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小説・評論:孤城忍太郎の世界コミュの二十、漫畫(まんぐわ)讀後(どくご)感『忍者武芸帳 影丸伝』 Op.8 『摂取本(セツシボン)』より

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 この作品を讀む時に、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
 これは自作(オリジナル)の

『YAMAHA QY100 Motion1(Echo)曲 高秋 美樹彦』

 といふ曲で、YAMAHAの「QY100」で作りました。
 雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。







     二十、摂取本(セツシボン)

 
    漫畫(まんぐわ)讀後(どくご)感『忍者武芸帳 影丸伝』 Op.8


 『忍者武芸帳 影丸伝』は、白土三平といふ人の作品である。
 白土三平といふ作者は、漫畫家である。
 だから今から書かうとしてゐるのは、漫畫の感想文或はそれに對する僕の主觀を書く譯なのだが、學校の夏休みの宿題に漫畫の感想文を持つてくるのは稀であるし、非常識と言はれるかも知れない。
 振り返つて見ると、先生は確か、

 「夏休みの間に、どんな本でもいいから一册でも讀んで、その感想文を書いてくるやうに」

 と言つてをられた。
 さういふ意味で、僕は確かに本を讀んで、その感想文を書く事にしたのである。


 僕がこの本を初めて讀んだのは、今から五年ほど前の事だと覺えてゐる。
 それから二、三年前の月日を經(へ)て、この作品は完結したが、もう何度讀んだか解らない。
 しかし、漫畫とは言へ、作者が三年餘りも費やして書上げた代表作である。
 これを以て、作者は山田風太郎ともども「忍者ブウム」を築き上げた。


 僕は作者が無名の時にこの漫畫を讀みながら、絶對(ぜつたい)に有名になるぞ、と秘かに思つたものであつた。
 今はこのやうな本が必要だ、と思つた。
 いや、この本はいつまで經つても味はへる、と思ふ。
 言はば、永遠の主題(テエマ)を描いた漫畫といへる作品のひとつであらう。


 小説でも、所謂(いはゆる)通俗小説と純文學(これらの表現は好みではないが)とがあるやうに、漫畫にも通俗的なものと純文學らしきものとがあつてもいいと思ふ。
 無論、僕は何も通俗小説が惡いと言つてゐるのではない。
 目的の相違だと思つてゐる。


 漫畫とは、辭書で調べれば、

 『いたづずらに書いた繪・滑稽で社會批判を含む繪』

 とあるやうに、本質的には通俗的要素を持つてゐるもので、それはそれなりに良いのではないかと思つてゐる。
 ただ、漫畫の世界にも純文學らしきものが、遂に現れたといふ事を言ひたいだけである。
 だが、僕は寧ろこれを漫畫とは言ひたくない氣分である。


 そのやうな漫畫の作家が白土三平であり、水木しげるなのである。
 白土三平が漫畫界の托爾斯泰(トルストイ・1883-1945)であるとすれば、水木しげるは差詰め芥川龍之介(1892-1927)とでも言はうか。
 水木しげるの短篇漫畫の中には、『なまはげ』などのやうに優れた作品がある。


 最近、この傾向は白土三平が中心となつて執筆してゐる、月刊誌『ガロ』で盛んに新人漫畫家が現れて誌上を賑はしてゐるし、その他の雜誌でもそれに影響されてか、數多く見られるやうになつて來たが、見當外れの作品が可成(かなり)目立つてゐる。


 所で、『忍者武芸帳 影丸伝』には二つのTitle(題名)をもつが、果してどちらがSubtitle(副題)であらうかなどといふ事は論ずるにも足らない。
 なんとなれば、忍者といふものは影で死に、また墓もないのださうである。
 これは忍者に限つた事ではないやうに思へるが、その點を考へれば『忍者武芸帳』がTitleかと思ふし、また影丸はといふと、物語は戰國時代を舞臺としてをり、特に一揆を主體として、影丸はその指導者であるが、無論、影丸は實在してはゐない。
 しかし、その時代を搖り動かした多くの人々、それが即ち影丸といふ怪物なのである、と作者が後記で述べてゐる通り、『影丸伝』といふのがTitleだとも思へる。
 かうなると、そんな事はもうどうでも良くなつて來はしまひか。


 物語は影丸を主人公に、前半の主人公ともいふべき結城重太郎。
 影丸の師であり、殺し屋を職業とするNihilist(虚無主義者)の無風道人。
 後に主題とさえなつた拔忍で欲望の男、坂上主膳、この男は前半の主人公である重太郎の居城となるべき筈であつた城を、重太郎の父母を殺害して城乘つ取りを成功させてゐる。
 勿論、これは重太郎をして仇討の對象とせしめてゐる。
 さうして、更に實在の人物である林崎甚助の仇にもなつてゐて、この二人の岐路ともなる人生の機微も壓卷(あつくわん)である。


