ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説・評論:孤城忍太郎の世界コミュの『短篇小説』と『長篇小説』の違ひに就いて

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 以前、知人から、

 「『短篇小説』と『長篇小説』の違ひとは何か」

 と聞かれた事がある。


 これを一言でいふのは中々難しく、敢(あへ)てその違ひを例へれば、

 「發句と短歌」

 いや、これは寧ろ『短篇小説』と『中篇小説』と言ふ方が適切かも知れないので、

 「發句と連歌」
 
 といふ方が解り易いかも知れない。


『短篇小説』と『長篇小説』とは基本的には分量の差であつて、その外のものには影響を受けにくい分類の事で、例へば、百年の事を書いたから「長篇小説」で、三日の事を書いたら「短篇小説」だとは必ずしも言へず、僅かに分量の關係上、人物の説明に多少の影響を受けるぐらゐのものである。


しかし、明かな違ひといふものもあつて、それは『短篇小説』は讀者の常識や知識に依存する傾向が『長篇小説』よりも強く、從つて、主人公の事が詳しく書かれてゐなくても讀者に理解出來るやうな表現がなされてあり、説明文よりも詩的な表現を好んで使用する傾向があると言ふ事は言へるだらう。
そこで主題を「愛」で書くとして、これが『短篇小説』と『長篇小説』の二つにどのやうな違ひが生ずるかを述べて見よう。
先づ『短篇小説』の場合はどうなるかといふと、小さな一つの事件だけで「愛」といふものの精粹(エキス)を抽出する作業をいふのであり、

「可愛想な子供を助けようと思つたが、逆に子供から助けられた」

といふやうな作品が多く、多面的にものを捉へずに、そこからは讀者の想像に任せるといふものである。
例へば、志賀直哉の「小僧の神様」や、芥川龍之介の諸作品を參照としておかう。


それに比べて、『長篇小説』とは、小さな事件が幾つも連なつてゐるか、一つだけの事件の場合でも、その眞理の葛藤や人物の描寫(べうしや)がこと細かに説明され、ある人物にとつての「愛」はこのやうになり、また、或る人物に於いての「愛」はかうなつたといふ具合に、幾つもの「愛」の模範(モデル)を書分けて表現される傾向が顯著(けんちよ)であると言へるだらう。


『短篇小説』と『長篇小説』の違ひは、大體(だいたい)上(かみ)に述べたやうな事に盡きると思はれるが、ただ、ここに大きな問題もあつて、近年頓(とみ)に連作小説といふ者が盛んになつて來て、と言つても昭和三十年代も半ばの頃の事だから隨分前の話ではあるが、それは週刊誌といふものの擡頭(たいとう)で、そこへ連載で發表されるやうになり、連續した物語や、一話完結を幾つか連ねて大きな作品とした事が大きな原因であるのは否めないだらう。
このやうにして、『短篇小説』の集合體が『長篇小説』といふやうな傾向も生れて来つつあるといふことである。


これらの始めは雜誌や新聞小説から端を發し、代表的な所では、中里介山の「大菩薩峠」や吉川英治の「宮本武蔵」が掲げられるだらうが、純文學(この言ひ方は好きになれないが)では川端康成の「雪國」や「千羽鶴」などがあり、山本周五郎の「季節のない街」や「青べか物語」・「赤ひげ」、更に、柴田錬三郎の「眠狂四郎」と百花繚亂の盛況ぶりである。


『短篇小説』と『長篇小説』とが一度に味はへるといふこの有り方には筆者も賛成であるが、それは『長篇小説』を意識しながら『短篇小説』を積上げて行くといふ書き方にであつて、『短篇小説』を基本として『長篇小説』に繋げて書くといふ方には、意識の流れから言つてもその有り方には疑問であり、その上この形式での問題點もあつて、それは何處で完結されたのかが解り難(にく)く、完成したと思つてうつかりその作品の評價を下さうものなら、後から續篇が發表されて大恥をかく事にもなり兼ねず、事實、こんな例が本當にあつたさうである。
が、かと言つて作者が亡くなつたからといつても安心出來ず、若しかしたら、それでも未完成であるかも知れないのである。
 

 ことほど左樣に、連作小説による『長篇小説』は書く側としても面白く、それまで雜駁(ざつぱく)な文章が多いといはれてゐた『長篇小説』が、この形式を手に入れた事によつて、『短篇小説』の詩情豐かな表現さへ可能になつたのであり、川端康成はその叙情性によつて、ノオベル賞まで受賞したのである。



  關聯記事

連作小説とは
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=4699373&id=50199778

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説・評論:孤城忍太郎の世界 更新情報

小説・評論:孤城忍太郎の世界のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。