「彎入→湾入」


 以上、三百四十一の文字が當用漢字を制定した爲に、それを含んでゐる漢字で構成された漢語を處理する方法として、當用漢字内にあるものに書替へられてしまつたのである。
 さうして時は移り、當用漢字から常用漢字に變はつて舊(きう)に復した漢字が加はつても、政府はその責任とも言ふ可き責務であらう書替へられた漢字を正さうとはせず放置したままにしてゐる。


 二〇一〇年六月に文化審議會によつて改定常用漢字表を答申された改定常用漢字表では百九十六字が追加されてゐて、このうち、

 「臆・潰・毀・窟・腎・汎・哺・闇」

 以上の八字が「同音の漢字による書きかえ」に含まれてゐて、

 「臆説→憶説・潰滅→壊滅・肝腎→肝心・決潰→決壊・広汎→広範・全潰→全壊・倒潰→倒壊・破毀→破棄・哺育→保育・崩潰→崩壊・理窟→理屈」

 これらの内、戰後から用ゐられるやうになつた代用表記は、

 「憶説・憶測・広範」

 の三語で、

 「破毀」と「破棄」

 「哺育」と「保育」

 はそれぞれ別語であつて、殘りの八語は元々いづれも以前から用ゐられてゐたもので、新しく作られた表記ではないやうだ。
 けれども、八語は以前から用ゐられてゐたと言ひ譯じみた事を言つても、それ以上の多くの漢字を書替へた事實に變りはなく、このまま放置しておいて良いものと筆者は考へてはゐない。
 出來得る限り元に戻す努力を續けてほしいものだと考へてゐる。



          二〇一三年十一月二十一日午前四時四七分店にて記す


      續きをどうぞ

二十八、アリガタウ・ありがたう・有難う 『言苑』より
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