 その他、實在の人物である織田信長。
 これといつた人格を描いてはゐない、定説通りの明智光秀。
 羽柴秀吉時代からの豐臣秀吉、この男は「本能寺の變」で光秀が信長を討たなければ、己が主人信長を殺してゐた男だらう、と作者は述べてゐる。
 可成の權力がある森蘭丸。
 剣豪、塚原卜伝。
 Moralist(道徳家)の上泉信綱とその門弟達。
 これ以外に、随分とFiction(想像)を交へた浮浪兒の群衆等々で、それらの人々の行動を通してその時代を描く事によつて、現代に何かを言はうとしてゐる。


 影丸の生き方は英雄的で、一度ならず二度までも死んでまた蘇(よみがへ)るが、さつきも述べたやうに影丸といふ人物に與(あた)へられた意味を考へれば、納得出來ない事はないだらう。
 三度目の死は二度目の死と同じく、首が胴體から離れた状態で、信長の居城へ高々と晒し首になつて、首はやがて霧の中へ忽然と消えるが、ただ二度目の時のやうに復活せず、影丸の最後となる。


 ここで注意をすれば、

 「影丸の行方は誰も知らない。ただ一人のものを除いて」

 と著者は言つてゐるが、僕の見る所、それは影丸自身か、作者自身の事を指すものだらうと思つてゐる。
 この作者は、かういつた勿體ぶつた物言ひを好んでゐて、大した意味を感じる譯ではなく、時に鼻につく場合さへあるが、筆者も大いに影響を受けてゐる口である。


 それ以外でも、この作者は『真田剣流』といふ作品の中で呪術者が現れて、その術の種明かしを讀者に迫つてゐる。
 呪ひ殺されてゐる者の附近には、常に小動物である鼠(ねずみ)を配置して、探偵小説のお約束の伏線も張られてゐるといふ公正さ(フエア)も忘れてはゐず、すぐにそれを媒體として高熱を發し、死に到る病原體を調べれば解る筈であつた。
 讀者の誰かが、ご苦勞にもそれを調べて著者に示した所、この作者は作品が完結した折に頁を割(さ)いてその事を譽(ほ)めるといふ、相も變らぬ勿體ぶつた所を披露してゐるが、それはともあれ、影丸の死はこの著者の思想である「英雄否定」につながつてゐる。
 しかし、僕はそれに與(くみ)しない。
 飽くまでも好み(?)の問題だと思つてゐる。


 話を元に戻せば、この作品の最大の主人公とも言ふべき、百姓達の生活の爲の主張である一揆。
 しかし、それも一向一揆や宗教の恐ろしさを見せ、宗教を操る者「上人」と、操られる人々「百姓及び信者」の末路までを表現し、一揆と宗教の不安定な繋がりや、宗教を操る者「上人」とグルになつてゐる權力者「信長・秀吉・家康=資本家」等、絶えず從屬(じゆうぞく)的宗教の在り方を見せて、その宗教に操られてゐる或は操られなければならない、百姓の人間としての權限のない事への無念と願ひを訴へ、それは階級制度の苦しさを感じさせながら、それらの矛盾を現代に問ひかけてゐる。


 前半の主人公、重太郎は父母を殺され擧句に城を乘つ取られた坂上主膳を仇と狙ひ、十數年間も追ひ廻すが、その馬鹿げた行爲に虚無を感じて行く。
 實在の人物、林崎甚助(拔刀術の元祖)も、同じく主膳を父の仇と狙つてゐるが、後半になつて甚助は主膳の影武者をそれと知らずに切り殺す事によつて、その事實を知らない儘に、仇討を終へて人生の再出發をする。


 この二人は對象的に世の中を生きて行き、後半からの林崎甚助は功成り名を遂げて門弟まで入門して來るが、重太郎は天才的な劍技を持つにも拘はらず、影丸の妹である明美といふ戀人を失ひ、暗い人生に陷(おちい)る。
 林崎甚助も同じやうに戀人を失つてゐる所からして、この對象は面白い。


 無風道人は影丸の師であるが、殺し屋などといふEccentric(風變り)な職業を持つてゐて、殺す相手は大物ばかりで、殺しの報酬も桁外れの金額であるが、何故殺し屋を職業として選んだのかは謎である。


 さうして、これは後になつて解る事だが、殺しで得たその賞金を浮浪兒や百姓達の發展に寄せる資金として無償で提供し、苦しい生活者の事を考へて世の中の發展に盡す爲だと無風の謎は解明される。
 彼は劍聖上泉信綱の宿敵であり、重太郎や林崎甚助の生き方に影響を及ぼす事になる二人でもある。


 特に、

 「生きる事の目的を仇とするなどは下らない」

 と言ひ、更に、

 「百姓が米を作らなければ、幾ら武士や領主が威張つてゐても、米一つ作る事が出來ない。米を作らせる爲に百姓を切つて見せしめとしてゐるが、百姓がゐなくなればどうなる」

 といふ言葉に、

 「人にはそれぞれ生れついた運命といふものがあり、百姓に生れたのだから仕方がない」

 といふやうな問答を言はせしめてゐる。
 このやうに階級問題にまで言及してゐる所から、一部で唯物史觀の對象にまでなつたのであらう。


 無風は人殺しを職業として得た大金で貧しい人々を救はうとした。
 その爲の人殺しであつて、實在の武將の死は殆ど無風の暗殺としてゐるが、結局、無風は金では人を救ふ事が出來ないといふ現實を、金錢上の理由による百姓達や浮浪兒の欲に目が眩(くら)んだ爲の崩潰(ほうくわい)によつて知り、と同時に死期を感じ取るや、この世の最後として、成るべくして上泉と無風の對決となる。


 さうして、無風の、

 「劍は人殺しの道具である。人殺しの一番うまい奴が一番強い。だからその工夫をすれば良い」

 といふ考へを邪劍と言つてゐた上泉の、

 「劍は己の非を切るもになり」

 といふ考へを打ち破る。


 ここで考へなければならないのは、上泉は確かに良い事を言つてゐるかに見えるが、上泉は自らの道をも脱し得ないのに、無風はその非情な考へにも拘はらず、農民を助ける努力をしてゐるAntinomie(二律背反)した所が面白いと言へるだらう。
 ただ、現實的に考へれば、一つの事でさへ悟るのは難しいといふ事を言つてゐる上泉は人間的であり、矢張、無風も英雄的な存在でしかないといふ事が言へまいか。
 無風は上泉の生命を後一年だけ生存(いきなが)らへさせるといふ妙な試合を終へた後、突然姿を消し、自ら斷食して木乃伊(ミイラ)となり命を斷つ。


 重太郎と林崎甚助の二人に仇として狙はれる坂上主膳は忍者で、後半は明智光秀と瓜二つの顏である事から、明智の影武者として扱はれてゐるが、秘かに明智本人に成り替つて天下を狙ふ機會を待つ。
 俗に云ふ「本能寺の變」で、主膳は自分の意志で謀叛を起し、本物の光秀を狼狽させるが、これは著者の作品の捏造と見るべきであるのは言ふまでもない。


 と、この後も歴史的事實に基づき、物語は作者の眞實めかした考へによつて進行して行くが、それもまた樂しみの一つであると言へよう。
 物語は永禄年間から秀吉の「刀狩り」に到るまでが語られる。


 この他に加へておく重要な事は、影丸の死の切掛けになつた事件で、それは重太郎が愛した明美が影丸の妹であると知らなかつたばかりに、信長(權力者)は重太郎の腕を見込んで光秀に命じ、明美を如何にも影丸が殺害したやうに工作したのであるが、重太郎は劍客の悲しさで社會の動靜を知る事が出來ず、影丸に憎しみを持ち、影丸を殺せば主膳の仇打ちを認めようとの信長との約定も手傳つて、幾度も失敗に終つた影丸の最後の暗殺者として利用されてしまふが、その結果、影丸は捕縛され、當然(たうぜん)一揆も崩壊し、英雄の象徴たる影丸の最後となる。
 重太郎は明美が影丸の妹である事を、影丸本人の口から聞かされて、人生に絶望して、著者の別の作品である『サスケ』の最終場面(ラストシイン)と同じやうに、荒野をさまよふのである。


 最後に、この作者の作品を讀んでゐると、相當の教養が身につくだらう。
といふのは、この作品の中でも歴史學は勿論生物學からありとあらゆる知識が、話の筋とは關係なく、無駄とまで言へる程の事柄が紹介されてゐるからである。
 それはこの作者の特徴ともなつてゐるが、しかし、さういふ難しいことばかりが書かれてゐるのではなく、漫畫としての面白さも充分に備はつてゐて、劍豪同士の決鬪や忍者の術を兢つての死鬪といふものも描いて、讀者を倦ませしめる事は先づないと言へるだらう。
 僕は生憎これだけしか讀取れなかつたが、難しい本を讀んで途中で投げ出すぐらゐならば、この漫畫を讀む方が大いに素晴しいと思ふ。


    一九六七昭和四十二丁未(ひのとひつじ)年長月六日



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コメント(2)

加ッ田鳥屋 さん。
大島渚監督が映畫で『忍者武芸帳 影丸伝』を撮つてゐます。
それも原畫を使つてですが、音樂が氣に入りません。
小中學の時に、影丸の首が信長の前に晒される時には、
絶對に貝多芬(ベエトオヴエン)の第二樂章の葬送行進曲を使ふ可きだと思ひました。
私ならさうします。
いづれ、發評出來ればと思ひます。

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